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【21-026】《NSFC》国家自然科学基金委員会の改革への取り組み(3)

JST北京事務所 2021年03月25日

RCC重視の審査の改革

 国家自然科学基金委員会(NSFC)の審査システムは《専門家による審査、討議を経て優れたものを採択、公正で合理的》を原則として、同分野の専門家通信評価審査と会議評価審査の2段階で審査を行う。

 上記の審査システム図からわかるように審査(ピアレビュー)に従事する同分野の専門家は審査の過程で大きな役割を果たす。審査過程での専門家の責任、信用が、資金が効率的に配布されるかどうかを左右するため、審査に従事する専門家の管理が重視され始めた。

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* 研究者のネットワークや研究に関連したネット上のプラットフォームの事業を手掛け、NSFCや多くの地方政府科技庁を顧客としている城大科訊有限公司のグループ企業が運営している「科研の友」WeChat公式アカウントでNSFCの審査について整理した記事(下記URL参照)によれば、NSFCは申請締切後45日以内に申請資格や様式・整合性等約30のポイントについて第1次審査(通称:形式審査)を行うという。
** 下記URLの記事によれば、専門家は、申請の提案内容に応じてNSFCの専門家データベースから選ばれた3~5人が審査にあたる。内容が近い申請については、相互比較のため、できるだけ同じ専門家グループが審査する。
**** 下記URLの記事によれば、NSFCの専門家データベースから選ばれた13~20人(人数は分野により異なる。)が審査にあたる。必要に応じて適宜データベース外の専門家が招かれる。
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◆2020年1月、NSFCは《2020年度国家自然科学基金プロジェクト公募ガイドライン》を発表し、2020年度の改革措置として《責任、信用、貢献》のRCC評価システムを試験的に導入することを発表した[1]

◆2020年5月、NSFCは《責任、信用、貢献》評価に関する説明を発表した[2]。RCCは《責任(Responsibility)、信用(Credibility)、貢献(contribution)》の略称である。

《責任》:審査に従事する専門家は、NSFCと申請者の双方に対して責任を有する。NSFCに対しては、NSFCが真に優れた提案を選び出し支援できるようにする責任を有し、申請者に対しては、申請者が研究のアイデアやプランをより優れたものにすることを助ける責任である。

《信用》:専門家が長期にわたり、審査に関与する中で信用を積み重ねていく。専門家の審査における記録がシステムに持続的に記録され、専門家は自身の信用を高めることを重視するようになる。

《貢献》:専門家の審査における貢献を信用記録に組み入れることを意味する。貢献は、NSFCに対する詳細かつ明確で重要な価値を有する参考となる審査意見を提供することと申請者に対して、論点が明確でかつ十分な根拠を有し、啓発性に富む建設的な審査意見を提示することである。

 RCC評価システムの導入目的は、次のとおりである。まず、審査専門家に対し、あるべきガイドラインを示し、専門家の責任ある行動規範を明確にする。これにより、審査における専門家の貢献を評価・奨励する。専門家が責任ある審査を行うことで長期的な学術上の名声を確立するようになることで、審査業務の質を向上させ、良好な学術のエコシステムを構築することができる。

 NSFCの改革の任務は①課題の性質に応じた明確・適切な支援、②評価システムの改善、③分野のバランス・レイアウトをより優れたものとすることであり、RCC重視の審査システムは、評価システムの改善につながる。

 RCC評価システムでは、専門家は「国家自然科学基金プロジェクト審査回避と秘密保護管理弁法」「国家自然科学基金プロジェクト審査専門家業務管理弁法」「国家自然科学基金プロジェクト審査専門家行動規範」などの各種プロジェクト管理弁法および2020年審査業務要項等の文書に基づき、審査を行うべきである。審査においては、①科学における専門性はもちろん、②NSFCの政策の理解、③利益相反等に関するルールを守って私的利益の追求無し、④公正性、⑤秘密保持、⑥上述のような責任ある審査意見、⑦オリジナルな発想や分野横断的な研究を重視する包容性に留意しなければならない。

 次のような規範違反行為については、専門家の信用記録に組み入れる。

・公募プログラムの趣旨に従って審査しない

・自分の専門と一致しない申請書を審査する

・審査意見が事実を間違っている

・審査意見がおざなりで参考価値がない

・審査意見に差別的または攻撃的な言葉を使う

・理由なく審査業務を拒否する

・期限にひどく遅れてから審査業務を拒否する

 さらに、次のような事例があった場合には、一定期間審査に従事することを禁止する。

・評価審査専門家承諾書に違反する

・関係者の提案の審査を回避する制度に違反する

・秘密保持義務に違反し、他人に審査を依頼する

・申請書を盗作またはコピーする

・私的理由等非学術的な理由で不公正な評価をする

・審査の機会を利用して不正な利益を受ける

◆2020年7月、NSFCは「国家傑出青年科学基金プロジェクト」、「一般プロジェクト」の実施評価報告を公表した[3]。報告書ではプロジェクトに存在する問題に関して、以下の点を指摘した。

 ① 国家大戦略のニーズや問題の方向性の把握の不足、基礎研究の細かな領域での先端的な研究へのフォーカスがまだ不十分である問題、オリジナリティのあるイノベーションをより重視すべきこと等の問題。

 ② 成績(論文、賞)を重視し、研究活動そのものを軽視する問題。

 ③ 管理プロセスの改善が必要。報告書や管理のための表の作成等が多く、負担が大きい。基礎研究の専門的な領域や国際的な見地での審査に充分能力を発揮できない専門家の構成の問題。

◆2020年8月、自然科学基金委化学部が《2020年度重点プロジェクト評価審査大会》で再び評価審査の任務と改革を深める新しい方向性を強調した[4]

 審査の任務では《ニーズ》と《最先端》に注目し、研究の発想における《独自の道の開拓》を強調し、課題設定において《分野横断・融合》の方式を取ることを重視する。審査の改革の新しい傾向は下記のとおりである。

 ① 今後、科学研究の現場の研究者が資金援助をもらえるようになること(職位にかかわらず、実際にアイデアを発想し、研究を実施する研究者が申請し、自身の名前で研究費を獲得することを奨励する意と思われる。)

 ② 審査では、従来の《四唯》(論文、職位、学歴、受賞歴[5])重視をあらため、職位が低くとも真面目に研究する重点プロジェクト申請者にもっと注目すること

 ③ 若手研究者が申請する重点プロジェクトを大胆に支援すること

 2020年にNSFCが実施した一連の改革措置を通じて、論文、職位、学歴、受賞歴等を重視する考え方をあらため、科学研究の作風・学風と信頼性を強化し、支援プロジェクトの質と資金の使用効果を高め、若手研究人材の成長を促すことが今後の改革の方向であることがわかる。


1. 2020年度国家自然科学基金改革举措

2. nsfc.gov.cn/publish/portal0/tab442/info77903.htm

3. 国家自然科学基金委员会 2019 年度部门决算

4. 自然科学基金改革动向:项目评审避免"四唯",关注没"头衔"、年轻的科研人员

5. 人才评价:打破"四唯"怪圈