【21-051】中国地方政府における科学技術計画について 河南省を例として
JST北京事務所 2021年09月30日
河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクト
1.中国地方政府における科学技術計画
地方政府が経済・産業政策の実行において大きな裁量を持ち、各地方政府が地域の特色を生かした政策を打ち出しお互いに競争関係にあることが、中国の経済発展の原動力ともなっている。
国の重要政策においても、国レベルで具体的な施策を打ち出して実施推進し、各地方政府も国に続き、地域の実情に合わせた地方版の施策を続々と実施し始めることが多い。施策によっては、支援規模において、地方版が中央版を上回る場合もある。
科学技術においても同様であり、国が打ち出す科学技術イノベーション政策に加え、各地方政府独自の政策を実施している。
今回、資料が公開されている河南省の資金管理弁法、公募要領を例として、中国地方政府における科学技術イノベーション政策を紹介したい。
2.河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクトについて
「河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクト」は、河南省政府の財政支出により、河南省内の市・県が科学技術企業のイノベーション発展を支援するための特別プロジェクトである。
国レベルでの科学技術イノベーション政策として、2014年、国家発展改革委員会により公開競争方式を取るすべての科学技術計画(日本の競争的資金に相当)を「中央財政科学技術計画[1]」として整理し、実施されている。
河南省においても、中央財政科学技術計画の実施に加え、河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクトを河南省独自の科学技術イノベーション政策として立案・実施している。
【資金管理】
「河南省企業技術創新省級引導専項資金管理弁法(預財科[2017]210号)」[2]
(河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクト資金管理法)
【公募要領】
「河南省技術創新引導専項申報指南」[3]
(河南省技術イノベーション誘導特別プロジェクト公募要領)
(1)「河南省企業技術創新省級引導専項資金管理弁法(預財科[2017]210号)」
第一章 総則
・ 科学技術体制の改革を深化させ、イノベーション駆動発展を推進する若干の実施意見(予発[2015]13号)の精神に基づき、「河南省人民政府弁公庁河南省研究開発の資金投入促進に係る特別行動計画に関する通知(2017-2021年)」に基づき、省財政統一計画資金は、河南省企業技術イノベーション省級指導特別プロジェクト資金(以下、「特別プロジェクト資金」)を設立する。特別プロジェクト資金管理を強化、資金の使用効率を強化するため、「河南省省級財政特別プロジェクト資金管理弁法(予政[2014]16号)」等関連制度の規定に基づき本弁法を制定する。(第1条)
・ 河南省企業技術イノベーション省級誘導特別プロジェクト資金は、省政府の財政支出により、市・県が科学技術企業のイノベーション発展を支援するための特別プロジェクト資金を指す。(第2条)
・ 本プロジェクトの資金管理は、「(河南省)政府の指導、市場主導、転換機能、最適化手順、公開の透明性、規範的な運営、目標達成、サービスの対局」の基本原則に従う。(第3条)
・ 特別プロジェクト資金管理の情報化レベルを段階的に高め、企業の申告負担を軽減し、業務効率を向上させる。(第4条)
・ 特別プロジェクト資金の主な支援対象(第5条)
①研究開発企業への省級財政補助
②ハイテク企業申告指導補助
③企業が他の科学技術活動を展開するよう指導するための財政補填
一企業が複数の支援対象になりうる場合、最も支援額が高額のもののみを対象とし、支援の重複を避ける。
・ 特別プロジェクト資金が支援される企業は、以下の条件に適合していなければならない(第6条)
①河南省内で登記された法人であること
②「財政部 国家税務総局 科学技術部 研究開発費用の税引前加算控除政策の整備に関する通知(財税[2015]119号)」に規定される税引前加算控除政策が適用される業界に属していること。
③以下の最低一つの条件を満たすこと;
◇自己資金で研究開発活動を展開。
◇初めてハイテク企業と認定される。
◇初めて国家級の研究開発プラットフォームと認定され、その他政府により指導・支援を受ける科学技術活動を展開。
④プロジェクト公募要領の求めるその他条件に合致すること。
・ 省財政庁は、省科学技術庁と共同して特別プロジェクト資金の配分要因と重み付け等を確定し、中期財政計画と年度予算を編成の上、予算執行を促し、業績評価の結果を再評価し、特別プロジェクト資金の使用管理を監督するよう指導する。(第7条)
・ 省科学技術庁は、財政庁等の部門と共同して来年度の募集の実施を通知し、市・県に対して具体的な補助事業を実施するよう組織し指導する。
また、特別プロジェクト資金の業績目標の制定、組織の編成、業績評価および政策執行の監督検査に責任を負う。(第8条)
・ 市県科学技術部門は、現地企業の申請および審査業務を組織し、現地企業に対する財政補助の実施、監督に責任を負う。
市県財政部門は、現地の科学技術部門による資金の審査と申請業務に協力し、規定に従い補助資金を支給し、要求に従って財政監督検査を行う。(第9条)
・ 特定プロジェクト資金は、要素法(補足:要素または経験を分析する手法)に照らして市県に分配し、企業に対しては、市県を通じて「事前(資金)配分、事後精算」により資金補助を行う。
省科学技術庁は、財政中期計画と年度予算編成の要求に基づき、関係部門および経費配分に必要な基礎データをリアルタイムに提供し、規定期間内に、企業の研究開発準備金の規模、ハイテク企業の初回認定数等の要素に基づいて資金計画を提案し、省財政庁に報告する。
省財政庁は、財務状況を踏まえ、特別プロジェクト資金の年度予算を審査し、関連する基礎データに基づき資金計画を審査し、規定の期限によって特別プロジェクト資金を配分する。
市県の科学技術部門は、省科学技術庁の統一組織下にあり、主要な補助関連データ、具体的な補助事業の実施に責任を負う。省財政庁は、省科学技術庁と市県補助事業の実施状況等を踏まえて、事前配分資金を精算する。(第10条)
・ 特別プロジェクトの資金が企業に振り込まれた後、企業により今後の研究開発活動を展開するために計画案配し、研究開発プロジェクトに従って補助簿を整備する。
特別プロジェクト資金は、各種の罰金、寄付金、債務返済等の支出に使用してはならず、国家の規定で禁止されているその他の支出に使用してはならない。(第11条)
・ 省科学技術庁は、特定プロジェクト資金の業績目標の立案に責任を負っており、組織管理、支出進捗度等の共通性評価指標および財政政策の誘導を引き出し、効果と満足度指標を含む特別プロジェクト資金の予期される結果を明確に反映することができる。
特別プロジェクト資金の使用状況に対する業績評価と業績報告書の作成を担当し、業績報告には、特別資金の使用状況、業績目標に対する達成状況等が含まれる。(第12条)
・ 省財政庁は、業績評価結果から抽出の上、再検査を実施し、後年度予算の特別プロジェクト資金の配分に関する重要な根拠とする。業績評価が比較的良い領域に対して、適切な支援を強化する。実際の執行効果と財政補助政策が予期した目標との差が大きく、業績評価の結果が比較的に悪い場合、特別プロジェクト資金の規模の縮小し、補助政策を取消した後、後続の特別プロジェクト資金の配分に至る。(第13条)
・ 省科学技術庁、財政庁は、第三者機関に委託して、特別プロジェクト資金の業績評価業務を行う。(第14条)
・ 特定プロジェクト資金管理と使用は、関連法令、財務規則および本弁法の規定を厳格に執行し、財政、監査、観察等の部門の監督監査を受けなければならない。(第15条)
・ 特別プロジェクト資金の使用管理制度を確立する。具体的に以下を含む内容を公開する。(第16条)
①資金管理弁法、実施法案等の関連制度の書類。
②資金申請条件、支援対象、申請手順等の申請通知。
③補助企業リスト、不採択理由等の審査結果の状況。
④特別プロジェクト資金の配分と下達書類。
⑤その他規定により公開すべき内容。
・ 虚偽により補助金を得た企業に対しては、ブラックリストに計上の上、社会に公示し、「予算法、財政違法行為処罰処分条例」等の規定に基づき関連機関および個人の責任を追及し、犯罪の疑いがある場合は、司法機関に移送して処理する。
財政、科学技術部門および当該関係者は、プロジェクト審査、予算審査、資金配分等の一環で規定に違反して資金配分およびその他の職権乱用、職務怠慢、不正行為等の違法行為があった場合、「予算法」、「公務員法」、「財政違法行為処罰処分条例」等の関連規程に基づき、関連する責任機関および人員の責任を追及する。犯罪の疑いがある場合、司法機関に移送して処理する。(第17条)
・ 本弁法は、省財務庁が解釈の責任を負う。(第18条)
・ 本弁法は、公布日から施行し、執行期限は2017年から2019年とする。(第19条)
(2)「河南省技術創新引導専項申報指南」
Ⅰ.支援の方向性1:科学技術開放協力
1. 申請類型
〈1〉河南省の企業と国内内外の有名大学、科学研究機関、革新的な企業が共同実施した科学技術研究開発、技術成果移転変革プロジェクト(中国科学院との共同実施に伴う技術移転プロジェクトは、本プロジェクトの支援対象外)。
〈2〉河南省の大学、科学研究機関と国内有名大学、研究機関と共同実施される科学技術研究開発プロジェクト。
2018年度は技術成果移転変革プロジェクトを重点的に支援すると同時に、省科学技術庁と国内有名大学、研究機関により署名された戦略的協力協定を満たすプロジェクトを優先的に支援する。
2. 支援方法
技術成果移転変革プロジェクトの場合、プロジェクト実施機関から協力機関に支出された経費と実際に発生した研究開発費を基数として、プロジェクト実施機関に対しては、事後補助による支援を与え、最大でも100万元を超えないものとする。
科学研究開発プロジェクトの場合、署名された技術契約とプロジェクト研究開発予算に従い、50万元を超えないものとする。原則として、企業が実施するプロジェクトを先に設立し、受け入れ完了後に補助金方式で支援する。研究開発費の要求が高額でリスクが高く、戦略的な新興産業に対するプロジェクトについては、一定の割合で研究開発費を事前に受け取ることが可能。
3. 申請要求
〈1〉応募条件
①河南省で独立した法人登録がなされている大学、科学研究機関および企業が申請可能。
②申請者は、協力機関と協力契約を締結する必要がある。協力契約は、公募されたプロジェクトの内容と密接に関連する技術成果移転の変革協力または科学技術研究開発契約である必要があり、協力内容は、今回公募されたプロジェクトに関連する協力が含まれる必要がある。原則として、国内協力協定の両当事者は、独立した法人でなければならない。協力協定の署名機関が高等専門学校または科学研究機関に属し独立した法人格を有しない場合、所属する大学や科学研究機関の科学研究管理部門は、当該合意を証明するために共通の公印を押印する必要がある。国際協力協定で署名者の公印が押印されない場合、署名者と署名機関の関係の証明が必要である。科学技術研究開発プロジェクト契約は、プロジェクト実施期間に対応する必要がある。
③プロジェクトリーダーは、河南省の各種科学技術イノベーションの主体的な現職スタッフでなければならず、大学や科学研究機関のプロジェクト代表者は、上級専門職または博士号を有する必要がある。
④協力機関は、有名な国内および外国の大学、科学研究機関、イノベーション型企業である必要がある。(国内の有名大学とは985計画、211計画および2011計画の大学を指し、科学研究機関とは中国科学院、中国農業科学院等の国家級研究所を指し、イノベーション型企業とは大規模な中央企業または国家級のエンジニアリング技術研究センターや重点実験室等の国家級研究開発プラットフォームを有する企業を指す。外国の協力機関は、関連領域で国際的に高度な技術的成果を有する必要がある。)
⑤プロジェクトの内容は、河南省の経済的・社会的発展を制約している重大な科学的問題またはキーとなる技術問題に焦点を当てるべきであり、関連分野の独立したイノベーション能力を大幅に向上させることができ、経済的・社会的利益が顕著になることが予期される。
⑥企業による申請の場合、プロジェクトのへの投資は自己調達である。昨年末の時点で、当該企業の純資産は申請資金の3倍を下回らず、昨年度の研究開発費は、主要な営業収入の3%以上を占め(大中型企業は1.5%)、市級以上の研究開発センターを有する。申請企業は、2016年度監査報告書を提出しなければならない。
⑦技術成果移転革新プロジェクトは、技術成果の取引がすでに実行され、かつ協力先へ費用を支払い済みで、その上で実施・達成されるプロジェクトを組織しなければならない。科学技術研究プロジェクトの実施期間は通常2年を超えない。(即ち、プロジェクト完了日は、2019年12月31日を超えない)。明確な実施計画と具体的な審査可能な業績目標が必要である。
〈2〉申請資料
①「河南省技術イノベーション誘導(科学技術開放協力)特別プロジェクト申請書」および添付資料は、主に申請機関の営業許可証写し、科学技術研究開発協議書または技術成果移転革新協力協議書(協議書で、それぞれの資金投入と利益分配を明確にすることが望まれる)、技術成果証明書類(科学技術奨励証書、調査新報告、検査報告書、特許証あるいは、その他技術権益の証明書を含む)、企業が保有する市級以上の研究開発センターの証明資料、協力企業の法人営業許可証および国家級研究開発プラットフォームの写し等。その中で、技術成果移転革新プロジェクトを申請するためには、2016年以来、協力機関に支払った技術成果費用証明資料と研究開発費用特別監査報告書を提出し、すべての添付資料と申請書を一冊に纏める必要がある。
②「河南省科学技術計画プロジェクト予算申告書」および付属資料。
③「河南省技術イノベーション誘導(科学技術開放協力)特別プロジェクト総括表」。
科学技術研究開発類の申告は「河南省技術イノベーション誘導(科学技術開放協力)特別プロジェクト申請書」と「河南省科学技術計画プロジェクト予算申告書」を記入しなければならない。技術成果移転革新プロジェクトは「河南省技術イノベーション誘導(科学技術開放協力)特別プロジェクト申請書」と「技術成果移転プロジェクト予算状況表」のみ記入する。
〈3〉制限事項
事業単位(補足:中国科学院等の公的法人)の申請の上限プロジェクト数は5、企業法人は1。
Ⅱ.支援の方向性2:産学研研究協力
河南省の大学、科学研究機関と企業の技術協力を支持・誘導し、大学、科学研究機関のイノベーション活力と動力を強化し、科学技術と経済の緊密な結合を促進するとともに、2018年度産学研協力プロジェクトの申告と2017年度産学研協力プロジェクトの総括検収などの業務を組織の上、展開する。
1. 2018年度プロジェクト申請ガイド
〈1〉申請対象
河南省内の大学、科学研究所(改行政改革により企業とされた科学研究所を除く)およびその他の事業単位。
〈2〉申請種別
企業が委託する研究開発プロジェクト(委託研究開発)、企業と協力して成果を変革するプロジェクト(協力変革)、企業が技術移転を実施するプロジェクト(技術移転)、研究室の成果を発展させた応用試験(成果パイロット試験)を行うプロジェクト。
〈3〉応募条件
①プロジェクトは実施期間内でなければならず、2年以内の完了が予定される(2019年12月より前に完了)。
②企業は技術契約の中でプロジェクト参加機関の資金を支払うことを承諾し、プロジェクト研究開発予算の50%を下回ってはならず、プロジェクト申請機関の財務統一管理、単独計算に組み入れること。
③パイロットプロジェクトに依存する科学技術の成果は、原則として直近3年で省級以上の科学技術奨励の上位3名を取得、または科学技術成果登録の第一完成者によるものとする。
④成果の中でパイロットプロジェクトは一般プロジェクトと重点プロジェクトに分けられ、一般プロジェクトは省級二等賞以下の科学技術奨励または科学技術成果登録の成果申告を完成するプロジェクトを指す。
重点項目は省級一等賞以上の科学技術奨励成果によって申告するプロジェクトを指す。一般プロジェクトの財政支援経費の申請は50万元を超えてはならず、重点プロジェクトの財政支援経費の申請は200万元を超えてはならない。
⑤プロジェクト協力企業は河南省内に登録された独立法人資格を有する企業であり、かつプロジェクト申請機関と相互に従属または関連・関係がない。
⑥申告の際、同じ科学技術の成果を用いて産学研協力プロジェクトを重複して申請してはならない。プロジェクト終了後、同一の科学技術の成果を用いて、再度産学研協力プロジェクトを申請してはならない。
〈4〉申請資料
①「河南省技術イノベーション誘導(産学研協力)特別プロジェクト申請書」、「河南省科学技術計画プロジェクト予算申請書」(プロジェクト予算申請書は申告成果中、パイロット試験のみ記入)。
②技術契約または関連する科学技術の成果奨励証明。
③銀行振込証書または試験研究の実行可能性報告。
④協力企業法人の営業許可証の写し。
⑤その他の関連資料。
2. 2017年度第2回プロジェクト検収ガイド
〈1〉検収対象
検収対象は、2017年6月時点で予定実施期限が到来し、検収が実施されていない省産学研協力計画プロジェクトである。
〈2〉検収の要件
①プロジェクト責任者は検収申請書に対して完全な検収資料を提供する。関連規定に従って検収資料と証明書を提供できなかったプロジェクトは受理しない。
②検収実施期限に達しても検収できない場合は、書面で省科学技術庁に状況を説明し、延期が必要な場合は延期申請を提出し、最長でも1年を超えないように延期申請をしなければならない。
③プロジェクト実施期間満了後、1年を超えて検収資料を提出せず、延期申請も提出していない場合は、「河南省科学技術計画プロジェクト管理弁法(試行)」関連規定に従って処理する。
〈3〉検収資料
①「河南省技術イノベーション誘導(産学研協力)特別プロジェクト検収申請書」
②産学研プロジェクト協力協議書
③協力企業の成果応用状況と評価意見証明資料。
④協力企業により申請機関に入金されたプロジェクト研究開発資金の銀行振込証明およびその他の資金が着金されていることの証明。
⑤プロジェクト経費の支出明細(プロジェクト責任機関が財務公印を押印)。
以上
1. 中央财政科技计划(专项、基金等)项目管理专业机构管理暂行规定
2. 河南省企业技术创新省级引导专项资金管理办法(豫财科[2017]210号)