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【14-20】対中関係改善先手打つ時 宮本元駐中国大使が提言

2014年 9月19日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 宮本雄二元駐中国大使は9月18日自身が会長を務める日中関係学会の研究会で講演し「安倍政権にとって中国との関係改善は国内的に大きな意味を持つ。先手を打ってやれば支持も高まるはず」と語った。 

 宮本氏はまず、従来「美しい」と考えられていたような「外交」が今の時代なくなっており、外交は内政の延長になっている、という持論を繰り返した。習政権にとって、一番大事なことは経済発展である、と 指摘した上で、経済発展にマイナスでしかない対外強硬政策をとり続ける理由として、次のように述べた。

 改革は2012年11月の第18回中国共産党全国代表大会で決まった方針。改革の徹底は昨年11月の第18期共産党中央委員会第3回全体会議(3中全会)の決定でもあり、習政権は、改 革をして経済発展しない限り、共産党も持たないし、中国社会も持たないということをよく知っている。しかし、改革は必ず巨大な既得権益層とぶつかり、その既得権の大半は江沢民元国家主席につながる。習 政権は反腐敗闘争を進め既得権益層を次々に倒しているが、たたかれる方は対外関係を利用して習政権を逆につぶそうとする。習政権としては、対抗上、権力を固めるまで対外的に強硬路線をとらざるを得ない。

 一方、安倍政権にとって、靖国参拝、集団的自衛権、機密保護法という政治的理念に基づいてやろうとしたことを改造前の内閣でやってしまったのだから、これからは経済の底入れが最も重要な課題だ。経 済発展には中国、韓国との関係改善が不可欠とする国内の声に応える、つまり内政的な観点から対中国・韓国との関係改善という外交に転じることが迫られている、との見方を宮本氏は示した。

 軍事力の整備、強化は10年20年という時間軸で進められることから、中国人民解放軍の海外進出という流れは簡単に変えられない。これに対抗しようとしたら日本の防衛予算を毎年10%あるいは15%増 やさざるをえなくなる。お互いの国にとって今一番大事な経済を重視して、良好な関係をつくることに力を注げば防衛予算を増やさなくてもすむ…。宮本氏はこうした「中期的視点を持って対中関係を変えていく」こ との重要性も強調した。 

 さらに福田元首相の訪中を機に中国側に関係改善に向けて1歩進めようという動きが出てきたとの見方を示した上で、「首脳同士が合意する場合、自分が譲歩したという形は双方ともとれない」と指摘し 「 問題は日本側にある。日本側の努力が必要だ」などと中国側が主張することに対しては疑問を呈した。

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