北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.21-023

【21-023】《十四五・全人代》第14次五カ年計画・2035年遠景目標綱要(科学技術関連部分参考訳)

JST北京事務所 2021年03月19日

1.概要

 3月5日から開催されている中国の全国人民代表大会(国会に相当)において、第14次五カ年計画(「十四五」)が11日に承認され、12日に正式に発表された。[1]

 十四五のうち科学技術イノベーションに関する事項の参考訳は以下のとおりである。

2.参考訳

中華人民共和国国民経済及び社会発展
第14次五カ年計画及び2035年遠景目標綱要(科学技術・イノベーション関係)
2021年3月

(※本文の改行は翻訳者による)

第二編 イノベーション駆動発展を堅持し、全面的に発展の新優勢を作り上げる

 イノベーションを、我が国の近代化建設の全局面の核心的地位に堅持し、科学技術の自立自強を国家発展の戦略的支えとし、世界の科学技術のフロンティアのため、経済の主戦場のため、国家の重要需要のため、人民の生命健康のため、科学教育興国戦略、人材強国戦略、イノベーション駆動戦略をしっかりと実施し、国家イノベーションシステムを整備し、科学技術強国の建設を加速させる。

第四章 国家戦略科学技術力の強化

 科学技術強国行動綱要を制定し、社会主義市場経済の条件下で新型挙国体制を健全化し、核心技術の難関攻略を行い、イノベーションチェーン全体の効率を高める。

第一節 科学技術資源の配置を最適化する

 国家の戦略的需要を導きとしてイノベーションシステムの最適化を推進し、国家実験室をリーダーとする戦略的科学技術力の構築を加速する。

 量子情報、光子とマイクロ・ナノエレクトロニクス、ネットワーク通信、人工知能、バイオ医薬、現代エネルギーシステムなどの重大イノベーション分野に焦点を合わせて一連の国家実験室を建設し、国家重点実験室を再構築し、構造が合理的で運営が効率的な実験室システムを形成する。

 国家プロジェクト研究センター・国家技術イノベーションセンターなどのイノベーション基地を最適化・レベルアップさせる。

 科学研究機関、大学と企業の研究力の配置最適化と資源共有を推進する。

 新型研究開発型大学、新型研究開発機構等の新型イノベーション主体の発展を支援し、投入主体の多元化、管理制度の現代化、運営メカニズムの市場化、人材任用メカニズムの柔軟化を推進する。

第二節 独創的なイノベーションが駆動する科学技術の難関攻略の強化

 国家の安全と発展の全局面に関わる基礎核心分野において、戦略的科学計画と科学プロジェクトを実施する。

 人工知能、量子情報、集積回路、生命健康、脳科学、生物育種、航空宇宙科学技術、深地深海などのフロンティア領域を狙って、将来性、戦略性を持つ国家重大科学技術プロジェクトを実施する。

 国家の差し迫った需要と長期需要から出発し、優位な資源を集中して新興・突発感染病と生物安全リスク予防コントロール、医薬と医療設備、重要部品と基礎材料、石油ガス探査開発などの分野の核心技術を攻略する。

コラム2 科学技術フロンティア領域の重要取組
01 次世代人工知能
  最先端の基礎理論のブレークスルー、専用チップの開発、ディープラーニングフレームワークなどのオープンソースアルゴリズムのプラットフォームの構築、学習・推理・意思決定、画像パターン、音声ビデオ、自然言語識別処理等の分野の革新。
02 量子情報
  都市域・都市間、自由空間の量子通信技術の研究開発、汎用量子計算原型機と実用化量子シミュレーション機の開発、量子精密測定技術のブレークスルー
03 集積回路
  集積回路設計ツール、重点装備と高純度ターゲット材などの重要材料の研究開発、集積回路の先進技術と絶縁ゲートのバイポーラトランジスタ(IGBT)、MEMS等の特殊技術のブレークスルー、先進的ストレージ技術のアップグレード、炭化ケイ素、窒化ガリウムなどのワイドバンドギャップ半導体の発展。
04 脳科学と類脳(脳模倣型人工知能)研究
  脳の認知原理解析、脳メソスケールコネクトム、脳の重大疾病のメカニズム・干渉の研究、児童・青少年の脳・知能の発達、脳模倣型計算とブレイン=マシン融合技術の研究開発。
05 遺伝子と生物技術
  ゲノム学の研究応用,遺伝細胞・遺伝育種・合成生物・生物薬品等の技術革新、ワクチンの革新、体外診断、抗体薬物等の研究開発,農作物・家畜家禽水産物・農業微生物等の重大な新品種創製,生物安全重要技術の研究開発。
06 臨床医学と健康
  がんと心臓脳血管・呼吸器系・代謝性疾患などの発病メカニズム基礎研究,積極的健康介入技術の研究開発,再生医学・マイクロバイオーム・新型治療などの先端技術研究,重大伝染病・重大慢性非感染性疾患予防の重要技術の研究。
07 深宇宙・深地球・深海と極地探査
  宇宙の起源と進化・“透視地球”(※訳註:地球深部探査)などの基礎科学研究、火星周回、小惑星巡視などの星間探査、次世代大型輸送ロケットと再使用宇宙輸送システム、地球深部探査装備、深海運行の維持保障整備試験船、極地立体観測プラットフォームと重砕氷船等の研究開発,月探査プロジェクト第四期、蛟龍深海探査二期、雪龍極地探査二期の建設。

第三節 継続的な基礎研究の強化

 応用研究の推進を強化し、自由探索を奨励し、基礎研究十年間行動計画を制定実施し、いくつかの基礎分野研究センターを重点配置する。

 基礎研究の財政投入に力を入れ、支出構造を最適化し、企業の基礎研究資金投入に対して税収優遇を実施し、社会が寄付・基金設立等の方法で多くのルートの資金投入をすることを奨励し、持続的に安定した資金投入メカニズムを形成し、研究開発経費に占める基礎研究費の比率を8%以上に引き上げる。

 科学の規律(※訳注;科学や科学界のあるべき姿の意か)に適合した評価体系と奨励メカニズムを確立し、基礎研究に対して長周期評価を実施し、基礎研究に有利な良好な研究エコシステムを創造する。

第四節 重大科学技術イノベーションプラットフォームの建設

 北京、上海、粤港澳大湾区が国際科学技術イノベーションセンターを形成することを支持し,北京懐柔、上海張江、大湾区、安徽合肥に総合的国家科学センターを建設し、条件を満たす地方が区域科学技術イノベーションセンターを建設することを支持する。

 国家自主イノベーションモデル区、ハイテク産業開発区、経済技術開発区などのイノベーション機能を強化する。

 国家重大科学技術基礎施設を適宜前倒しして設置し、共用レベルと使用効率を高める。

 自然科学技術資源庫、国家野外科学観測研究ステーション(ネットワーク)と科学ビッグデータセンターを集約化して建設する。

 ハイエンド科学研究機器設備の研究開発製造能力を強化する。

 国家科学研究論文と科学技術情報のハイエンド交流プラットフォームを構築する。

コラム3 国家重大科学技術基礎施設
01 戦略誘導型
  宇宙環境地上モニタリング網、高精度地上授時システム、大型低速風洞、海底科学観測網、宇宙環境地上シミュレーション装置、核融合炉ホストコンピュータ重要システム総合研究施設などを建設する。
02 応用支援型
  高エネルギーシンクロトロン放射光源、高効率低炭素ガスタービン試験装置,超重力遠心シミュレーション・試験装置、加速器駆動型核変換研究装置、未来ネットワーク試験施設などを建設する。
03 将来性牽引型
  硬X線自由電子レーザー装置、高海抜宇宙線観測ステーション、総合極端条件実験装置、極深地下極低輻射バックグラウンドのフロンティア物理実験施設、精密重力測量研究施設、大強度重イオン加速器装置などを建設する。
04 民生改善型
  トランスレーショナル医学研究施設、多モードトランススケール生物医学イメージング施設、モデル動物の表現型と遺伝型研究施設、地震科学実験場、地球システム数値シミュレータなどを建設する。

第五章 企業の技術イノベーション能力を高める

 技術イノベーション市場誘導メカニズムを完備させ、企業のイノベーション主体の地位を強化し、各種のイノベーション要素を企業に集中し,企業を主体とし、市場を方向付けとして、産学官の深い融合の技術イノベーション体系を形成する。

第一節 企業を激励し研究開発資金投入を拡大する

 より強力な研究開発費用の控除算入、ハイテク企業の税収優遇などの普遍的な政策を実施する。

 初の重要技術装備保険補償と激励政策を展開し、重要プロジェクトの牽引モデルの役割を発揮し、政府の購買政策を利用して革新的な製品とサービスを支援する。

 基準、品質、競争規制などの措置を充実させることによって、企業のイノベーション力を強化する。

 国有企業の研究開発を奨励する審査制度を健全化し、独立採算で予算増額審査を免除しフォールトレランス(障害許容性)・デバッグ型の研究開発準備金制度を設立し、中央国有工業企業の研究開発支出の年成長率が明らかに全国平均を上回るように確実に保証する。

 科学技術型中小企業のイノベーションを促す税収優遇政策を充実させる。

第二節 産業共通性基礎技術の研究開発をサポートする

 いくつかの重要な共通技術プラットフォームを,能力を集中して向上させ、業界トップの企業が大学・科学研究機関・業界の上下流企業と連合して共同で国家産業イノベーションセンターを建設し、国家の重大科学技術プロジェクトを担う事をサポートする。

 条件を満たす企業が連合して科学研究機関の体制を変えて業界研究機関を設立し、公益性・共通性技術サービスを提供することをサポートする。

 新型の共通技術プラットフォームを構築し、業界横断・分野横断領域の重要共通技術問題を解決する。

 大企業のリーダーシップと支えの役割を発揮し、イノベーション型中小企業をサポートしてイノベーションの重要な発祥地となるようにし、産業チェーンの上下流、大中小企業の融合イノベーションを推進する。

 条件を満たす地方では産業クラスターに頼って、合弁制の産業技術研究院を創設し、サービスエリアの重要共通技術の研究開発を行うことを奨励する。

第三節 企業イノベーションサービス体系を完備する

 国家科学研究プラットフォーム、科学技術報告、科学研究データの企業への開放を推進し、科技成果の成果展開メカニズムを革新し、条件に合致する財政資金の支援による科学技術成果について中小企業の使用を許可するよう奨励する。

 イノベーション創業機構の改革を推し進め、専門化・市場化技術移転機構と技術マネージメントチームを設立する。

 金融支援イノベーション体系を充実させ、金融機関が知的財産権を質権とした融資、科学技術保険等の科学技術金融商品を発展させることを奨励し,科学技術の成果展開ローンリスク補償試験を実施する。

 科学技術型企業の国内上場融資ルートを円滑に開通させ、科創板(※訳注:科学技術ベンチャー企業を対象とした中国版ナスダックのこと)の「硬科技(※訳注:経済社会の発展においてキーとなる技術及びコア技術の意)」の特色を強化し、創業板のサービスが成長型イノベーション創業企業の機能を向上させ、エンジェル投資、ベンチャー投資の発展を奨励し、ベンチャー投資誘導基金とプライベートエクイティファンドの役割をよりよく発揮する。

第六章 人材イノベーションの活力を引き出す

 労働を尊重し、知識を尊重し、人材を尊重し、創造方針を尊重し、人材発展体制の改革を深化させ、人材を全面的に育成し、導入し、活用し、人材の第一資源としての役割を十分に発揮させる。

第一節 ハイレベル人材チームの育成

 人材成長の法則と科学研究活動の法則に従って、より多くの国際的一流の戦略科学技術人材、科学技術指導者とイノベーションチームを育成し、国際競争力のある青年科学技術人材を育成し、予備軍を育成し、重大科学技術任務と重大イノベーション基地による人材の育成を重視し、ポスドクイノベーションポストの設立をサポートする。

 イノベーション型・応用型・技能型の人材育成を強化し、知識更新プロジェクト、技能向上活動を実施し、ハイレベルのエンジニアと高技能人材チームを強大にする。

 基礎分野の卓越学生の育成を強化し、数学・物理・化学・生物などの基礎分野拠点と先端科学センターを建設する。

 より開放的な人材政策を実施し、国内外の優秀な人材を集めた研究・イノベーション高地を構築する。

 外国籍ハイエンド人材及び専門人材の中国に来訪しての業務、科学研究、交流のための滞留政策を充実させ、外国人の在中永久居留制度を充実させ、技術移民制度の構築を模索する。

 給与福利・子女教育・社会保障・税収優遇などの制度を健全化し,海外科学者が中国で働くために国際競争力と魅力のある環境を提供する。

第二節 人材を激励し,より効果を発揮する

 人材評価と激励メカニズムを充実させ、イノベーション能力、資質、実効性、貢献を導きとする科学技術人材評価システムを健全化し,知識、技術などのイノベーション要素価値を十分に体現する収益分配メカニズムを構築する。

 リーダーシップを持つ人材と優れた人材を選んで、より大きな技術路線決定権と経費使用権を与える。

 科学研究員のために管理を全面的に緩和し、科学研究管理の「緑色通道(※訳注:シンプルかつ高速安全なチャネル。ここでは簡素化の意)」を開拓する。

 知識価値の増加を指向とする分配政策を実行し、科学研究者の職務発明成果権益共有メカニズムを完備させ、研究者に職務科学技術成果の所有権または長期使用権を付与することを模索し、科学研究者の取り分を高める。

 院士制度(※訳注:院士は、中国における科学技術分野における最高位の称号)の改革を深化させる。

第三節 イノベーション・創業・創造エコシステムを最適化する

 新しい時代の科学者精神を大いに発揚し、科学研究の誠実さと信用の構築を強化し、科学技術倫理体系を健全化する。

 法により企業家の財産権とイノベーション収益を保護し、企業家がイノベーションの方向性を把握し、人材を集め、資金を調達するなどの面で重要な役割を果たす。

 イノベーション・創業・創造の奥深い発展を推進し,双創(※訳注:創新(イノベーション)・創業のこと)モデル基地の建設・配置を最適化する。

 敬業、向上,専心、失敗への寛容というイノベーション・創業文化を唱導し、試行錯誤の許容度と失敗の訂正メカニズムを改善する。

 科学精神と匠の精神を発揚し、科学普及活動を幅広く展開し、青少年の科学への関心の誘導と育成を強化し、科学を熱愛しイノベーションを尊ぶ社会的雰囲気を形成し、国民全体の科学的素質を高める。

第七章 科学技術イノベーション体制の整備

 科学技術体制の改革を掘り下げて推進し、国家科学技術管理体系を完備させ、国家科学技術計画体系と運営メカニズムを最適化し,重点分野プロジェクト・基地・人材・資金の一体化配置を推進する。

第一節 科学技術管理体制の改革を深化させる

 科学技術管理機能の転換を加速し、計画政策の誘導とイノベーション環境づくりを強化し、予算と物を割り当ててプロジェクトを定める等の直接関与を減少させる(※訳注:より多くの努力を"予算と物を割り当ててプロジェクトを定める"ことから、"戦略・方針・政策を定め、環境を創造しサービスをよくする"ことへ、の意)。

 財政の科学研究資金投入体制を統合し、戦略的かつ重要な分野に重点を置き、部署の分割や小さく分散している状態を変える。

 重大科学技術プロジェクトの承認と組織管理方式を改革し、科学研究機関と科学研究者により多くの自主権を与え、技術総責任者による責任制を推進し、「揭榜掛帥」(※訳注:イノベーションプロジェクトのリーダーの年齢・職位にとらわれない自薦による公募の意)・「競馬」(※訳注:競争の意)制度を実行して、奨励(※訳注:リワード、褒賞の意)と結びつけた資金支援メカニズムを健全化する。

 科学技術評価のメカニズムを改善する。自由探索型と任務主導型(※訳注:目的指向型の意)科学技術プロジェクトの評価制度の分類を整備し、非コンセンサス科学技術プロジェクト(※訳注:まだ主流の科学技術界に認められていない科学技術思想・方法等の意)の評価メカニズムを構築し、科学技術奨励プロジェクトを最適化する。

 健全な科学研究機構と現代的な研究機関制度を確立し、科学研究事業組織のより柔軟な編制・ポスト・給与などの管理制度の試行を支援する。

 大学・科学研究機関・企業間のイノベーション資源の自由で秩序ある流動メカニズムを確立し、健全化する。全面的なイノベーション改革試験を掘り下げて推進する。

第二節 知的財産権保護運用体制を健全化する

 知的財産強国戦略を実施し、厳格な知的財産権保護制度を実施し、知的財産権に関する法律法規を完備させ、新分野·新業態の知的財産権立法を加速する。

 知的財産権の司法保護と行政執行を強化し、仲裁・調停・公証及び権利擁護援助体系を健全化し,知的財産権侵害の懲罰的賠償制度を健全化し,損害賠償の程度を増加する。

 特許資金の奨励政策と審査評価メカニズムを最適化し、高価値特許をより保護・激励し、特許密集型産業を育成する。

 国有知的財産の帰属と権益配分メカニズムを改革し、科学研究機関と高等教育機関の知的財産権の処分自主権を拡大する。

 無形資産評価制度を充実させ、インセンティブと監督管理が調和した管理システムを形成する。

 知的財産権保護運用公共サービスプラットフォームを構築する。

第三節 積極的に科学技術の開放協力を促進する

 より開放・包容・互恵享共有的な国際科学技術協力戦略を実施し、より積極的に世界のイノベーションネットワークに溶け込む。

 世界の疫病予防制御と公共衛生等の領域の国際科学技術協力を着実に推進し、気候変動、人類の健康等の問題に焦点を合わせ、各国の科学研究者と協力して、連合研究開発を強化する。

 国際的大科学計画と大科学プロジェクトを積極的に設計及び牽引し,科学基金の独特な作用を発揮する(※科学基金の独特な機能の活用、または、科学基金にユニークな役割を発揮させる意か)。

 国家科学技術計画の対外開放の度合いを増大し、いくつかの重大科学技術協力プロジェクトをスタートさせ、世界に向けた科学研究基金の設立を検討し,科学者交流計画を実施する。

 中国国内に国際科学技術組織を設立し、外国籍科学者が我が国の科学技術学術組織において職に就くことを支援する。

(以上)


1. 中華人民共和国人民政府「中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要