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【13-021】中国のインターネット音楽配信と著作権をめぐるビジネスモデルの新動向

2013年8月15日

朱根全

朱根全:北京雷津文化発展有限公司CEO
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)北京センター 所長

1968年 5月 中国江蘇省南通市生まれ
1983年 9月~1987年 7月 北京第二外国語学院日本語科在学
1987年 7月~1998年 3月 中国文学芸術界連合会国際部日本担当
1990年 7月~1991年 7月 日本音楽著作権協会(JASRAC)研修 
1997年12月~1998年12月 桐原書店著作権管理研修
1999年 5月~2012年 3月 日本音楽情報センター(JAMIC) 所長
2008年 8月~現在 北京雷津文化発展有限公司CEO
2010年 4月~現在 コンテンツ海外流通促進機構(CODA)北京センター 所長

 報道によると、ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、ソニーの音楽大手3社の後押しを受けて、中国の音楽配信ウェブサイト大手5社である騰訊、百度、酷我、酷狗、虾米は音楽の有料ダウンロードサービスの試行を開始した。

 これに対して、中国音像協会レコード業務委員会の周亜平副理事長は、多くの著作権バージョンのある音楽作品を持つ中国国内の1千社近くの音楽ウェブサイトと比べると、今回の有料の試行は音楽の規模でもウェブサイトの数でも限界があるとしている。国家版権局、中国音像協会、プロバイダーなどを含む関係者は有料ダウンロードに積極的に協力、推進しているものの、有料ダウンロードを大規模に普及させるには、まだ多くの課題がある。

 第一に、利用者が有料ダウンロードを簡単には受け入れないことだ。インターネット時代に入って以来、中国のネット利用者はネット上の資源を無料で使用する習慣がついており、この考え方を変えるのはきわめて困難だ。

 第二に、料金徴収制度に法的な規定が欠けている。法律関係者によると、音楽ダウンロードが消費者から料金を徴収するべきか否かについて、著作権保護の関連法律には規定がないという。音楽サイトの資金は最終的には市場行為によるものだ。関連部門は海賊版の音楽使用や、著作権費用の未払いといった行為を取り締まることができるだけであり、音楽に対する料金徴収を強固に要求することは料金徴収制度の進展をペースダウンさせるという。

 第三に、中国の音楽サイトは数が多く、統一的な料金徴収制度を導入することが難しい。プロバイダーにとって有料ダウンロードが「諸刃の剣」であることは間違いない。サイトの収入が増加すると同時に、ページプレビューの大きな低下をまねく可能性がある。現在の困難な局面では、失敗を恐れて率先して試す企業がないことだ。

 多くの音楽サイトの関係者は、何らかの制度が出され統一的に料金徴収を行い、同じプラットフォーム上で競争することを期待している。しかし音楽サイトは数が多すぎ、小規模で分散しているため、料金徴収制度で意見の一致をみるのは難しい。もし有料と無料のサイトがあった場合、無料サイトが有料サイトを打ち負かし、料金徴収制度が形骸化するのは間違いない。

 喜ばしいことは、プロバイダーと著作権企業は現在連合して、新制度の実現に力を入れている。業界関係者によると、今回ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、ソニーの大手3社が中国の大手サイト数社に対して、サイトが彼らに著作権料金を支払うよう要求するだけでなく、これらサイトが有料ダウンロードを行うように要求した理由は、プロバイダーや著作権企業が、優れたモデルを生み出すことが各回の料金徴収より重要だと考えたためだという。

 中国音映協会レコード業務委員会も積極的に協力し、百度音楽やQQ音楽、多米音楽などのサイトを組織して有料ダウンロードの制度を研究しているという。悪性の競争を避けるため、制度形成後は各サイトが足並みを揃え、制度を実施しないサイトについては同委員会が音楽発表の授権を認めないことを検討している。こうした業界協会が協力して多社が参加する推進方法は、有料制度の速やかな形成に役立つものだ。

 しかし、音楽配信サイトは一般的に、全ての最終消費者から料金を徴収するのは現実的ではないと考えている。一般的な意見は、音楽を等級別に分け、高品質で最新の音楽などには会員向け得点や月極めなどの方法で料金を徴収し、低品質のそれについては料金徴収を考えないというものだ。

 実際のところ、音楽サイトにとって、音楽ダウンロードの全面的な有料化は必須ではない。中国のインターネット企業は運営面において中国の「無料モデル」にすでに適応しており、無料コンテンツに基づくビジネスモデルを確立し、さらなる模索と改善を進めているところだ。こうしたビジネスモデルは利用者がアクティブであることを基盤とした上で構築されている。もし全面的に有料化するなら、利用者の利用頻度に直接影響を与え、実際には現在の音楽サイトの核心的な利益に影響を与える可能性がある。

 こうした状況下では、全面的に音楽有料ダウンロードを試行した音楽サイトが、長年にわたって築いてきた利用者の忠誠度を損ない、生存の基盤が脅かされることは間違いない。これでは誰も試さないのは当然だろう。ある音楽サイトの副総裁は「騰訊か百度のどちらかが行動を起こさないなら、他の音楽サイトの有料化は利用者の流失を意味する。どの会社も率先するリスクを冒すはずはない」と直言する。

 つまり、有料ダウンロードの運営モデルが普及するかどうかは、各社の足並みが一致するか否かにかかっている。一部企業のみが有料化した場合、利用者の流失による運営の困難をまねくだけだ。

 実際には、現在の百度音楽の99%以上の歌がまだ無料でダウンロード可能だ。QQ音楽は「政府の関連部門からまだ何も正式な通知を受けていない。QQ音楽は現在、引き続き無料のオンライン視聴と緑鉆(高品質MP3ダウンロードサービス)のビジネスモデルを提供している」と語る。音楽巴士、一聴音楽網などのサイトにいたっては、現在でも全て無料ダウンロードだ。

 資料によると、百度音楽はこれまで3種類の音質のMP3ダウンロードを提供してきた。128kは自由に、192kは登録後に利用可、320kは有料ダウンロードとなっている。しかし現在では128k、256k、320kの全てが自由にダウンロード可能で、Flacのみで有料となっている。こうした行動には気まずさを感じる人が多いだろう。

 ここからレコード会社関係者の主張が理解できる。「ネット企業である音楽配信サイトは、心から音楽業界を支援したいとは思っていない。音楽の有料ダウンロードの推進は、音楽サイト相互の競争や産業アップグレードのニーズによるものだ。彼らは手立てを尽くしてパイを争奪したいだけで、ただこうした行動が現段階では難しいだけだ」と言う。

 ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、ソニーのレコード大手3社は他のレコード会社に圧力をかけることで、最終的には今回の音楽サイトとの協力を実現したという。また大手3社は大手音楽サイトと直接交渉せず、共同で投資設立した著作権代理企業のOne-Stop China(略称OSC)を通じて交渉したのである。

 虾米網は以前メディアに対してこう語ったことがある。「虾米を例にとると、当社がOSCに与えた取り分は50%以上だ」。大まかに計算すると、虾米網1社でOSCは大手3社のために数百万元の著作権収益を獲得したことになる。またメディアの報道では「過去数年、虾米網は毎年約2千万元の著作権費用の支払いのために融資を利用するしかなかった」とある。

 こうした商業秘密にかかわる数字は、外部からは真偽を判断できない。実際、数字については本題ではなく、音楽サイトとレコード会社とがどのようにビジネスを行うかが注目点であるべきだ。コンテンツ提供を担当するレコード会社と、チャネルを提供する音楽サイトとの間の利益の衝突でどちらが大きな利益を手にするかが、双方の争点となっているのだ。

 業界関係者によると、音楽配信サイトとレコード会社が目下採用している取引モデルは一般に「年間契約」で、年に一度契約を結び、最低価格を交渉するものだ。つまり、レコード会社は一括で著作権を提供し、サイトも一括で料金を支払い、サイトが最終的にどのぐらいの収益を挙げるかについては、レコード会社は関与しない。

 「最低料金」の制度は科学的な判定根拠に欠け、双方のどちらかが損失を受けることは間違いない。例えば、サイト側があるアルバムで1千万元稼ぎ、理屈から言えばレコード会社と山分けで500万元支払うべきところを、実際にはレコード会社は最低料金の100万元しか手にしないのだったら、これはレコード会社側の損失となる。逆に、サイトが100万元を支払ったのに、その歌が10万元しか稼がなかった場合、損をするのは音楽サイトだ。

 基準が統一されていなことは、規則が不公平であることを意味する。これは価格交渉権の問題だ。ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、ソニーのような大手音楽企業は著作件数の面で絶対的な優位性を持つため、音楽サイトとの交渉時には絶対的な価格交渉権を持つことになる。

 中国音映協会レコード業務委員会の宋柯副理事長によると、コンテンツサプライヤーは40%以上の利益を挙げて初めて生存可能だが、ネット時代に40%というラインを死守できるかどうかは確かではないという。「こうした低レベルの最低料金の事前支払いの方法で計算するのは、あまりにでたらめだ。今検討すべきなのは、有料化すべきか、いくら支払うかではなく、どのように料金徴収を行うかという問題であるべきだ」と語っている。

 今回の有料ダウンロードの規則の実現は、まさにこの重要な問題を解決するものである。