【21-059】《注目分野》リサーチフロント2021について(その1)
JST北京事務所 2021年12月20日
1.概要
科学技術の振興を図るにあたって、現在、そしてこれからの注目分野を見極めていくことは、極めて重要である。世界各国や科学技術に関連した統計・分析を取り扱っている企業・シンクタンク等によってさまざまな取組みがなされている。
中国科学院(科学技術戦略諮問研究院および中国科学院文献情報センター)とクラリベイト・アナリティクス社が毎年共同で中国発の注目分野の分析としてリサーチフロントを発表している。これは、最も研究開発が盛ん(ホット)な新興(エマージング)の研究領域(リサーチフロント)を特定するためのレポートである。
昨年2020年は11月13日に北京で発表が行われ[1]、今年も2021年12月8日に北京でリサーチフロント2021の発表が行われた[2]。
2.リサーチフロント選定の方法論
(1)基本的な考え方
世界で最も重要な研究論文を持続的に追跡することにより、論文が引用されるモデルとクラスタ化された高引用論文が頻繁に共同で引用(共引用)される状況を分析することにより、研究の最前線(リサーチフロント)を発見することができる。
高引用論文が共引用される状況が一定の活発さと一貫性に達すると、リサーチフロントが形成される。この高引用論文はリサーチフロントを構成する「コア論文」である。
つまり、リサーチフロントの分析にあたり主観性を排除し、研究者の相互引用に基づき形成された知識と知識、研究者と研究者の関係を探り、研究分野の発生・集約・発展(または収縮、消散)、近隣の研究活動ノードへの分化、自己組織化の動きを追う。この過程で、各グループのコア論文の基本的な状況、例えば主要論文、著者、研究機構等を明らかにして追跡することにより、各分野での最新の進展と報告を見出すことができる。
(2)2021年リサーチフロントの選定方法
ESIデータベース中のリサーチフロント(12,147領域)を起点として、自然科学および社会科学11分野でより活発な研究や急速に発展しているリサーチフロント見つけることを目標とした。
報告書に記載された上記リサーチフロント(171領域)の具体的な選定方法は以下のとおり。
(内訳:110領域のホットリサーチフロントと61領域のエマージングリサーチフロント)
〔1〕対象:
クラリベイトESIデータベースの2015年~2020年までに発表された論文
〔2〕ダウンロード時期:
2021年3月
〔3〕役割:
クラリベイト社:リサーチフロント171領域の核心論文とその引用論文データを提供
科学技術戦略諮問研究院:リサーチフロントの分析とキーリサーチフロント(キーホットリサーチフロントとキーエマージングリサーチフロントを含む)の選定および解析
3.ホットリサーチフロントの選定方法
①ESIの20分野を11分野に集約して分類。
②11分野別に、コア論文の総被引用回数による上位10%のリサーチフロントを抽出。
③抽出したトップ10%のリサーチフロントを11分野に再分類。
④11分野でコア論文の出版年の平均値によって再びランキング。
⑤コア論文の平均出版年により11分野別に最も「若い(新しい)」10領域のホットリサーチフロントを選定。
(11分野×10領域=110領域のホットリサーチフロント)。
なおホットリサーチフロントは、引用回数の観点から11の分野それぞれにおける近年最も影響力のあるリサーチフロントであるが、各分野の特徴や引用の傾向は異なる。
4.エマージングリサーチフロントの選定方法
1つのリサーチフロントには、多くの若いコア論文があり、通常これは急速に発展している研究の方向を示しているため、エマージングリサーチフロントを構成する。
エマージングリサーチフロントを識別するため、コア論文の平均出版年が2019年6月以後で総被引用回数トップ10%のリサーチフロントについて、科学技術戦略諮問研究院の研究者が調査と評価を行い、エマージングリサーチフロント(61領域)を選定する。
エマージングリサーチフロントは分野別の上限を決めずに選考しているため、11分野の間で分布が異なる。
(※)括弧内は2020年 | ||||
連番 | 11分野 | ホット リサーチフロント |
エマージング リサーチフロント |
計 |
1 | 農業科学・植物学・動物学 | 10(10) | 4(1) | 14(11) |
2 | 生態環境科学 | 10(10) | 2(1) | 12(11) |
3 | 地球科学 | 10(10) | 1(1) | 11(11) |
4 | 臨床医学 | 10(10) | 29(14) | 39(24) |
5 | 生物化学 | 10(10) | 11(9) | 21(19) |
6 | 化学・材料科学 | 10(10) | 3(6) | 13(16) |
7 | 物理学 | 10(10) | 1(2) | 11(12) |
8 | 天文学・天体物理学 | 10(10) | 2(1) | 12(11) |
9 | 数学 | 10(10) | 0(0) | 10(10) |
10 | 情報科学 | 10(10) | 1(0) | 11(10) |
11 | 経済学・心理学および その他社会科学 |
10(10) | 7(3) | 17(13) |
計 | 110(110) | 61(38) | 171(148) |
5.キーリサーチフロント
上述のホットリサーチフロントおよびエマージングリサーチフロント計171領域に対して、科学技術戦略諮問研究院による分析を経て、キーリサーチフロント31領域(およびフロントグループ2領域)が選定された。
コア論文は、ESIで同年同分野での引用頻度上位1%論文によるコア論文グループとコア論文をを共引用する引用グループで構成される。これらを詳細に分析し、コアペーパーによって提案された技術・データおよび理論が公開後にどのようにさらに発展したかが判明される。
各領域の重要性および影響力と、最近急速に伸びているという新興の度合いを示すためにキーリサーチフロントでは二つの指標を投入している。
<コア論文数P>
Pはリサーチフロントの中で知識基礎の重要性を示し、一定の時間内でPが大きい程このリサーチフロントがより影響力を有していることを示す。
<CPT指標>(キーリサーチフロント指標)
CPT指数はリサーチフロントの注目度合いと注目されるリサーチフロントに関する論文の発表年も反映しているため、リサーチフロントの影響力と新興の度合いを示す。
C:コア論文が引用される回数、P:コア論文数、T:コア論文を引用した論文が発表された期間の年数
CPT指標の値が大きいということは、よりホットでインパクトがあるということを意味する。
①PとTの値が同じである場合、Cの値が大きいものが、多く引用されていてより広い影響力があるということを意味する。
②CとPの値が同じである場合、Tの値が小さいほうがより短期間に注意を集めているということを意味する。
③CとTの値が同じである場合、Pの値が小さいほうが、コア論文当たり、より広範な注意を集め、影響力を有しているということを意味する。
<2021年度>
・110領域のホットリサーチフロントから22領域のキーリサーチフロントを選定
・61領域のエマージングリサーチフロントから9領域(および臨床医学におけるフロントグループ2領域)のキーリサーチフロントを選定
<2020年度>
・110領域のホットリサーチフロントから22領域のキーリサーチフロントを選定
・38領域のエマージングリサーチフロントから9領域のキーリサーチフロントを選定
6.国家リサーチフロントホット指数による比較
ホットリサーチフロント110領域、エマージングリサーチフロント61領域の計171領域のリサーチフロントについて、国別の貢献度(コア論文数における国別割合+引用論文数における国別割合)+影響度(コア論文の被引用回数における国別割合+引用論文の被引用回数における国別割合)を比較し、それぞれのリサーチフロントや各分野のリサーチフロントにおける研究の活性度を明らかにする。
【国家リサーチフロントホット指数】
※2021日本:31.59 | |||||
国名 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
米国 | 281.11 | 227.39 | 204.89 | 226.63 | 209.23 |
中国 | 118.84 | 118.38 | 139.68 | 151.29 | 191.43 |
英国 | 96.90 | 78.62 | 80.85 | 79.59 | 85.59 |
ドイツ | 90.98 | 75.12 | 67.52 | 75.31 | 64.13 |
フランス | 60.08 | 51.20 | 46.30 | 46.19 | 48.66 |
(ポイント)
①米国が首位を保っているものの、中国がこの5年間で米国に接近している。
(中米比 2017年42.2%→2021年91.5%)
順位 | 国名 | 国家リサーチ フロントホット指標 |
うち国家貢献度 | うち国家影響度 | 備考 |
1位 | 米国 | 209.23 | 113.05 | 96.17 | 誤差あり |
2位 | 中国 | 191.43 | 108.66 | 82.78 | 誤差あり |
3位 | 英国 | 85.59 | 44.73 | 40.86 | |
4位 | ドイツ | 64.13 | 34.20 | 29.93 | |
5位 | イタリア | 51.71 | 27.54 | 24.16 | 誤差あり |
6位 | フランス | 48.66 | 25.00 | 23.66 |
7位~10位:オーストラリア、カナダ、スペイン、オランダ
11位 | 日本 | 31.59 | 17.75 | 13.85 | 誤差あり |
(※)色つきの項目は、中国が1位の領域。 | ||||||||
連番 | 11分野 | リサーチ フロント数 (ホット+エマージング) |
米 国 |
中 国 |
英 国 |
ド イ ツ |
イ タ リ ア |
そ の 他 |
1 | 農業科学・植物学・動物学 | 14 | 5 | 6 | 1 | 0 | 0 | 2 |
2 | 生態環境科学 | 12 | 5 | 5 | 0 | 1 | 1 | 0 |
3 | 地球科学 | 11 | 9 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
4 | 臨床医学 | 39 | 18 | 16 | 1 | 0 | 1 | 3 |
5 | 生物化学 | 21 | 13 | 5 | 0 | 0 | 0 | 3 |
6 | 化学・材料科学 | 13 | 1 | 10 | 1 | 0 | 0 | 1 |
7 | 物理学 | 11 | 7 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 |
8 | 天文学・天体物理学 | 12 | 10 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
9 | 数学 | 10 | 4 | 5 | 0 | 0 | 1 | 0 |
10 | 情報科学 | 11 | 2 | 5 | 1 | 0 | 0 | 3 |
11 | 経済学・心理学 およびその他社会科学 |
17 | 7 | 8 | 1 | 0 | 1 | 0 |
計 | 171 | 81 | 65 | 6 | 2 | 4 | 13 |
(ポイント)
①米国、中国、英国、ドイツ、イタリアの5カ国で全体の92%(158/171領域)を占める。
(その2 へつづく)
1. 中国科学院科技战略研究院2020-11-13" 2020研究前沿发布暨研讨会在中国科学院举行"
webapp.icarebj.com/clarivate/research_fronts_2020/reg.htm
2. 中国科学院科技战略研究院2021-12-08"2021研究前沿发布暨研讨会在中国科学院举行"
webapp.icarebj.com/clarivate/research_fronts_2021/reg.htm