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【13-21】「中日関係を見つめて―」汪婉駐日中華人民共和国大使夫人が語る

2013年10月23日 石川 晶(中国総合研究交流センター)

 2013年10月22日、東京大学駒場キャンパスの21KOMCEEレクチャーホールにて、汪婉中国大使夫人講演会(主催:東京大学院総合文化研究科・教養学部 共催:東京大学社会科学研究所・現代中国研究拠点)が開催された。

 「中日関係を見つめて―研究と実践の両面から」というテーマの汪大使夫人の講演は、1.留学中の駒場、2.近代中国における「国民教育」の意味と明治日本の影響、3.大使館友好交流部の仕事、という3部構成でおこなわれた。

 東京大学大学院総合文化研究科の故並木頼寿教授のもとで、近代日中関係史、特に清末の中国における教育改革を研究し、また現在も中国社会科学院近代史研究所の研究者である汪大使夫人は、本講演会において、清末の科挙制度の廃止から近代学校教育制度の導入、「日本留学ブーム」「官紳の日本遊歴ブーム」について具体的な史料を提示して説明した。

 そして汪大使夫人は、この時期の教育改革は、近代教育システムと「伝統文化」を接合する方法を採った「日本モデル」を参考としながら、「上から」強制的に「国民教育」を普及させる政策を進めた清政府であったが、皮肉にも海外留学生、新学堂出身者らによる「新知識人層」を生み出し、彼らによって辛亥革命の土壌作りがなされたと分析した。

 本講演会の前半部分では、汪大使夫人は研究者としての立場で講演していたが、後半は大使夫人としての大使館友好交流部での仕事について、多くの写真を用いて解説した。

 大使館友好交流部での仕事は次の5つに分類することができるという。

  1. アジア夫人友好会および各界の女性団体との交流
  2. 各地方自治体との交流
  3. 日中友好協会をはじめ各民間友好団体との交流
  4. 両国青少年交流の支援
  5. 文化交流

 アジア婦人友好会(会長:高村治子元外相夫人)の活動に積極的に参加する汪大使夫人は、2011年の東日本大震災の際には、各国の大使夫人らと共に福島県郡山市の避難所へいち早く赴き、現地で必要とされる物資を届けた。このときの経験をもとに、温家宝総理(当時)が被災地を訪問する際の子供たちへのプレゼントに関するアドバイスを伝えたという。

 またアジア婦人友好会は2013年4月に福田貴代子副会長(福田康夫元首相夫人)を筆頭に北京を訪問し、日本の母子手帳を紹介した。汪大使夫人はこのときの様子を本講演会で解説したが、日中両国の関係は難しい時期であっても、婦人友好会は積極的な交流活動が可能であることを誇らしく語った。

 汪大使夫人は各地方自治体との交流も活発に行い、2012年4月に東京で開催された第1回中日省長知事フォーラムでは多くの地方自治体のトップと議論し、両国の互恵関係が地域活性化にも繋がることを確認したという。

 さらに汪大使夫人は民間友好団体が開催する多くのイベントにも出席し、全国各地で日中友好のための相互理解のきっかけづくりに精力的に取り組んでいることを紹介した。汪大使夫人は、民間の草の根的な活動こそが日中友好の基礎になることを強調していた。

 この講演会の最後に汪大使夫人は、日中両国の関係が国交正常化以来最も困難な局面にあるが、両国の健全かつ安定した関係を保つには、両国民の相互理解と相互尊重が不可欠であると訴えた。

 本講演中、汪大使夫人は「天下の半分は女性が支える(婦女能頂半辺天)」という毛沢東の言葉を数回使用していたが、その言葉を裏付けるべく駐日中華人民共和国大使夫人としての活動が、日中両国の政治的な面のみならず民間レベルの交流においても非常に重要な役割を担うものであることを強く認識させられた講演であった。

参考文献:

  1. 汪婉『清末中国対日教育視察の研究』汲古書院,1998年