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【14-024】混合所有制改革と外国企業のM&Aビジネスチャンス

2014年10月22日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

森・濱田松本法律事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

 2013年11月に行われた中国共産党第18期第3回大会において可決された「改革を全面的に深化する若干の重大問題に関する決定」(以下、「本決定」という)によれば、混合所有制経済は、中 国の基本経済制度の重要な実現方法であり、混合所有制を発展させることは、中国国有企業の改革を深める基本方向であるとされている。本決定公布後、①上海市をはじめとする20以上の省、直 轄市の政府が国有企業改革案を公布し、混合所有制改革を積極的に実施する姿勢を示しており、②国有資産監督管理委員会は、中国医薬集団総公司及び中国建築材料集団有限公司を、混 合所有制改革を試験的に実施する最初の対象と指定し、③中国石油化工集団公司、中国電力投資集団、国家電網公司等の中央レベルの国有企業が続々と混合所有制改革案を公表し、④中国中信集団(即ち、中 国国際信託投資公司、CITIC)及び上海緑地集団等は、集団全体を上場させることで、混合所有制を実現することを計画している等、最近、中国は、「混合所有制改革」方式による、国 有企業改革の新しい時代に入っていると言われている。

 本稿では、混合所有制改革とは一体何を指すのか、何故、今になって混合所有制改革が重要視されるようになったのかを紹介した上で、こうした動きが、外国企業の中国におけるビジネスチャンス、特 にM&A取引のチャンスの面で、何を意味するかを概観することとしたい。

一、混合所有制改革とは

 本決定によれば、混合所有制経済とは、国有資本、集団資本及び非公有資本が交互して持分を持ち合い、相互に融合する経済を指し、これにより、国有資本の機能を拡大し、国有資産の価値を維持・増加し、競 争力を増加すると同時に、各種所有制資本の長所をとり、相互促進、共同発展することができるとされている。

 1990年代から始まった国有企業の改革、特に、1994年版の会社法により導入された現代企業制度に従った国有企業の有限会社化又は株式会社化の改革により、すでに、ほ とんどの国有企業に民間資本や外資等の非公有資本が入っている等、国有企業における国有資本の比率は相当程度下がっているのが現状である。例えば、中 央企業及びその子会社が支配する上場会社における非国有資本の比率は53%を超えており、地方国有企業が支配する上場会社における非国有資本の比率は60%を超えていると言われている。この意味では、混 合所有制経済はすでにある程度実現されていると言える。従って、本決定によって再び脚光を浴びるようになった混合所有制改革は、今まで行われたような、各種資本の単純な混合ではなさそうである。今 までと区別される重要な点は、やはり上記定義の後半部分、即ち、混合所有制改革を通じて実現しようとする目的のほうにあるように思われる。この点については、次節において国有企業の弊害を概観した上で、か かる弊害の対応策として打ち出された混合所有制改革の中身及びその重要性を見ることとしたい。

二、混合所有制改革の重要性

 伝統的なコーポレートガバナンスの理論によれば、所有者と経営者とは、それぞれの利益及び目的が異なることから、所有者の代理人としての経営者が自らの利益を図る一方、所有者の利益を図らない、い わゆるエージェンシーコストの問題が存在し、かかる問題をどのように解決するかが、企業内部統治における重要な課題となる。ところが、国有企業は、所 有者による経営者に対する監督が一番機能しない所有制であるといわれている。これは、国有企業、言わば全民所有制企業の場合、所有者は全国民になるため、具体的に誰が全国民を代表して、所 有者としての機能を果たすかが常に問題となる。

 中国の場合、従来、複数の政府部門に分散されていた権利を一つにまとめ、国有資本を代表する所有者としての機能を果たす使命を持つ国有資産監督管理委員会が2003年に発足されたが、そ の効果はあまり理想的ではない。実務上は、政府と企業の機能が分離されていない問題、政府が人事権、投資決定権、企業経営管理権等の面において、企業に関与しすぎるといった問題が生じている一方で、国 有企業の経営者に対する監督が欠如し、経営者(インサイダー)のパワーが強すぎるといった、上記と正反対の問題も生じている。これに加えて、国有企業の従業員、経営層には国有企業に対する所有権がないことから、企 業価値を増やすために働くインセンティブが足りないとの問題も存在する。また、エージェンシーコストの問題は、所有者と経営者との間で存在するだけではなく、大株主と少数株主との間にも存在し、大 株主の持分比率が大きく、その力が大きければ大きいほど、少数株主の利益が損害される可能性が高く、少数株主は、会社の董事会、株主総会等でその権利を保護する手段が制限されてしまうような問題が生じる。中 国の国有企業の場合、国有資本の持分比率が絶対的過半数を占める会社が少なからず存在する。また、国有資本が相対的多数しか占めない場合でも、そ の他の資本が実質政府を代表する国有資本に対抗しても懲罰されないような制度が欠如しているため、株主間でのエージェンシーコストの問題が生じてしまう。これらの問題が長期的に混在した結果、国有企業には、一 般的に効率が悪く、競争性が低下し、腐敗が蔓延するといった弊害が存在する。

 中国共産党及び中国政府は、上記のような国有企業の弊害の根本的な原因は、①国有企業における国有資本の比率が高すぎること、②各所有制の資本(株主)が 企業の董事会をプラットフォームとして企業を管理する、本来の意味でのコーポレートガバナンス体制が確立されていないことにあることを認識し、これらの問題を解決する鍵は、混 合所有制改革にあると判断したようである。国有企業改革には、当然ながら、国有資産監督管理委員会を含む、政府の改革も含まれる。但し、今回の改革では、まずは、混合所有制により、国 有資本以外の資本の持分比率を増やすことにより、董事会における力学的な構造を変えることが最優先されているようである。その後、現代的なコーポレートガバナンス体制を実現することがあげられている。こ れらの措置を取ることにより、政府による企業事情への干渉を減らし、各所有制資本が企業の董事会を通じて、平等に権利行使し、相互に牽制し、相互に強みを発揮することが可能となり、国有企業に活力を与え、競 争力を上げ、最終的に国有資本による産業調整機能(成熟した競争性産業から国有資本を撤退させ、育成中の戦略的新興産業を発展させたり、産業構造改革に関連する重要技術の突破に貢献させたり、公 共サービスを提供させたりすることで、非公有資本では発揮できない機能)を果たすことが期待されているようである。この意味で、混合所有制改革は、中国が8%以 上の高度成長を達成できる時代が終ったといわれている現在、ミクロの面で国有企業を活性化することにより、マクロ的な面で、産業構造を改革し、次の経済成長を図るといった重要な使命を担っている。

三、外国企業のM&Aビジネスチャンス

 まず、混合所有制改革は、非公有資本を国有企業に参入させることにより、国有企業の所有者構造の多元化を図るものである。現時点での文献の多くは、非公有資本の例として、中 国国内の民間資本や国有企業の経営層や従業員による持株会を挙げることが多いが、外国資本も実は重要な非公有資本であり、混合所有制改革において、外国資本を排除するような規定・文献・議 論は今のところ見当たらない。従って、外国企業にも、これからの中国の国有企業の混合所有制改革に参加する道は開かれていると言える。

 次に、混合所有制改革は、国有企業における国有資本の持分比率が更に下がることを意味する。現在、国有資産監督管理委員会による混合所有制改革の全体的な方案はまだ公表されておらず、混合所有制により、国 有資本の比率を具体的にどこまで下げるかについては、明確で統一的な基準は存在しない。但し、上述した通り、国有資本の比率が突出して高いことは、コ ーポレートガバナンスの観点から望ましくないことが広く認識されるようになっている。また、混合所有制のあるべき姿、国有企業改革の成功例として紹介されている多くの事例(例えば、格力電器、中国国際海運集装箱( 集団)、中聨重科等)において、国有資本の比率が50%以下、或いは、30%以下まで下がっており、国有資本が筆頭株主の地位を譲っているケースも多く、国有資本、民間資本、外国資本、従 業員持株会による個人資本がいずれも単独支配ができず、相互牽制する資本構造になっており、こういった持分の分散、国有資本の持分比率の低下により、各 所有制の資本が積極的に企業の管理監督に参加する道を開くことが、企業運営のメカニズムを改善する面で重要であると指摘されている。以上から、国有資本による持分売却取引が確実に増えることが予想され、外 資によるM&A取引のチャンスも増えるだろう。

 最後に、混合所有制改革の本質は、現代的なコーポレートガバナンス体制の導入である。このため、ガバナンスの面において、中国民間資本より経験と実績がある外国資本が好まれることも十分に予想される。