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【14-10】批判精神育成と公共圏形成を 阿古智子氏が中国社会に注文

2014年04月23日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

  日中産学官交流機構と元・早 大中国塾有志主催の「第1回中国塾」が 4月19日都内で開かれ、講師の阿古智子・東京大学教養学部准教授が「批判的思考を育てる教育と、公共精神を重視する社会」が中国に求められていることを強調した。

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 阿古氏は、中国社会の中に入って実像を探る研究スタイルで知られる。この日の講演では、「公平・公正を伴わない競争社会になっているために権力者の腐敗をなくせない」「 宣伝工作や情報統制によって現実がゆがめられ、情報の隠蔽(いんぺい)によって国の将来を議論するために必要となる的確な現状認識が困難になっている」といった中国の問題点をまず指摘した。

 こうした状況を変えつつあるものとして氏が挙げたのが、「微博」(中国版ツイッター)などインターネットを利用したソーシャルメディア。役 人に襲われたため抵抗して相手を殺してしまった農村女性に実質的な無罪判決をもたらした大規模な支援活動や、身に付けた高級腕時計が頻繁に替わる役人の写真をネットに流すことでその役人の賄賂漬けを暴き、降 格処分に追い込む、といったネットを利用した不正告発活動の成功例が紹介された。無期懲役の判決を受け、国際的な関心を呼んだ薄煕来・元重慶市書記も、権力闘争で失脚する以前から、法 学者や弁護士による地道な批判活動が行われていた事実も、ネット世論が中国社会で影響力を強めている例の一つとして阿古氏は挙げている。

 情報統制が厳しい中で、言論の自由のために活動を続ける浦志強弁護士の活動ぶりも詳しく紹介された。経済的に自立しており、外国から金を受け取らない。動員型の政治活動はしないが、ネ ットを利用した政治家批判も辞さない。メディアを味方につけている…。こうした活動スタイルで政府も恐れる浦弁護士の「微博」は、100万にも上るフォロワーがおり、2 00万人いるといわれる政府のネット監視員の手で発言はすぐに削除されても、次々に新たな発信を繰り出している、という。

 昨年11月の第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で打ち出された決定で注目された一つに、労働教養制度の廃止がある。こ の制度は法的な手続きをとらず地方政府の労働教養管理委員会が好ましくないとみなした人物を拘束し、強制労働させる制度。浦弁護士は、言 動をにらまれて労働教養処分を受けた十数人の処分取り消し行政訴訟も担当している。「労働教養制度廃止という3中全会の決定には、浦弁護士の地道な活動が反映していると思う」と阿古氏は語った。

 では、中国社会はこうした社会運動によって、よりよい方向に進んでいると言えるのかどうか。阿古氏の見方は、なお厳しい。中国は依然として「公平・公正な競争ができていない社会。正しいことをした人、正 直な人が報われる社会になっていない」という。さらにインターネットの影響が大きいことを認める一方で、ネットを介した活動を「非公式の民主活動」と表現し、長 期的な視野に基づく建設的な議論を難しくするという限界があることを指摘した。地域間・個人間の経済格差の大きさが、幅広い連帯を通して具体的な問題に対処することを難しくしている、とも語っている。

 中国にとって最も求められていることとして、阿古氏が最後に挙げたのは中国語でもともと倫理的意味合いを含むという「公」の創出。そのために必要なこととして、現 実を把握して自分の頭で考えられる批判的思考力を育てる教育と、自分の権利を主張するだけでなく公共を生み出していく「公共圏」の構築、を加古氏は提言した。

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