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【14-24】この15年が勝負どころ リチャード・クー氏中国の経済状況分析

2014年11月21日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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 中所得国のわなを脱し、高所得国になるにはこの15年が勝負どころ―。11月7日日中関係学会の研究会で講演したリチャード・クー野村総合研究所主席研究員が、正 念場を迎えている中国の経済についてさまざまなデータを示して分析した。

 クー氏は、中国の経済を主導している人々の問題意識のレベルが高いことをたたえ、中国経済の今後については楽観視していると語った。悲観的にならざるを得ないことが一つだけあるとして挙げたのが、「 ルイスの転換点に達した」のと「生産年齢人口の減少」が同時に起きている現実だ。

 ルイスの転換点とは、工業化を進める国が労働力として吸収した農村からの過剰人口が底をついた時点を指す。英国の経済学者、アーサー・ルイスが提唱した概念だ。転 換点に達するまでは労働者を雇うのが簡単なため経営者は賃金を上げなくても済み、高度成長、物価の安定、旺盛な投資が実現する一方、所得格差の拡大や弱い消費をもたらす。

 クー氏は、中国が2012年にルイスの転換点に達し、その後の中国経済は、賃金上昇による消費の拡大(内需正常化)や所得格差の縮小が期待される一方、成長の鈍化、投資の減速、イ ンフレの加速といった減少が予測される、と指摘した。

 ルイスの転換点に達するもう一つの意味として、氏が挙げたのが「一般労働者が初めてバーゲニングパワー(交渉能力)を得ること」。労働者の要求がエスカレートし、労働争議が増え、学 生運動も活発化するといった社会現象が過去に日本や韓国で見られたことを、クー氏はグラフで示した。

 「生産年齢人口の減少」という中国が直面しているもう一つの重要な問題については、中国国家統計局が「既に2012年に現象が始まった」と公表している。ただし、これは「15~59歳」を 生産年齢人口とした結果。日本の場合、15~64歳を生産年齢人口としている。クー氏は、日本の考え方に合わせて64歳まで伸ばした場合でも、2 015年をピークに中国の生産年齢人口が下がり続けるという予測をグラフで示した。

 日本の場合は、生産年齢人口が減少し始めたのは1995年。ルイスの転換点をすぎてから30年ほどたってからだ。中国は両方が同じ時期に来たというということでより厳しい状況にある…と いうことを指摘した上でクー氏は、この15年が高所得国になる勝負どころという見通しを明らかにした。

 世界銀行の基準(2013年)によると「1人当たり所得12,000米ドル以上の国民総所得(GNI)がある国」を高所得国と呼ぶ。クー氏は、生 産性も賃金も上げられず経済成長率が止まってしまう現象を指す「中所得国のわな」から抜け出せない国を、国民1人当たり国民総生産(GDP)で10,000~15,000米ドルにとどまっている国としている。経 済協力開発機構が 昨年10 月に発表した報告書「東南アジア、中国、インド経済アウトルック2014」によると中国の国民1人当たりのGDPは、9,161米ドル。同報告書では2014-1 8年のGDPの成長見通しを年7.7%としており、日本記者クラブで記者会見した玉木林太郎OECD事務次長は「中国の経済成長は7%台が続き、中 所得国のわなを脱して高所得国の仲間入りをするのは2026年ごろ」との見通しを明らかにしていた。

 OECDは今年11月13日に発表した「東南アジア、中国、インド経済アウトルック2015」で、中国の2015 年から 19 年にかけての年間GDP成長率について「人口動態の変化に沿う構造調整、投 資から消費主導の成長への移行、また農業、環境および教育といった領域での課題がある中、6.8% まで緩やかに減退する」と下方修正した。

日中関係学会「 2014年第2回研究会
OECDプレスリリース「 東南アジア、中国、インド経済アウトルック2015」(2014年11月7日)
同報告書「 東南アジア、中国、インド経済アウトルック2015」(2014年11月7日)