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【23-017】広東省横琴・マカオ深度協力区について

JST北京事務所 2023年06月21日

1.概要

 中国広東省珠海市でJST北京事務所が主催した会議に出席した際に、マカオ特別行政区に隣接する横琴島(約106平方キロメートル、マカオの約3倍)にある「横琴・マカオ深度協力区」を訪問する機会を得た。

 珠海は深圳や汕頭、アモイと並び、1980年に中国最初の経済特区に指定された地域であり(1988年に海南島が追加)、中国の改革開放を主導してきた地域の一つであることは日本でもよく知られている。

 今回訪問した横琴・マカオ深度協力区は2021年に指定されたばかりで、上記の経済特区と比較して日本での知名度はまだ高くないが、中国の一国二制度の特色を生かす特徴的な取り組みが行われている地域である。本協力区では研究開発の分野に対しても注力しており、今後の発展も予想されるため、今回、以下のとおり概要を紹介する。

2.横琴・マカオ深度協力区について

(1)経緯

  ・2009年8月、中国国務院は「横琴総合発展計画[ⅰ]」を承認し、マカオと珠海経済特区の有利点を十分に活用し、「一国二制度」の下で横琴島に「広東・香港・マカオ」協力の新モデルを建設することを決定した。

  ・本決定を受け、同年12月に「横琴新区」管理委員会が発足。

  ・2021年9月5日、中国共産党中央委員会および国務院は、「横琴広東・マカオ深度協力区建設の全体計画[ⅱ]を正式に発表した。

(2)協力区設置の目的

以下の4つの主な目的を核とする戦略的位置付けとして本協力区が設置されている。

  ・マカオ経済の多様化した発展を促進するための新たなプラットフォーム建設。

  ・マカオ住民の生活と雇用を促進するための新たなスペースの建設。

  ・「一国二制度」の実践を強化する新たな実証。

  ・「広東・香港・マカオ大湾区」建設を新たな高みに上げる。

(3)協力区の管理体制

  ・協力区は広東省とマカオ特別行政区が共同で管理する。具体的には協力区開発管理機構および協力区管理委員会を設立し、協力区の重要な計画・政策・プロジェクトおよび任免を統一的に決定する。

(4)目標

  ・協力区は3つの段階的発展目標を設定している。そのうち2035年までに、協力区とマカオの一体的発展体制のメカニズムがさらに改善され、マカオ経済の多元的発展を促進する目標を基本的に実現するとしている。

①第一段階(2024年)

  ・協力区とマカオの公共サービスと社会保障制度が接続され、基本的な共同運営を確立する。

②第二段階(2029年)

  ・協力区とマカオの制度体系が高度に調整され、境界を超える効率的な流動と特色ある産業が一定規模で発展される。

③第三段階(2035年)

  ・「一国二制度」の活力と優位性が十分に発揮される。

  ・協力区の経済力と科学技術競争力を大幅に向上させる。

  ・公共サービスと社会保障システムを効率的に運営される。

(5)協力区の特徴(主な政策)

  ・「中央広東省・香港・マカオグレートベイエリア建設領導小組」の下に「横琴広東省・マカオ深度協力区管理委員会」を設置し、広東省省長とマカオ特別行政区行政長官の二人が同委員会トップの主任を務める体制としている。同委員会の常務副主任は、マカオ特別区政府が派遣し、その他の副主任が5名いて、広東省から3名、マカオから2名派遣されている。この委員会の下には、「横琴広東省・マカオ深度協力区執行委員会」が置かれ、主任はマカオ特別行政区政府から、副主任若干名が広東省、珠海市、マカオ特別行政区政府からそれぞれ派遣されている。

  ・本協力区の税関管理区域の総面積は約106平方キロメートルで「第一線」と「第二線」の間にあり、中国本土とマカオそれぞれ関税領域の特徴を生かすことのできる地区として位置づけられている。
「第一線」:協力区とマカオ特別行政区の間
「第二線」:協力区と中国本土(関税領域区間)の間

  ・貨物の「第一線」の開放と、「第二線」による管理の実践による協力区とマカオの高度な一体化を図ることとしている。

第一線:マカオと協力区間の通関が簡素化され、また課税が免除される(法令で免除が除外された品目を除く)。

第二線:協力区から本土に入った商品は輸出とみなされ、現行税制度により課税されるが、協力区内の企業が生産した商品のうち、輸入原料を含まない物または協力区内で加工された輸入原料を含む物の付加価値が30%以上の物に対する本土への輸入関税が免除される。

  ・マカオ住民の生活および就業を便利にするための新たな住居の建設。

  ・マカオと協力区の教育、医療、社会保障等の公共サービスを連携。

  ・マカオの自動車が協力区内で走行することを認める(※通常、マカオと中国本土ではそれぞれ別のナンバーを取得する必要がある)。

(6)注力する産業および優遇先

以下の条件に合致する産業の企業に対する企業所得税(法人税)や協力区で働く国内外のハイエンド人材や不足している人材に対する個人所得税の減免措置が講じられている。

  ・科学技術研究開発

  ・ハイエンド製造業

  ・漢方医薬等のマカオブランド工業

  ・文化・観光業、展示会、商業、貿易業

  ・現代金融業

企業所得税:15%(他、新たな海外直接投資から得た所得に対する法人税免除等)

個人所得税:15%を超える部分に対して免除。(協力区内で勤務するマカオ住民に対しては、マカオの税負担を超える個人所得税負担を免除)

(参考)中国本土の一般的な税率(※)実際の適用税率の計算は複雑である。
企業所得税:25%(小規模零細企業20%、ハイテク企業15%等)
個人所得税:3%から最大45%までの累進課税

(7)科学技術研究開発およびハイエンド製造業等について

特に以下の分野の発展に注力するとしている。

  ・緊急に必要となる科学技術インフラの構築。

  ・国際ビッグサイエンス計画とビッグサイエンスエンジニアリングの実施を組織。

  ・マカオ大学やマカオ科学技術大学等の産学官の高水準のモデル基地と、イノベーション・技術移転センターの建設。

  ・広東・香港・マカオ大湾区国際科学技術イノベーションセンターを構築するための重要拠点として推進。

  ・集積回路、電子部品、新素材、新エネルギー、ビッグデータ、人工知能、IoT、生物医学産業の精力的な発展。

  ・特徴的なチップ設計、計測や計測のためのマイクロエレクトロニクス産業チェーンの構築加速。

  ・人工知能の協調イノベーションエコシステムの構築。

  ・IPv6アプリケーション、5Gアプリケーションの実証プロジェクトの実施。

  ・次世代インターネット産業クラスターの形成

  ・マカオの伝統的漢方薬の本土販売承認や、マカオで開発された新薬の広東・香港・マカオ大湾区での生産に係る優先審査・承認プロセスの簡素化の検討。

(8)協力区内のマカオ大学新キャンパスについて

  ・2009年4月にマカオ特別行政区から中国中央政府に対して、横琴島内に1平方キロメートルの新校舎建設地の提供が申請された。

  ・申請を受け、同年6月に全人代常務委員会はマカオ特別行政区に対して、リース形式によるマカオ大学による新キャンパスの土地使用権の取得を認め、かつ同キャンパス内ではマカオ特別行政区の法律制度が適用されることが承認された。

  ・2013年7月、新たに建設されたマカオ大学はマカオ特別行政区に正式に移管され、マカオの法制度が適応された。(横琴地区のマカオ管轄区域を含みフェンスで区分)

  ・新キャンパスとマカオを海底トンネルで直接つなげ、一国二制度のイノベーティブな実践的モデルプロジェクトとする。

(9)クリーンエネルギーの導入

協力区設置に先立つ2009年に承認された横琴総合発展計画では、横琴地区におけるクリーンエネルギーによる電力供給についても明記されており、開発が進んでいる。

  ・国家電力投資集団(SPIC)広東公司が中心になって、2011年11月に珠海横琴総合スマートエネルギープロジェクトを発足し、同地域の冷房供給、給湯の事業開発に取り組む。

  ・珠海横琴総合スマートエネルギープロジェクトでは、冷房・湯の供給対象が2500万平方メートル、冷房・湯の総出力が45万RT(Refrigeration Ton)、配管総延長が120キロメートルなどの目標を設定している。そして、同地域に、散在型エネルギーステーションとして、当初計画した1~3フェーズに建設する10か所に加え、将来はさらに5か所を増築する予定。2015年8月、冷房供給を開始。

  ・横琴広東・マカオ進度協力区によってマカオ経済の多様化発展をグリーン・クリーンエネルギーの確保によって一層サポートするよう、2015年9月、国家電力投資集団公司(SPIC)は55%の比率で出資し、珠海第横琴置業有限公司と共同して横琴地域で珠海横琴エネルギー発展有限公司を設立した。同社は、珠海横琴総合スマートエネルギープロジェクトを引き継いだ上、「イノベーション、協調、グリーン、開放、共有」を理念として、同地域における冷房供給、給湯、電力の購買・販売、散在的エネルギープロジェクト開発・運営などに努める。

以上


横琴总体发展规划

中央人民政府 中共中央 国务院印发《横琴粤澳深度合作区建设总体方案》