【20-004】外商投資法及びその実施条例の施行がもたらす影響と企業の対応
2020年2月12日
柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表
北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。
事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp
中国では、2020年1月1日付で、外商投資法及び外商投資法実施条例(以下「外商投資法等」という。)が施行された。これまで、外国投資者が中国において現地法人等を設立する場合は、外資企業法、中外合弁経営企業法及び中外合作経営企業法といったいわゆる外資三法に基づき、外商投資企業が設立されていたが、外商投資法等の施行に伴い、外資三法が廃止され、今後、外商投資法等が外商投資領域の基本法となる。
新規で設立する外商投資企業は、当然、外商投資法等に従うことになるが、既存の外資三法に基づき設立された外商投資企業に関しては、外商投資法等からどのような影響を受けるか検討を要する。本稿では、外商投資法等の施行後に既存の外商投資企業のとるべき対応について併せて紹介することとする。なお、重要性の観点から、外商投資企業のうち中外合作企業については割愛する。
1.外資独資企業
外資三法に基づく外資独資企業とは、外国投資者が中国国内において設立・運営する企業のことである。外商投資法等の施行により、外資独資企業が受ける影響及びとるべき対応は、主に以下の通りである。
※投注差とは、外商投資企業の投資総額と登録資本金との差である | |||
項目 | 外資三法の定め | 外商投資法等の定め | 対応策 |
企業の組織形態 | 有限責任会社又は審査認可を受けたその他の責任形態 | 有限責任会社又は株式会社 | 既存の外資独資企業のほとんどは有限責任会社であると思われるが、そうでない場合には組織形態を変更する必要がある。 |
積立金 | 税引き後の利益から予備基金及び従業員奨励福利基金を控除しなければならない。予備基金の控除比率は税引き後利益の10%を下回ってはならず、累計控除額が登録資本の50%に達したときは控除を中止してもよい。従業員奨励福利基金の控除比率は、外資独資企業が自ら確定する。 | 当年の税引き後利益を分配する時、利益の10%を会社の法定準備金として積立てなければならない。会社の法定準備金の累計額が会社の登録資本金の50%以上である場合、新たな積立を必要としない。 | 従業員奨励福利基金の定めがなくなった。外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
清算・解散 | 清算委員会は法定代表者、債権者代表及び関連主管機関の代表から構成され、かつ中国の公認会計士、弁護士等を招聘して参加させなければならない。 | 有限責任会社の清算委員会は株主により構成され、株式会社の清算委員会は董事又は株主総会が確定する人員で構成される。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
投資総額 | 投資総額は定款の必須記載事項である。 | 条文上、投資総額の定めがない。 | 実務上においては、まだ投資総額がなくなったわけではないので、定款にある投資総額に関する記載はそのまま残してよい。 |
外債 | 企業は投注差※の範囲内又は純資産の2倍額内に外債を調達することができる。 | 条文上、投注差の概念がない。 | 外債管理上、引き続き投注差モデル等が使用されるかについてまだ不明確であり、関連法令の制定又は改正が待たれる。 |
審査認可手続 | 外資独資企業の設立又は変更がネガティブリストに関わらない場合、オンラインで商務部門へ届け出なければならない。ネガティブリストの制限類に関わる場合には、商務部門へ審査認可を申請しなければならない。 | 企業登記システム及び企業信用情報公示システムを通じて商務部門へ届け出なければならない。 | ネガティブリストの制限類に該当する場合でも、商務部による審査認可を経る必要がなくなり、商務部門へ届出をすれば足りる。 |
2.中外合弁企業
外資三法に基づく中外合弁企業とは、外国投資者が中国国内において、中国の会社、企業又はその他の経済組織と共同で設立・運営する企業のことである。外商投資法等の施行により、中外合弁企業が受ける影響及びとるべき対応は、主に以下の通りである。
項目 | 外資三法の定め | 外商投資法等の定め | 対応策 |
組織形態 | 有限責任会社 | 有限責任会社又は株式会社 | 必要に応じて組織形態を変更する。 |
外資比率 | 外国投資者の出資比率が原則として 25% を下回らない。 | ネガティブリストに挙げられた分野を除き、外国投資者の出資比率に制限がない。 | 必要に応じて、外国投資者の出資比率を25%未満に引き下げてもよい。 |
意思決定機関 | 董事会 | 株主総会 | 意思決定機関を変更し、定款を修正する。 |
法定代表者 | 董事長 | 董事長、執行董事又は総経理 | 必要に応じて、法定代表者を執行董事又は総経理に任命させてもよい。 |
董事会 | 董事長を設置しなければならない。董事は 3 名以上であり、各合弁当事者から任命派遣される。 | 株主の人数が比較的少ない又は規模が比較的小さい有限責任会社は、執行董事を1名置き、董事会を設置しないことができる。 | 必要に応じて、董事会の代わりに執行董事を設けてもよい。 |
決議 | 定款修正、清算、増資減資、合併分割等の重大事項について、出席した董事の全員一致でなければ決議できない。 | 株主総会で行う、定款の修正、登録資本の増加又は減少の決議、及び会社の合併、分割、解散又は会社形式の変更の決議は、 出席した株主が保有する議決権の3 分の 2 以上で採択しなければならない。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
持分譲渡 | 合弁当事者の一方がその持分を第三者に譲渡する場合、合弁当事者の他方の同意を得なければならない。また、合弁当事者の他方は優先購入権を有する。 | 株主が株主以外の者に持分を譲渡する場合は、その他の株主の過半数の同意を得なければならない。株主は、その持分譲渡事項を書面によりその他の株主に通知し、その同意を求めなければならず、その他の株主が書面通知の受領日から 30 日が経過しても回答しない場合は、譲渡に同意したものとみなす。その他の株主の半数以上が譲渡に同意しなかった場合は、同意しなかった株主はかかる譲渡対象持分を買い取らなければならず、買い取らない場合は、譲渡に同意したものとみなす。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
積立金 | 税引き後利益から予備資金、従業員奨励福利基金、企業発展基金を控除するものとし、控除比率は董事会が確定する。 | 当年の税引き後利益を分配する時、利益の10%を会社の法定準備金として積立てなければならない。会社の法定準備金の累計額が会社の登録資本金の50%以上である場合、新たな積立を必要としない。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
利益分配 | 各合弁当事者は出資比率に応じて分配する。 | 有限責任会社の場合は株主が実際に払い込んだ出資比率に従って分配する。但し、全株主が出資比率によらずに分配することを定めている場合はこの限りではない。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
清算・解散 | 清算委員会のメンバーは一般的に董事から選任される。 | 有限責任会社の清算委員会は株主により構成され、株式会社の清算委員会は董事又は株主総会で人員構成を確定する。 | 外商投資法等に従って、定款にかかる記載を修正し、また、実務上の対応を改める必要がある。 |
投資総額 | 投資総額は定款の必須記載事項である。 | 条文上、投資総額の定めがない。 | 実務上においては、まだ投資総額がなくなったわけではないので、定款にある投資総額に関する記載はそのまま残してよい。 |
外債 | 企業は投注差の範囲内又は純資産の2倍額内に外債を調達することができる。 | 条文上、投注差の概念がない。 | 外債管理上、引き続き投注差モデル等が使用されるかについてまだ不明確であり、関連法令の制定又は改正が待たれる。 |
審査認可手続 | 外資独資企業の設立又は変更がネガティブリストに関わらない場合、オンラインで商務部門へ届け出なければならない。ネガティブリストの制限類に関わる場合には、商務部門へ審査認可を申請しなければならない。 | 企業登記システム及び企業信用情報公示システムを通じて商務部門へ届け出なければならない。 | ネガティブリストの制限類に該当する場合でも、商務部による審査認可を経る必要がなくなり、商務部門へ届出をすれば足りる。 |
3.具体的な対応
以上述べてきた通り、外商投資法の施行により、外資三法に基づき設立された外商投資企業は今後、その組織機構やガバナンス体制に関して外商投資法等が適用される。中国に進出している日本企業は、中国現地法人の現行体制を見直し、外商投資法に対応したガバナンスを構築していくことが急務である。
具体的には、まず、中国現地法人の定款、合弁契約、組織運営に関する社内規程、株主総会・董事会等の開催状況・議事録などを全面的に点検する。次に、点検により中国現地法人の問題点を洗い出し、問題点に対するそれぞれの対応策を検討し、書面化する。さらに、検討結果に基づき、社内各規程などを改訂・新規作成し、実際の運営において新たなガバナンス体制を構築していくべきである。
4.対応期間
既存の外商投資企業には、外商投資法等の施行から5 年間の猶予期間が設けられている。すなわち、既存の外商投資企業は、2020年1月1日から2024年12月31日までの期間内に、定款の修正や必要な組織機構の変更等を行う必要がある。期限を過ぎても行わない場合には、会社登記機関は、当該外商投資企業のその他の登記を拒否することができ、かつ、関連違反情報を企業情報公示システムで公示することができるとされている。
外商投資法等の施行により、会社組織の抜本的な見直しが必要な場面も想定されるので、余裕をもって早期に取り組むことが望まれる。
(以上)