【15-01】ウクライナ危機は中国を利す ミアシャイマー氏が警告
2015年 1月 5日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
攻撃的現実主義の代表的研究者とされるジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授が、12月17日東京財団主催の公開フォーラムで講演し「ウクライナ危機は、中国に有利に働き、日本にも大きな影響を及ぼす可能性がある」と警告した。
ミアシャイマー氏は、「国際社会のシステムはアナーキー(無政府状態)であり、国家の上に立つ権威はない」という持論を何度か繰り返し、中国の台頭が東アジアにおいて大きな脅威であるとの見方を強調した。「中国に限らずどの国も他国が将来どういう意図を持つか分からない中で、国を運営していかなければならない」「国家にとって理想的な状況とは自らが維持する地域を支配し、他国がこの地域を支配しないようにすること」「一番よい生き残り策として、地域の中で一番強い国になり、どの国も手を出さないような国になろうとする」―など氏の考える「国際システム」像を説明した上で、国際社会における中国の現状を「平和的な台頭ではない」と決めつけた。
米国についても建国以来、メキシコやスペインなどとの戦争を重ね、西半球で唯一の覇権国となるよう賢明の努力を重ねてきた、と評し、中国も力を付けて米国を東アジアから追い出そうとするのはむしろ当然の動きとみるべきだ、との論を展開した。
中国が過去30年間で示した目を見張るような経済成長をこれからも続け、経済力を軍事力に置き換え、かつて米国がしたように、米国を自らが支配する地域から追い出そうとするのは自然な流れ。中国が掲げる第一列島線(九州-沖縄-台湾-フィリピン-ボルネオ島)からも第二列島線(伊豆諸島-小笠原諸島-グアム・サイパン-パプア・ニューギニア)からも米国を追い出そうとするだろう。一方、米国は中国がアジアを支配するようなことは許さない。日本、ロシア、ベトナム、韓国、台湾、マレーシア、インドネシアなど中国がアジアを支配することが利益にならない国・地域と一緒になって中国を封じ込めようとする。こうした対立から中国と近隣諸国、米国との間に戦争が勃発する可能性もかなりある。(これ以上大国化しないよう)中国の経済成長が頭打ちになってほしい、と米国は願っている...。
以上のような論を展開した後、ウクライナ問題は一般的に言われているようにプーチンロシア大統領のせいというよりは、西側、主に米国が原因をつくり、結果としてウクライナ危機は中国を利して、日本に対しても安全保障上、深刻な影響を与える可能性をもたらしているとの見方を氏は示した。
クリミア併合などの挙に出たプーチンの行動を一方的に批判できないとする理由としてミアシャイマー氏が挙げた一つは、「ウクライナとグルジア を将来NATO(北大西洋条約機構)に加盟させる」と決めた2008年のNATO首脳会議に対し、プーチン大統領が絶対に許さないと明確に反発していたという事実。むしろ、米国にとって大きな失敗だったとする理由として、オバマ政権が打ち出したアジア・ピボットと呼ばれるアジアに軸足を移す外交政策に相反することを氏は指摘した。
米国にとって、中国がアジアを支配することは許せない。長年、力を注入させられた中東、欧州からアジアに軸足を移し、台頭する中国を封じ込めるためにロシアとも協調する必要がある、というのがオバマ政権の狙いだったはず。ウクライナで問題を起こして逆にロシアを敵に回し、なおかつ中国とロシアを接近させるようなことは愚かな戦略でしかない...と、氏はオバマ政権の外交戦略も厳しく批判した。
中国と近隣諸国・米国との戦争の可能性も、という氏の見通し通りにならないですむ希望と可能性として、まだ脅威が顕著になっていないことも挙げ、米国が「目を覚まして」アジア・ピボットの重要性を再認識し、中国を封じ込めることと、日本との密接な協力の大切さを理解することを求めた。
関連リンク
- 東京財団「 J.ミアシャイマーが語る「攻撃的現実主義の視点から読み解く、中国の台頭とロシアのクリミア併合」(YouTube動画)
- 書籍紹介「小説外務省―尖閣問題の正体」
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