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【13-28】オンライン模倣品販売の対策は 米国、中国で急増

2013年11月26日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 11月7日、東京で開かれた「特許・情報フェア&コンファレンス」で「中国における模倣品販売の実態と求められる対策」について日本貿易振興機構(JETRO)とトムソン・ロイター・プロフェッショナル社の専門家が報告した。

 中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」では、公平、開放的、透明な市場ルールを打ち立てることが明記されている。JETROとトムソン・ロイター・プロフェッショナルの専門家による報告でも、中国が知財立国を目指し、知財関連のほとんどの国際条約に加盟し、専利法改正(2009年)や商標法改正(2013年)といった国内法の整備による知財保護対策を進めていることが紹介された。一方、中国が世界で最も模倣品が出回っている国である現状も明らかにされている。中国では、偽造品、偽ブランド、コピー品と呼ばれる商標権や意匠権を侵害した模倣品の被害総額が9.3兆円に上る(売り上げベース、2004年特許庁報告)。中国で製造された模造品の70%以上が、海外各国に輸出されており、うち日本向けが15%ある(特許庁・2012年度模倣被害調査報告書)…といった数字も紹介された。

 目立たない夜間や休日に製造・出荷し、商品とラベルを別々に製造し、販売直前にはり付けるなど手口が巧妙になり、特にインターネット上で本物の写真を掲載し、宅配便で出荷するのは模倣品といった手法が増加している実態も報告された。一字違いの商標やデザインの模倣など、刑事罰を科したり意匠権侵害が立証しにくい手口も増えている。

 中国の法律を理解した上で、知財管理をしていない。法律論ではなく、道徳に訴える―。日本企業側にもこうした甘い面があることも指摘し、模倣を許さない毅然とした姿勢が重要であることも強調された。報告者の1人、トムソン・ロイター・プロフェッショナル社の佐藤英丸シニアディレクターは、「モグラたたき、とあきらめず、繰り返し対策を採り続けることが必要だ」と提言している。佐藤氏と、熊谷美樹・トムソン・ロイター・プロフェッショナル・シニアマーケティングマネージャーに、インターネットを介した模倣品販売を減らす効果的な方法について聞いた。

 ―3月に公表された「特許庁・2012年度模倣被害調査報告書」によると、日本企業・団体 8,071 社への模倣被害に関するアンケート結果で、有効回答数 4,324 社のうち、被害にあったと回答した企業の数は 1,011 社に上っています。このうち621 社が「模倣品・サービスは中国で製造されている」と回答しており、「中国を経由した模倣品・サービスによる被害を受けた」とする企業も241社と、いずれも中国が一番でした。

 さらにインターネット上の模倣被害を受けた企業の割合は 53.9%で、2007 年度以降、被害を受けた企業の割合は増加傾向にある。権利別の被害率では、商標に関する被害が他の権利よりも高い…という結果も報告されています。世界的に見ても同じようなことは起きているということでしょうか。

 一番最初に問題が顕在化したのは、米国です。米国国土保安保障省によると、模倣品の被害は税関で分かった、つまり水際で差し止めた件数が2005年には約8,000件、小売価格にして9,300万ドル(約93億円)ありました。これが年を追うごとに増えており、2012年には約23,000件、約13億ドル(約1,300億円)となっています。これらの模倣品の輸入手段は、8割が郵便、国際宅配便で、小口の荷物が大半を占めていることを示しています。つまりオンラインによる個人取引が相当増えているということが推定できます。

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 ―オンライン上の模倣品販売を防ぐことが重要になっているということですね。トムソン・ロイター・プロフェッショナル社が提供する被害提言防止サービスとは、どのようなもので、その効果はどの程度上がっているのでしょうか。

 インターネットでものを買う人は世界的に増えています。まず価格の比較が簡単にでき、洋服などもサイズが分かれば、注文して早ければ翌日には届く。さらに、決済もカードで簡単…といった理由からです。大半のオンライン販売者はきちんと営業しているわけですが、これだけ多くなると偽物を売ろうというところが出てきます。

 私どものサービスは、10年くらい前にスタートしました。世界中の特許庁から集め、独自の手法で編集した特許データを基にしています。オンライン上でブランド名を少し変えたりして模倣品を売ろうとしているサイトを見つけ、インターネット通信販売会社などへ連絡し、かつこれらの顧客と連携してこうしたページを削除することをしています。実際にはほとんどは、私どもがページ削除作業まで代行しています。

 通常の店舗と違い、こうした模倣品販売者は次々に新たなサイトを作りますから、この作業はもぐらたたきのようなものといえるでしょう。ですから24時間ごとに全世界のサイトを調べ、顧客への連絡・模倣品販売ページの削除作業を繰り返しています。顧客の数は世界で1,300社ほど、世界中のページ削除件数は1年間で400万件に上ります。

 偽物が売られれば売られるほどブランドに傷がつくことに加え、本物の売れ行きにも響く結果となります。当社のサービスでは、これだけの模倣品販売ページを削除したので何%の収益増につながっているはず、というデータを毎月、顧客に報告します。この数字を割り出す方程式は、それぞれ会社、製品によって異なりますから、顧客から在庫のデータなどをいただき議論し、納得するパラメーターを決めて算出します。効果がどのくらいあるかという質問に答えるのは難しいのですが、顧客には納得していただいていると考えております。

 ―模倣品に関わるサイトとして削除される件数が多い地域と業種はどのようになっていますか。

 北米と中国の模倣品販売ページの削除件数が飛び抜けて多く、北米が1カ月平均で12万件近くに上り、中国も約10万件あります。あとの地域、国はぐっと減ります。米国はeBay、Amazonという2大マーケットプレイスがあり、インターネット人口も多いので、偽物が出回るケースも大きいということです。中国が最近多くなっている理由もインターネット人口の多さです。4億5千万人とか5億人とか言われる数の多さが、偽物が出る確率の高さにつながっているということです。

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 模倣品が数多く出回っている業種が何かをみるデータとして、まず私どもの顧客の割合がどうかという数字があります。服飾・アクセサリー業種が33%を占めており、次いで家庭・レジャー用品、テクノロジー・通信機器、製薬・ヘルスケア製品といった順になっています。

 顧客1社当たり、模倣品販売ページの削除件数がどのくらいあるかで見ると、やはり服飾・アクセサリー業種が最も多く、顧客1社平均で毎月3,800件ものページが削除されています。2番目に多いのがエンタテインメントで、1社平均の毎月削除件数が1,900件となっています。エンタテインメントというのは映画、音楽関係などで、例えば映画会社は、映画館での上映に加え、DVDや原作本の出版などで収益を上げているわけですから、海賊版が出回ると非常に困るわけです。特に大手の映画会社は大金をかけて対策をとっているのですが、1社当たりの模倣品販売ページが服飾・アクセサリー業種についで多いことが、私どものデータでも裏付けられた、ということです。

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―日本は米国や中国に比べると模倣品販売ページの削除件数は非常に少ないですが、安心していてよいものでしょうか。

 日本は、インターネット上の売り手に対し、マーケットプレイスの審査が厳しいことなどもあって、簡単に模倣品を販売しにくい状況があります。しかし、インターネット販売はインフラにあまりお金がかかりませんから、今後、どんどん増えてくるのは間違いありません。安いものを買いたいという気持ちは、だれも同じです。今後、日本も米国や中国と同程度にオンライン上の模倣品販売が増加する可能性はあります。

 とにかく模倣品販売ページが見つかればすく削除させる。これを繰り返し続けることで模倣品を駆逐することが、企業のブランド価値を高めるだけでなく、消費者を保護し、信頼性を高める、と確信しております。