【25-33】中国がオープンなAIのダウンロードシェアで米国を抜く
JST北京事務所 2025年12月15日
英国のFinancial Timesが11月26日、中国の財連社が11月27日(いずれも現地時間)、それぞれ報じたところによると、過去1年間[1]のダウンロードシェアで、中国製オープンソースAI(17.1%)が、米国製(15.8%)を初めて上回ったという。これは、マサチューセッツ工科大学(MIT)とオープンソースAI関連スタートアップ企業「Hugging Face」の調査結果を伝えたものだ。Hugging Face 社のプラットフォーム「Hugging Face Model Hub」における851,000モデルの22億件のダウンロードを対象としている。調査論文については、前者の記事からアクセスできる。
これらの記事では、中国企業がよりオープンな路線を取っており、米国の大手テック企業がよりクローズドな路線を取っていると指摘している。米Open AI社は8月、"オープンウエイト"モデルを発表した。これは無料でアクセスできるが、モデルのトレーニングに必要なコードとデータを提供するオープンソースモデルほど包括的な情報を提供するものではなく、オープンソースイニシアティブが定義する要件[2]を満たしてはいない。また、米国Meta社のLlamaシリーズは、長くオープンウエイト[3]AI開発のモデルケースとされてきたが、同社はクローズドモデルへの投資を増やしてきているという。
調査論文やFinancial Timesの記事中のグラフは、米国製モデルのダウンロードのシェアが2023年に大きく減ったことを示している。
中国製モデルでこの1年のダウンロード数が多かったのは、「Deepseek-ai」(9.6%)とアリババ社の「Qwen」(4.6%)だ。アリババは今年9月にQwenシリーズのダウンロード数が6億回を超え、世界の開発者が17万以上の派生モデルを作成したと発表した[4]。
財連社の記事は、シンガポールのAIに関する国家プログラムにおいて、東南アジア向け大規模言語モデルプロジェクト"Sea-Lion"の最新バージョンでMeta社モデルの採用をやめ、Qwenを使って構築することを紹介している。
これらの記事では、中国企業は米企業のラボのように半年や1年ごとに一連のモデルをリリースするのではなく、1~2週間で多様なバリエーションからユーザーが選択可能なモデルを提供していることや、中国には自国出身の研究者が豊富にいるという専門家の指摘を紹介している。中国は動画生成モデルの開発に注力しており、米国は汎用人工知能や人間の能力を超えるAIシステムの構築を志向しているという[5]。
中国は、高性能AIチップの供給に課題があり、当局は企業に対し、モデルへの広範なアクセスを促しているという[6]。また、中国製オープンモデルが中国の政治的な立場・考えを反映する傾向があることを実証した研究についても紹介している[7]。
また、この調査によれば、利用可能なトレーニングデータを開示するオープンモデルのダウンロード割合は、2022年の79.3%から2025年の39%に低下している。2025年はトレーニングデータ非開示のオープンウエイトモデルのダウンロード数が、オープンソースイニシアティブが定義する用件を満たすオープンソースモデルのダウンロード数を初めて上回ったという。調査では、このことをopen source compliance とdata transparencyの急激な低下と呼んでいる。
中国の人材について、シンクタンク「Macro Polo」の「The Global AI Talent Tracker」は、AIに関するトップクラスの国際学術カンファレンスである「NeurIPS(Annual Conference on Neural Information Processing Systems)」の口頭発表者に採択された研究者を対象として、その経歴・勤務地を調査している。2019年と2022年のカンファレンスを比較した場合、米国勤務者の比率は、2019年の65%から2022年の57%に低下し、2019年にはその他8%の中に含まれていたはずの中国勤務者が、2022年には12%を占めるようになった。学士取得国で分類した場合、米国で学士を取得者した者の割合は35%から28%に低下し、中国で学士を取得した者の割合は10%から26%に増加している。
対象を口頭発表ではなく論文が採択された者に拡大した場合、2019年は米国の機関で働いている者の27%が中国での学位取得者であったが、2022年には38%と増加している。米国の機関に限定せず、世界を対象とした場合、2019年は論文が採択された者の29%が中国での学士取得者であり、2022年は47%と世界のほぼ半分を占めている。
なお、日本については、論文採択者数の減少がアジア太平洋地域で最も大きく、2019年以降、論文が採択された者が85%減少したことが指摘されている。
オープンな路線については、筆者は以下のことを聞いたことがある。本年11月の世界インターネット大会(中国・烏鎮で開催)のサブイベントである、AI分野も対象としたイノベーションのコンペティションにおいて、共同議長である米国の著名エンジェル投資家が、AIの可能性とオープンな開発方針を続けるべきであると強調していた。また、日本の代表的なAI研究者は、オープン路線とクローズド路線についての筆者の質問に対し、「クローズド路線は強者の路線であり、オープン路線は後発者・弱者が連携して強者に挑む戦略だ」と明快な回答を示してくれた。
15.8%と17.1%という違いをどう評価するか。また、国・地域別で見た場合、"Unaffiliated users"[8](無所属[所属を明記していない者を含むと考えられる])の割合が大きいことも注視すべきであろう。今後の展開を見る必要があることは言うまでもない。現在は、多様で幅広いそれぞれの領域でAIをどう活用・発展させていくかが世界的にホットな競争となっている転換期・変動期と言えるだろう。強者である個々の企業にとっての最適な戦略であるクローズド戦略と、後発者・弱者の中から勝利者が生まれ育つことを目指す、社会としての全体最適を志向する試みとの競争・ダイナミクスとして見ることも興味深い。
[1] 2024年8月~2025年8月。
[2] https://opensource.org/ai/open-source-ai-definition
[3] Financial Timesの記事の表現。財連社の記事では、オープンソース("开源")。
[4] 財連社の記事による。
[5] 米国の動向についてはFinancial Timesの記事による。中国の動向についてはFinancial Timesの記事及び財連社の記事がともに言及している。
[6] Financial Timesの記事による。
[7] Financial Timesの記事による。
[8] Financial Timesの記事中のグラフの凡例の表記、調査論文中のグラフでは"User"。
参考リンク
- Financial Timesの記事「China leapfrogs US in global market for ‘open’ AI models」(有料記事)
- 財連社の記事「麻省理工研究:中国在全球开源AI模型市场上首度超越美国」
- Macro Polo「The Global AI Talent Tracker 2.0」
- Macro Polo「Regional Dives: Europe, Asia-Pacific, and Middle East」