【24-05】中国の有識者、政府発表の「ヒトゲノム編集研究倫理ガイドライン」について語る
JST北京事務所 2024年07月29日
中国科学技術部は7月8日、国家科学技術倫理委員会医学倫理分委員会が制定した「ヒトゲノム編集研究倫理ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を同部サイトで発表した。ガイドラインは、ヒトゲノム編集研究の規範化と健全な発展の促進を目的とし、研究目的、基本原則、一般要求、特殊要求などを明確に定めている。
ガイドライン制定の意義や解決すべき課題などについて、世界保健機関(WHO)のヒトゲノム編集ガバナンス・監視に関する世界基準策定専門家諮問委員会と中国国家科学技術倫理委員会のメンバーを務める翟暁梅教授が科技日報の取材に答えた。その概要を以下にまとめる。
・ ゲノム編集技術は、ヒト遺伝物質の改変や遺伝性疾患の予防・治療などに対して可能性と希望を与えるものだが、一方で、倫理や法律、社会的な課題ももたらしている。ガイドラインはこれについて、ゲノム編集技術を用いて「しても良い行為」と「してはならない行為」を分けて整理し、「人類の幸福増進に資すること」を第一原則として定めた。
・ ガイドラインは、ゲノム編集が科学的に重要な価値を有する一方で、個人や社会、人類に潜在的なリスクを与えると強調しており、ヒトゲノム編集研究では基本的な倫理原則と特殊な倫理要求を堅持するよう求めており、ゲノム編集によって起こり得るリスクについても可能な限り分析を行っている。
・ ガイドラインの注目点として、以下の3つがある。
① ヒトゲノム編集研究をめぐり、一般要求と特殊要求*を区別して定めた。
② 臨床研究の展開に当たっては、治療対象疾患の程度や臨床研究で起こりうる潜在的リスクを十分評価した上で、「行動優先」と「予防優先」の間で適切なバランスを取るよう求める。
③ 基礎研究、前臨床研究、臨床試験および臨床応用の各段階における倫理的課題がそれぞれ異なるため、ガイドラインはそれぞれの倫理的要求を分析し、実践面で運用しやすくした。
・ ヒト生殖系ゲノム編集の臨床応用を厳禁する。
*:特殊要求では、ヒトゲノム編集の基礎研究・前臨床研究とヒトゲノム編集の臨床研究に大別し、ヒトゲノム編集の臨床研究をさらに、体細胞ゲノム編集臨床研究と生殖系ゲノム編集臨床研究に細分化して、それぞれ厳守すべきルールを定めている。
参考リンク:
・中国科学技術部「《人类基因组编辑研究伦理指引》发布」(中国語)
・時事ドットコム「中国 遺伝子編集したヒトの胚を用いた出産を厳禁」
・科技日報「力促人类基因组编辑研究“向善而行”--专家解读《人类基因组编辑研究伦理指引》」