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【17-06】金融リスク回避と構造改革提言 OECDが中国経済報告書公表

2017年 3月23日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 経済協力開発機構(OECD)は21日、「中国経済調査報告2017」を公表した。中国経済が成熟し、持続可能な軌道に乗っていると評価した上で、環境への配慮、イノベーションの推進、企 業統治の改善など、中国自身が2020年までに実現するとしている「小康社会」に向けての具体的な提言も盛り込んでいる。

 報告書は、中国の1人当たり国内総生産(GDP)が2020年までに2010年の2倍に増え、しばらくは世界経済をけん引し続けると予測している。同時に、投資から消費へと経済のリバランス(配分調整)を 継続し、企業の大きな負債、過剰生産能力、住宅価格高騰といった主な金融リスクに取り組むよう提言した。

 報告書によると、金融を除く中国の企業の負債は、国有企業と公共事業体に対する国の暗黙の保証によって増大し、2016年には対GDP比170%に達し、先進諸国中最も高い水準になった。こ のうち3分の2を国有企業の負債が占めている。国有企業への暗黙の保証を段階的に取り除き、借 入金により借入利子よりも高い利潤を得ようとするレバレッジ投資を禁止することなどを金融リスクへの対策として報告書は挙げている。

 国民が比較的余裕のある生活を送れる経済水準を意味する「小康社会」実現に向けて、報告書が問題にしているのが、多 くの低所得世帯で社会保障費が所得に占める割合がより裕福な世帯よりも高くなっている現状。実質所得に対する社会保険料を基準にしつつ、さらに個人所得税源を拡大し累進課税を高めることを、報告書は提案している。

 さらに教育でも大きな格差があることを指摘、育児への公的支出を増やし、農村の子供の早期幼児教育への参加を奨励すべきだとしている。同時に、退職時期が早い現状を問題視し、年 金支給年齢を65歳に引き上げることも提言している。

 イノベーションの推進に関しては、重要な戦略的プロジェクトと新しいハイテク産業からのみ生み出されている現状を改善するため、イノベーションのための政府支援を受ける企業数を増やすことを勧めている。ま た、知的財産権の侵害が特許の登録を阻害している現状を指摘し、違反者に対する訴追や罰金の強化により知的財産権保護を強めることも提言している。

図1

イノベーションのための中国政府研究助成金配分状況(2015年)

(OECD Economic Survey of China 2017から)
イノベーション推進のために投じられている公的資金が鉄道・輸送、コンピューター・電子機器関係に偏っていることが分かる

 アンヘル・グリアOECD事務総長は報告書の発表に合わせて、「過去数十年にわたり驚異的な成長を遂げた中国が、今注目すべきはその成長をより回復力のある持続可能で社会に行き渡る包摂的なものにし、安 定性を脅かすリスクに対処することだ。中国経済は物質的な投資を減らしてイノベーションを増やし、レバレッジを解消し、そして何よりも環境にもっと配慮すべきである」と語った。

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