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【23-018】《教育》中国の教育事情について(義務教育段階)

JST北京事務所 2023年06月26日

1.概要

 中国教育部(省)、財政部、科学技術部、文化旅行部、体育総局は2023年3月14日に、学習塾等の「校外教育機関の財務管理に関する暫定弁法」を公布した。

 2021年以降、中国では小中学生の過大な負担、また校外教育機関(学習塾)の行き過ぎたビジネス化に伴う問題を軽減するための法規制が強化されており、日本でも報道されている。

 一連の法令では学校および校外教育機関に対する運営、また特に校外教育機関に対する財務管理等について広範にわたり詳細な規制が規定されている。

 2021年以降の中国の義務教育における課外授業の法規制の枠組みを俯瞰することにより、現在の中国における学習環境の一端を垣間見ることができるため、以下に紹介する。

2.中国義務教育における課外授業の規制の流れ

(1)「未成年保護法」改正

   2020年10月に修正未成年保護法[ⅰ]が可決され、翌2021年6月に施行された。この改定で、「未成年学生(中国では児童・生徒も学生)の学習時間を合理的に調整し、休息・娯楽・運動の時間を保証する」規定が追記された。
なお、同法改正の際には未成年犯罪予防法改正案とともにパブリックコメントが実施され、約1万9千人の未成年からの意見も提出された(意見総数の44%)[ⅱ]

  (第三十三条)
学校は未成年学生の父母またはその他保護者と協力し、未成年学生の学習時間を合理的に調整し、休息・娯楽・運動の時間を保証しなければならない。
学校は国家の法定祝日、休日及び長期休暇(冬季・夏季)を占有してはならず、義務教育段階の未成年学生の集団補習を組織し、その学習負担を強めてはならない。

(2)「義務教育学生の宿題負担と校外教育負担をさらに軽減することに関する意見」公布

   2021年7月、中国共産党中央委員会弁公室および国務院弁公室は、「義務教育学生の宿題負担と校外教育負担をさらに軽減することに関する意見[ⅲ]」を公布した。
二つの削減(双減)として注目され、総量規制が明記されたことが特徴であるが、中国で義務教育における最大の問題として認識されている小中学生の過大な負担から来る功利主義的な風潮、そして校外教育機関による授業料の返還トラブルや持ち逃げといった問題を改善し、道徳を通じて人間を育成するという教育の基本を実施することで、学生の健全な成長を促すことを目的としている[ⅳ]

①学校および教員に対する主要な規定

    (i)課題の総量と時間の制限

  ・小学生(1年生、2年生):家庭で行う課題を出さず、学校内(補足:授業時間内)で適切に課題を行う。

  ・小学生(3年生から6年生):課題(筆記)の平均完了時間は60分以下とする。

  ・中学生:課題(筆記)の平均完了時間は90分以下とする。

  ・筆記の課題について、小学生は基本的に学校で、中学生に対しては大部分を学校で完了するよう教員が指導する。

    (ii)放課後業務水準の改善

  ・放課後業務(※)の終了時間を当該地域の一般的な勤務終了時刻より早くしない。

(※)放課後に学校で学生を預かり科学に関する理解増進、文芸、読書や各種クラブ活動等の教育活動を行う制度。学習に困難がある学生に対して補修を行うことは認められるが授業を行うことは認められない。

  ・特別な必要がある学生に対して、学校は時間を延長して対応しなければならない。

  ・中学校は平日夜に自習クラスを開設することができる。

  ・学校は教員に対して柔軟な勤務時間を設定することができる。

  ・教員だけでなく、退職教員や専門家、ボランティアの参画も可能。

    (iii)学生が学校内で十分に学ぶことを可能とする学校教育の質の向上

  ・良質でバランスのとれた義務教育を展開するため学校のグループ化を推進し、学校・学区・都市部と農村部による教育レベルの格差縮小を加速させる。

  ・幼稚園と小学校の接続を推進して学生が同じ基準でスタートできるようにし、国の定める教育課程に厳密に従い教育すること。

  ・授業時間の増減や難易度・進度の独自変更、事前に授業を打ち切り試験準備を行うこと、規則に反した統一試験を行うこと、試験問題の基準を変えること、試験順位の発表等の禁止

  ・試験結果の提示は等級制とし、点数のみに偏る傾向を克服すること。

  ・教員が学外で有償の補習授業を行った場合、教員資格を取消。

    (ⅳ)高校受験改革

  ・中学学業水準試験の成績に基づき、総合的な素質の評価を組み合わせた高校募集モデルを積極的に改善し、それぞれの教科の特性に基づき試験の方法と成績の提示方法を改善すること。

  ・奇問や教育課程の水準を超える難問の防止。悪質な競争の根絶。

  ・地方党委員会および地方政府が進学指標を示すことの禁止、また進学率で学校と教員を評価することの禁止。

②校外教育機関に対する主要な規定

    (i)校外教育の規範化

  ・義務教育の学生を対象とした校外教科学習機関の新設禁止。

  ・既存の校外教科学習機関を一律、非営利機関とする。

  ・従来登録制であったオンライン教科学習機関を認可制とする。

  ・教科以外のスポーツ、文化芸術、科学技術等の教科外校外教育について、地方政府の各担当部門による認可を必須とする。

  ・校外教科学習機関の資金調達を目的とした上場禁止。

  ・上場企業による株式市場の資金調達を通じた校外教科学習機関に対する投資(出資)の禁止。

  ・株式発行や現金等により校外教科学習機関の資産を購入することは認められない。

  ・外資による合併・買収、経営受託、チェーン店加盟、持ち株または出資による校外教科学習機関への参画禁止。

  ・教科外の校外教育機関による教科学習の禁止。

  ・海外の教育課程等による授業の禁止。

  ・法定休日・祭日、冬季・夏季休暇中の教科授業の禁止。

  ・校外教育機関が高給で学校の教員を引き抜くことの禁止。

  ・教科学習に従事する職員は相応の教員資格を有していることが必要であり、ウェブサイト等の目立つ場所にその旨を掲載すること。

  ・費用について、「小中学生校外教育サービス契約(ひな形)[ⅴ]に準拠し、地方政府による監査を受け入れること。

  ・過剰な資本流入、虚偽の割引等の不正競争による独占行為の禁止。

  ・運営資金の学習事業以外への使用の禁止。

  ・1クラス30分以内とし10分間の休憩を確保の上、21時以降の授業を禁止。

  ・海外で外国人による学習活動を行うことの禁止。

  ・未就学児を対象としたオフラインでの教科授業(外国語を含む)の禁止。(就学前学級、思考力養成等の名目の如何を問わない)

  ・メディアや公共の場所での広告の禁止。

  ・小中学校および幼稚園内での商業的な広告活動を行うことの禁止。

  ・小中学校および幼稚園の教材、教育補助教材、練習帳、文具、教具、制服、スクールバス等を用いた広告を行うことの禁止。

  ・教育効果の誇張や保護者の不安をあおる校外教育広告行為の禁止。

  ・学齢前幼児向けのオンラインによる校外教育の禁止(外国語を含む。また学齢前クラス、幼小接続クラス、思考訓練クラス等の名称如何を問わない)。

  ・一般高校生向けの教科教育機関に係る管理は、本意見の関連規程を参照して実行する。

③地方党委員会および地方政府に対する主要な規定

  ・双減の成果を地方政府や学校の重要な評価基準に取り入れること。

  ・学生の放課後業務への参加状況の把握。

  ・校外教育および当該費用の削減を重要な評価項目とすること。

  ・学生の規模と小中学校教職員の編成基準に基づき教員を配置すること。

  ・省級政府は放課後業務の予算を確保すること。

  ・放課後業務の予算が主に当該サービスに参画する教員および関係者への給与に使われること。

  ・放課後業務に使われる経費の限度額を業績給に組入れるが、翌年度の基数とはしないこと。

  ・教員の放課後業務への参画に対して、職位評価、表彰・奨励、業績給の重要な参考とすること。

  ・義務教育段階の校外教科教育に係る料金を政府の指導価格とし、合理的な価格基準を明確にすること。

  ・第三者による信託管理やリスク準備金等の方式を通じて、授業料の予納金に対するリスク管理を行い、また教育ローンの監督を強化することで、返還時のトラブルや持ち逃げ等の防止を図ること。

  ・双減工程表の作成と責任者の明確化。

④パイロットプログラムの実施

  ・パイロットプログラム実施地域を指定し、当該地域での校外教科教育の大幅な削減や不適切な運営や価格設定の校外教育機関に対する取締りを行い、また教科以外の校外教育活動を推進する。

  ・北京市、上海市、瀋陽市、広州市、成都市、鄭州市、長治市、威海市、南通市の各県級以上の都市(1カ所以上)が対象地域。

(3)「校外教育機関の財政管理に関する経過措置」の公布

   中国教育部、財政部、科学技術部、文化旅行部、体育総局は2023年3月14日、学習塾等の「校外教育機関の財務管理に関する暫定弁法[ⅵ]」を公布した。
校外教育機関の財務管理体系を標準化することを通じて、関係者の利益の保護を目的としている[ⅶ]

  (適用対象)
・3歳から6歳までの就学前幼児、小中学生向けに校外教育を展開する校外教育機関。
・職業技能を主とする校外教育機関は本弁法の適用対象。

①校外教育機関に対する主な規制

    (i)財務管理体制

  ・独立した会計部門の設置または専任の会計担当者および会計責任者を配置すること。配置しない機関は承認された会計代行機関に委託すること。

    (ii)資金調達

  ・上場企業による義務教育段階の学生のための教科教育機関の設立・参画の禁止。
また株式発行や現金等による教科教育機関の資産を購入することの禁止。

  ・外資による義務教育段階の学生のための教科教育機関の買収、受託経営、フランチャイズ加盟、可変利益実体("Variable Interest Entities;VIEs")等の方式による持ち株または株式保有の禁止。

  ・校外教育機関の設立や参画の禁止。

  ・非営利の校外教育機関設立後、設立者・責任者、実際の支配者による出資金引き出しの禁止。

  ・貸し付けや無償による使用等の方式による資金や資産の占有や流用の禁止。

  ・営利の校外教育機関設立後、設立者による出資金引き出しの禁止。

    (iii)資金運営

  ・教育費用に掛かる契約が締結された際には直ちに契約書を整備し、授業料を受け取る際には国の関連規程に従った領収書を発行すること。(任意様式の禁止)

  ・事前に徴収する授業料は、すべて授業料専用口座に計上し(その他の口座での受け取りも禁止)、自己資金と区分すること。また当該前受授業料はその全額を銀行信託またはリスク保証金とすること。

  ・教育ローンによる授業料納入の禁止。

  ・事前に徴収した授業料は負債として管理し、国民統一会計制度に基づき所得として認識する。(補足:収入の前倒し計上や繰延の禁止。)

  ・「小中学生校外教育サービス契約(ひな形)」の活用と、当該契約に基づいた授業料の払い戻しや返還の実施。

  ・融資や授業料から得た収入は主に教育業務に使用すること。

  ・多額の支出に係る機関の意思決定制度を確立し、手順、方法、規則を明確にすること。
また実際の多額の支出の際には契約を締結し双方の権利義務を明確にすること。

    (iv)資産および負債の管理

  ・資産管理制度(資産の購入、使用、処分までの一連の管理)を確立し、資産の安全性と完全性の維持すること。

  ・校外教育機関の存続中、いかなる組織および個人も当該機関の資産の差し押さえや私的流用、横領を禁止。

  ・非営利の校外教育機関の存続中、外部保証、多額の資金や資産の無報酬による貸付の禁止。

  ・校外教育機関が融資で得た資金の他機関のための使用の禁止。

  ・設立者、責任者および管理者が自己の債務を校外教育機関に転嫁することの禁止。

  ・校外教育機関は、設立者、責任者および管理者の債務について連帯責任を負うことの禁止。

  ・校外教育機関は負債の規模を合理的に管理し財務リスクを解消すること。

  ・正常な運営に影響する財務リスクが発生した場合、速やかに地方政府の主管部門に報告すること。

    (v)収益分配

  ・非営利の校外教育機関の純資産の分配は国の関連規程による。

  ・非営利の校外教育機関の設立者は、当該機関からの配当を得ることや余剰財産の分配を受けることの禁止。

  ・営利目的の校外教育機関の利益分配は、「中華人民共和国会社法」の関連規定および定款を遵守すること。

    (vi)財務清算

  ・出資者の変更、機関の分割、合併、廃止の際には会計事務所に委託して資産、負債および関連する権利義務の包括的清算を行うこと。

  ・清算時の支払いの優先順位は、清算費用、授業料その他の費用、職員給与、社会保険料および公租公課、その他返済すべきすべての債務とすること。

  ・非営利の校外教育機関の清算後の余剰財産は、定款の規定または機関決定に従い他の非営利校外教育機関またはその他の教育公益事業に使用すること。(営利目的の法人組織への移転の禁止)

    (vii)財務監督

  ・内部統制の実施と財務情報の開示、また地方政府関連部門による監督と検査の実施。

3.地方政府の対応(北京市を例として)

(1)「義務教育段階の学生の宿題や校外教育の負担を更に軽減するための北京の措置」通知

   上位機関による法令の制定を受け、中国共産党北京市委員会事務局と北京市人民政府事務局は2021年8月に「義務教育段階の学生の宿題や校外教育の負担を更に軽減するための北京の措置[ⅷ]」を通知した。
法令と同様の規定に加えて、以下のような事項が規定されている。

  ・放課後業務を2段階に分け、第1段階では毎日1時間の運動時間を確保し、第2段階では補習と総合的な資質向上の活動に充てる。終了時間は原則として17:30より早くしないこと。

(2)現状(2023年6月現在)

  ・前述の一連の規制を受け、現在は週末に教科に係る校外教育ができなくなっているため、土曜日には、「大語文(ビックチャイニーズ)」と言われる文学、歴史、哲学や社会知識等を包括した中国語授業(教科である語文(国語)とは異なり規制対象外)の開催が盛んになってきている。暗記に偏らず思考と理解を深めることを目的としている。

  ・双減の実施当初は親に子供への指導方法を指導するクラスの開催等の試みも聞かれたが、親が実の子に教授することが難しいことは日中ともに変わりなく、最近はあまり見られない。

  ・今後も中国社会の要請に応じた校外教育機関の対応が求められていくものと思われる。

以上


[i] 中华人民共和国未成年人保护法

[ii] 未成年人保护法4成意见由未成年人提出:减负担、防欺凌

[iii] 中共中央办公厅 国务院办公厅印发《关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见》

[iv] 教育部有关负责人就《关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见》答记者问

[v] 教育部办公厅 市场监管总局办公厅关于印发《中小学生校外培训服务合同(示范文本)》的通知

[vi] 教育部办公厅 财政部办公厅 科技部办公厅文化和旅游部办公厅 体育总局办公厅关于印发《校外培训机构财务管理暂行办法》的通知

[vii] 教育部校外教育培训监管司有关负责人就《校外培训机构财务管理暂行办法》答记者问

[viii] 北京市关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的措施