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【12-019】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅰ)

金 振(地球環境戦略研究機関気候変動グループ特任研究員)  2012年12月21日

1-1.大気汚染防止法および大気質基準

表1:中国大気質環境基準(GB3095-1996)

表

 中国における初期の大気汚染関連の法律規定は、1979年に施行された『環境保護法(試行)』において見られたが、基本原則の例記に止まるものであった。1987年、初めての個別法『大気汚染防止法』が 制定され、管理監督責任の所在、中央政府と地方政府との役割分担、汚染物質排出者の法的責任などに関する規定が設けられた。『大気汚染法』が施行されてから、中央省庁レベルの省令(「都市煤煙、粉 じん抑制区管理弁法」、「自動車排気監督管理弁法」など)や国家基準(「ボイラ大気汚染物排出基準」、「鉄鋼業汚染物排出基準」など)も多数公布されている。

 大気質に関する国家基準は大気汚染防止法が制定される以前から存在しており、1982年に公布した「大気環境質基準(GB3095-82)」(以下、82年基準)がそれである。しかし、時間を遡れば、1 973年に公布した「工業企業設計衛生基準」に含まれている「住宅地の大気中に含まれる有害物質の最大許容濃度」が初期の大気質評価基準(応用基準)であるということができる。

 82年基準は、2012年まで、3回の改正が行われ(1996年の第1次改正:GB3095-1996、2000年の第2次改正:改正GB3095-1996、2012年の第3次改正:G B3095-2012)、第3次改正の基準は2016年1月1日より適用されることになる。

 第2次改正基準(表1)と比べた場合、第3次改正基準に関して、注目に値する改正が2点ある。1点目は、大気質の3分類評価体系が2段階評価体系に変わったことである。いままでの基準では、3 つの土地用途区域--1)自然保護区、景観名勝区、その他特別保護に値する区域2)都市計画上の居住区、商業・交通・居住混合区、文化区、一般工業区および農村地区3)特定工業区--に分け、3段階の大気質基準( 1級、2級、3級)を設け、区域1)には1級基準、区域2)には2級基準、区域3)には3級基準を適用していた(表2を参照)。これに対し、第3次改正基準では、地区3)が地区2)に吸収され、大 気質3級基準は撤廃された。これにより、特定工業区はより厳しい2級基準が適用されることになる。

 2点目は、地方政府の実情を勘案し、10種類の汚染物質を2つのグループ分けたことである。10種類の汚染物質は、第1クループ(SO2、NO2、CO、O3、PM10、PM2.5)および第2グループ( TSP、NOX、Pb、BaP)に分け、第2グループに関しては、地方政府の実情に合わせて選択導入できるようにした。そのほか、PM2.5に関する基準が新設されたことも注目に値する。

1-2.大気汚染の現状

 中国は、長年に渡ってSO2、やNOX(以下、主要汚染物質)に起因する光化学スモッグや酸性雨問題に悩まされてきた。大気汚染防止法(1987年)のもと、様々な取り組みが行われ、2 000年以降の主要汚染物質の排出量は減少傾向にある。特に、第11次5カ年計画(2006年~2010年)期間においては、初めてSO2を2005年比10%削 減するという国レベルの総量削減目標を掲げ、2 010年までに、-14.29%の削減が実現できた。

 しかし、大気汚染の現状は依然として厳しい。環境保護部(日本の環境省に相当)が2012年に公表した「2011年中国環境状況公報」によると、国土の12.9%に当たる地域に酸性雨が発生しており、2 011年だけでも観測対象となる468市町村のうち227市町村に酸性雨被害が確認できた。

 また、中国における大気質も油断できない状況にある。地級レベルの都市(計325)に限った2011年の大気質調査によると、実に11%の都市が国の定めた環境基準以下にあることが分かった。しかし、国 が指定した大気汚染対策重点地区(北京、天津、上海など19の省、市、地域が含まれ、国土面積の14%、全国人口の48%をカバー)に限ってみた場合、実に82%の都市が環境基準に達していない( 2010年の統計、重点区域大気汚染12次5カ年計画)。 

 中国の大気汚染問題の背景には、SO2、やNOXの発生源である石炭を大量消費するエネルギー事情がある。2011年の中国エネルギー統計によると、1次エネルギー消費における石炭の割合は81.3%( calorific value calculation)であり、2004年以来、継続的に81%前後をキープしている。

 SO2およびNOXの排出源には特徴がある。いずれの汚染物質も主な排出源は工業部門(火力発電部門も含む)ではあるが、NOXの場合、自動車部門に起因する排出が2番目に大きい排出源となり、全 体の26.5%を占めている。

表2:2011年主要汚染物質の排出量等(2011年中国環境状況公報)
単位:104t 排出総量 工業部門 民生部門 自動車部門 その他
SO2 2217.9 2016.5 201.1   0.3
NOX 2404.3 1729.5 37 637.5 0.3

 石炭消費の拡大、自動車の普及によるSO2およびNOXの排出量の増加は、PM、O3、酸性雨の二次汚染を加速させ、複合型大気汚染問題を招いている。「重点区域大気汚染12次5カ年計画」によれば、北 京、天津、河北省、上海、江蘇省、広東省などの地域では、年間100日以上の光化学スモッグ被害が観測され、個別の都市では200日以上に達している報告もある。


(注)本研究は、環境研究総合推進費S‐6「アジア低炭素社会研究プロジェクト」の研究成果の一部である。

[キーワード:重点区域大気汚染十二次五カ年計画 大気質環境基準 GB3095-2012 大気汚染防止法]

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金 振

金 振(JIN Zhen)

 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ特任研究員。1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年4月より地球環境戦略研究機関特任研究員(現職)。 

URL: http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/staff_view.php?sid=549