北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.23-004

【23-004】《オープンイノベーション》オープンイノベーションに向けた中国科学技術従事者の考察

JST北京事務所 2023年01月17日

1.概要

 中国では、科学技術イノベーションは経済発展を推進する主要な要因として重要視しており、そのためには、外国に開放し国際的に協力することが不可欠であるというコンセンサスも共有されている。

 そのような状況下、中国科学技術部傘下のシンクタンク「中国科学技術発展戦略研究院」が発行している月刊誌「科技中国」2022年9月号において、「オープンイノーベーションと国際科学技術協力」という特集が組まれ、複数のレポートが掲載された。

 それぞれのレポートは、異なる角度から国際科学技術協力に関する考察が提示されており、以下にその概要を紹介する。

2.アンケート調査から見る中国国際科学技術協力の状況(中国科学技術発展戦略研究院著)

「科技中国」2022年9月号"我国国际科技合作的形势,跳战与展望"

 

 中国科学技術発展戦略研究院が科学技術従事者に対して実施した国際科学技術協力に関するアンケート調査の結果が記載されている。

 特に国際科学技術協力交流の経験がある科学技術関係者の44.1%が2020年以降の国際科学技術協力が減少していると回答。特に2020年以来、中米関係の変化と新型コロナウイルス感染症という二重の負の影響を受けている。

表1:2020年以降の国際科学技術協力について
出典:中国科学技術発展戦略研究院:「科学技術従事者の思想状況調査」
調査対象:博士の学位を有する科学技術従事者
サンプル数:2,109
※「増加している」の回答には、オンライン交流の増加によるものとの見解。
回答内訳 比率
明らかに減少している 20.6%
減少している 23.5%
あまり変化がない 30.9%
増加している 21.0%
不明 4.0%

 科学技術従事者が学術誌への国際影響力や外国籍人材に対する吸引力、国際科学技術機関における我が国(中国)の影響力等の面で、依然として大きな向上の余地があると特筆されている。

表2:我が国科学技術従事者の国際科学技術協力関係問題に対する評価
出典:中国科学技術発展戦略研究院:「科学技術従事者の思想状況調査」
調査対象:博士の学位を有する科学技術従事者
サンプル数:2,109
設問 2015 2021
我が国の科学技術分野全体の対外開放度:「不足している」と思う割合 44.2% 23.6% -20.6%
我が国の国家科学技術計画プロジェクトの対外開放度:「不足している」と思う割合 43.9% 21.2% -22.7%
我が国の国内学術期刊誌の国際影響力:「小さい」と思う割合 86.9% 73.8% -13.1%
我が国の外国籍人材の吸引力:「小さい」と思う割合 70.0% 45.6% -24.4%
我が国科学者の国際科学技術組織における影響力:「小さい」と思う割合 75.8% 41.4% -34.4%

 ゼロサムゲームという誤った理念に陥ることなく、協力・ウィンウィンの理念を堅持し、揺らぐことなく科学技術分野の対外開放を引き続き推進拡大し、積極的にグローバルイノベーションネットワークに溶け込むべきである。

 具体的には、以下の点が考えられる。

①中米民間科学技術協力交流の環境改善を進める。

 引き続き積極的で素直な心で、両国の正当な民間協力交流に対する不当な圧力の克服を共同で求める。

②協力対象の範囲を拡大

 EU、イギリス、カナダ、オーストラリア、日本、韓国、イスラエル、シンガポール等との先進国に加え発展途上国を含めた多国間国際科学技術の枠組みに積極的に参加し、地球規模の課題に中国も貢献する。

③コロナ禍およびポストコロナの国際科学技術協力交流の新たな形式を模索

 特殊な出入国政策等のオフラインでの国際協力交流。

④国際科学技術協力に有利な内部環境の最適化

 中央政府および地方政府による科学技術プロジェクトをより対外的に開放し、更に出入国管理、社会保障等の政策を組み合わせ、より中国の科学技術イノベーションの海外展開(技術移転)を推進し、広範な発展途上国に向けて使いやすい技術を広め、中国の科学技術定期刊行物や科学技術組織に対する中国の国際影響力を高める。

3.新時代における国際科学技術協力を深化させるためのいくつかの考察(中国科学技術部国際合作司著)

「科技中国」2022年9月号"我国国际科技创新合作成效,面临的跳战及建议"

 

 中国科学技術部国際合作司(補足:局に相当)からは、以下の視点で中国が世界のイノベーションネットワークに積極的に溶け込んでいく必要性が示されている。

①トップダウンの設計により世界のイノベーションネットワークに全面的に溶け込んでいく

 重要分野および戦略的分野について科学技術イノベーション能力の開放協力をより深く推進し、科学研究機構と企業による科学技術イノベーションの重要な任務とする。

②科学技術外交を構築し、全方位で多層的かつ重点をおいた国際科学技術イノベーション戦略を展開

 現在の国際科学技術イノベーションの動向を正確に把握し、政府間科学技術協力委員会、イノベーション対話、科学技術パートナーシップ等を総括する。主要なイノベーション大国と重要な小国に標準を定め、我が国の需要と結びつけ多元化された協力ルートを開拓する。

中露協力の深化、杭州の科学技術イノベーション資源の活用、中日韓、イスラエル等との科学技術イノベーション協力の機会を掴み、東アジア、一帯一路を絶えず模索する。

③新興技術がもたらす国際イノベーションガバナンスに対応し、国際的な新規則制定の主導権を握る。

 AI、顔認識、スーパーコンピューター、5G等の新興技術は新型コロナウイルス感染症に対応する重要な手段となる。

同時にプライバシー保護、虚偽情報の管理、生物倫理、サイバーセキュリティ等のグローバルリスクも引き起こすため、我が国は政府主導の下、引き続き企業がグローバル技術標準の制定に積極的に参画することを強化し、我が国の国際標準組織における地位と役割を強化の上、主導権を確保しなければならない。

④国際科学コミュニティにおける我が国の地位と影響力を高めることの積極的な支持

 毛細血管のように深く入り込んだ科学技術人材交流は我が国の科学技術イノベーション能力の開放協力の基礎である。

⑤国際社会が受け入れ理解できる言語による中国科学技術イノベーションの物語を伝達

 中国の科学技術イノベーションは、中国人民の美しい生活へのあこがれを実現するだけでなく、世界の科学技術の進歩と人類の社会福祉の向上にも貢献していることを正確に伝える。

以上