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【25-30】中国、欧米との科学技術連携が拡大

JST北京事務所 2025年11月26日

 最近、中国と欧米の間で科学技術連携を拡大する動きが見られている。本稿では、最近のこうした連携について相手国別に分類し、概観する。

1.米国

 米国との共同研究を「政府間国際科学技術イノベーション協力」重点プロジェクトとして公募開始。

 トランプ大統領の訪中に先立つ10月23日、中国科学技術部(省)は「政府間国際科学技術イノベーション協力」重点プロジェクトの2026年度第1期公募を開始し、数回に分けて実施する。今回、米国との共同研究の公募が再開した。この公募は、米中科学技術協力協定を根拠としており、同協定の継続が議論され、短期間の継続を繰り返した後、24年8月に期限切れとなり、同年12月に5年間延長の合意が発表されていた。延長合意後、米国との共同研究を公募するのは初めて。

 対象分野は、生命科学(バイオテクノロジーを含む)、医学・薬学、資源科学・地球科学(防災・減災を含む)、エネルギー・土木工学、農業・食品化学、製造・材料科学(グリーン製造方面)、基礎科学。米国側研究者は、当該テーマに対し、連邦政府から既に支援を受けているか、受けることが確約されていることが条件となっており、そのことを示す文書を申請時に添付する必要がある。

 70件程度の採用を見込んであおり、支援総額は1.4億元(1元=約22円)。研究期間は2~3年。

2.ドイツ

 中国・ドイツ科学センターが共同研究の新規公募を開始。

 ドイツ研究振興協会(DFG)は、中国の国家自然科学基金委員会(NSFC)と共同で、中国ドイツ科学センターを中国に設立している。これは、二つの国の組織が協力して一方の国に組織を設立した国際協力の形態として珍しいケースである。設立に関する協議は1988年から始まった。同センターは設立後の25年間で累計約8億3000万元(現在のレートで約183億円)の資金を投入し、両国の研究者が自然科学、生命科学、管理科学、工学などの分野で協力するのを支援。1370件以上の共同研究を助成し、2万人以上の研究者が参加、4800本以上の論文を生み出した。2017年には、共同公募に550件以上の申請があり、過去最多を記録している。

 10月16日、北京で同センターの25周年式典が開催され、前日15日には、ドイツ、中国の学長会議が開催された。ドイツからは、DGFの会長が北京を訪れたほか、ミュンスター大学、イェーナ大学、ハンブルグ大学及びハンブルグ工科大学のトップ、ブラウンシュヴァイク工科大学の学長(ドイツの工科大学連盟であるTU9共同議長、ドイツレクター会議の副会長)が会議に参加した。

 2018年以降、DFGの研究プロジェクト申請者は、申請時に安全事項とリスク(「軍民両用技術への関与の有無」)に関するオンライン申告書を提出し、追加審査を受ける必要がある。さらにDFGは2023年、国際協力におけるリスクへの対応・回避方法に関するガイドラインを発表し、申請者が自身の共同研究プロジェクトのリスクを自己評価・自己点検できるようにしている。

 DFGとNSFCは2025年7月、「知脳的数値数学」(Intelligent Numerical Mathematics)分野において、2021年以降初の共同プロジェクト公募を実施した。この分野では機密データや軍民両用技術の問題が生じないと見込まれている。

3.英国

 英中科学技術協力委員会を開催し、今後の優先領域について合意。

 11月11日、英中科学技術協力合同委員会の第11回会合が北京で開催された。今回の合同委員会は、中国科学技術部の陳家昌副部長と英国のパトリック・バランス科学・イノベーション・技術担当国務大臣が共同で主宰。共同声明が発表された。

 共同声明の内容は、次のとおり。

 双方は、国際協力、特に中英のような世界の科学技術強国間の協力が、地球規模の深刻な課題への対応において極めて重要であることを認識した。気候変動への適応と緩和、高齢化の影響への対応は重要だ。また、科学研究とイノベーションの共同の取り組みが、民生の改善と経済成長の促進に重要な価値を持つことも認識した。

 双方は、研究協力が安全と互恵の原則に従い、研究成果をパートナーと共有し、両国の知的財産権及びデータ管理に関する関連法規を遵守すべきであるとの見解で一致した。中英経済・金融対話の合意に基づき、双方は既存のチャネルを活用し、研究開発と経済的結びつきがもたらす国家安全保障リスクの管理方法について対話を行うことに合意した。

 すべての英中共同研究とその成果は、各国の国内法および国際的義務に適合しなければならない点で、双方は一致した。

 また、本合同委員会開催に先立ち、2025年10月に複数のワークショップを開催し、研究データと知的財産権、気候研究、健康などのテーマについて議論したことが共同声明で触れられている。共同声明に記載されたワークショップの模様は以下のとおり。

 ・データ及び知的財産権に関しては、双方が中英科学技術協力において遵守すべき研究データ及び知的財産権管理に関する国内法規を明確に説明した。

 ・気候研究に関しては、双方が持続可能な都市及び気候と健康の関連性という重点分野に焦点を当てて協力することを合意した。

 ・健康分野では、セミナーにおいて両国が「ビッグヘルス」分野における共同研究プロジェクトの募集の進捗と成果を報告し、特に感染症対策、抗菌薬耐性及び健康的な高齢化に関する議題に重点を置いた。

 会議では、陳家昌副部長とバランス国務大臣が、中国科学技術部と英国科学・イノベーション・技術省が「中英フラッグシップ・チャレンジ計画」を共同支援し、気候に関する研究を推進する可能性について協議した。

 また、双方は英国国家科学技術戦略庁(NSRI)と中国国家自然科学基金委員会(NSFC)間の長期的な科学研究協力を支持する意向を示し、気候変動と環境、惑星科学と天文学、健康、農業・食品研究を今後の共同研究における共通優先分野とすることで合意した。同時に双方は、各国の国家安全保障及び立法上の要件により、特定のセグメント分野が政府支援の対象外となることを認識した。

 次回合同委員会会議までに、ワーキンググループを通じて対話を継続し、協力機会を探求し、政策交流を実施することで合意した。

4.フランス

 若手研究者交流プログラムの公募開始

 11月14日、両国間の傑出青年研究者人員交流計画に基づき、中国側の公募を開始。これは、気候変動・カーボンニュートラル、環境・生物多様性、高齢化、理論化学の領域で45歳以下の博士学位取得者を6~8週間フランスに派遣するプロジェクト。一人当たり8万元を上限として支援。18人への支援を予定している。

5.イタリア

 大臣会合および中国・イタリアイノベーション協力週間を開催。

 英国との共同委員会開催の翌日である11月12日に、科学技術部の陰和俊部長は、イタリア大学・研究省のアンナ・マリア・ベルニーニ大臣と北京で会談した。

 中国科技部のサイトによると、両国が協力して開催する中国・イタリアイノベーション協力週間が、両国の協力成果のハイライトを集中的に示す場として、二国間協力の象徴的ブランドとなっているという。また、イタリア側は、先進製造、海洋・極地科学、気候変動、生物多様性、文化・芸術遺産研究等の分野で中国側との実務協力をさらに深化させる意向を示したという。

 両者は会談後、『中華人民共和国科学技術部とイタリア共和国大学・研究省による2025年中イ科学技術大臣二国間会談に際する共同声明』及び『中華人民共和国科学技術部とイタリア共和国大学・研究省による科学研究分野における協力に関する覚書』に署名した。

 11月13~15日に、14回目を迎えた中国・イタリアイノベーション協力週間が開催された。開会式には、両国の産学官研の関係者500人以上が集まり、大臣間の会談で示された領域にも反映された、先進製造、人工知能に関する倫理と法制度、生命科学、海洋・極地科学、文化遺産保護、熱帯農業等に関する協力プロジェクト14件が署名された。北京と杭州で6つのパラレルフォーラムが開催され、マッチングイベントも開催された。

6.スペイン

 国家元首間で科学技術を含む協力の意向を表示、研究機関間の協力覚書を締結。

 スペイン国王フェリペ6世が18年ぶりに訪中し、11月12日、両国家元首が人民大会堂で会談した。双方は、科学技術や経済における協力を深める意向を示した。中国側からは、新エネルギー、デジタル経済、人工知能などの新興領域が例示され、協力の可能性を掘り起こし、相互投資を拡大していきたい旨の表明があった。

 両元首の立ち会いの下、中国科学院(CAS)の侯建国院長とスペインのアルバレス外相は北京の人民大会堂で『中国科学院国家宇宙科学センターとスペイン高等研究評議会の協力に関する覚書』および『中国科学院南京天文光学技術研究所とスペイン・カナリア天体物理学研究所の天文技術・学術協力に関する協定』に署名した。覚書では、双方が今後、海洋衛星リモートセンシングや先進光学天文施設の分野での協力強化に加え、科学技術情報や文献の共有、共同研究、学術シンポジウムの共催、人材交流などを積極的に進めることが盛り込まれた。

 また、以下の領域の共同研究について、公募が行われている。持続可能な都市、生産製造技術(スマート製造を含む)、バイオ医薬・健康技術(脆弱性と極端な年齢の問題を含む)、気候変動と関連した健康問題、「ビッグヘルス」、衛生システムの持続可能性とグローバルな感染症、クリーンテクノロジー(環境、再生可能エネルギーまたは水管理・処理関連技術を含む)、現代農業(持続可能な農業、食品加工、食品衛生、動物食品・衛生、漁業・水産を含む)、先進材料(原材料調達、加工、リサイクルなどライフサイクル全体で環境を損なわない先進材料)。

 

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