【22-003】《科学技術金融》中国のデータ取引所について
JST北京事務所 2022年01月20日
1.概要
各種データの売買を行う上海市のプラットフォームである「上海データ取引所(上海数据交易所)」が2021年11月25日から取引を開始した。
2015年に貴州省で中国初の「ビックデータ取引所」が開設されて以来、各地でビックデータに関する政策が発表され[1]、またデータ取引所も設立されている。
中国では各地方政府が優位性を互いに競っており、各分野において、それぞれ先駆的な取り込みを試みている。
日本においても2021年6月18日、政府の「デジタル社会の実現に向けた重点計画[2]」が閣議決定された。この中でデータ取引市場について、その創設に向けたニーズ分析等の構想が示されているが、先行事例として中国の主要なデータ取引所等を以下に紹介する。
2.上海データ取引所
上記のとおり2021年11月25に取引が開始された中国で最も新しい公的データ取引所である。
同日公開されたデータ商品は金融、交通、通信等8大区分20種。データ流通促進を阻害する「5大難題(①データの規範化・権利確定、②価格形成、③相互信頼、④参入障壁、⑤監督管理)」を解決し、「上海モデル」を全国に展開させることを目指している。
データ商品の例として、工商銀行と上海電力による「企業電智絵(Enterprise Electricity Smart Mapping)」という電力ビックデータ商品があり、商業銀行が当該エネルギーデータを活用することにより企業向け金融商品とサービスを革新するもので、取引初日に成約したとのことである[3]。
3.北京国際ビックデータ取引所
上海データ取引所開設に先立つ2021年3月31日、「北京国際ビッグデータ取引所(Beijing International Big Data Exchange)」が設立されている。
同取引所では、中国国内の取引のみならず、国境を越えたデータの安全な流通を探求することで、多国籍企業や国際機関を積極的に誘致し、中国を基盤とする世界的なデータ資源循環のエコシステム(国際的なデータ流通のハブ構築)を目指している[4]。
4.「深圳経済特区データ条例」について
現在深圳では、公的機関が主導したデータ取引所は存在しないが、個人情報を適切に保護しつつ公開データを最大限活用し、スマートシティとデジタル政府の構築、データ産業の健全な発展を促進するため、深圳市政府は2021年6月に「深圳経済特区データ条例(意見募集稿)[5]」を公開し、その後の修正を経て同月6月29日に制定[6]、そして2022年1月1日に施行された[7]。
本条例は、データ提供者が有する権利に加え、データの合法的な処理によって形成された市場において取引されるデータ製品やサービスに対する権利についても規定されたところに特徴がある。
当該規定が有効に機能することが実証されれば、今後他地域や中央政府による法令にも波及することも考えられる。
深圳経済特区データ条例(抄) ※制定稿
第四章 データ要素市場
第一節 一般規定
第五十八条 市場主体はデータを合法的に処理して形成したデータ製品とサービスに対して、法に基づいて自主的に使用し、収益を取得し、処分を行うことができる。
(補足)本条例において「市場主体」についての定義はないが、データ取引における売買当事者に加え、データ取引所や管理監督機関等、データ取引において関与する各機関を指すようである[8]。
なお意見募集稿では、個人データの提供者となる自然人が有する権利(データ権)が条文上規定されたが、制定稿においては、「各合法的権益を十分に尊重し、保障すること。」としている。
中国においてもデータの所有権の問題について現時点での統一の見解はなく、地方政府が定める条例による新たな「データの権利」を明確にすることは困難であるところ、「個人データには人格権の属性があること」「企業により合法的に形成されたデータ製品とサービスには財産権がある」というコンセンサスは一般的である。
これらの理解に基づき、本条例制定稿は、(編者補足:主として個人情報保護法等の)法律に従い個人データの人格権(決定、訂正、削除等)を有することを規定するとともに、合法的に処理して形成されたデータ製品とサービスに係る財産権(自主的使用、収益取得、処分)を明確にした[9]。
このように中国において、データ取引に係る法的な権利の位置づけや整理について模索が続いている。今後日本でデータ取引市場を創設する際にも、同様の検討が必要になると思われる。
深圳経済特区データ条例(意見募集稿)(抄) ※下線付き太字:制定稿で修正
第二章 個人データ
第二節 個人データ権益
第二十五条 自然人はその個人データの処理に対して知る権利、決定権を有し、他人がその個人データを処理することを制限または拒否する権利を有する。法律、行政法規に別途規定がある場合は、その規定に従う。
第二十六条 自然人はデータ処理者に個人データの閲覧、複製を要求する権利があり、データ処理者は関連規定に従って提供しなければならない。
第二十七条 自然人はその個人データが正確でない場合または不完全であることを発見した場合、データ処理者に補充、訂正を要求する権利があり、データ処理者は確認し、適時に補充、訂正しなければならない。
第二十八条 次のいずれかの場合、自然人はデータ処理者に個人データの削除を要求する権利があり、データ処理者は個人データを削除しなければならない。
(一)約束した保存期限が満了した場合。
(二)個人データを処理する目的がすでに実現された場合、または処理された個人データは処理の目的に対してもはや必要としない場合。
(三)自然人が個人データの処理の同意を撤回する場合。
(四)データ処理者が法律や法規の規定に違反したり、双方がデータを処理することを約束した場合。
(五)法律や法規に規定されたその他の状況。
深圳経済特区データ条例(抄) ※下線付き太字:制定稿で修正
第二章 個人データ
第一節 一般規定
第九条 個人データの処理は、自然人と個人データに関する各合法的権益を十分に尊重し、保障しなければならない。
以上
1. JST SciencePortalChina 2019年5月9日「貴州をはじめとした中国各地でビッグデータはどう活用されているか」
2. 日本デジタル庁2021年6月18日「『デジタル社会の実現に向けた重点計画』を閣議決定しました」
3. 上海数据交易所2021年11月25日"上海数据交易所今日揭牌成立"
4. 北京国际大数据交易所2021年9月26日"北京国际数据交易联盟成立"
5. 商密在线2021年6月3日"《深圳经济特区数据条例(征求意见稿)》发布!附全文及官方说明"
6. 中国政法大学互联网金融法律研究院2021年7月6日"重磅全文|《深圳经济特区数据条例》官方版公布"
7. 深圳特区报2022年01月01日"大数据杀熟将被罚款!《深圳经济特区数据条例》正式施行"
8. 中国金融信息中心2021年11月26日"上海数据交易所揭牌!让数据成为资产,您要关注的点都在这里!(数据交易的市场主体有哪些?)"
9. 深圳之窗2021年7月7日"《深圳经济特区数据条例》解读"