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【18-06】崔富章「版本目録論叢」を読む中国の大学における国学基礎類講義の設置・改革をめぐる私見

2018年9月20日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09--2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09--2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09--2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11--2013.03 浙江大学哲学学部 補助研究員
2011.11--2013.03 浙江大学ポストドクター聯誼会 副理事長
2013.03--2014.08 山東大学(威海)文化伝播学院 講師
2014.09--現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授
2016.09-2017.08 早稲田大学文学研究科 客員研究員

一、問題の提起

 2016年の両会(全国人民代表大会、全国政治協商会議)期間、中央文史研究館の劉大鈞館員と中国民主建国会の王名中央委員の二人が、一級学科を設立し、国学(ここでは中国の伝統思想、文化についての学問を指す)教育を広めることを明確に打ち出した(『光明日報』2016年03月11日7面)。2017年1月25日、中共中央弁公庁と国務院弁公庁は、「中華優秀伝統文化伝承発展プロジェクトの実施に関する意見」を通達した。「意見」は、中国の経済社会の深刻な変革や対外開放のさらなる拡大、インターネット技術やニューメディアの急速な発展に伴い、各種の思想・文化の交流・融合・衝突はますます頻繁になっており、中華優秀伝統文化の重要性に対する認識を深め、文化の自覚と文化の自信をいっそう増強する中華優秀伝統文化の価値の内実をさらに掘り起こし、中華優秀伝統文化の活力をいっそう引き出す政策支援を強化し、中華優秀伝統文化の伝承発展体系の構築に尽力する――ことが必要となっていると指摘した。国学教育の展開が中華優秀伝統文化の伝承と発揚の重要な経路となることは間違いない。だが目下の中国の国学教育の発展は、大学の国学学科は大学院生教育体系の中で明確な地位を持っておらず、これに応じて大学では国学講義が長期にわたって不在となっているとの課題に直面している。このため全面的な国学教育講義体系をいかに構築するかは社会各界が幅広く関心を寄せる問題となる。高等教育機関は伝統文化伝承の主力であり、その責任から逃れることはできない。

 全面的な国学教育体系の構築のためにまず直面しなければならないのは、国学の基礎類講義の開設方式、教育モデル、教育効果などの面での研究である。目下の状況を見ると、中国にはまだ、科学的で系統的な国学基礎講義体系が不足している。多くの学者がこれについてそれぞれの見解を示している。例えば張豈は、国学院は文献学類に関する講義、考古学およびその成果に関する講義、経学研究講義、世界の学術の紹介などの講義を設けるべきだと論じている(『光明日報』2008年11月10日12面)。国学人材の育成のため、武漢大学は早くも2001年、全国に先駆けて国学試験班を開設し、国学の本科専攻を設立し、関連する国学講義を設置した。「国学」を独立学科にすることを提唱する学者もいる。2011年09月14日、『中華読書報』は「国学を独立学科に――姚奠中、劉毓慶、郭万金の国学三人談」を掲載し、この問題を正面から扱った。国学概念に対する認識は違っても、彼らは皆、現代の大学の教育体系の中で国学にその空間を与えるべきだと論じた。

 筆者は2014年から「国学基礎」講義を開設し、この面での兄弟校の有益な試みを調査し、ここ5年の教育の実践とフィードバックを通じて、いくつかの基本的な認識を形成した。本稿は、「国学基礎」類講義の設置の現状から出発し、国学基礎類講義の性質を整理し、この講義設置についてのいくつかの総体的な原則を提起したものである。

二、国学基礎類講義設置の現状の分析

 国学基礎類講義改革をしっかりと完遂するため、筆者は、国内の代表的な大学における国学基礎類講義の設置状況を幅広く調査した。調査にあたって選取した対象は(1)古典学術人材を専門的に育成する実験班が学部生向けに開設した国学基礎類講義(2)代表的な研究機関が学部生向けに開設した国学基礎類講義の2つ。前者は、中国人民大学国学院人文学科試験班(国学班)、山東大学尼山学堂を例とし、後者は、北京大学中国古文献研究センター、浙江大学古籍研究所を例とする。今回の調査研究は、中国人民大学国学院人文学科試験班、山東大学尼山学堂、北京大学中国古文献研究センター、浙江大学古籍研究所が学部生向けに開設した国学基礎類講義を対象とし、中国国内の大学の学部生向けの国学基礎類講義の設置状況の初期的な理解をはかった。

1.中国人民大学国学院人文学科試験班

 中国人民大学の学科基礎科目における国学基礎類講義は合計12科目からなり、一般科目(平台課)と基礎科目(基礎課)の2種類に分かれる。両者を比較すると、前者はよりわかりやすく、後者はより難しい。科目数は4科目で、総数の3分の1を占める。後者は8科目で3分の2を占める。

 一般科目の4科目はそれぞれ2単位[1]で、合計8単位。学生の入門を導くことを講義の目標とすることを共通点とし、内容は比較的わかりやすい。文学・史学・哲学の3つの面でそれぞれ1科目が設けられ、「語言文学引論」「史学方法・史学実践」「哲学入門」が開講されている。「文、史、哲」の現代学科分類に照らして設置された3科目のほか、中国伝統の学術分類を根拠として、「国学入門課」が開講されている。

 基礎科目としては8科目が設けられている。それぞれ3単位で、合計24単位が設けられている。基礎科目の特徴は、基礎を重視し、国学の基礎を固めることを目標とし、さらなる学習の準備とすることにある。大多数の大学の中国語学・文学専攻で通常設置されている「中国文学史」(「中国文学史I」「中国文学史II」を2学期で学習)と「古代漢語」のほか、「中国通史I」「中国通史II」「中国経学史」「中国子学史」「中国古典文献学」の5科目が設けられている。

 8科目の基礎科目の設計にあたってはまず、「経学・子学」「国史」「国文」の3つの方向に対応した科目を設けることが考慮された。経学・子学については「中国経学史」と「中国子学史」の2科目、国史については「中国通史I」「中国通史II」、国文については「中国文学史I」「中国文学史II」が開講された。これに加え、国学の基礎類講義として「古代漢語」「中国古典文献学」の2科目が設けられた。

 総合的に見ると、中国人民大学の学科基礎科目の国学基礎類講義には次の3つの特徴がある。第一に、基礎の重視。しっかりとした基礎は、後続の学習の保障となる。第二に、科目の完備。カバー範囲が広く、講義にかかわる内容が豊富で全面的、広大である。第三に、講義の難度の幅が広く、易しいものから難しいものへと進むようにできており、学部生の学習の特性に合った合理的な段取りが形成されている。

 必修の国学基礎類講義のほか、人民大学国学院は国学基礎類の専攻選択科目を設けている。国学院の開設している専門選択講義は「経学・子学」「国史」「国文」「西域」の4つの専門に分かれている。すべての国学班の学生は、これら4つの専門から一つを選び、これに基づいて授業を選択する必要がある。すべての学生は、本院の専門選択講義14単位を学ぶ必要がある。このうち自分で選定した専門の講義は8単位を下回らないこととする。

 専攻選択科目中の国学基礎類講義は83科目ある。筆者はこれを2つに分類した。第一部分は原典講読類講義、第二部分はその他の講義である。前者は25科目、総数の約30%を占める。後者は58科目、総数の約70%を占める。そのうち原典講読類講義の特性は、重要な原典を選んで講読指導と精読を行う。これらの講義の名称には「原典」の二文字がはっきりと入っており、原典がいかに重視されているかがわかる。原典講読類講義は25科目あり、原典講読類講義は1科目につき2単位と計算する。

 筆者は、経・史・子・集の四部に照らし、講義のかかわる原典を分類し、原典講読類講義の分類の根拠とした。原典講読類講義は、「経部重要典籍講読講義」「史部重要典籍講読講義」「子部重要典籍講読講義」「集部重要典籍講読講義」の4類に分けられる。経部重要典籍講読講義は10科目からなり、原典講読類講義で開設された総科目数の40%を占め、「易類」「書類」「詩類」「礼類」「春秋類」「四書類」「小学類」の7種類の重要典籍にかかわる。「易類」の講義には「『周易』読解(原典)」の1科目、「書類」の講義には「『尚書』読解(原典)」の1科目、「詩類」講義には「『詩経』読解(原典)」の1科目、「礼類」の講義」には「『三礼』読解(原典)」と「『礼記』選読(原典)」の2科目、「春秋類」の講義には「『左伝』読解(原典)」の1科目、「四書類」の講義には「『論語』読解(原典)」「『孟子』読解(原典)」の2科目、「小学類」の講義には「『尓雅』読解(原典)」「『説文解字』読解(原典)」の2科目が設けられている。

 注目すべきなのは、通常の講義の設置のほか、国学院は読書班も開いているということだ。筆者は2016年秋学期、国学院の読書班の開設状況を視察した。その基本的な状況は表1に示すとおりである。

表1 2016年秋学期国学院読書班の開設状況まとめ[2]
担当教師 読書班の内容 時間 頻度 場所 外部受け入れ
林光華 『荘子』 火曜日午後2:20-3:50 週1回 未定
孫聞博 『史記』 火曜日午後 週1回 国学院219
張斉明 『宋書・志』 火曜日午後6:00 週1回 国学院531
張耐冬 魏晋南北朝基本史料 水曜日午後 週1回 国学院101 可(教師への事前連絡が必要)
郭文儀/辛暁娟 李商隠・黄庭堅読詩班 水曜日午後 隔週1回 国学院204 可(教師への事前連絡が必要)
辛亜民 『論語』(黄懐信《論語会校集釈》) 水曜日午後2:00-5:00 週1回 国学院113
辛亜民 周易(《周易正義》) 水曜日午後6:00-9:00 週1回 国学院204
韓星 『大学』『中庸』 水曜日午後6:30-9:00 週1回 国学院103
諸葛憶兵 周邦彦詞/特別テーマ(交互に開設) 月曜日午後2:00 週1回 国学院104
梁涛 『尚書』と清華簡 木曜日午後6:00-9:00 週1回 経学・子学教学研究室
李萌昀 古代小説の研究方法 木曜日午後7:40 隔週1回 国学院204 不可
張耐冬/華建光 歴史・語言読書班(墓志を中心に) 金曜日午後6:30 隔週1回 国学院101 可(教師への事前連絡が必要)
華建光/張耐冬/張明東/陳偉文 左伝正義 金曜日午後6:30 隔週1回 国学院101
陳壁生 『論語』 日曜日午後6:30-10:00 週1回 国学院204
孟憲実 隋唐五代基本史料編年 日曜終日 週1回 国学院101 不可

2.山東大学尼山学堂

 杜沢遜氏が中心となって創設した山東大学尼山学堂は特色ある講義を備えている。尼山学堂が開設している国学基礎類講義は、「四部重要典籍講読指導類講義」「伝統小学類講義」「中国学術史類講義」「発展類講義」の4つに大きく分けられる。「四部重要典籍講読指導類講義」は、経・史・子・集四部の重要典籍を対象とし、原典の講読指導や精読を行う講義である。このタイプの講義は中国の伝統的な学術分類に応じて設置されたもので、経・史・子・集四部の重要典籍に応じて設計されている。

 山東大学尼山学堂が開設した国学基礎類講義には以下の特徴がある。

 第一に、必修・選択講義がこの分野の講義体系を構成し、その体系は比較的整い、二者の割合は合理的に分配されている。

 第二に、講義設置が豊富で、全面的で、幅広い。経・史・子・集四部の重要典籍を選び、一定の数の講義を設置している。講義は、それぞれの部の下に設けた科目で多くの典籍をカバーしている。

 第三に、ポイントを定め、重点を際立たせている。経学を重視し、経・史・子・集四部の中ではとりわけ経部の重要典籍を重視している。また数多くの典籍のうち、代表性と古典性を備えた典籍を精読のために使っている。

 第四に、学術的な注目ポイントに重点を置き、学術の先端に注目している。学生が学術の先端を知ることができるよう、「人文高級講座」「現代世界儒学研究」「出土文献講読指導」の3科目が開設された。1科目2単位。

 筆者はこのほか、四部重要典籍講読指導類講義の授業方式、講義査定方式などの具体的な状況を調査し、さらに次の4つの特徴をまとめた。

 第一に、原典精読に重点を置き、オリジナルの資料を重視している。大多数の原典講読指導類講義は、教室の中では、教師が学生の原典精読を指導し、学生は教師の解説を助けとしてオリジナルの資料を講読する。教室外では、教師は講義の宿題または講義レポートを割り当て、学生が自分でオリジナルの資料や関連文献資料を読むことなどを求めている。

 第二に、討論という方式で、教師と学生の間の相互交流を促進している。教師による知識の教授だけでは講義は無味乾燥となることから、大多数の講義はこの現象の出現を避けるため、教室での討論などを授業に盛り込み、教室での教育と学習効果を高めている。例えば『資治通鑑』の講読指導講義では、学生の教室での発言と発表が加えられた。編年体の史書という特性に応じて、講義ではまず凡例を読み、隋朝大業十二年から一年を単位として講読していく。教師がまず原典について一定時間の授業を行い、それから各学生が一年の内容の解読を担当し、教師がこれを評価する。この過程では、各学生が授業に積極的に参加し、教室での発言をしっかり準備することで、一つのことから多くを学び、全体を理解する学習能力を身につけることができる。

 第三に、学生の自主学習能力の向上を重視し、学生の研究と革新を奨励している。大多数の講義は、学生が講義の作業または論文を提出することを求めている。これは2種類に分けることができる。一つは、学生が自由にテーマを選ぶもので、学生が自分の考えを論文執筆によって表現することを奨励する。もう一つは、教師がテーマを設定するか、参考となるテーマを挙げるもので、学生が論文執筆の過程で、重点内容への理解を深め、学術研究の現状を知り、学術的な視野を広げることを可能としている。

 第四に、学生を主体とし、学生が講義に対して意見や提案を出すことを奨励している。講義の進行は学生を主体として行われる。一定数の授業が終わる前、討論会やオープンなアンケートなどの形式で、講義に対する学生の意見や提案を集め、講義を改善するための参考とする。

3.北京大学中文系

 北京大学中文系では「中国語学・文学」「漢語言」「古典文献学」の3専攻でいずれも国学基礎類講義が設けられている。

表2 国学基礎類中文系必修科目一覧表[3]
科目番号 科目名称 単位 備考
02030021 古代漢語(上) 4 第1学年1学期
02030022 古代漢語(下) 4 第1学年2学期
02030031 中国古代文学史(一) 3 第2学年1学期
02030032 中国古代文学史(二) 3 第2学年2学期
02030033 中国古代文学史(三) 3 第3学年1学期
02030034 中国古代文学史(四) 3 第3学年2学期
02031080 原典講読(一) 2 第1学年2学期
02031090 原典講読(二) 2 第2学年1学期
02033830 原典講読(三) 2 第2学年2学期
02033090 中文参考図書 2 第1学年2学期
02031540 中国文化史 2 第2学年1学期
02039240 古典籍概要 4 第2学年1学期

 これを土台として、筆者は、国学基礎類中文系必修科目の授業方式、講義査定方式などの具体的な状況を調査し、次の2つの特徴をまとめた。

 第一に、原典の精読を重視し、原典の中でも経典の閲読を重視している。例えば原典精読講義では重要典籍を選び、原典を精読する。2017-2018学年度を例に取ると、「原典精読(一)」は実際には『論語』の一部の講読、「原典精読(二)」は実際には『孟子』の一部の講読であり、一学期に一つの原典を集中的に学ぶ。講義は、重要典籍を教育と学習の重点とし、オリジナルの資料の精読を通じて、学生が原典精読の方法を身につけるよう指導する。

 第二に、教室での教育方式では、大規模クラスと小規模クラスの連携、教師による授業と学生による討論の連携を堅持している。例えば「古代漢語」では、大多数の大学が採用している大規模クラスによる教育モデルのほか、小規模クラスでの討論授業を設けている。小規模クラスでの討論授業では、1クラスの人数は20人に限られ、毎週2時限が設けられた。大規模クラスでの教育が教師による授業を中心とする一方、小規模クラスでの教育は学生の積極的な参加に重点を置き、学生の発言と討論を重視している。

4.浙江大学中文系・古籍研究所

 浙江大学の「中国語学・文学」「古典文献学」の両専攻が開設している基礎性共通必修科目は、大多数の大学の同専攻が開設している講義と一致し、「古代漢語」「中国古代文学史」「中国語学・文学各学科先端」が設けられている。

「古代漢語」は2段階に分かれ、「古代漢語Ⅰ」「古代漢語Ⅱ」が設けられている。「中国古代文学史」は3段階に分かれ、「中国古代文学史Ⅰ」「中国古代文学史Ⅱ」「中国古代文学史Ⅲ」が設けられている。「中国語学・文学各学科先端」は6科目が設けられ、1科目3単位とされている。

 大まかな状況は次の表の通りである。

表3 基礎性共通必修国学基礎類講義一覧表
科目番号 科目名称 単位 週時限 提案学年学期
04122612 中国古代文学史Ⅰ 3 2.0-2.0 第2学年春夏学期
04124630 古代漢語Ⅰ 3 2.0-2.0 第2学年春夏学期
04122620 中国古代文学史Ⅱ 3 3.0-0.0 第3学年秋冬学期
04124640 古代漢語Ⅱ 3 3.0-0.0 第3学年秋冬学期
04122630 中国古代文学史Ⅲ 3 3.0-0.0 第3学年春夏学期
04124030 中国語学・文学各学科先端 3 3.0-0.0 第4学年秋冬学期

 この部分の講義設置の原則は、基礎を固め、先端研究を重視することにある。

 「古代漢語」と「中国古代文学史」の両講義は、これら両専攻の学生の必修科目であり、基礎性が強く、学生のさらなる国学の学習に土台を築くことをその特徴とする。とりわけ古典文献学専攻の学生にとっては、古典文献学と直接かかわる講義(目録学、版本学、校勘学など)を学習しなければならないだけでなく、その後のさらなる学習や関連する専門分野での仕事のために、「古代漢語」や「中国古代文学」などの講義を学ぶ必要がある。

「中国語学・文学各学科先端」は、各学科と各専攻の概況と発展現状を学生に紹介し、学術の先端に対する学生の理解を深め、学生の学習と研究に方向性を指し示すものとなる。

 この部分の講義は単位の比重が大きく、学習プロセスが長く、基礎固めを重視すると同時に、学科の特色と発展の動向も考慮したもので、国学基礎類講義にとって極めて重要な構成要素と言える。

 古典文献学専攻の核心必修科目を見ると、この講義は7科目が設けられ、1科目2単位とされている。これらの講義は、古典文献学の学科の特性と専攻の育成目標に基づいて設置されたもので、古典文献学専攻の学生の必修科目であり、中国語学・文学専攻の学生の選択講義でもある。

 同講義は2種類に分けられる。一つは、伝統小学類科目で、「訓詁学」「音韵学」「文字学」の3科目が設けられている。もう一つは、古典文献学・関連科目で、「古典文献学」「版本学」「校勘学」「目録学」の4科目が設けられている。

 大まかな状況は次の表の通りである。

表4 古典文献学専攻核心必修科目一覧表
科目種類 科目番号 科目名称 単位 週時限 提案学年学期
伝統小学類講義 04122370 訓詁学 2 2 第3学年秋学期
04122480 音韻学 2 2 第3学年秋学期
04121950 文字学 2 2 第3学年春学期
古典文献学・関連科目 04124380 古典文献学 3 3 第3学年秋冬学期
04120110 版本学 2 2 第3学年春学期
04122110 校勘学 2 2 第3学年夏学期
04124110 目録学 2 2 第3学年夏学期

 古典文献学専攻の核心必修科目のうち伝統小学類科目は合計6単位が設けられ、この部分の講義の総単位の40%を占める。古典文献学・関連科目は9単位が設けられ、総数の60%を占める。データに基づき、表の内容を考慮すると、この部分の講義の特徴は次のようにまとめられる:

 第一に、伝統小学(伝統語言文字学)の基礎を重視している。小学の確かな基礎は、専門の学習と研究の要石となる。

 第二に、文献に重点を置き、文献学の講義が豊富で全面的である。「古典文献学」のほか、これと密接に関係する「版本学」「校勘学」「目録学」の3科目が開設されている。

 古典文献学専攻の学部生に向けて作られた閲読奨励書籍リスト『浙江大学中文系古典文献学専攻学部生指定閲読書目』(以下『閲読書目』)には、必読書籍として10種、選択書籍として20種が収められている。

 筆者は、『閲読書目』の選択の原則と特徴は大いに普及されるべきものだと考える。

 第一に、学術性と権威性、信頼性に重きが置かれ、高い価値を持つ経典著作が選ばれている。例えば『閲読書目』には、裘錫圭氏の『文字学概要』や黄永年氏の『古籍整理概論』などが入っている。

 第二に、学部生の学習の条件と特性に合致し、適正な深度と難度が確保されている。例えば『閲読書目』には一定数の概要や概論などの著作が収められ、学習の難度と深度は学部生に適合している。

 第三に、専攻の核心必修科目をめぐって、講義の内容と密切に関連する書籍が選ばれている。教材や講義の対象として教室で教えることもできるし、教室での学習の不足を補い、学生の授業外での自主学習を導くこともできる。例えば『説文解字』や『文字学概要』が必読書籍となっているのは、文字学の講義と密切に関係している。

 第四に、必読書籍と選択書籍にはそれぞれ重点があり、互いに補い合っている。必読書籍はわずか10種で、代表的な経典となる著作が選ばれている。選択書籍は20種で、選べる範囲はより幅広く、余力があり興味を持つ学生が学習をさらに深め、広げることができる。必読書籍は、学生の入門を指導し、基礎を固めることを重視する。選択書籍は、学生の自主学習を奨励し、学生が自らの興味を持つ内容を探すのを助ける。両者の連携によって、良好な効果を実現することができる。

『閲読書目』の制定は、価値ある経典著作を学生が真剣に読むことを指導し、専門知識に対する学生の理解を深め、学生がより明確な興味と学習の方向性を見つけるのを助け、学生の研究的な学習能力を高めるものとなった。

 総合的に見ると、古典文献学専攻の核心必修科目体系は、合理的な講義設計と『閲読書目』の指導と結びつき、互いに補充し、より一層の効果を上げている。

三、国学基礎類講義設置の総体原則

「第4回全国国学院院長ハイレベルフォーラム・武漢大学国学院発足5周年記念式典」が2015年5月23~24日、武漢大学で行われた。大会に参加した多くの学者らは、「国学」学科の設立は、現行の文学・史学・哲学・芸術学などの学科を代替するものではなく、「国学」の学術的な視野と方法は、中国古典学術の見方と筋道にのっとったものとなると論じた。例えば経・史・子・集四部からなる基本的な構図、「考拠」「義理」「辞章」の融合した学習の道、「小学」から「経学」へ、「経学」から「史学」「子学」「文章学」へと入る経路などがある。国学関連講義は、西洋の学問の構図に則って設けられた文学・史学・哲学・芸術学などの学科の有益な補充となる。(『光明日報』、2015年7月13日国学面参照)

 これらの調査データからは、国学基礎類講義は各大学で異なる形式を取り、それぞれの研究の強みを拠り所として、さまざまなタイプの国学基礎類講義が開設されていることがわかる。大まかに言って、国学基礎類講義は、学科基礎科目としての国学基礎類講義、専攻必修科目としての国学基礎類講義、専攻選択科目としての国学基礎類講義に分けられる。教育の実践から見ると、専攻基礎科目、必修科目、選択科目のいずれを取っても、国学基礎類講義の設置には一部で乱立が見られる。講義の開設の際、文学・史学・哲学をカバーすることができないという状況も見受けられ、系統的な科目としては、授業時間を大幅に増やす必要がある。

 兄弟校での教育経験と筆者の教育実践から、筆者は、学科基礎科目としての国学基礎類講義、専攻必修科目としての国学基礎類講義、専攻選択科目としての国学基礎類講義のいずれについても、国学基礎類講義の開設の過程では次の原則に則る必要があると考える。[4]

 まず、体系的であること。選択科目としての国学基礎類講義には一般教養としての性質がある。このため選択科目の設置にあたっては学科の障壁を意識的に打破し、小規模クラスでの授業を行い、真に学科の融合を実現する必要がある。この目標を実現する有効な方法として考えられるのが、通論の講義と原典講読、新メディア教育を有機的に結びつけることである。筆者は国学の基礎を教える際には、この3つの部分の比率を4:4:2としている。通論の講義は主に、「国学」の時代のカテゴリーと概念の区分に基づくもので、経・史・子・集、道教、仏教などの概論からなる。各部分の講義後には、原典の読解などを行う。例えば経部では十三経注疏本の『周易正義』巻首や『尚書・金縢』、『毛詩正義』など、史部では『史記・孔子世家』、子部では『老子』、集部では『文選』序などの内容を選び、教室での精読する版本には古籍の影印本を用い、教室で学生と一緒に現代の句読点をつける。このようにするのには、高いスタート地点からの出発と、古書の形式の把握という2つの意味がある。

 次に、展望性を備えていること。学術の先端に注目し、学術的な注目の話題をフォローし、定期的な学術報告というメカニズムを形成する。現代教育では、一つの教材を十年にわたって教えるという時代は既に終わっている。教育も時代とともに前進してこそ、学部教育の質を高めることができる。山東大学尼山学堂の「人文ハイエンドフォーラム」はその良好な実践例と言える。各分野で著名な専門家を招いて行われるこうしたフォーラムは専門性が高く、国学基礎類講義を専攻する学生に向けて開かれている。持続発展可能な学術報告のメカニズムがあれば、学生の学習熱意と学問への敏感度を高めることができる。2016年の夏季休暇には、筆者は、中国社会科学院の著名専門家の揚之水氏を講義に呼び、講義後、文化伝播学院の学生からフィードバックを受けた。このようなハイレベルな学術講座は、学生が学術界の大家と近距離で交流することを可能とし、国学基礎類講義に対する学生の距離感や抵抗感を有効に軽減し、国学のおもしろさを発見させるものとなる。

 最後に、実践性や操作性を備えていること。本稿で取り上げた原典講読は、実践性の具体的な表れと言える。このほかの国学基礎類講義の実践性としては、実際に書籍に触れることが挙げられる。このため一定の授業時間を割き、学生を図書館に連れていき、各種の古籍に触れさせ、古籍に対する直観的な体験を学生に得させる必要がある。取り扱いについては、通論の講義と原典講読のほか、高水準のドキュメンタリーによる補完が考えられる。国学基礎類講義は、一般教養の性質を持つ学部段階の講義であり、学生が入門しやすいものである必要がある。筆者は国学基礎講義で、中国中央電視台(CCTV)の考古学番組、英国のBBCや日本のNHKなどが撮影したドキュメンタリーなどを選んで教材としてきた。こうした実践からは、講義で学んだ知識とドキュメンタリーとを繋ぎ合わせることで、古代の典籍や風習などへの学生の理解を大きく深められることがわかっている。

 本稿は、2016年山東大学(威海)教育研究・教育改革プロジェクト「『国学基礎』講義設置・改革研究」(プロジェクト番号:B201610)の段階的成果である。研究補佐の荊文萓君の調査研究での勤勉な取り組みに感謝する。


[1] 人民大学国学院の開設した国学基礎類講義の毎週の学習時間は単位と対応している。4単位は毎週4時限、2単位は毎週2時限に対応する。以下では、筆者は講義の単位についてだけ説明し、授業時間については説明を省く。

[2] http://guoxue.ruc.edu.cn/displaynews.php?id=1308の『2016年秋季学期国学院読書班状況匯総』参照。

[3] http://dean.pku.edu.cn/pkudean/jxypy/eduprogram/の『北京大学学部生教育手冊』(2014版)参照。

[4] 筆者はここで、国学基礎類講義設置の総体原則について論じた。国学講義の具体的な開発と設計に関しては、すでに何人かの学者が自らの観点を提出している。例えば王立増は、次の3種類の「講義群」を設置することを提案している。第一に原典類。国学の経典著作の閲読や理解、会得をはかる。第二に、通説(一般解説)類。国学の精髄を詳しく解説し、学生の思考方式を訓練する。第三に、発展類。中国語学・文学への理解を深め、国学の素養を広げ、学生のその後の学術研究や小中高校での語文(国語)教育を工作助ける。王立増「高師漢語言文学専業国学課程的開発與設計」(『石家庄学院学報』2017年第5号)、顔芳「論燕京大学国学教育的課程体系」(『文教資料』2012年第13号)参照。

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