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【25-24】世界人型ロボット運動会、熱戦に幕 来年も8月に開催

JST北京事務所 2025年08月29日

 8月14日に開会式を行い、17日の閉会式まで26種目の競技が繰り広げられた世界人型ロボット運動会が終了した。以下に現場での様子と、参考リンクに記した記事等の内容から、大会のいくつかの種目の結果と来年以降についてまとめる。

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世界ロボット運動会の閉会式の様子。(筆者撮影)

自律型サッカー

 世界初の5対5の自律型の試合が展開されたサッカーでは、3対3の中国国内リーグ(6月)、ロボカップ世界大会(7月)に続き、清華大学のチームが優勝した。6月と7月の大会で2位だった中国農業大学のチームは、3対3の部で優勝し、5対5では3位だった。いずれも2位だったのはドイツのチームである。3対3の3位は、中国地質大学(北京)のチームだった。

 サッカーは、世界人型ロボット運動会の種目であると同時に第1回ロボカップアジア太平洋マスターズとしても開催された。ロボカップは1997年の創設以来、世界のロボットサッカー競技の先導者であることが、ロボカップ国際連盟副会長兼ロボカップアジア太平洋理事会字理事長である周長久氏(シンガポール)によって閉会式で強調されている。ロボカップは、日本の研究者の提唱により、国際的なNPOとして設立されたものである。

 大会最終日の全競技終了後、閉会式までの間には、「人-ロボット大戦」と銘打ってサッカーロボットの足踏みの多い歩き方、あるいは「ヨチヨチ歩き」とでも呼ぶべき歩き方を人間が真似してロボット相手にサッカーをするユーモラスな一幕もあった。

 今回、ロボットは、全チームがブースターT1を使用。自律型のプログラムで競った。歩き方は上述のとおりでも、仰向けにひっくり返ってもブリッジをして起き上がることができる。

陸上競技 競走種目

 100メートル走では、北京で開発された天工Ultraが21秒50(自律型は0.8の係数をかける等の大会ルールに基づいたタイム。この係数は障害物競争を含む競走種目に共通)で、400メートル走では宇樹科技(ユニツリー)製の「ユニツリーH1」を用いた同社子会社の高羿科技(上海)が1分28秒03で、1500メートルではやはりユニツリーの子会社である霊翌(Ling Yi)科技(北京)が6分34秒40で、それぞれ優勝した。400メートルリレー(バトンは使用しない)ではユニツリーチームが1分48秒78で1位、天工チームが2分22秒79で2位だった。人間のトップアスリートの記録などと比較するとまだまだだが、自分自身の走る速度と比べると、種目によっては優勝したロボットの方が早いのではないかなどと思う人も多いことだろう。

 なお、天工Ultraは、4月のハーフマラソンで2時間40分42秒の記録で優勝したロボット。直前に開催された世界ロボット大会では、ロボットの4S[1]ショップの展示があったが、そこでは、天工2.0に77万9000元(1元=約21円)の価格が付いていた。

 春節の人気年越しテレビ番組でユニツリーのロボットが高い評判を呼んでいたこともあり、ハーフマラソンのときには、「ユニツリーのロボットはどうしたのか」との声も聞かれた。ユニツリーのロボットを用いてハーフマラソンに参加したチームもあったが、使用したプログラムはチーム独自のものであり、ユニツリーのプログラムではないことが説明されていた。

 この大会では、ユニツリーとその子会社が用いた「ユニツリーH1」が複数の種目で速さを見せた。100メートル走でもユニツリーのロボットが速くゴールしたが、人間による操縦だった。天工Ultraは、400メートル、1500メートルでも唯一自律走行を行ったという。

 天工の会社、北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターのCEOは、今回の大会に出場した天工Ultraロボットは運動能力、速度、安定性、信頼性、および知能の面で大幅な向上を遂げたとし、このロボットは視覚認識や環境認識などの自律機能でレースを完走し、人工遠隔操作や介入を一切必要としない点で、ロボットの「脳」技術における革命的な進歩だと語ったという。

 宇樹科技の創業者も、操縦ではなく自律走行にした場合、遅くなることを認めている。一方、ここ数か月のアルゴリズム改良により、ロボットの全体的なパフォーマンスと安全性が向上したという。また、この大会が業界を発展させる効果についても指摘した。

陸上競技 障害物走

 この大会の障害物走は、①砂利道や②木片上(会場では木片に見えたが、大会当日公式サイトに掲載されていたルール5.1によれば、小石やレンガ、瓦、木片を混ぜているとのこと)、③直線階段、5本の杭のジグザグ走、④連続した斜面、⑤平均台(高さ10センチ幅0.5メートル、長さ3メートル)、⑥らせん階段、⑦ハードル(高さ0.2メートル、0.25メートル、0.3メートルの3つから選択。高いハードルを選択した場合、計測タイムを減少する)、⑧傾斜が交差した斜面、⑨左右の斜面の底の部分を通過するレースだ。

 即座に進まず、慎重にコースを見極める様子、失敗して戻ってやり直す様子、横歩きで通過する様子などを会場のカメラマンが集中して撮影していた。ロボットへの声援を促すアナウンスも聞かれ、観客もそれに従い、声援を送っていた。

 この種目においては、ユニツリーとその子会社が同社製ロボットG1を使い、1~3位を独占した。

陸上競技 跳躍種目

 跳躍競技は、助走なしのその場幅跳びと高跳びが行われた。その場幅跳びは、松延動力が1.25メートルで優勝、2位はユニツリー(1.20メートル)、3位は霊翌(Ling Yi)科技(1.13メートル)だった。ロボットはG1が使われた。その場高跳びは、星動紀元(北京)が0.95メートルで優勝、2位は江淮前沿(Advanced)技術協同イノベーションセンター(安徽省 0.87メートル)、3位は魔法原子(無錫 0.53メートル)だった。

キックボクシング

 自由格闘技(会場で表記された英語では「キックボクシング」)では、メダリストを含むオリンピック選手で構成されるチームが操縦して優勝した。この種目のロボットはユニツリーのG1が用いられた。

ダンス、体操、武術(演武)

 ダンス、体操、武術(演武)などの種目も会場を楽しませ、ルールに基づく採点結果により表彰された。シングルダンスなどは、1位から3位まで僅差の激戦だった。1位と3位は、ユニツリーのG1を用いた。

 武術(演武)競技の技術代表を務めた専門家は、既に後方空中回転ができるロボットもあり、今後数年で上下肢の協調性がさらに向上し、空中跳躍動作も問題なくできるようになるだろうと語ったという。

応用シーン競技

 より実用を意識した競技として、ホテルや医療機関、工場、倉庫でロボットに期待される役割を一定条件下で競う応用シーン競技も開催され、大学や企業のロボットが技術の完成度を競った。

 天工の会社の2チームが、いずれもロボット「天軼」2.0を用いて工場での応用シーン競技2種目で計4個のメダルを獲得している(金1個、銀2個、銅1個)。東莞領智イノベーションロボット(領益智造グループ)は、工場及び倉庫での応用シーンの3種目でいずれもメダルを獲得している(金2個、銅1個)。工場の2種目については、メダルは、この両社で占められた。

 ホテルの2種目では、優理奇ロボット(ロボット名「Wanda」)が金メダルを独占、銀1個を含め、3個のメダルを獲得した。華中科技大学が天軼2.0を用いて銀メダルを獲得している。また、清華大学の2チームがそれぞれ銅メダルを獲得した。

 医療機関の2種目では、大学のチーム3つ(中国鉱業大学(北京)、中国人民大学、北京航空航天大学)が、2位または3位となった。

 ホテルや医療機関の応用シーンの課題が、学生たちの好奇心・探求心を刺激し、成果につながったようだ。

表彰式

 ロボット開発やプログラムを競う種目では、1位、2位、3位に金、銀、銅のメダルを授与されたほか、それぞれ5万元、3万元、1万元の賞金が授与された。ロボットの首にメダルがかけられ、賞金額が書かれたボードは、ロボットをサポートする人間が受け取る種目が多かった。表彰式の部分は、中国語-英語の順ではなく、英語-中国語の順でアナウンスされ、オリンピックを思い起こさせた。なお、オリンピックでおなじみの段差の大きな表彰台は、様々なロボットの形態や機能を考慮してか、設けられなかった。

 メダル数を種目にかかわらず、企業・大学別に集計したリンクによれば、ユニツリーが11個、北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターが10個、続くのは3個であり、金2個、銀1個が優理奇、松延動力、金2個、銅1個が領智造、金1個、銅2個が清華大学だった。

大会運営

 開会式では、人と出場選手を含めたロボットによるショーが繰り広げられた。未来を感じさせるとともに、技術と伝統文化、人間とロボットの融合や連携を表現し、あるプログラムでは、「炭素(人)とシリコン(ロボット)の対話」と表現した。ロボットのファッションショーも行われ、デザイナーたちは、開会式終了後に自らのデザインした衣装を着たロボットとの記念撮影を楽しんでいた。

 人間の審判代表とロボット天工2.0 Proによる宣誓が行われた。旗手は、大会最年少のエンジニア于程程さん(北京第四中学校(道元キャンパス)[2])が務め、その後ろに天工Ultraをはじめとする4月のハーフマラソンの上位入賞ロボット3体が続いた。聖火ではなく、金属の四角錐を上下二つつなぎ合わせた"智芯"[3]に灯りがともされた。

 複数の曲がこの大会のために作曲され、一部をAI歌手が歌った。会場で流されたプロモーションビデオでは、高額・貴重なロボットたちが、故障をおそれず観光地やショッピングセンターに出向き、人ごみの中でパフォーマンスし、喜ばれる様子が映し出された。14日の開会式は、中央テレビのスポーツ専門チャンネルで国内に中継された。

 大会のオフィシャルパートナーである新京報が報じたところによれば、2022年冬季オリンピック会場であった国家スピードスケート競技場で、競技初日となる15日は、110名の審判員と87名の大会ボランティアが大会運営に協力したという。また、中国工商銀行は大会の戦略的パートナーとして、金融分野の専門性を活かし、大会運営と技術成果の商業化を支援しているという。中国人民保険は、大会のリスク管理を支えた。このほか、大会のグローバルパートナーである首鋼基金は、自社の公式アカウントで投資先企業が獲得したメダルが37個(金12個、銀14個、銅11個)になることを報じている。これらの点にも中国の政策の特色の一つである科学技術金融が意識されている。

来年に向けて

 閉会式では、世界ロボット協力組織、グローバルデジタル経済都市連盟、アジア太平洋ロボカップ国際理事会、中国電子学会で構成される世界人型ロボット運動連合会(World Humanoid Robotics Games Federation:WHRGF)の設立が宣言された。世界人型ロボット運動会は、来年も8月に開催されることが発表された。今年の場合は、大会サイトに登録用の英語のページが設けられた。

 身近でも、子どもたちが、この大会でロボットや電子工作に強い興味を示したという話を耳にした。今後、多くのロボットが全国にレンタルされ、次回以降の参加やこの分野の研究開発を促進していく計画と聞いている。

 今年の大会のルールでは、参加チーム自身が開発したロボットのほか、購入、レンタルしたロボットでの参加を認めている。また、グループダンスの優勝チームは、湖北光谷東智具身智能科技有限公司に北京舞踏学院が協力して、兵馬俑の姿をしたロボットによるダンスを制作している。同学院の教務課副課長は、未来のロボット舞踊家と人間舞踊家の融合は、想像を超えたものになるだろうと語っている。北京舞踏学院は、シングルダンスでも松延動力と組んで2位を獲得している。

 同日には、ロボット産業が集積されている経済技術開発区である亦荘(Yizhuang E-Townとも呼ばれる)において、今年4月に開催されたロボットのハーフマラソン大会が来年も4月に開催されることが同区から発表された。世界に向けてロボットのエントリーを受け付けており、エントリー期限は3月16日である(下記リンク参照)。

 ユニツリーも来年のハーフマラソンの大会に自律モードで参加するという。今年4月の天工Ultraの記録は、時速約8キロだったが、レース前に報じられたところでは、平均時速10キロ、最高時速12キロは可能とのことであった。本番では、安全走行に徹したということだろうが、今回の運動会での1500メートルにおける天工Ultra、ユニツリーH1は時速13キロに達するスピードで走っている。ロードレースとトラック競技の違いはあるが、ユニツリー創業者のこの半年における進歩を強調した発言等から考えれば、来年のハーフマラソンでは、さらに質の高いレースが期待される。

 JST北京事務所では、NEDO北京事務所と協力して、いずれかの大会に出場を希望するチームが、エントリーから出場までの事務局との連絡の過程で翻訳等が必要な場合、できる範囲で協力したいと考えている。御関心のある方は、こちらのメールアドレスまで御連絡いただきたい。

 なお、世界人型ロボット運動会の動画は、例えば大会のオフィシャルパートナーである動画サイトbilibiliなどから視聴できる(リンク)。


1. 販売(Sale)、部品供給(Spare Part)、アフターサービス(Service)、情報フィードバック(Survey)の「4つのS」を提供する店舗を指す。

2. 中国の中学校には、初級中学と高級中学があり、それぞれ日本の中学校、高校に該当する。北京第四中学校(道元キャンパス)は初級中学。

3. 「芯」は中国語ではコンピュータのチップの意味も有する。


 

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