【17-03】日本の人工透析システム中国で普及か
2017年 2月24日 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
日本独自の人工透析システムが中国で広く使われることを目指している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2月21日、中国江蘇省の南京医科大学で実施した実証試験でシステムの有効性を確認できた、と発表した。20日には、南京医科大学第二附属医院で「実証試験成果報告会」を開催し、中国の医療関係者たちの大きな関心を集めた。
実証試験成果報告会(南京医科大学第二附属医院、NEDO提供)
人工透析を必要としている患者は、国内外に多数いる。外国の人工透析は患者のベッドサイドに置かれた透析用監視装置が患者1人1人の透析液を作製する方式が主流だ。これに対し、日本は透析液を一カ所でまとめてつくり、数十台の透析用監視装置に供給するセントラル方式人工透析システム(CDDS:Central Dialysate Delivery System)が、8~9割を占めている。セントラル方式の方が安い費用で済むにもかかわらず海外で普及が遅れているのは、管理が難しいことが一つの理由となっている。
今回の成果は、2013年11月にNEDOと南京医科大学が締結した基本協定書に基づいて進められてきた実証試験の結果、得られた。実証試験には、CDDSに必要な装置類を自社で一貫製造している東レ・メディカル株式会社のほか、東レ株式会社、東京女子医科大学が協力し、南京医科大学第二附属医院に日本独自のCDDSが導入された。水処理システムで浄化された透析用水と、粉末剤溶解装置でつくられた原液を透析液供給装置で混合させて透析液をつくる。この透析液を30台の透析用監視装置に供給する仕組みだ。
セントラル方式人工透析システムの全体像(NEDO提供)
9カ月にわたる実証試験の大きな技術的ポイントの一つは、透析液をつくる前段階の水処理装置が期待通り働くかどうかだった。日本は、軟水と呼ばれるカルシウムやマグネシウムの含有量が少ない水質が多い。しかし、南京医科大学第二附属医院付近は、日本とは異なりカルシウムやマグネシウム分に富む硬水と呼ばれる水質。その他、日本とは異なる現地の水に合うよう改良・開発した水処理装置が用いられた。実証試験の結果、透析用水と透析液中の化学的汚染物質や細菌数は、いずれも国際基準をクリア。人工透析技術や透析水質管理技術を含め、現地の水環境と医療環境にも適合したシステムとしての有効性が確認された。
現地病院内に設置した実際の実証機器(NEDO提供)
中国では、約2年前に医療機器認定の制度が変更されている。今回の実証試験は、実際の患者に透析液を注入することまではしていない。今回の成果を基に、東レ・メディカルは3月中にCDDSの医療機器登録承認申請を行い、認可を得て、来年1月中に医療機器登録承認を取得見込みであり、取得後、中国国内でのシステムの販売を始めたいとしている。
中国で人工透析が始まったのは1970年代。昨年9月に広島で開かれた国際血液浄化学会(International Society of Blood Purification)総会では、中国国内でも透析医療が普及するとともに患者数が増え続け、2015年には38万5,000人を超え、日本を追い越した現状が報告されていた(日本は2014年に32万人を超える)。NEDOによると、生活習慣の変化により、患者数は今後も増え続け、人工透析の市場規模も年率約20%で増加しているという予測もある。
日本は部品をたくさん輸出しているのに、システムとしての輸出実績は欧米企業に比べ見劣りする。例えば高度な浄化膜技術を持ちながら、海外で水道システムを受注するのは欧米企業ばかり。こうした現状を打開するため、浄化膜や部分的な技術だけでなく水道システム丸ごとの海外輸出を目指そうといった動きが、ようやく出てきている。医療分野でも、2011年1月に閣議決定された「新成長戦略実現2011」は、「国際医療交流の促進」をうたい、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」にも相手国の実情に適した医療機器・医薬品、インフラなどの輸出促進が盛り込まれた。成長が見込まれるインフラ市場として「海外の医療技術・サービス市場」を挙げ、「2020年までに官民一体で1.5 兆円(現状 0.5 兆円)を獲得する」という目標が掲げられている。
今回のNEDOの取り組みも、こうした動きの一環。現地国特有の疾患や体型・体質、近年、特に増えている疾患に対応した医療機器、関連システムを提供することで、現地国民の福祉に貢献することを狙いとしている。併せて医療分野のインフラ・システムの提供を通じて、日本の医療機器産業の活性化・海外展開の促進も目指している。
実証試験成果報告会会場で中国メディアの取材を受ける佐藤嘉晃NEDO理事(NEDO提供)
関連リンク
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニュースリリース
「中国江蘇省の病院で人工透析システムの有効性を確認―日本独自のシステムで中国市場に本格参入へ―」 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
「 『環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ 先進的医療機器システムの国際研究開発及び実証』基本計画」 - 日本再興戦略(2013年6月14日4 閣議決定)概要
- 科学技術振興機構研究開発戦略センターシステム科学ユニット中間報告書
「 システム科学技術の役割と日本の課題」
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