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【20-019】中国における民法典の制定―保証制度の修正「その3」―

2020年10月16日 中倫律師事務所東京オフィス

 保証は、クロスボーダーの取引や中国国内の取引でよく利用されています。特に、日本企業又はその中国現地法人は、新規取引相手に対し、物的担保の他に、相手側の親会社や関連会社等による保証を求めるケースが多々見受けられます。

 中国現行法上における保証制度に関する主な法律規定には、今回施行された民法典の他、「担保法」(1995年10月1日施行)及び「『担保法』適用の若干問題に関する解釈」(以下「司法解釈」という。2000年12月13日施行)があります(注:「担保法」「司法解釈」は、民法典の施行と共に廃止)。

 本稿では、保証制度について以下9項目に分類し、「民法典」と現行の「担保法」及び「司法解釈」とを比較しながら、民法典における保証制度の主な改正点を3回に分けて紹介します。

※ 本稿では、下記項目の7.~9.を紹介します。
1.保証の定義及び分類
2.保証の従属性
3.共同保証責任
4.保証期間
5.保証人の制限
6.保証責任の範囲
7.先訴の抗弁権
8.主契約の譲渡及び変更
9.最高額保証

7.先訴の抗弁権

<ポイント>

 民法典は、担保法と同様に、保証人が先訴の抗弁権を行使できない事由を列挙しています。具体的な事由は、民法典の規定の方がより具体的であり、実行可能性が高いと言えます。

<注意点>

 一般保証における「債務者が債務を履行することができない」とは、「裁判又は仲裁を経て債務者の財産について法定の強制執行をしたにもかかわらず債務を履行することができないという状況」を指しますので注意が必要です。

<関連条文の比較>

担保法
17条
債務者が債務を履行することができないときに保証人は保証責任を負う旨を、当事者が保証契約において約定した場合、これを一般保証とする。
一般保証の保証人は、主契約の紛争が裁判又は仲裁を経て債務者の財産について法定の強制執行をしたにもかかわらず債務を履行することができないという状況にいまだ至っていない場合、債権者に対して、保証責任の履行を拒絶できる。
下記の状況のいずれかが存する場合、保証人は前項に規定する権利を行使することができない。
 (1)債務者の住所が変わった結果、債権者が債務の履行を要求することに重大な困難が発生した場合
 (2)人民法院が債務者破産の案件を受理し、執行手続を中止させた場合
 (3)保証人が前項に規定する権利を書面の方式で放棄した場合
民法典
687条2項
債務者が債務を履行することができないときに保証人は保証責任を負う旨を、当事者が保証契約において約定した場合、これを一般保証とする。
一般保証の保証人は、主契約の紛争が裁判又は仲裁を経て債務者の財産について法定の強制執行をしたにもかかわらず債務を履行することができないという状況にいまだ至っていない場合、債権者に対して、保証責任の履行を拒絶できる。但し、下記の状況のいずれかが存する場合は除く。
 (1)債務者が所在不明であり、かつ執行可能な財産が存在しない場合
 (2)人民法院が既に債務者破産の案件を受理した場合
 (3)債権者に、債務者の財産が全ての債務の履行に不足し、又は債務履行能力を喪失したことに関する証拠がある場合
 (4)保証人が本項に規定する権利を書面の方式で放棄した場合

8.主契約の譲渡及び変更

<ポイント>

① 民法典は、債権譲渡に伴う保証責任の変更は、保証人への通知を前提条件とすると明記しました。

② 民法典は、債権者と債務者が主たる債権債務契約の内容を変更する際の保証責任について、司法解釈の規定を採用し、債務が軽減された場合は、保証人が変更後の債務に対して保証責任を負い、加重された場合は、保証責任を負わないと定めました。

<注意点>

① 保証人へ通知しなかった場合、債権譲渡は保証人に効力を生じず、保証人は保証責任を負わないとなるので注意が必要です。また、民法典696条2項に基づくと、仮に保証人と債権者が債権譲渡の禁止を約定していたとしても、債権者が保証人から書面による同意を得れば、保証付きで債権譲渡が可能になると解されます。

② 債権者と債務者が主たる債権債務契約の履行期限を変更する場合、保証期間も変更が必要となる可能性があります。民法典は、この点につき司法解釈の規定を採用していますので、保証人の書面による同意がなければ保証期間は元の約定のとおりであり、影響は受けません。

<関連条文の比較①>

担保法
22条
保証人の期間内において、債権者が合法的に主たる債権を第三者に譲渡した場合、保証人はもとの保証が担保していた範囲において引き続き保証責任を負う。保証契約に別段の約定がある場合は約定に従う。
司法解釈
28条
保証期間中、債権者が法に従って主たる債権を第三者に譲渡した場合、保証債権は同時に譲渡され、保証人はもとの保証担保の範囲内において譲受人に対して保証責任を負う。但し、保証人が債権者と事前に特定の債権者に対してのみ保証責任を負うこと又は債権の譲渡を禁止することを約定していた場合、保証人は保証責任を負わない。
民法典
696条
債権者が債権の全部又は一部を譲渡し、保証人に通知しなかった場合、当該譲渡は保証人に効力を生じない。
保証人と債権者が債権譲渡の禁止を約定し、債権者が保証人の書面による同意を経ずに債権を譲渡した場合、保証人は譲受人に対して保証責任を負わない。
担保法
24条
債権者が債務者と合意して主契約を変更する場合、保証人の書面による同意を取得しなければならず、保証人の書面による同意がない場合、保証人は以後保証責任を負わない。保証契約に別段の約定がある場合は約定に従う。
司法解釈
30条1項
保証期間中、債権者と債務者が主契約の数量、価額、通貨の種類、利率等の内容について変更したが、保証人の同意を経ていない場合において、債務者の債務が軽減されたときは、保証人は変更後の契約について依然として保証責任を負う。債務者の債務が加重されたときは、保証人は加重された部分については保証責任を負わない。
民法典
695条1項
債権者と債務者が、保証人の書面による同意を得ずに、協議にて主たる債権債務契約の内容を変更し、債務を軽減する場合は、保証人は変更後の債務に対して依然として保証責任を負うが、債務を加重する場合は、保証人は加重された部分に対して保証責任を負わない。
担保法
24条
債権者が債務者と合意して主契約を変更する場合、保証人の書面による同意を得なければならず、保証人の書面による同意がない場合、保証人は以後保証責任を負わない。保証契約に別段の約定がある場合は約定に従う。
司法解釈
30条2項
債権者と債務者が主契約の履行期限を変更したが、保証人の書面による同意を得ていない場合は、保証期間はもとの契約において約定した期間、又は法律に定めている期間とする。
民法典
695条2項
債権者と債務者が主たる債権債務契約の履行期限を変更したが、保証人の書面による同意を得ていない場合、保証期間は影響を受けない。

9.最高額保証

<ポイント>

 民法典は、最高限度額の範囲内での包括的な保証提供について、担保法における保証範囲に対する制限(金銭借入契約又は特定の種類の商品に関する取引契約)、及び保証の期間を約定していなかった場合の保証人の解約権を削除しました。これにより、今後は、最高限度額付の保証制度の広範囲な利用が期待できます。

<注意点>

 民法典は、保証の期間を約定していない場合の保証人の解約権を削除したため、特に、継続して発生する債権の保証は、紛争回避の観点からも、保証契約に保証期間を明記することが望ましいと考えます。

<関連条文の比較>

担保法
14条、27条
保証人と債権者は、個別の主契約についてそれぞれ保証契約を締結することもできるし、一定期間において継続して発生する金銭借入契約又は特定の種類の商品に関する取引契約について債権の最高限度額の範囲内で1つの保証契約を締結することを合意することもできる。
継続して発生する債権について、保証人が本法第14条の規定に従って保証を行ったものの保証の期間を約定していなかった場合、保証人は書面で債権者に通知することにより保証契約を随時終了させることができるが、通知が債権者に到達する以前に発生した債権については保証人が保証責任を負う。
民法典
695条2項
保証人と債権者は協議にて最高限度額付の保証契約を締結し、一定期間において継続して発生する債権について最高限度額の範囲内で保証を提供することができる。

中倫律師事務所 東京オフィス

代 表・パートナー弁護士:李美善  E-mail:mslee
パートナー弁護士:孫彦  E-mail:mslee

■掲載の内容は広く一般から収集した情報を独自にまとめたものであり、当所及び当所弁護士の法的意見を述べたものではありません。
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※本稿は、中倫律師事務所東京オフィス発行の「中倫東京事務所ニュースレター『中国における民法典の制定―保証制度の修正「その3」―』」を中倫律師事務所東京オフィスの許諾を得て転載したものである。