【21-007】《十四五》「十四五」計画と2035年長期目標の展望制定に対する北京市共産党委員会の建議
JST北京事務所 2021年02月04日
これまで五中全会の建議とシンクタンクによる分析、中央経済工作会議の結果を紹介してきた。今回は、建議を受けた地方政府の動向の代表例として、北京市の状況を紹介する。
北京市では、党委員会が11月11日に検討のための常務委員会を開催し、同月28日、29日の第15回全体会議において、「第14次五カ年計画と2035年の長期目標の展望に関する北京市委員会の建議」(以下「北京市建議」)を採択した。12月19日には常務委員会を開催し「第14次五カ年計画と2035年の長期目標の展望に関する建議の重要任務リスト」を検討した。12月29日には第16回全体会議を開催し、五中全会と中央経済工作会議の結果を踏まえた検討を行い、翌年の重点事項として13項目を決定した。これらの議論を踏まえ、2021年1月21日には北京市政治協商会議、1月23日には北京市人民代表者会議が開会した。全国各地の政治協商会議(政協)、人民代表会議(人代)が行われた後、3月4日、5日に中国全体の「両会」が開催され、新しい五カ年計画が決定される。
12月29日に決定された13項目の一番目は、国際的な科学技術イノベーションの中心地の建設である。国際科学技術イノベーションセンター建設戦略行動計画を実施し、国家実験室や国家的な科学センターの建設を進める。核心的キーテクノロジーを連合して攻略し、基礎研究において「ゼロから1を生み出す」ブレイクスルーをより多く生み出していく。これらにより、国家の戦略的な科学技術における力量を高めていく。「三城一区」(「北京市建議」の紹介で後述)の融合的な発展を進める。人材と制度をキーとして、イノベーション人材の養成とサービスの水準向上、インセンティブと評価のメカニズムの改善、サプライチェーンのすべてにおける知的財産権保護の強化、企業のイノベーションの主体としての地位強化、リーディング企業のグループづくり体系化・プロジェクト型イノベーション連合体づくりのサポート、イノベーションへの投資機構と専門的インキュベーター機構の発展の誘導、金融の実態経済へのサービス能力の向上、潜在力の高い研究開発型企業のより確度の高い方法での育成、グローバルなリーダー企業、ユニコーン、ポテンシャルの高い企業の誘致などを推進する。
また、他の項目においてもイノベーションや金融科学技術・グリーン金融科学技術、デジタル経済、雄安新区の建設等、科学技術に関連するキーワードが続出する。
これらの内容は「北京市建議」の内容に共通するものである。以下「北京市建議」について紹介する。
冒頭に、概略として以下の認識が示されている。
第14次五カ年計画(注:2021~2025年が対象。以下「十四五」計画という」は、中国が小康(=やや豊かな)社会を全面的に実現するという1つ目の百年(*)目標を達成した後、社会主義現代化国家を全面的に建設し2つ目の百年目標へ邁進する最初の5年間であり、北京にとっては、首都として位置づけられる都市戦略を実施へ移し、世界一流の調和的で住みやすい都へ発展するための重要な時期となる。
*1つ目の百年とは、中国共産党が結党百周年を迎える2021年のこと。この年までに小康社会を実現するよう目標として掲げられた。
*2つ目の百年とは、中国が建国百周年を迎える2049年のこと。この年までに富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国になるよう目標として掲げられた。
1.小康社会(やや豊かな社会)を全面的に実現し、社会主義現代化国家づくりに向けた道の最前線を行く。
1)北京市が「十三五」(注:2016~2020年)において成し遂げた実績
・都市機能の整備において、「四つの中心」(*)の構築強化、「四つの奉仕」(*)の改善へ尽力
・中国建国70周年記念、「一帯一路」国際協力サミット、中国・アフリカフォーラム(北京)サミット、世界園芸博覧会等重要なイベントの開催
・非首都機能の郊外移転に伴い、全国初の減量(例えば事業主体の減少等)による成長を実現
・雄安新区建設への支援、北京副都心の整備、大興国際空港の稼働開始等により、北京・天津・河北(以下、「京津冀」という)の共同発展が着々と進展
・経済面では、2019年のGDPは3.5兆元、労働生産性が28万元/人で全国1位
・供給側構造改革の推進、国家サービス業における総合モデルゾーンの拡張および中国(北京)自由貿易試験区の建設批准の取得等によって、ビジネス運行環境が2年連続で全国1位
・その他、大気汚染を含む環境保全、民生改善、文化・スポーツ、法整備、首都ガバナンスおよび新型コロナウイルス感染症対策等への取り組み等
*四つの中心とは、全国の政治中心、文化中心、国際交流中心、科学技術イノベーション中心のことをいう。
*四つの奉仕とは、中央における(共産)党・政府・軍の指導機関に奉仕する、国の国際交流に奉仕する、科学技術・教育の発展に奉仕する、人々の生活改善に奉仕することをいう。
2)次に、新しい発展期に臨む新情勢を説明する。今、世界は百年に一度の変革期を迎え、「中華民族の偉大な復興」事業が重要な時期にあたる。新型コロナウイルス禍に見舞われた世界の複雑な変革期を迎え、中国は重要な戦略的チャンスとチャレンジの変動に臨む。中国の影響力が益々高まり、経済成長の好調が長期的に続く見通し等マクロ的な情勢を背景に、北京は「四つの中心」や「四つの奉仕」事業、京津冀共同発展、新ラウンドの科学技術革命や産業変革のさらなる発展、国際的な科学技術イノベーションの中心地の整備等によって一層発展する良い環境が期待される一方、国際情勢の変動に伴う不安定な要素の増加、ハイテク分野のボトルネックとなる課題の顕在化、経済の安定成長を妨げる圧力の拡大、人口・資源・環境課題および都市部と農村部の成長アンバランスなどの問題の継続、都市整備・ガバナンスの能力の不足など多くの課題も抱えている。
3)2035年を見据える長期目標について、①「四つの中心」の機能を強化し、「四つの奉仕」能力の大幅な向上、②イノベーションシステムのさらなる整備、キーとなるコア技術のブレイクスルー実現、国際的な科学技術イノベーションの中心地としてのイノベーション能力や競争力、展開力において世界のトップグループ入り、③総体経済の更なる成熟のほか、市民の収入の成長を含む都市総合競争力の世界の上位グループ入り、④副都心を世界一流の住みやすい街へ建設、世界レベルの都市圏としての「京津冀」(注;北京、天津、河北省)の形成、⑤市民の権利の確保、法整備の推進、現代的な首都管理システム・能力の実現、⑥生態系や環境保全の徹底、⑦都市部と農村部の格差の縮小等を取り上げる。
2.「十四五」北京経済社会発展にあたる指導思想、基本要求と主要目標について。
4)マルクス・レーニン・毛沢東思想、鄧小平理論、「3つの代表」思想(注:江沢民氏提出)、科学発展観(注:胡錦涛氏提出)、習近平の新時代中国の特色ある社会主義思想等を指針とする。
5)北京市「十四五」経済社会の発展に対する基本的な要求については、以下の通りである。
・首都としての発展を第一とする。
・イノベーション駆動型の発展をさらに重視する。
・「京津冀」の共同発展をさらに重視する。
・開放的な発展をさらに重視する。
・グリーン的な発展をさらに重視する。
・人を中心とする発展をさらに重視する。
・安全へ気を配る発展をさらに重視する。
6)北京市「十四五」経済社会発展の主要な目標について、以下の通り設定する。
・首都機能を顕著に増強する。
・「京津冀」共同発展の水準を顕著に向上させる。
・経済成長の質・効果を顕著に高める。
・エコ文明を顕著に発展させる。
・民生福祉を顕著に改善する。
・首都管理システム・能力の現代化水準を顕著に高める。
3.「四つの中心」の建設を強化し、「四つの奉仕」の水準を高める。
7)政治中心へのサービス提供確保へ全力を挙げる。
8)文化中心を着実に整備する。
9)国際交流の中心地として、施設整備とキャピタルビルディングを強化する。
10)国際的な科学技術イノベーションの中心地の整備を加速させ、他と差別化する取り組みを進める。このうち、国際的な科学技術イノベーションの中心地として、以下の件について具体化を進める。
・国家実験室の稼働確保、総合的国家科学センターの建設加速、北京にある国家重点実験室のシステム再編、国家レベル産業イノベーションセンターと技術イノベーションセンターの配置推進などにより、国の戦略的科学技術力を形成させる。具体的に、量子、脳科学、AI、ブロックチェーン、ナノエネルギー、応用数学、肝細胞と再生医学等の分野における新型研究機関を支援して「ゼロから1へ」の基礎研究とコア技術の開発を推進し、技術イノベーション力を向上させる。また、ハイエンドなチップ、基盤部品、コアデバイス、新材料等の不足へ焦点を合わせ、都市間提携や中央・地方協働の体制改善によって一連の「ボトルネック」となる技術の開発に尽力する。そして、研究成果の移転・実装強化、基礎研究から産業化までのグリーン経路を貫通させる。
・「3城1区」の融合発展を推進する。「3城1区」とは、①基礎研究と戦略的フロンティアハイテクノロジーの研究レベルの向上や重要な創造的成果の創出およびキーとなるコア技術のブレイクスルーの取得に取り組み、世界一流の科学城を目指す「中関村科学城」、②ビッグサイエンス装置と学際研究プラットフォームを集結して国の重大科学技術基盤クラスターを形成し、世界レベルの創造的イノベーション創出の場を目指す「懐柔科学城」、③中央・地方提携の深化、多様なイノベーション主体の導入等により、世界をリードする技術イノベーションの高地を目指す「未来科学城」、および④前述の3つの科学城からの成果を引き受ける技術イノベーション・技術移転パイロットゾーンを目指す「北京経済開発区」である。
・科学技術体制改革の深化、科学技術移転条例および「科創30条」(北京市が全国科学技術イノベーションを作るために、2019年に発した30の政策的措置のこと)の実施徹底を推進する。うち、科学技術課題の組織・管理方法の改善、知財の保護・活用等を含む。
・イノベーションにおける企業の主体的地位を強化、各種イノベーション要素を企業へ集結促進する。企業によるR&Dへの投入拡大を刺激、基礎研究への出資分に対して税制上で優遇し、企業発のイノベーションコンソーシアムに支援を行う。
4.非首都機能の疎開、「京津冀」の共同発展を推進する。
11)中央・地方が連動し、中央や北京所属事業体の雄安新区への移転に協力する。市の人口管理を確実に行い、居住環境を改善し首都機能を向上させる。
12)世界を視野に入れ、国際基準に照らした中国の特色を持つハイレベルな都市副中心を企画・建設する。
13)より緊密な共同発展構造を形成し、北京のハブとしての波及効果により周辺重点地域の発展を促進する。
14)2022年の北京冬季五輪大会を機に、北京・張家口文化スポーツ観光帯を共創する。
5.新しい発展構造の構築に効果的な方法を模索し、特色と活力を兼ね備える現代的経済体系を整備する。
15)国家サービス業開放拡大総合モデル区と自由貿易試験区という「2区」と、国家金融政策を権威的に発表するプラットフォーム、中国金融業改革開放広報展示プラットフォームとグローバルな金融ガバナンスに資する対話交流プラットフォームという「3プラットフォーム」の建設を推進する。
16)現代産業システムの振興を加速する。先端製造業現代サービス業の高度融合を推進し、「北京智造」、「北京サービス」の競争力を向上させる。集積回路、新エネルギースマートカー、医薬・ヘルス、新材料等戦略的新興産業の振興、量子情報、AI、工業インターネット、衛星インターネット、ロボット等未来に向けた産業への配置等に取り組む。
17)デジタル経済を大いに発展させる。「デジタル経済のイノベーション駆動型発展を促進する行動要綱」や「北京ビッグデータアクションプラン」の実施、5Gやビッグデータプラットフォーム、車載ネットワーキング等新型インフラ施設の配置を加速させる。デジタル領域の国際的なルールや標準の制定へ積極的に参与する。
18)供給側の構造改革を通じて、新しい需要を誘導・創出する。国際的消費都市に向けた建設の推進、先端産業の投資促進、現代的物流システムの整備等に力を入れる。
19)地域内の協調的発展について統一的に配慮する。
20)都市部と農村部との統合的発展を推進する。
6.改革開放を全面的に深化し、発展の活力と創造力を高める。
21)市場の活力を引き出す。市場アクセスに当たるネガティブリストの実施徹底、開かれた透明性の高い市場アクセス基準の確立を全面的に推進する。
22)財政・税制・金融における投融資改革を深化させる。予算管理制度改革の深化、地方税システムの整備、知財担保融資センターの建設を推進する。
23)ビジネス環境を持続的に最適化する。政府機能転換の徹底、ビジネス環境評価システムの改善、行政サービスプラットフォームの整備、業界協会や商会、仲介機構の改革深化を進める。
24)より高いレベルの開放型経済を発展させる。外国投資者に対する投資前の内国民待遇+ネガティブリスト管理制度の実施徹底、国際協力産業パークの建設、国内企業の海外進出支援などに努める。
7.都市全体計画を深く実施し、首都としての都市管理水準を高める。
25)都市全体計画を持続的に実施する。
26)都市リバイス行動を実施する。
27)都市インフラ施設整備を強化する。
28)都市管理の精細化レベルを向上させる。
29)首都の特徴を持つ超大型都市における末端管理システムを構築する。
8.人の健康を優先的に配慮すべき戦略的地位に置き、「健康な北京」造りに注力する。
30)感染症対策を緩めず徹底する。
31)首都公共衛生管理システムを充実させる。「突発的公共衛生事件緊急対応条例」の実施深化、「首都公共衛生緊急対応管理システム建設に関する3年行動プラン」の実施強化、市・区所属CDCの標準化整備、P3実験室の充実等に取り組む。
32)医療衛生サービスシステムを充実させる。
33)人口の高齢化へ積極的に対応する。高齢者対応産業発展中長期計画の制定、高齢者対応に資する新業態の育成、高齢者対応事業・産業の協働発展を推進する。
34)スポーツ事業の水準を高める。
9.民生をより高度に確保、改善する。
35)住民収入を改善する。
36)就職の質を改善する。
37)首都における教育の現代化を推進する。
38)社会保障システムの充実化を図る。
39)住宅を確保する。
40)市民の身の回りのことに配慮する。
10.グリーン開発を推進し、生態系環境をより改善する。
41)大気汚染、水汚染・水資源確保、生活ごみ等に対する汚染対策の実施を徹底する。
42)山岳湖沼システムの管理、都市生態系の修復・機能充実等により、生態系空間を広げる。
43)グリーン・低炭素なサイクル発展を強化する。工業、建築、交通等重点産業のグリーン化改造、炭素排出権取引市場の建設を推進する。グリーン金融改革・イノベーションモデル区、国家レベルの生態環境文明建設モデル区等を整備する。
44)生態環境に配慮した文明の制度体系を充実する。エネルギーや水、汚染物の排出に関わる基準の制定と実施、自然資源有償仕様制度の確立、生態系環境に関する法整備、生態環境侵害賠償制度の執行等を進める。
11.各種のリスクや隠れた危険を予防・解消し、首都の安全確保に全力を挙げる。
45)リスクの予防制御を強化する。
46)安全な北京を持続的に建設する。
12.党の指導を堅持し、「十四五」計画と2035年長期ビジョンの目標を実現する。
47)全市の経済社会発展に関わる各種事業に対する党の指導を強化する。
48)社会主義の政治整備を推進する。
49)法整備を進める。
50)人材育成を強化する。
・戦略的科学人材、科学技術のリーダーシップ人材、技術移転中堅人材、一流の文化人材、優秀な若手人材の5種類の人材に重点を置き、全市の良質な人材育成を確保する。
・創造的なイノベーション創出人材、産業リーダーシップ人材、卓越した青少年人材等を対象とする人材育成事業を実施する。
・人材関係法令、産業人材によるイノベーション共創システム、マルチ協力体制等を充実させ、国際的な人材の高水準の地域をつくる。
51)「十四五」計画を制定・実施するための体制を整える。
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