中国レポート
トップ  > コラム&リポート 中国レポート >  【07-10】中国の科学技術政策の改善についての三大提言

【07-10】中国の科学技術政策の改善についての三大提言

武 夷山(中国科学技術信息研究所研究員)  2007年8月20日

 改革開放以来の30年間に、わが国の科学技術政策は並々ならぬ道を歩んできたが、誰の目にも明らかな成果を収めた。小康社会(幾らかゆとりのある社会) を全面的に築くという目標は科学技術界に対し、よ り高い要求と厳しい挑戦を突き付けることになった。社会・経済の発展を促進する科学技術の潜在力を十分に 引き出すため、科学技術政策の立案者はこれまでの成功経験を早急に総括し、教訓を直視し、科 学技術政策を一段と改善して、科学技術者が大いに腕を振るう舞 台を作り上げる必要がある。 

 ここでは、わが国の科学技術政策を如何に改善すべきかについて3つの提言を行うこととする。

image

提言1:産業界の意見と提案を重視すること

 科学技術政策の策定過程において、より多くの科学技術事業の利益関係者を参画させ、彼らの要求と声に耳を傾けることは、科学技術発展の重点を正しく選択するのに大いに役立ち、科学技術成果の産業化・商 品化に大いに役立ち、科学技術の発展を支持する世論が主導的地位を占めるのに大いに役立つであろう。

 特に、企業は技術革新の担い手となるべきであり、企業は又、科学技術成果を取り入れる受け皿でもある。そうである以上、科学技術政策を立案する時に企業界の意見を聴取することは極めて重要である。& #160;

 この方面における先進国の幾つかの認識と方法は我々にとって注目に値するものだ。 

 一部の先進国は自国のイノベーション戦略と科学技術政策を定める際、産業界の人々を積極的に参画させ、彼らの意見や提案に耳を傾け、それを採用することを重視している。

 具体的には主に以下の3つの方法がある。

 1つ目は産業界の関係者を科学技術政策の最高決定機関のメンバーとして直接受け入れ、重要方針の策定に参画させることである。

 日本は一部のベテラン企業家を政府の科学技術政策の最高決定機関である総合科学技術会議のメンバーとして受け入れることを重視している。 

 総合科学技術会議は首相が議長を務め、閣僚、著名な学者及びベテラン企業家がメンバーとなっている。 

 この機関は「科学技術基本法」と「科学技術基本計画」に基づき、日本の科学技術発展の基本政策を策定し、政府の科学技術予算等の関連資源を配分するとともに、大 規模な国家研究開発プロジェクトについて評価を行う。

 2つ目は産業界の関係者を政府の科学技術政策の最高諮問機関のメンバーとして受け入れ、政策を決定する時に産業界の意見と提案に十分耳を傾けることである。

 1990年に創設された米大統領科学技術諮問委員会(PCAST)とはそうした機関の1つである。当該委員会は科学技術政策の関連問題について大統領に 意見を具申するのが役目であり、そ のメンバーはいずれも大統領が任命する。大統領府科学技術政策局(OSTP)局長が委員会議長を兼任するのを除き、それ 以外のメンバーは全て産業界、教育界及び非政府組織から来たものである。

 ブッシュ現大統領の科学技術諮問委員会は24人で構成され、そのうち企業界は11人とほぼ「天の半分」を支えている。大統領科学技術諮問委員会は科学技 術戦略と科学技術政策について大統領に意見を具申する他、米国政府内の科学技術問題の最高政策決定機関−−国家科学技術会議(NSTC)と民間企業との間 で意思疎通を図るパイプの役割も果たしている。

 これは連邦政府が科学技術戦略と科学技術政策を定める過程で民間企業の意見と提案に十分耳を傾けるのを保証するものであり、政府役人、管理スタッフ及び科学者が1つの共同体の中で意思決定を行い、企 業界は無視されるという弊害が回避されることになる。

 3つ目は重大なイノベーション戦略の発表・実施に先立ち、産業界の意見と提案に十分耳を傾けることである。

2001年初め、オーストラリア政府は「オーストラリアのイノベーション行動計画」を発表した。この計画はいまなお実施されている。計画の発表に先立 ち、認識を統一し、方向を明確にし、戦 略を確定するため、オーストラリア政府は2000年2月に全国技術革新大会を開催した。これに参加した代表には各級 政府、科学研究機関と大学の他、大中小企業の責任者、若手実業家も含まれていた。大 会の目的は技術革新の三大主体である政府、科学研究機関、企業界に同席 する機会を与え、研究討論の形式を通じ、将来の技術革新活動のために関連の戦略と政策を共同で確定し、国 を挙げて技術革新の道を歩むのを導くことにあっ た。

 この大会はオーストラリアに深遠な影響を及ぼし、同国の政府、学術界、企業界が技術革新活動を共同で繰り広げるための重要な一里塚となった。 

 わが国において、科学技術イノベーション戦略、科学技術発展計画及び科学技術政策の策定過程は今なお科学技術主管官庁と科学技術界しかタッチせず、たまに企業界の意見を求めることがあっても、そ の対象の多くは大型国有企業であり、その他タイプの企業が関わることは少ない。その上、大型国有企業の意見についてもあまり重視しないケースが多い。 

 これまでの科学技術政策と科学技術戦略の実施において、所定の水準に到達しない状況が見られたのは、政策目標があまり明確でなく、内容が具体性に乏しい 等の原因の他、策定過程があまりオープンでなく、各 関係者の幅広い参画を欠いていたことともある程度の関係がある。これはわが国政府の科学技術政策で今後 改善すべき重点の1つとなる。

提言2:科学技術政策の実施効果の評価に力を入れること

 長年来、我々は科学技術諸活動の総括を行うことには慣れていたが、規範化された評価には不慣れであった。既存の科学技術評価機関は研究開発プロジェクトの評価を重んじるが、政 策実施効果を評価する能力と経験は比較的不足している。こうして、時代と共に歩み、時機を逸することなく、以前に策定した科学技術政策の調整を行うことが難しくなった。同様に、先 進国はこの面でも我々が参考にできる幾つかの経験を持つ。

 米連邦政府は研究開発(R&D)投資を促進するための租税優遇措置を恒久化するのに先立ち、多くの調査研究を行った。例えば、議会付属の会計検査院(GAO)は 1990年代にこの政策の実施効果についてインタビュー調査を手配した。

 GAOの思考プロセスは次のようになる:

  1. 租税優遇政策の実施で、国庫に入る税金が少なくなる。
  2. 租税優遇政策の奨励を受け、全ての企業が追加する研究開発投資の総額が租税優遇措置によってもたらされる国庫の税収損失を上回って初めて、この政策は効果があったと言うことができる。
  3. そうでないなら、政府の経費で直接、企業に資金援助し、科学研究を行わせた方がよい。

 このため、GAOは被調査企業に次のような質問を行った:

  1. 租税優遇措置がなかったとするなら、貴企業の研究開発投資の総額はどれくらいになるのか。
  2. 租税優遇措置の適用は貴企業が研究開発予算を追加するのを促すことになるのか。

 また例えば、政府の研究開発計画は一体全体、経済の発展に対してどのような影響を及ぼすのだろうか。 いままでのところ、科学技術進歩の寄与率についての見積方法は納得し難いものがある。こ の方法の主な欠陥は分割すべきでなく、分割しにくい要素を無理やり 分割してしまうことにある。労働力資質の中に科学技術の役割がないということがあろうか。政 府研究開発計画の経済への影響という問題に一層確かな回答を与 えるため、米国国立標準技術研究所(NIST)のシニア経済学者、グレゴリー・タッセイ氏はチームを率い、この問題について長期間の深く掘り 研究を行い、2004年にリポート「政府研究開発の経済影響評価」を提出した。この報告で採用されている方法及び得られた結論は「科学技術進歩の寄与率」 よりもずっと信頼できるはずだ。

 わが国の状況を例に挙げよう。

 わが国の多くの ハイテク産業開発 区は先端技術の開発を促進し、 開発区所在地域の経済発展を推進する上で注目すべき貢献をした。しかし、開発区 に進出した企業は多くの優遇政策が適用されており、そ れは上記の企業から国庫に入る税金が少なくなったことを意味する。この点に留意すべきである。

 仮に開発区内の企業が何らの優遇策も適用されなかったとするなら、彼らの経済的効果はどのようなものであろうか。我々はこうした評価の研究が甚だ不足し ている。この研究をより多く進めて初めて、我 々は各種科学技術政策・措置の実施効果について一段と豊かな、立体的な、全面的な認識と判断を得ることができる。

提言3:科学技術政策を策定する時の視野を広げること

 科学技術政策は状況の変化に応じ、絶えず調整していく必要があるが、朝令暮改になり、政策の影響を受ける人々が右往左往する事態を招いてはならない。このため、科学技術政策を策定する時は、出 来るだけ政策面の視野を広げるべきであり、これには少なくとも2つの側面の意味が含まれている。1つ目は将来を予 測する年月を長くすること、2つ目は政策とその実施に伴う影響を合せて十分に考慮することである。< /p>

 やはりまず国外の状況を例に挙げる。 

 人口の高齢化は多くの国々が共に直面する大きな流れとなるであろう。 

 国連の2002年度予測によれば、2020年になると、中国の60歳以上の人口の割合は19.5%に達し、2050年には29.9%に達する。日本は2050年になった時、6 0歳以上の人口の割合が42.3%に達する見通しだ。

 このため、多くの先進国の未来学者はいずれも、高齢人口に目を向けた製品とサービスが将来の成長産業を形作るであろう、と一致して預言している。しか し、こうした成長産業が必要とし、重 視する技術は現在と大きく異なる可能性がある。例えば、オンラインゲームが老人の最も好む趣味になることは恐らくない だろう。このため、国は当面の研究開発の重点を割り振る際、近 い将来現れる新たな需要を考慮しなければならない。 

 政策の実施に伴う影響を考慮することも極めて重要である。例えば、優秀な科学技術人材を帰国させるため、わが国は 手厚い優遇策を定めた。しかし、うまくやらなければ、海外留学生を帰国させる一方、以 前から国内にいる人材を軽視することになってしまう。不合理なやり方 はわが国が独自に養成した中堅の科学技術者に対し、留学して箔を付けるよう迫ることになり、さもなければ、彼 らは公正な待遇が得られないと感じるだろう。 これこそ事志と違う結果である。 

 しかし、我々は政策 を 練る 時、孤立して問題を見るのでなく、あくまで事物は関連し合うものだとの観点で問題をとらえ、政策・措置の直接効果と潜在的な間接効果を十分考慮しさえすれば、こ うした進退窮まる事態を回避することができる。 

 現段階の中国において、制度革新の要請は技術革新よりも差し迫ったものだと多くの有識者が考えている。科学技術政策の関係者は制度革新のリーダーとなることができ、且つそうすべきである。こ れは非常に大変だが、深遠な意義を持つ任務である。


(本稿はJST中国総合研究センターが著者の許諾を受けて2007年5月14日付「光明日報」に掲載された論文を翻訳、転載した。)

武夷山

武夷山 (ウー・イサン):
中国科学技術情報研究所”科技情報”理学修士

略歴

 在米中国大使館科学技術処駐在を経て、現在、中国科学技術信息研究所総工程師、中国科学技術情報学会常務 理事、中 国ソフトサイエンス研究会副秘書長・常務理事、中国科学学・科学技術政策研究会理事、「 情報学報」編集長、「中国ソフトサイエンス」常務副編集 長。科学計量学、科 学技術政策研究及び米国の科学技術問題に関する研究論文多数発表、その内の7編は、SCI、SSCI、ISTPに収録される。< /p>