【15-04】中国の高齢化日本より難題 渡辺博史国際協力銀行総裁が予測
2015年 1月30日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
(日本記者クラブ提供)
渡辺博史国際協力銀行総裁が1月26日、日本記者クラブ主催の研究会で世界の経済見通しについて講演し、高齢化対策が中国にとって日本以上に大きな課題になるとの見方を示した。
渡辺氏によると、中国は5年くらいのうちに人口13億人の半数6億5,000万人が、高齢者と生産年齢に達しない若者・子供で占められるようになる。1人が2人分稼がなければならないことを意味する。日本も人口の半数6,000万人が、残り6,000万人分も稼がなければならなく時代になるので、事情は同様。しかし、日本の場合は、働かなくなる高齢者が相当資産を持っているのに対し、中国の高齢者の多くは資産を持たない。中国にとっては、高齢化対策が最大の課題でより大きな挑戦となる、との見通しを示した。
さらに氏は、中国が抱えるもう一つの大きな課題として不良債権処理を挙げた。処理による影響が中国国内で収まればよいが、そうでないと韓国、日本だけでなく世界経済にとって大きな懸念となる、としている。李克強首相が1月21日、スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議) で、リフォーム(改革)と安定的な中成長率.を目指す決意を示したことを評価する一方で、リフォームの規模についての疑念も示している。PM.2.5対策や水質汚染対策に投じると明らかにしている額が、実際に必要と思われる額よりも一桁小さいなどの理由を挙げ「意図するところは健全だが、量的な感覚にずれがある」と指摘した。
習近平政権が設立を急いでいる「アジアインフラ投資銀行」については、G7(先進7カ国)がそろって加わる可能性を否定しないものの「明確な構図にたどりついていない」と幾つかの問題点を挙げた。同銀行構想には、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、インド、中東諸国、ニュージーランドなどが既に参加を決めている。しかし、「インフラ整備に資金を必要とする途上国に十分な融資をしない世界銀行や米国をはじめとする先進諸国に対する不満に加え、既存の国際金融機構体制内では主要な役割を演じられないとみた中国の挑戦」(津上俊哉 津上工作室代表)など、構想を主導する中国と、先進諸国との考え方に相当の距離があることを指摘する声や報道が多い。
渡辺氏によると、今後10年間で世界全体が必要としているインフラ需要は約20兆ドルで、このうち日本を除くアジアが必要としているのは約8兆ドルに上る。一方、世界銀行とアジア開発銀行という現在の国際金融機構が用意できるのは半額程度。「新しいポケットができるのはよい」。途上国が第3の資金源誕生を歓迎することに理解を示すと同時に、氏は「判定機関が増える」ことに対する懸念も示した。世界銀行とアジア開発銀行が不安視するプロジェクトにアジアインフラ投資銀行が融資した場合などに好ましくない事態が起こり得る、という心配だ。
「先進国がまとまってアジアインフラ投資銀行に入るということもないわけではない。G7(先進7カ国)と中国との間でいろいろやっているがまだ目が開く状態になっていない」と現状を説明した。
このほか世界全体の抱える課題として渡辺氏が挙げた中に、雇用形態の変化がある。これまでもっぱら交わされてきたのは、正規雇用、非正規雇用に関わる議論。しかし、こうした議論の前提といえる「生涯雇用」の考え方そのものが大きく変化し、「必要なときに必要な人を集めるため、国あるいは世界全体が人材のプールを持つ」時代が到来する、と氏は予測している。「パートタイマーが当たり前という時代になると、一般の人たちの所得水準、生活設計の展望をどうするかが、長い目でみた課題になるのではないか」との見方を氏は示した。
高齢化問題については、中国、日本だけでなく欧州諸国にとっても大きな課題だとして「(高齢化の)先を走っている国としてよいモデルを示せるかが問われている」と日本の責任にも触れた。
関連リンク
- YouTube動画サイト【日本記者クラブ 渡辺博史 国際協力銀行総裁 「2015年経済見通し」】
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