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【15-05】税制の透明化が重要 ピケティ氏中国に助言

2015年 2月 3日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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 世界で150万部売れたという「21世紀の資本」の著者、トマ・ピケティ・パリ経済学校教授が1月31日、日本記者クラブで講演し、「中国は財政の透明化が必要」と語った。

 ピケティ氏は、「21世紀の資本」の中国語版序文で「政治の民主は経済の民主と歩調を合わせてやってくる」と書いている。これを取り上げた会場からの質問「中国は市場経済に則って改革開放を進めてきたが、政治では強権主義を強めているように見える。経済の民主化は政治の民主化にどのように貢献できるか」への答えとして述べられた。

 氏によると、財政の透明化は中国の近代化にとって必要で、「それが可能かどうか、さらに政治の透明化が可能かどうかが問われている。政治の民主化が伴わないと近代化は難しい」と語った。富がどのように分配されているか、所得税がどのように徴収されているかを示す統計がないことを問題視し、「所得区分に応じてどのように所得税が徴収されているか、特に地方レベルで統計データが示されれば、所得税の徴収システムがあまり機能していないことが分かり、その結果、国民は政府に改善を迫って税制度に対する信頼も高まる」と、政府に特に税制の透明化を促した。

 習近平政権が力を注いでいる腐敗撲滅の取り組みに関しては「ロシアのプーチン大統領も思い出したようにやる」と語り、所得区分に従って税がどのように支払われているかを明らかにする方が、より効果があるとの見方を強調している。

 「21世紀の資本」が経済の本としては異例ともいえる反響を呼んでいるのは、「資本の収益率が経済成長を上回る」という簡潔な結論を過去200年にわたる世界20カ国以上の国の税金データから導き出し、長期的な不平等の進展をわかりやすく説明したたことにあるといわれる。氏は、米国、日本、欧州で、上位10%の高所得層にそれぞれの国の全所得の何パーセントが集中しているかを示す分配率グラフを示し、一部の高所得層と残り大半の所得層との不平等(格差)がどのように変化してきたかを説明した。

 氏によると、この格差が若干縮まったのは20世紀前半だけの現象。これは第一次世界大戦、大恐慌、第二次世界大戦によって資本が破壊され、加えて戦後の日本に見られたような社会の仕組み、制度を変える政策がとられたことによる。1970年代、80年代になると再び格差は広がり始め、特に米国が最も顕著で、2010年には上位10%の所得層が全所得の50%近くを占めるまでになった。欧州はそれほどではないが、日本は米国と欧州の間にあり、国全体の所得の40%近くが上位10%の高所得層に集中している。

 ピケティ氏は、格差が一様に拡大している一方で、国によって違いが出ている現実を国による対応の違いに求めている。中国を初めとする新興国が先進国の低中所得層の競争相手になった結果、先進国内の格差が広がった、とする主張も「一部を説明しているだけ」と否定した。格差の拡大を抑えるために必要なことは、それぞれの国がさまざまな政策、制度、仕組みを取り入れ、駆使することだ、としている。特に税制改革と、教育分野への公費投入の重要性を指摘した。

 日本で関心が高い消費税については「これまで経済成長をもたらしていない」として、日本の場合は若者、女性に対する不平等を解消し、不動産物件など高所得層の富に高い税をかけるような税税改革を優先することを勧めている。

 さらに格差の拡大は経済成長に役立たず、不平等の高まりは一部の層への権力集中により政治にも悪影響を及ぼす、と警告を発した。


YouTube動画サイト【日本記者クラブ トマ・ピケティ仏経済学者「21世紀の資本」