【20-015】民法典、個々人への影響は?
2020年08月31日 周群峰(『中国新聞週刊』記者)、江瑞(翻訳)
民法典(草案)の施行を前に注目ポイントが次々と明らかになってきた。ここでは総則編、相続編、物権編、契約編、人格権編、婚姻・家庭編、侵権責任編について詳細にまとめる。ゆりかごから墓場まで、各ライフステージにおける権利のすべてが、民法典の中にある。
法典とは、同一カテゴリの各種法規を整理、編纂、校訂して形成された体系的法律である。民法典は「民権保護の母」と称えられており、その狙いは公民の様々な権利である公民権を保護すること。つまり、民法典は人民の私権を保障する基本法なのである。
民法典(草案)の施行を前に、その注目ポイントが次々と明らかになってきた。例えば、胎児の権利保護のさらなる強化、住宅の物権の70年後の自動更新、高利貸しの禁止、「機関、企業、学校等」におけるセクハラ防止責任の明確化、自然人の「Eメールアドレス」「行動記録」の個人情報保護対象化、養子縁組条件の緩和、軽率な離婚を回避するための30日間の「離婚冷静期」の設置、人格権法の侵権〔権利侵害〕責任法からの独立、高所からの物の投げ捨て・落下における管理会社の安全責任、扶養者の範囲拡大などなど、数え上げればきりがない。
著名な法学者で中国人民大学常務副学長の王利明は、1804年のフランス民法典が19世紀の家内制手工業時代の民法典の代表、1900年のドイツ民法典が20世紀の工業社会の民法典の代表だとすれば、中国の民法典は21世紀を代表する民法典となるだろうと述べた。
総則編、相続編:生涯を貫く権利保護
総則編は民法典(草案)の第一編だ。このうち、胎児の権利について明確な保護原則を提示したことが最大の注目ポイントの1つになっている。
総則編では次のように規定されている。「遺産を相続し、又は贈与を受ける等に関連する胎児の利益保護においては、胎児を公民権能力を有する者とみなす。但し、胎児が出生時に生存していなかった場合は、その公民権能力は当初より存在しないものとする」
1985年10月1日に施行された「中華人民共和国相続法」で、遺産分割時における胎児の相続権は既に明示されていた。ならば、今回、民法典(草案)の中で改めて胎児の権利保護を明確にした意義はどこにあるのか。
中国法学会民事訴訟法学研究会理事で山東大学法学院副教授の劉加良によると、相続法では胎児の相続分を保留すべきことのみが規定されており、この相続分に対応する主体の独立性は確定されていなかった。それに対し、民法典(草案)の規定によれば、遺産相続や贈与を受ける際、胎児は法律的に公民権能力を有する者とみなされる。これにより、胎児は訴訟主体となる資格を有し、民事訴訟において、母親の名前を借り「王某の胎児」として、単独で訴訟主体となることができる。
さらに、劉加良の説明によると、民法典(草案)の条文では、「遺産を相続し、又は贈与を受ける等」のように、「等」の字が加えられている。
「等」の法律文書における意味は2つあり、1つは列挙がまだ終わっていないこと、つまり「現時点で他にもある」ことを表す。もう1つは将来に向けた保留、つまり「現時点ではないが、今後はあるかもしれない」ことを表す。民法典(草案)の胎児の利益保護に関するこの条文の「等」は2つ目に該当し、将来、相続又は贈与を受ける以外に新たな事項が出現した場合、立法部門はそれも含めることができる。相続法に比べて、民法典(草案)の規定は、胎児の権益保護に対しさらに万全を期していると言える。
また、中国人民大学法学院院長の王軼によると、胎児はたとえ婚外子であっても、両親がどんな人物であっても、権益は同じように確認され保障されるという。
民法典(草案)では、胎児の権利保護に関して数多くの規定がなされているだけでなく、高齢者の権利保護措置に関する内容も多数ある。
2019年末時点で、中国の満60歳以上の人口は2億5,388万人に達し、総人口の18.1%を占めている。このうち満65歳以上の人口は1億7,603万人に達し、総人口の12.6%を占めるに至っている。中国は目下、世界で高齢者人口の最も多い国なのである。
しかし現実生活において、高齢者の一部は、介護など個人の権利を十分に保護されていない。
民法典(草案)の相続編では、遺産・贈与・扶養に関する合意制度を整え、扶養者の範囲を適宜拡大し、現行の相続法の関連規定を修正し、「自然人は相続人以外の組織又は個人と遺産・贈与・扶養に関する合意書を締結することができる。当該組織又は個人は、合意書に従って当該自然人の生・老・死・葬に関する義務を負い、遺産・贈与を受ける権利を享受する」と規定した。
取材に応じた専門家の解説によると、この条項は介護形式の多様化ニーズに応えたものであり、今後は、高齢者と組織又は個人が意見の一致を見さえすれば、遺産・贈与・扶養合意書を協議の上締結することができるようになる。これは、法律面における、中国の社会的家庭介護の新たな形式の模索でもある。
現行の相続法では「自書、代書、録音、口頭による遺言は、公正証書遺言を撤回、変更できない」と規定されている。それゆえ、高齢者が危篤状態にあるとき、たとえ口頭や書面などで遺言を修正したとしても、最終的に公証役場に行って変更手続をする時間がないまま死去してしまった場合、遺言者の遺志とは異なる結果を招いてしまう可能性がある。
相続法に公正証書遺言の効力を優先する規定があるのは、遺言者の遺志の真実性を保証するためである、と複数の専門家が指摘する。しかし、科学技術の進歩に伴い、今や多種多様な方法で遺言書の真実性を保証することが可能だ。したがって、この規定はもはや現代には適さない。ゆえに、民法典(草案)の相続編では公正証書遺言の効力を優先する規定を削除し、遺言者の本当の遺志をより尊重する方向に転換した。これはまた、昨今の公証改革の流れにも合致する。
この他、現代テクノロジーの発展に合わせ、相続編では、プリントアウトや映像といった新しい遺言形式も加えられている。
民法典(草案)の相続編では、遺産・贈与・扶養に関する合意制度を整え、扶養者の範囲を適宜拡大した。これは、社会的家庭介護の新たな形式の模索でもある。 写真/視覚中国
物権編:居住権制度を新設し、弱者にも住居を保証
民法典(草案)の物権編は、現行の単行法である物権法をベースに修正を加えてできたものだ。物権法の修正は、2007年の公布後、初めてとなる。物権編に新たに設けられた居住権制度などが注目ポイントとされている。
中国人民大学常務副学長、中国法学会副会長、民法学会会長の王利明によると、居住権とは、居住を目的とし、他者の住居及びその附属施設に対して有する占有、使用の権利を指す。物権法制定の過程では、居住権を定めるか否かについて、かつて大きな議論が巻き起こったことがあるが、後に立法機関が、家屋の賃借等の権利を居住需要とみなせる、という判断を下し、それ以後、居住権を定めることはなかった。しかし物権法の公布・施行後、社会環境の変化に伴い、居住権も物権とみなすべきだとの声が高まったことから、社会のニーズに応えるため、民法典(草案)では居住権を新設し、これを用益物権の一種とすることにした。
複数の民法学専門家が、居住権制度は今後、大きな意義を発揮していくだろうと評価している。
中国法学会民法学研究会副事務局長で北京理工大学法学院民法典研究センター主任の孟強は次のように指摘する。「居住権制度の主な目的は、独立した住居を保有せず、他人の家屋に居住するしかない人々の権利を保障することだ。こうした人々の多くは、離婚して住むところを失った配偶者や、年老いて住居を持たない父母、未成年の子供、年配の家政婦といった弱者で、物件に居住できるか否かは財産権者の態度次第であり、生活場所の確保が不安定になっている。今回、民法典(草案)で居住権の用益物権というカテゴリが新設されたことで、家屋の財産権者がこうした人々の居住権を確立し、登記所で登記することにより、彼らは居住する家屋に対する用益物権を獲得し、他者の住宅を占有、使用して、生活・居住場所を確保することができるようになる。家屋の財産権者の変更も居住権の行使に影響しないため、オーナーは勝手に彼らを追い出すことはできず、安定した居住場所を保証することができる」
実例としては、高齢者が何十年も自身の面倒をみてくれた家政婦のために、自身の死後も継続して居住できるよう、自宅の1室の居住権を家政婦に付与する、高齢者が自宅の名義を子供に変更すると同時に、子供に追い出されないよう家屋に対する居住権を要求しておく、夫婦の離婚後、家屋に対する財産権を放棄した側が居住権を申し立て、新居が見つかるまで引き続き居住できるようにする、といった事例が挙げられる。
現行の物権法と比較すると、物権編にはまだまだ多くの注目ポイントがある。
全国人民代表大会〔全人代〕常務委員会法制工作委員会主任の沈春耀曰く、不動産管理サービス企業の中には、物件オーナー〔財産権者〕の意見を聞かず、勝手に共有部分の用途を変更したり、外壁やエレベーターに広告を掲載して利益を得たりといった行為をする業者もいる。これについても、民法典(草案)では新たに規定を設け、共用部分の用途を変更したり、又は共有部分を利用して経営活動に従事したりする場合は、物件オーナーと共同決定しなければならない、としている。草案ではまた、施主、不動産管理サービス企業又はその他の管理者等が物件オーナーの共有部分を利用して得た収益は、合理的費用を差し引いた分が、物件オーナーの共有財産に属することも明示している。
物権編では他にも、住宅の物権は70年で自動的に更新されることや、農村の土地の「三権(即ち所有権、請負権、経営権)分置」を徹底することなどが規定されている。
契約編:高利貸しを明確に禁止
民法典(草案)の契約編では次のように規定されている。「高利貸しはこれを禁ずる。貸付金の利率は国の関連規定に違反してはならない」
近年、起業ブームに伴い、民間の貸付額はかなりの額に膨らんでいる。最高人民法院が2015年8月6日に公布した「民間貸借事件の審理における適用法律をめぐる若干の問題に関する規定」の第二十六条では、次のように規定されている。「貸借双方が取り決めた利率が年24%を超えない場合について、貸し手が借り手に対し、取り決めた利率に従い利息を支払うよう求めた場合、人民法院はこれを支持する。貸借双方が取り決めた利率が年36%を超える場合について、超過部分の利息に関する取り決めはこれを無効とする。借り手が貸し手に対し、既に支払った年利率36%超過部分の利息を変換するよう求めた場合、人民法院はこれを支持する」
孟強曰く、経済成長が年々緩やかになるなか、上述の年利率は一般的に高すぎると考えられる額であり、実体経済に資本が回る妨げとなると同時に、民間で貸借をめぐる訴訟沙汰を絶えず引き起こす原因となっている。近年、インターネットでの貸付詐欺や現金貸付と謳った高利貸しなど、民間での貸借問題が噴出しているが、正常な金融秩序に悪影響を及ぼすと同時に、経済・社会の安定にとって潜在的リスクにもなっており、法律で規制することが強く望まれている。
民法典で明確に高利貸しを禁じたことは、国家レベルで高利貸しを断固禁止し厳しく取り締まっていくという決意を表している。この規定は、現行の契約法の関連規定を踏襲しつつ、最高人民法院が近年制定した民間の貸借に関する司法解釈規定ともリンクしており、十分な法的根拠を持つものだ。
しかし、民法典(草案)のこの規定は、残念ながら上述の民間貸借をめぐる利息規定を打ち消すことはできない。なぜなら、この規定は抽象的且つ宣言式の規定に過ぎず、立法機関の姿勢を示すことが主な役割であるからだ。とは言っても、民法典の位置づけは高いため、中国で今後、民間貸借に関する単行法が制定される場合、この規定が法的根拠となることは間違いない。
人格権編:セクハラから保護する主体を拡大
王利明曰く、民法典(草案)最大の注目ポイントは、侵権責任法から人格権法を独立させ、それぞれ別の一編として扱っていることだ。これは世界の民生法でも例がない。
人格権とは、民事主体が自らの特定の人格利益を享受する権利のことで、個々人の人格の尊厳に関わり、民事主体にとって最も基本的で最も重要的な権利であると考えられている。これには、生命・健康、姓名、肖像、名誉、栄誉、信用、プライバシーといった権利が含まれる。
人格権編では、セクハラから保護される主体を拡大したことが大きな注目ポイントだ。
2019年12月28日、第13期全国人民代表大会常務委員会第15回会議で審議要請された民法典(草案)は、この日初めて完全版がお目見えした。人格権編では、それまでの草案の「雇用主は合理的措置を講じ、職権、従属関係等を利用したセクシャル・ハラスメントを防止及び制止しなければならない」の部分で、「雇用主」が「機関、企業、学校等の単位」に修正された。
セクハラから保護する主体の範囲を拡大したことで、未成年者及び若者の人格権保護強化につながることが期待される。
人格権編では他にも、時代性を色濃く反映した規定として、新技術の人格権に対する挑戦に、明確な法律のレッドラインを引いた。
近年、「デザイナーベビー」事件やヒト凍結胚の権利をめぐる訴訟などが、世間を騒がせてきた。人格権編では明確に次のように規定されている。「ヒト遺伝子、ヒト受精胚等に関する医学及び科研活動に従事する者は、法律、行政法規、国の関連規定を遵守し、人体の健康に危害を加えてはならず、倫理道徳に背いてはならず、公共の利益を損なってはならない」
ヒト遺伝子やヒト受精胚などに関する研究は、一個人、一民族、ひいては人類全体に関わるもので、この規定を民法典に加えることは非常に重要且つ必要なことである、と専門家は指摘する。
人格権編ではさらに、個人情報保護の範囲も拡大した。自然人の「Eメールアドレス」と「行動記録」を個人情報の範囲に加えることを明確にし、自然人の姓名、生年月日、身分証明書番号、生体認証情報、住所、電話番号、Eメールアドレス、行動記録等を含む個人情報の保護をさらに強化していくことが規定された。
民法典(草案)の人格権編では、セクハラから防護する主体を拡大したことが、大きな注目ポイントと目されている。 写真/視覚中国
婚姻・家庭編:離婚冷静期を設け、養子縁組条件を緩和
統計によると、近年、中国における離婚件数は年間400万組を超えている。2017年から2019年まで、全国の婚姻登記機関で受理された離婚登記件数は、それぞれ437.4万組、 446.1万組、415.4万組に上っている。
衝動的な離婚を回避するため、民法典(草案)の婚姻・家庭編では、離婚登記に関して「離婚冷静期」を設け、次のように規定している。「婚姻登記機関から離婚登記申請を受け取った日から30日以内に、どちらか一方が離婚を望まない場合は、婚姻登記機関に離婚登記申請の撤回を申し出ることができる。前項に規定する期間の満了後30日以内に、双方は自ら婚姻登記機関を訪れ離婚証の申請・発給を受けなければならない。申請がない場合は、離婚登記申請を撤回したとみなす」
実生活において、離婚登記手続が簡便すぎることから、軽率に離婚をしてしまうケースが増えており、家庭の安定にとってマイナス要素となっている。このため、草案では30日間の離婚冷静期を設けた、と孟強は説明する。
しかし、離婚冷静期の設置の必要性については、大きな論争を呼んでいる。冷静期の設置は、事実上離婚の成立を遅らせるものであり、しかも離婚できるかどうかも不確実な状態だ。万一、一方がDVをおこなっている場合、被害者側はさらに暴力に耐えなければならなくなってしまう。
元北京第一中級人民法院裁判官で、現北京焱明法律事務所所属の弁護士・梁溯は、特殊な状況については考慮すべきだと提案する。例えば、婚姻中、一方に重婚やDV、また賭博や違法薬物などの悪習慣等があった場合、婚姻登記機関は一定の審査をおこない、資料確認の結果、基準に達していると判断されれば、冷静期を経ず離婚できるようにしなければならない。
婚姻・家庭編では他に、現行の養子縁組制度を緩和する調整もあった。例えば、「既に子女が1人いる養親でも養子縁組ができる」という規定だ。現行の「中華人民共和国養子縁組法」では、養親になれる条件の1つとして「子女がいない」という規定がある。「子女がいない」というのは、養親に実子もいなければ、養子も継子もいないという状態を指す。
養子縁組条件の緩和も、調整後の計画出産政策に合わせたものだ、と孟強は指摘する。養子縁組法は1992年4月1日に施行され、1998年に1度改正されたきり、今日まで20年近く続いている。制定当時の基本方針は計画出産政策に沿ったものだったが、現在は誰でも子供を2人まで持てる「全面二孩」政策が採られており、同法は現下の新出産政策にそぐわなくなっていた。
2013年2月3日、「瘋狂英語〔クレイジー・イングリッシュ〕」創始者のリー・ヤン〔李陽〕夫妻の離婚調停結果が北京市朝陽区法院で言い渡された。法院は李陽のDV行為を認定し、李陽と妻の李金(左から2人目)の離婚成立を宣言した。 写真/視覚中国
侵権責任編:不動産管理会社に対する高所からのポイ捨て責任を明確化
民法典(草案)の侵権責任編では、高所からの物の投げ捨て、損害賠償責任(治療費)、環境破壊、交通事故など、人民の利益に深く関わる、社会からの関心の高い問題についても規定を設けている。
近年、高所からの物の投げ捨て・落下という悪質な事件が、広く社会で注目されている。侵権責任編では、次のように規定している。「建物から物品を投げ捨てることはこれを禁ずる。建物から物品を投げ捨てたり、又は建物から落下した物品が他者に損害を与えた場合、侵害者は法により侵権責任を負う。調査の結果、具体的な侵害者の確定が難しい場合は、自ら侵害者でないことを証明できた者を除き、加害者である可能性のある建物の使用者が賠償をおこなう。加害者である可能性のある建物の使用者は賠償をおこなった後、侵害者に対し追徴を利用した損害回復を請求する権利を有する。不動産管理サービス企業等の建物管理者は、必要な安全保障措置を講じ、前項に規定する状況の発生を防止しなければならない。必要な安全保障措置を講じない場合は、法により安全保障義務の未履行による侵権責任を負わなければならない」
孟強曰く、これまで高所からの物の投げ捨て事件に対する法院の判決は、明確な法的根拠がなく、加えて証拠の確保が難しく、責任主体を認定しにくかったことから、同じような事件でも判決が異なることがしばしばあった。侵権責任法ではこれに特化した規定が設けられていた。しかし、侵権責任法の解決案は、加害者である可能性のある建物の使用者に賠償させるというもので、実際の施行効果は理想的でなく、高所からのポイ捨てに対する効果的な抑制にもならなかった。
侵権責任編で最も重要なのは、建物管理者(主として不動産管理サービス企業)の責任をさらに明確にし、彼らの負うべき安全保障義務に関する規定を新設した点である。こうすることで、不動産管理会社に対し、高所からの物の投げ捨て・落下を防止するより一層積極的な措置を講じ、管理会社としての企業責任を負い、建物の外部施設の検査、メンテナンス、強化を適時おこない、物件オーナーに対する宣伝教育を強化し、必要な箇所には高所からのポイ捨て行為を録画できる監視カメラなどを設置し、関連部門が高所からの物の投げ捨て・落下事件の調査をおこなう際には証拠を提供するよう求めることが可能になる。
新たに設けられた自力救済制度も、侵権責任編の一大注目ポイントだ〔日本の民事法では、例外を除き禁止されている『自力救済禁止の原則』〕
自力救済制度は、公民権の私的救済方式の1つで、自然人に対し、一定の自己防衛権を付与するものである。侵権責任編では、次のように規定されている。「合法的権益が侵害され、状況が緊迫していて、且つ速やかに国家機関による保護を得られず、直ちに措置を講じなければ合法的権益が補い難い損害を被る場合、被害者は必要な範囲内で侵害者の財物を差し押さえる等の合理的措置を講じることができる。但しその場合、直ちに関連の国家機関による処理を求めなければならない。被害者が講じた措置が不適切で他者に損害を与えた場合は、侵権責任を負わなければならない」
全国人民代表大会常務委員会副委員長の曹建明は、自力救済制度は国家機関による保護、即ち公的救済を効果的に補う制度で、被害者の合法的権益のより一層の保護に役立ち、合理性を備えており、中国の民事法の新たなステージだと言える、と評価している。
2019年11月、高所からのポイ捨てを監視するため、監視カメラ64台が設置された浙江省寧波市のある居住区。写真/IC
※本稿は『月刊中国ニュース』2020年9月号(Vol.103)より転載したものである。