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【13-04】訪日研修で日本社会理解に期待―8年目迎えた北京大学博士課程日本研究プログラム

2013年 6月26日 (中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

 北京大学に「現代日本研究コース」が設けられて23年、「 現代日本研究センター」と 名前が変わってから数えて8年目を迎える。同センター博士第8期プログラム受講者の募集が行われたのは、日本政府による尖閣諸島3島の国有化に端を発した大規模な反日デモが中国全土で吹き荒れた昨年9月だった。 

 この時、募集に応じた北京大学大学院生19人が、5月後半の半月間、日本を訪れた。日本から派遣された日本人講師と、中国人講師による北京大学におけるカリキュラムを修了した後に、こ の訪日研修が設けられている。3大都市圏と北陸地方の企業、大学、官公庁、地方自治体などを見て回った博士課程大学院生の目に、日本社会はどのように映っただろうか。こ うしたプログラムで期待される効果は何かなどを、日本側実施機関である 国際交流基金の日本研究・知的交流部アジア・太平洋チーム職員、内海祥子氏に聞いた。

内海 祥子(うつみしょうこ)氏プロフィール

大阪府生まれ。2003年大阪外国語大学中国語科卒。在中国日本国大使館重慶事務所(現・重慶総領事館)、日本航空上海事務所、東京の中国企業勤務を経て、2 010年から国際交流基金で北京日本学研究センター事業を担当。

内海祥子氏インタビュー概要

大平首相、華国鋒主席の合意が発端

 ―現代日本研究センターと博士第8期プログラムができた経緯はどのようなものだったのでしょう?

 1972年の国交正常化声明に田中角栄、周恩来の日中両首相が署名した7年後、中国を訪問した大平正芳首相と華国鋒主席が、日 中両国の相互理解促進のために中国における日本語教育で協力することで合意しました。翌1980年、北京語言学院(現・北京外国語大学)に「日本語研修センター」(中国名:日語教師培訓班、通称:大平学校)が 開設されます。これが、現在の「北京日本学研究センター」に発展し、一方、北京大学に「現代日本研究コース」が1990年に設置されました。当初は、官 公庁や企業の若手幹部および日本研究者を対象にしていたのですが、2005年から北京大学社会科学系博士課程の大学院生だけに対象を絞り、名前も「現代日本研究センター」に変わりました。

 ―今年の受講生はどのような人たちですか。

 法学、政治学、国民経済学から企業管理、マーケティング、メディア学など専門は多岐にわたっています。日本に興味はあっても基礎知識がない人たちに現代日本のことを知ってもらうのが狙いですから、少 し日本語を話せる一人以外は日本語も学んだことがない人たちばかりです。

 先生たちから推薦を受けた人たちに加え、これまで経験した先輩たちに勧められて応募した人たちも何人かいます。昨年10-12月と、今年3-4月に日本から派遣された大学の先生たち10人と、中 国の研究者14人による講義を受けて、日本に関する知識を得た後、仕上げとして訪日研修が設けられています。日本社会を実際に見てもらい、よく理解してもらうことが、この訪日研修の狙いです。プ ログラムの受講者には6単位が与えられます。

よい面悪い面見てもらう意義

 ―実際に日本社会をよく見てもらえたでしょうか。

 前回までの受講者たちの報告は、「日本のこういうところに感心した」といった感想が大半でした。今回は、「環境保護」「政治外交」「社会保障」「経済社会」という4つのテーマを設定し、大 学院生19人を4つのグループに分ける初めての試みをしました。訪日研修最後の総括会議で、自分のテーマに沿って、受講者たちに発表させたのです。

 中間総括の時に、プログラムの日本側主任である角南篤・政策研究大学院大学准教授が、「日本社会のいいところも悪いところも見てほしい」と注文したこともあって、例年より具体的な報告が続きました。「 日本人の組織力や、秩序を重く見る国民性に学ぶべきものは多い」など、大方の受講者がプラスの評価をしていることが分かります。

 ほぼ、毎年訪問してもらっている企業に、 大東コーポレートサービスがあります。障 害者の雇用促進のために大東建託がつくった特例子会社です。9 4人のうち61人が障害者という同社浦安事業所(浦安市)を見た受講者から、「親会社が国の定めた障害者雇用率を達成するのを助けるだけでなく、利 益を上げ、障害者への必要な訓練、働 きやすい雰囲気を高める利点がある」という報告がありました。

 環境保護についても、中国で大気汚染が問題になっていることもあって真剣、熱心に見ていることがよく分かります。日本が優れているのは「単に優れているところが一つあるということではなく、政府、企業、家 庭が協力しているから」と的確な評価をしていました。一方、ホテルや地下鉄の駅などに広報冊子がたくさんおいてある光景や、商品の過剰包装を取り上げて、「環境保護と相反する消費行動では」と 厳しい目も注いでいます。

 さらに日本社会の根本的な問題に触れるような指摘もあります。政治に関して「とても秩序だった国」と褒める一方、「高度に秩序化された背景に制度の硬直化がある。こ のような中では革新的で大胆な改革が必要な政策が出てこない」と見ています。

知日家、親日家の増加に期待

 ―このプログラムの成果と今後について伺います。これまでの受講者のその後の活躍ぶりはいかがでしょう。

 先ほどお話した大東コーポレートサービスについて学術雑誌に論文を発表した人が、昨年の受講生の中にいます。ただ、こうした目に見える例というのはあまりありません。研究者になった人、投 資会社など金融系企業に就職した人が多いのですが、日本に対する理解がどのように仕事に反映しているかの評価は難しいです。

 とにかく将来、幹部になる人に日本をよく知る知日家、親日家を増やすことが狙いなのですが、政府をはじめいろいろなところにそうした人材が増えるのに貢献できればよいと願っています。

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北京大学現代日本研究センター博士第8期プログラム受講者訪日研修歓迎レセプション
(国際交流基金提供)

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訪問先の豊田市のトヨタ自動車工場で(国際交流基金提供)