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【19-010】不正競争防止法の改正について

2019年5月23日 中倫律師事務所東京オフィス

 2019年4月23日、第十三回全国人民代表大会第十次会議において「『中華人民共和国建築法』等八件の法律の改正に関する決定」が決議されました。

 これには、2017年11月4日に改正されたばかりの「不正競争防止法」(2018年1月1日施行)に対する改正も含まれ、下記1のとおり、「不正競争防止法」第9条、第17条及び第21条が改正され、新たに第32条が追加されました。

1. 改正内容

(下線部分が改正箇所)
不正競争防止法
(2017年11月4日改正、2018年1月1日施行)
不正競争防止法
(2019年4月23日改正、施行)
第 9 条(営業秘密侵害行為) 
事業者は、次の各号に掲げる営業秘密を侵害する行為を行ってはならない。
  1. 窃盗、賄賂、詐欺、脅迫又はその他の不正な手段で、権利者の営業秘密を取得すること
  2. 前号の手段で取得した権利者の営業秘密を開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること
  3. 約定に反し、又は権利者の営業秘密保持についての要求に反して、その所持する営業秘密を開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること
第三者が、営業秘密の権利者の従業員、元従業員又はその他の単位、個人が前項に掲げる違法行為を行ったことを明らかに知り、又は知り得べきでありながら、なおも当該営業秘密を取得し、開示し、使用し、又は他人に使用を許諾したときは、営業秘密を侵害したものとみなす。 
本条にいう営業秘密とは、公知ではなく、商業的な価値を有し、かつ権利者が相応の秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報をいう。
第 9 条(営業秘密侵害行為) 
事業者は、次の各号に掲げる営業秘密を侵害する行為を行ってはならない。
  1. 窃盗、賄賂、詐欺、脅迫、電子的侵入又はその他の不正な手段で、権利者の営業秘密を取得すること
  2. 前号の手段で取得した権利者の営業秘密を開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること
  3. 秘密保持義務に反し、又は権利者の営業秘密保持についての要求に反して、その所持する営業秘密を開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること
  4. 他人による秘密保持義務の違反又は権利者の営業秘密保持についての要求の違反を教唆、誘導、幇助し、権利者の営業秘密を取得し、開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること
事業者以外のその他の自然人、法人及び非法人組織が前項に定める違法行為を実施した場合は、営業秘密を侵害したものとみなす。
第三者が、営業秘密の権利者の従業員、元従業員又はその他の単位、個人が本条第1項に掲げる違法行為を行ったことを明らかに知り、又は知り得べきでありながら、なおも当該営業秘密を取得し、開示し、使用し、又は他人に使用を許諾したときは、営業秘密を侵害したものとみなす。 
本条にいう営業秘密とは、公知ではなく、商業的な価値を有し、かつ権利者が相応の秘密保持措置を講じている技術情報及び経営情報等の営業情報をいう。
第 17 条(損害賠償) 
事業者が本法の規定に違反し、他人に損害を与えたときは、法に従い民事責任を負わなければならない。
事業者の合法的権益が不正競争行為により損害を受けたときは、人民法院に訴訟を提起することができる。
不正競争行為により損害を受けた事業者の賠償金額は、当該事業者が権利侵害によって受けた実際の損失に従って確定する。実際の損失を計算することが難しいときは、権利侵害者が権利侵害によって得た利益に従って確定する。賠償金額は、事業者が権利侵害行為を制止するために支払った合理的な支出も含むものとする。 
事業者が本法第 6 条、第 9 条の規定に違反した場合において、権利者が権利侵害によって受けた実際の損失、権利侵害者が権利侵害によって得た利益を確定することが難しいときは、人民法院は権利侵害行為の情状に基づき 300 万元以下の賠償を権利者に与える旨の判決を下すものとする。
第 17 条(損害賠償) 
事業者が本法の規定に違反し、他人に損害を与えたときは、法に従い民事責任を負わなければならない。
事業者の合法的権益が不正競争行為により損害を受けたときは、人民法院に訴訟を提起することができる。
不正競争行為により損害を受けた事業者の賠償金額は、当該事業者が権利侵害によって受けた実際の損失に従って確定する。実際の損失を計算することが難しいときは、権利侵害者が権利侵害によって得た利益に従って確定する。事業者が悪意により営業秘密侵害行為を実施し、情状が重大であるときは、上記の方法により確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償金額を確定できる。賠償金額は、事業者が権利侵害行為を制止するために支払った合理的な支出も含むものとする。 
事業者が本法第 6 条、第 9 条の規定に違反した場合において、権利者が権利侵害によって受けた実際の損失、権利侵害者が権利侵害によって得た利益を確定することが難しいときは、人民法院は権利侵害行為の情状に基づき 500 万元以下の賠償を権利者に与える旨の判決を下すものとする。
第 21 条(営業秘密侵害行為) 
事業者が本法第9条の規定に違反し、営業秘密を侵害したときは、監督検査部門が違法行為の停止を命じ、10万元以上50万元以下の過料に処する。情状が重大であるときは、50万元以上 300万元以下の過料に処する
第 21 条(営業秘密侵害行為) 
事業者並びにその他自然人、法人及び非法人組織が本法第9条の規定に違反し、営業秘密を侵害したときは、監督検査部門が違法行為の停止を命じ、違法所得を没収し、10万元以上100万元以下の過料に処する。情状が重大であるときは、50万元以上500万元以下の過料に処する
  第32条(立証責任の分配)
営業秘密の侵害に関する民事裁判プロセスにおいては、営業秘密の権利者が初歩的な証拠を提供し、自らが主張する営業秘密について秘密保持措置を講じていることを証明し、かつ営業秘密が侵害されたことを合理的に示す。権利侵害の嫌疑のある者は権利者が主張する営業秘密は本法に定める営業秘密に該当しないことを証明しなければならない。
営業秘密の権利者が初歩的な証拠を提供し、営業秘密が侵害されたことを示し、かつ次に掲げる証拠のいずれかを提供した場合は、権利侵害の嫌疑のある者は自らによる営業秘密の侵害行為が存在しないことを証明しなければならない。
  1. 権利侵害の嫌疑のある者は営業秘密を取得するルート又は機会があり、かつその使用する情報が当該営業秘密と実質的に同じであることを示す証拠
  2. 営業秘密が権利侵害の嫌疑のある者により開示、使用又は開示、使用されたおそれがあることを示す証拠
  3. 営業秘密が権利侵害の嫌疑のある者により侵害されたことを示すその他の証拠

2. 改正のポイント

 今回の改正ポイントとして、次のことが挙げられます。

①  営業秘密の範囲拡大

営業秘密の定義を、「技術情報及び経営情報等の営業情報」に修正したことにより、技術情報及び経営情報に限らず、より広範的に解釈できるようになります。これは、中国におけるビッグデータの活用及び発展に応える修正であると思われます。

②  営業秘密の侵害者の範囲を拡大

営業秘密を侵害する者について、従来の「事業者」に加えて、「その他の自然人、法人及び非法人組織」が追加されました。これにより、転職後の従業員が前職の営業秘密を漏洩したといったケースにおいて、「不正競争防止法」に基づき、当該従業員に対し権利侵害責任を追及することが可能となります。

③  権利侵害の手段及び権利侵害行為の範囲を拡大

権利侵害の手段に「電子的侵入」が追加されました。これにより、アクセス権限を持たない者によるサーバーや情報システムへの侵入がカバーされるようになります。

また、間接的な権利侵害行為として、「他人による秘密保持義務の違反又は権利者の営業秘密保持についての要求の違反を教唆、誘導、幇助し、権利者の営業秘密を取得し、開示し、使用し、又は他人に使用を許諾すること」が追加されました。これは、他社から技術者等を引き抜く際に特に留意する必要がある点となります。

④  権利侵害行為に対する処罰をより厳格化

具体的には、上記の通り、処罰の上限金額が引き上げられました。同時に、悪意のある権利侵害者に対する懲罰的な損害賠償規定が追加されました。

⑤  権利者の挙証責任を一定程度緩和

新たに追加された第32条には、民事訴訟手続きにおける権利者及び権利侵害の嫌疑のある者との間の立証責任に関する分配が明記され、権利者側の立証責任が一定程度緩和されました。これまでも、裁判官の裁量により実務上で第32条規定の内容が運用されていたケースはありますが、法律に明記されたことにより、今後より幅広く運用されることが期待されます。

3. その他

 今回の「不正競争防止法」に対する改正は、中国政府による知的財産権の保護の更なる強化を示すものであり、2019年3月15日に公布された「外商投資法」の第23条における営業秘密の保持及び第39条における営業秘密の漏洩に関する罰則を具体化したものであると考えられます。

 来年施行される「外商投資法」と「不正競争防止法」の改正が相乗効果を生めば、中国の外商投資の環境は、より整備されたものになると期待できます。

中倫律師事務所 東京オフィス

代 表・パートナー弁護士:李美善  E-mail:mslee
パートナー弁護士:孫彦  E-mail:mslee
中国弁護士:李敬花 E-mail:lijin

■掲載の内容は広く一般から収集した情報を独自にまとめたものであり、当所及び当所弁護士の法的意見を述べたものではありません。
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※本稿は、中倫律師事務所発行のニュースレター「不正競争防止法の改正について」を中倫律師事務所の許諾を得て転載したものである。