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【21-052】《研究資金管理》中央財政科学技術研究費に関する管理体制の改革

JST北京事務所 2021年10月07日

1.概要

 李克強総理は2021年7月28日に国務院(内閣に相当)常務委員会を主宰し、中央政府からの科学研究費の管理における更なる改革と改善を展開し、科学研究者により大きな研究費管理の自律性を与える措置を決定した[1]

 そして本決定に続き、8月13日に国務院から具体的な措置に関して「国務院弁公庁の中央財政科学研究費管理の改革・改善に関する若干の意見[2]」が公布された(8月19日には国務院新聞弁公室(広報担当部署)が若干意見のブリーフィングを開催し、欧文漢財政部部長助理が解説)。その概要を以下に紹介する。

2.主要な改善点

(1)研究プロジェクトにおける研究費の管理に係る自主権の拡大

①予算編成の簡素化

・ 直接経費について、現行9費目(「3.参考」を参照)を3費目(設備費、業務費と労務費)に統合。費目ごとに積算。

・ 50万元以上の設備費を除き、研究費予算積算にあたり詳細の説明を不要とする。積算の粒度は審査の要素とはしない。

・ プロジェクト審査と研究費予算審査を統合。

・ コンピュータおよびソフトウェアは設備費。

・ 予算を審査するにあたっての重点項目は、「合目的性」、「政策との整合性」、「経済合理性」。

②予算調整権の委譲

・ 従来は、研究基金専門管理機関が予算を編成し、科学技術部に申請・認可を経て財政部が認可していたところ、i)設備費の予算調整金をプロジェクト実施機関に、ii)業務費および労務費の予算調整権を研究代表者に委譲。

③研究費「包干制」の拡大

・ 基礎研究および人材プロジェクトに対して研究費の「包干制[3](補足:費目の割合や使途の制限を極力を設けず、柔軟性を高め研究者の自主性を高める制度)」を採用する。

・ 研究費の包干制が採用されたプロジェクトにおいて、研究代表者は研究倫理および研究公正を遵守することを条件に、研究費の使用を独自に決定することができる。

・ 基礎研究、フロンティア研究、公益に資する研究に従事する独立法人格を持つ研究機関から研究費の「包干制」を展開するよう関係部門や地方が推奨する。

(2)研究プロジェクトにおける研究費支出に係るメカニズムの改善

④資金計画の合理的決定

・ プロジェクト管理部門は、各研究プロジェクトの特性、進捗状況、資金需要等に基づき、資金計画を合理的に策定し、適宜研究費を配分する。

・ 配分初回時には、プロジェクト代表者の意見を十分に尊重し、研究費のニーズを効果的に保証する必要がある。

⑤研究費交付の早期化

・ 財政部およびプロジェクト管理部門は、部門予算の承認前に研究費を交付する。

・ プロジェクト管理部門は、プロジェクト任務書への署名30日以内にプロジェクト代表機関に研究費を支払う必要がある。

・ プロジェクト代表機関は、プロジェクト代表者の意見を踏まえ、プロジェクト参画機関に適宜研究費を支払う。

⑥余剰資金の管理化

・ プロジェクト終了後業績評価に合格した後、余剰資金は国に返還せず、プロジェクト実施機関により直接科学研究のために使用される。
(編者註:従来は研究終了後2年間は研究機関の判断で後続の研究費として使用可能)

・ プロジェクト実施機関は、余剰資金の活性化メカニズムを改善し、余剰資金の使用を加速させる。

(3)研究者へのインセンティブの拡大

⑦間接経費の割合を増加

・ 間接経費は直接経費から設備費を控除した後に一定の割合で確定される。

(※)改定前の間接経費率上限は、国家重点研究開発計画。
間接経費率上限 改定後 改定前(※)
500万以下の部分 30% 20%
500万元超~1,000万元以下の部分 25% 15%
1,000万元超の部分 20% 13%

・ 数学等の純粋な理論的基礎研究プロジェクトの場合、間接経費率の上限を60%にする。

・ (国務院新聞弁公室ブリーフィング)研究機関の判断により、間接経費の全額を奨励金として突出した功績を挙げた研究チームまたは研究者に支出することを可能とする。[4]
(編者註:今回の改善決定では、研究費総額の増額は明記されていないので、間接経費率の増加に伴い直接経費は減額されることになるが、まずは研究者への報酬を増大させ研究者のインセンティブが向上することを目的としており、直接経費の減については別途措置がなされるものと思料)

⑧奨励金の拡大

・ 科学研究の安定助成金から20%を上限に奨励金として支出する試行の範囲を、全ての中央レベル研究機関に拡大する。

・ 奨励金としての支出範囲と基準は、研究機関によって自主的に決める。

⑨労務費の支払い範囲の拡大

・ 研究費で雇用している者の社会保障補助や住宅積立金の所属先負担分を労務費に含めることを可能とする。

⑩業績給与総額の合理的な決定

・ 研究機関は業績給与総額を合理的に決定し、人力資源社会保障部門および財政部門に報告する。

⑪業績報酬総額の合理的な決定

・ 研究成果の技術移転に伴う報酬は、研究機関の業績給与総額の上限に含めず、翌年の業績賃金を検証するための基数として使用されない。

(4)研究者の事務負担の軽減

⑫科学研究財務助手の配置

・ 科学研究プロジェクトに財務助手を配置し、予算編成、精算等の専門サービスを提供し、研究者の事務負担を軽減させる。関連して発生する労務費はプロジェクト経費で支弁する。

⑬招へい旅費に係る立替払いの改善

・ 国内旅費交通費、請求書が入手しにくい宿泊費等の定額払いを可能とする。

⑭ペーパーレス化の促進

・ 領収書等の経費精算のデジタル化、ペーパーレスによる精算を促進する。

⑮検収の簡素化

・ プロジェクト検収と財務検収を統合し簡素化し、プロジェクト終了時に1回限りの包括的な業績評価を実施する。

⑯研究機器の調達の最適化

・ 研究機関の内部規程を改善し、研究機器および研究設備の調達手続きを簡素化する。

・ 入札を不要とする。

・ 法令に基づく政府調達の方法の変更を財政部に申請する場合、財政部は時限的な決済制度を実施し、原則として要件を満たす申請は5営業日以内に完了させる。

・ 関連部門は、調達に係る関連法令の改正を進め、除外条項を更に明確にする。

⑰国外出張の管理

・ 研究者の国際協力および交流に係る費用は、「三公経費」(補足:公費による接待費、外国旅費、公用車購入・運行費用)に基金に含めない。そして、「三公経費」ゼロの範囲拡大の要求に制限されない。

(5)研究費の資金調達と支援方法の革新

⑱研究資金のチャネル拡大

・ 財政資金のレバレッジと指導的役割を十分に発揮させ、民間資本による科学技術イノベーションを惹起する。

・ 公的研究費の使用を最適化し、より科学技術成果の移転および応用を促進する。

・ 基礎研究と応用研究との間によい相互作用が発揮されるよう促進する。

⑲一流研究者支援のためのパイロットプロジェクト

・ 国家の重大戦略とフロント研究分野に焦点を当て、世界トップクラスの研究者を選定し、持続的で安定した研究費を支援する。

・ 重点分野等の範囲において、当該研究者が独自に研究課題を設定、研究チームを組織した上で、研究費の使用を采配する。

・ 3年から5年後に第三者による評価または国際的なピアレビュー等を実施する。

⑳「予算+ネガティブリスト」管理モデルの実施

・ 地方政府が新型研究開発機構[5]に対して国際準拠のガバナンス構造と市場志向の運営メカニズムを採用するよう奨励し、理事会のリーダーシップの下で、研究機関の長の責任システムを実施する。

・ 「予算+ネガティブリスト」管理モデルを奨励し、研究費の使用の自立性を高める。

・ 中央財政資金の支援により生み出された科学技術成果および知的財産権は、法律に従って新型研究機関によって取得され、研究機関が独自に応用や商業化を促進することを可能とする。

(6)健全な研究業績管理メカニズム

㉑研究の業績管理メカニズムの改善

・ プロジェクト管理部門は、業績志向を更に強化し、プロセス重視から結果重視に移行し、業績評価を強化する。

・ 自由探索やタスク志向等のさまざまなタイプの研究プロジェクトに対する業績評価システムを整備し、研究リソースを優れた才能とチームに傾倒させるよう導き、研究費の資金効率を改善する。

㉒研究費の監督および検査の強化

・ 監督、検査方法を改善し、抜き取り検査、検査データ共有、検査結果の相互承認を促進する。

・ ビックデータ等のICT技術を最大限活用し、監督と検査の効率を向上させる。

・ 研究機関は、研究費の使用をリアルタイムに管理し、警告リマインダーを動的に監視して、研究費の合理的な使用および信頼性を確保する。

・ 研究費の管理と使用担当者は信用記録管理に含め、重大な不正行為に対する責任と処罰が実施される。

・ 関連するネガティブリストを作成し、研究費からの支出が認められない範囲を明確にした上で、関連部門は法令および当該ネガティブリストに基づき検査、レビュー、承認を行い、研究者の説明責任を免除する。

(7)組織と実装

㉓関連規程の改定整備

・ 関連部門および研究機関は、研究費管理に関連する政策および改革措置の「ラストワンマイル」の実施に焦点を当て、党中央の関連文書の精神と矛盾する部門規程の改定を加速する。

㉔政策の宣伝、訓練の強化

・ 関連部門はウェブサイト、各媒体等の様々なチャネルを通じて研究費管理に係る政策の宣伝に努め、社会的な意識を高める必要がある。

・ 同時に研究者、財務担当者、研究財務アシスタント、検査担当者に対して特別な訓練を行い、業務能力を継続的に向上させる。

㉕政策実施の指導監督の強化

・ 関連部門は研究機関の監督を強化し、国務院は監督チェックを強化する必要がある。

㉖社会科学研究プロジェクト研究資金管理

・ 財政部および中央級の社会科学研究プロジェクト管理部門において、社会科学研究の特性を踏まえ、中央級社会科学研究プロジェクトに係る研究費の管理方法を改定する。

3.参考

改定前直接経費予算科目9種
連番 直接経費の
主要な費目
説明
1 設備費 プロジェクト実施過程で購入または試作した専用器械設備を指し、現有の器械設備のアップデートや改良、外部に器械設備をリースした場合に発生する費用。
設備の購入は厳しく管理し、設備の共有や、独自開発、リースおよび現有設備のアップデートや改良を奨励し、購入の重複を避ける。
2 材料費 プロジェクト実施過程で消耗する各種原材料、補助材料等の安価な消耗品の購入および運搬、積み下ろし、整理等の費用。
3 試験・化学検査・加工費 プロジェクト実施過程で外部部門(担当部門内だが独立して予算を算定する部門も含む)に支払う検査、試験、化学検査および加工等の費用。
4 燃料費 プロジェクト実施過程で直接使用する関連器械設備や科学装置等の稼働のための水、電気、ガス等の燃料費用等。
5 出版/文献/情報伝達/知的財産権の事務費 プロジェクト実施過程で支払いが必要となる出版費、資料費、専用ソフト購入費、文献検索費、専門通信費、特許申請およびその他知的財産権の事務等の費用。
6 会議/出張/国際協力交流費 プロジェクト実施過程で生じた会議費、出張費および国際協力交流費を指す。予算編成時に本科目の支出予算が直接費用予算の10%を超えない場合、見積り作成の根拠は不要。担当部門と科学研究員は事実に即した処理、簡潔で高効率な処理、倹約の原則に沿って、国家と事業部門の関連規定を厳格に執行する。
7 労務費 プロジェクト実施過程においてプロジェクトに参加する大学院生、ポストドクター、客員研究員およびプロジェクト招へい研究員、科学技術補助員等に支払う労務関連費用。
プロジェクト招へい人員の労務費の支出基準は、現地の科学研究および技術サービス業に従事する人員の平均給与水準を参考に、当該プロジェクト研究の担当業務に基づきタスクを確定し、社会保険補助を労務費科目の支出に入れる。労務費予算は実際に即して編成し、比率制限は設けない。
8 専門家のコンサルティング費 プロジェクト実施過程において臨時雇用のコンサルタントに支払う費用を指す。コンサルティング費は本プロジェクトに参加および課題研究と管理に所属する関係者に支払ってはならない。コンサルティング費の管理は国の関連規定に従って実施する。
9 その他の支出 プロジェクト実施において上述の支出範囲外のその他の関連支出。その他の支出は予算申請時に詳細に説明する。

1. 中国政府网2021-07-28 "李克强主持召开国务院常务会议 部署进一步改革完善中央财政科研经费管理 给予科研人员更大经费管理自主权等"

2. 国务院办公厅「国务院办公厅关于改革完善中央财政科研经费管理的若干意见(国办发〔2021〕32号)

3. 捜狐2019-03-08 "【科普】科研经费"包干制"来了,你搞懂了吗?"

4. 第一财经2021年8月19日"前所未有,科研经费一半可花在"人"上!财政部详解科研经费改革"

5. 新型研究開発機構
・1996年に深圳清華大学研究院が初めての新型研究開発機構として設立。2017年までの間に全国で1,000機構以上に増加。
・理事会の主導により、機構長の責任の下、運営される。
・地方の省レベルで認定され、地方ごとに支援策も講じられている。
・例として、前述深セン清華大学研究院の他、北京生命科学研究所、CAS深セン先進技術研究院、北京量子信息科学研究院、北京脳科学・類脳研究中心、北京智源人工智能研究院等が挙げられる。
baijiahao.baidu.com/s?id=1672532682388710002&wfr=spider&for=pc
fx361.com/page/2020/0922/7041310.shtml