【22-048】《二十大》中国共産党第二十回全国代表大会報告-科学技術関係-
JST北京事務所 2022年11月04日
1.概要
2022年10月16日から22日まで開催された中国の中国共産党第二十回全国代表大会において、習近平総書記から大会報告がなされた。科学技術イノベーションに関する発言の概要を報告する。
2.全体構成
これからの発展の各論部分の筆頭に科学技術・教育(人材)が取り上げられており、科学技術をはじめとするこれらに対する重視の姿勢が注目される。
第1章: 前回党大会以来の5年間の成果を列挙。この10年間を振り返り、それ以前と比べて評価。
第2~第3章: 中国の体制の下での発展の堅持
第4章: これからの新たな発展についての総論
第5章(発展の各論の最初): 科学教育興国戦略
第6章~第10章(発展の他の各論): 体制、法治、文化、民生福祉・生活の質、環境・グリーン
第11章~第14章(政治的な事項): 国家安全保障、国防、「一国二制度」堅持・祖国の統一、 世界の平和と発展・人類運命共同体、党内統治を新時代の党建設
3.今大会のテーマ
「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫徹し、偉大な建党精神を発揚し、自信をもって自強をはかり、(※)根本を貫いて革新を起し、意気盛んに、勇気凛々と、社会主義現代化国家を全面的に建設するために、中華民族の偉大な復興を全面的に推進するために、団結奮闘しよう。」
(※)根本を貫いて革新を起す
中国の問題は、中国の基本的国情を踏まえて中国人自身で答えを出す必要がある。そのために中国の優良な伝統文化を踏まえ、マルクス主義への確固たる信奉、中国の特色ある社会主義への強い信念を堅持し、道・理論・制度・文化への自信を打ち固め、新たな貢献を行う。
我々が携わっているのは前人未踏の偉大な事業であり、この根本を貫いてこそ、方向を見失うことなく時代と歩調をしっかりと合わせ、新たな理論で新たな実践を導くことができる。
前提として、中国は発展途上の大国として、今なお社会主義の初期段階にあり、広範かつ抜本的な社会変革を経験する中、改革・発展と利益関係の調整は往々にして全局面に影響を及ぼしているという共通認識がある。
4.この五年の実績
(1)全般
・ 党の全面的指導と党中央の集中的・統一的指導の強化を堅持。
・ 民生の保障・改善を重視、小康社会の全面的完成、貧困脱却。
・ 法に基づく国家統治を全面的に推進。
・ 社会主義の先進的文化を積極的に発展。
・ 質の高い発展、エコ文明建設を協力に推進。
・ 国防・軍隊現代化建設を協力に推進。
・ 中国の特色ある大国外交を全方位で展開。
・ 党建設の新たな偉大なプロジェクトを全面的に推進。
(2)科学技術関連の成果
・ 科学技術の自立自強の推進を加速して、社会全体の研究開発(R&D)費が1兆元(約20兆円)から2兆8,000億元(約56兆円)に増加して世界第2位となった。
・ 研究開発者総数が世界トップとなった。
・ 基礎研究と独創的イノベーションが普段に強化され、一部の基幹革新技術の開発にブレイクスルーがあり、戦略的新興産業が発展・成長。
・ 有人宇宙飛行、月面・火星探査、深海・地底探査、スーパーコンピュータ、衛星測位、量子情報、原子力発電、新エネルギー技術、大型旅客機製造、バイオ医薬品等が重要な成果を収め、イノベーション型国家の一員となった。
(3)課題
・ 発展の不均衡・不十分という問題が依然として際立っている。
・ 質の高い発展の推進を妨げる多くの障壁やボトルネックがあり、科学技術イノーベーション能力がまだ高くない。
5.2035年までの発展目標(全般)
・ 経済力、科学技術力、総合国力を大幅に向上させ、一人あたりGDPを中進国レベルに乗せる。
・ ハイレベルの科学技術の自立自強を実現し、イノベーション型国家の上位に入る。
・ 現代化経済体系を構築し、新たな発展の形を形成し、新しいタイプの工業化・情報化・都市化・農業現代化を基本的に実現する。
・ 国家統治体系・統治能力の現代化を基本的に実現し、全過程の人民民主制度を一層整備し、法治国家・法治政府・法治社会を基本的に完成させる。
・ 教育強国、科学技術強国、人材強国、文化強国、スポーツ強国、(※)「健康中国」を築き、国の文化的ソフトパワーを著しく強める。
・ 人民がよりよい生活を送れるよう、住民一人当たりの実質可処分所得を更に増大させ(中間省略)全人民の共同富裕により明確な進展がみられるようにする。
・ CO2排出量ピークアウト後に安定の中で減少させ、(※)「美しい中国」の目標を基本的に達成させる。
・ 国家安全保障体系とその能力を全面的に強化し、国防・軍隊の現代化を基本的に実現する。
(※)「健康中国」について
・人民の健康は、民族興隆と国家富強の重要なバロメーター。
・人民の健康の保障を優先発展の戦略的位置に据え、人民健康増進政策を充実させる。
・出産支援政策体系を確立し、出産・養育・教育費用を引き下げる。
・高齢化に対する国家戦略を実施し、養老事業と養老産業を発展させる。
・一人暮らしの高齢者向けのサービスを改善し、すべての高齢者が基本養老サービスを受けられるよう推進する。
(中略)
・「健康中国」キャンペーンと愛国衛生運動をさらに発展し、文化的で健康なライフスタイルを呼びかける。
(※)「美しい中国」について
・自然保護と系統的な対策を堅持し、産業構造の調整、汚染対策、生態保護、気候変動対策を統一的に考慮し、炭素排出削減・汚染対策・緑化・経済成長をバランスよく推進する。
・そのために財政・租税、金融、投資、価格関連政策と基準体系を整え、グリーン・低炭素産業を発展させ、資源・環境要素の市場化配分体験を整備。
・省エネ・炭素排出削減先進技術の研究開発と普及・応用を急ぎ、グリーン消費を呼びかけ、グリーンで低炭素な生産方式と生活様式の形成を推進する。
6.科学技術関連への言及
(1)現代化産業体系構築
・ 製造強国・品質強国、宇宙開発強国・交通強国・インターネット強国・「デジタル中国」の建設を加速させる。
・ 産業基盤再構築プロジェクトと重要技術整備難関攻略プロジェクトを実施し、「専・精・特・新(補足:専門性を有する優れた)」企業の発展をサポートし、製造業のハイエンド化・スマート化・グリーン化を推進する。
・ 優位産業の競争的優位を持続させ、安全発展に関わる分野において不足分の補充を急ぎ、戦略的資源の安定供給能力を高める。
・ 戦略的新興産業の融合発展、クラスター発展を推進し、次世代情報技術、人工知能、バイオテクノロジー、新エネルギー、新素材、ハイエンド設備、グリーン・環境保護等一連の新たな成長エンジンを構築する。
・ 現代サービス業と先進的製造業、現代農業との高度融合を推進。
・ IoTの発展を加速し、高効率で円滑な流通体系を整備し、物流コストを引き下げる。
・ デジタル経済の発展を加速し、実体経済との高度な融合を促し国際競争力を備えるデジタル産業クラスターを構築。
(2)人材政策
科学教育興国戦略を実施し、人材による現代化建設への支援を強化。
・ 科学技術を第一の生産力とし、人材を第一の資源とし、イノベーションを第一の原動力とすることを堅持し、科学教育興国戦略、人材強国戦略、イノベーション駆動型発展戦略を踏み込んで実施し、発展の新たな原動力と優位性を作り出す。
・ 基礎学科、新興学科、学際学科の整備を強化し、中国の特色ある世界一流の大学と優位性のある学科の整備を加速させる。
・ 世界重要人材センターとイノベーション拠点の建設を急ぎ、国際人材競争における比較優位を形成する。
・ 国家戦略レベルの人材力向上を急ぎ、大家、戦略的科学者、一流のイノベーションリーダーと研究チーム、若手科学者技術研究者、卓越したエンジニア、名匠、高技能人材の輩出に注力する。
・ 人材の国際交流を強化し、適材適所を徹底する。
・ 人材開発の体制・仕組みの改革を深化させ、各分野の秀才を党と人民の事業に結集させる。
(3)科学技術イノベーション体系整備
・ イノベーションを我が国の現代化建設の革新に据えることを堅持。
・ 研究開発活動への党中央の統一的指導体制を充実させ、国の研究機関、高水準研究型大学、研究開発リーディングカンパニーの位置付けと配置を最適化し、国家実験室体系を形成し、国際科学技術イノベーションセンターと地域科学技術イノベーションセンターの整備を包括的に推進し、研究開発の基盤力とイノベーション体系全体の効果を高める。
・ 研究開発投資の多様化を図り、知的財産権への法的保証を強化し、全面的なイノベーション支援の基礎的制度を整える。
・ イノベーション文化を育み、科学者精神を発揚し、優れた学風を生み出し、イノベーションを起しやすい環境を作る。
・ 研究開発の国際交流と協力を拡大し、研究活動の国際化を強化し、グローバルな競争力を備えたオープンなイノベーション環境を整える。
(4)イノベーション駆動型発展戦略の実施加速
・ ハイレベルの科学技術の自立自強の早期実現を図る。
・ 国の戦略的需要を導きとして、独創的・先駆的な科学技術のブレイクスルーを行い、基幹革新技術の開発を必ず成功させる。
・ 一連の国家重要科学技術プロジェクトを早急に実施し、自主イノベーション能力を高める。
・ 基礎研究を強化し、独創性を際立たせ、自由な発想に基づく研究開発を奨励する。
・ 研究開発投資の費用対効果を高め、政府の研究開発費の配分の仕組みの改革を深化させ、イノベーションの活力を引き出す。
・ 企業主導の産・学・研の高度融合を強化し、目標志向を強化し、研究開発成果の実用化・産業化水準を向上させる。
・ 科学技術イノベーションの主体としての企業の地位を強化し、研究開発型中核企業の先導力と基盤力を発揮させ、研究開発型中小・零細企業の成長に好ましい環境を整え、イノベーションチェーン・産業チェーン・資金チェーン・人材チェーンの高度融合を推進する。
(5)CO2排出量のピークアウトとカーボンニュートラル実現
・ CO2排出量のピークアウト行動を計画に沿って実施する。
・ エネルギー消費総量の削減およびエネルギー効率の向上を進める。
・ 化石燃料の探査・開発とともにクリーン化・高効率化を進め、生産量・備蓄量を増強する。
・ 水力発電開発と生態保護を統一的に計画。
・ 原子力発電を積極的に安全かつ秩序立てて発展させる。
・ 上記エネルギーの生産・供給・備蓄・販売体系の整備を強化し、エネルギー安全保障を確保する。
・ CO2排出算定制度を整え、温室効果ガス排出権取引制度を整備する。
・ 国際的な気候変動対策に積極的に関与する。
以上