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【19-028】中国の外商投資法実施条例(意見募集稿)について

2019年12月5日

柳陽

柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表

北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。

事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp

 近時、中国における外商投資領域の基本法である外商投資法が、4年以上の審議をかけて採決され、2020年1月1日に施行されることとなった。それに伴い、外商投資法の下位法規として、2019年11月1日、中国の司法部が「外商投資法実施条例(意見募集稿)」(以下「実施条例」という。)を公表し、同年12月1日までパブリックコメントを募集した。実施条例は、外商投資法で定めたフレームワークの下、関連条文を明確化又は具体化しており、今後、外商投資法と共に中国における外商投資活動を規範することとなる。以下では、実施条例の主な内容を紹介する。

1.中国自然人とのジョイントベンチャーが可能に

 外商投資法第2条によれば、外商投資の一形式として、外国投資家が単独又はその他の投資家と共同で中国国内において外商投資企業を設立することが挙げられているが、この「その他の投資家」に、中国自然人が含まれるか否かが明確ではなかった。また、現行法では、ごく一部の例外事由を除き、外商投資企業の中国投資家には自然人が含まれないとされていた。これに対して、実施条例では、前記の「その他の投資家」に中国自然人を含む旨が明確に規定されている(第3条)。これにより、今後、外国投資家は、中国国内の企業等に限らず、中国自然人とも共同で出資することが可能となる。

2.ネガティブリストについて

 中国は、外商投資について「参入前内国民待遇+ネガティブリスト」という管理制度を実施することとされている(外商投資法第4条)。すなわち、ネガティブリストに記載された投資分野のうち、外商投資が禁止される分野については、外国投資家は投資してはならず、外商投資が制限される分野については、外国投資者は関連条件を満たした上で投資することができるとされている。

 ここにいう「ネガティブリスト」とは、国務院投資主管部門及び国務院商務主管部門等が共に提出し、国務院が公表等をすることが規定されている(第6条)。現行のネガティブリストは、2019年6月30日付で公表されたものであるが、ここ数年、年に1度のペースで改訂されていることを踏まえると、次回の改訂は、2020年6月頃になると予想される。また、商務部の担当者のコメントでは、今後、ネガティブリストは更に縮小される見込みであり、外商投資の自由度が更に上がるものと思われる。

 さらに、実施条例によれば、ネガティブリストに記載された投資分野のうち、外商投資が制限される分野について、持分比率、高級管理職等に関する制限に適合しなければならない(パートナシップ企業の場合は、パートナシップ契約における外国投資者の議決権比率は、一定の持分比率の制限に適合しなければならない。)と規定されている(第34条)。

 なお、中国資本の企業又は中国自然人が海外で設立した企業がさらに中国国内で投資する場合、国務院の審査認可を得れば、ネガティブリストの制限を受けないこととなる特例も規定されている(第35条)。

3.ネガティブリスト以外は内国民待遇と同様に

 外商投資法によれば、別途ライセンスの取得が必要な業種については、内外資一致の原則に基づきライセンス付与の手続が行われる旨が定められている(外商投資法第30条)。この点について、実施条例は、審査認可機関は内外資一致の条件及び手続に従って外国投資家のライセンス申請を審査すべきであり、外国投資家に追加の条件を課したりより厳格な基準を適用したりしてはならないと規定している(第37条)。

4.外商投資の優遇策

 中国は、国民経済及び社会発展の需要に応じて、外国投資者による特定の業界、領域及び地区への投資に関する優遇策を実行する(外商投資法第14条)。このような方針の下、実施条例は、かかる優遇策は、財政、税収、金融、土地使用等に亘ると規定し(第13条)、また、外国投資者が中国国内での投資収益をもって中国国内に投資を拡大する場合(「再投資」)、相応の優遇策を享受するとも規定している(第14条)。

5.海外送金の自由化

 外商投資法によれば、外国投資家が中国国内における出資、利益、資本収益、資産処分による収益、知的財産権のロイヤリティ、法により取得した補償又は賠償、清算所得等は、法に基づき人民元又は外貨により自由に受け取り、又は送金することができるとされている(外商投資法第21条)。これを受けて、実施条例はさらに具体化し、「外国投資家の両替する通貨の種類、金額及び出入金の頻度等を法に違反して制限してはならない。また、外国籍従業員の給与所得及びその他の合法的な収入について、法により納税した後、自由に送金することができる」と規定している(第23条)。

6.会社組織・ガバナンスの変更

 現行法に基づき設立された外商投資企業は、外商投資法の施行後、その組織機構やガバナンス体制に関して外商投資法が適用されるため、5年間の猶予期間内に見直しが求められる(外商投資法第42条)。これに違反した場合の罰則については、実施条例によれば、5年間の猶予期間内に組織機構等を変更することができ、猶予期間満了後の2025年1月1日から6か月以内に法に従って変更しなければならない。期限を過ぎても変更しない場合には、当該企業のその他の登記事項を行わず、また、当該違反情報を企業情報公示システムで公示することができると規定されている(第42条)。

7.その他

 実施条例は、他にも、国による外商投資に関するサービスの健全化やクレーム対応体制の構築、企業融資の促進、収用の禁止、知的財産権・商業秘密の保護、外商投資情報報告制度等について、外商投資法の基本方針を受けてより具体化している。

 実施条例は、外商投資法と同じく2020年1月1日からの施行が規定されている。施行日まで残り1か月に迫っており、2019年12月中の採決が予想される。施行後には、外商投資を規制する基本法として、外商投資法と共に、日系企業を含む外商投資企業に大きな影響を与える可能性が大きい。今後、一連の法整備及び実務上の運用に引き続き注目する必要がある。

(以上)