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【18-13】上海外大の崔玥盈さんが優勝 日本語スピーチコンテスト

2018年7月20日 石川 晶(中国総合研究・さくらサイエンスセンターフェロー)

 全中国選抜日本語スピーチコンテストが7月17日、東京・大手町の日経ホールで開催され、上海外国語大学の崔玥盈(サイ ゲツエイ)さんが優勝した。

 日本語スピーチコンテストは日本経済新聞社、中国教育国際交流協会、日本華人教授会議が2006年から主催し、今回で13回目を迎える。5月から6月にかけて、日 本語を学習している中国の大学生を対象として中国全土の8ブロック(北京、華北、東北、華東、華南、華中、西北、西南)で予選が行われ、予選を勝ち抜いた16名が来日し、この本戦に臨んだ。予 選参加大学は234校にのぼり、各大学内での予備選も含めると、約1万8000人が参加したという。このような狭き門をくぐり抜けてきた本戦出場者は、いずれも非常に高いレベルの日本語によるスピーチを披露した。 

 本コンテストは、出場者は2つのテーマのうちいずれか1つを選択し5分間のスピーチと2分間の質疑応答を行い、その内容を8名の審査委員が審査するというルールとなっている。

 今回のスピーチテーマのうちのひとつは「AI(人工知能)で私たちの生活はどう変わる?」であった。中国では近年、AIの研究、社会への実装が徐々に進んできているためか、出 場者16人のうち11人がこのテーマを選択した。各々が最近のAIに関するニュースなどを取り上げ、AIを活用する未来について若者らしい豊かな想像力を発揮してスピーチを展開した。

 もうひとつのテーマは「日中平和友好条約締結40周年に思うこと-新しい時代、新しい交流」であった。このテーマを選択した出場者は、自分が生まれる前から続く日中交流について、自 身の交流経験や自ら調べた内容などをうまく整理して語った。

 優勝者の崔さんは、イベントの参加やホームステイなどの体験をもとに、日中間の民間交流の過去と将来について議論を展開した。7 0年代から日中交流事業に携わる日本人に聞いた困難の多かった当時の交流活動の状況、自身も参加している現在の交流活動のあり方を説き、その上で22世紀の民間交流のイメージとして、目 的地を地図に向かってダーツを投げて決め人工知能を活用し旅行プランを作成し、その行程で中国人と日本人が交流を深める「ダーツの旅」を提唱した。これは設定された2つのテーマを跨がる内容とも言えるものであった。

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写真1 優勝した崔玥盈さん

 崔さんのスピーチで最も聴衆の印象に残ったフレーズは「民間交流は、揺るぎない友情を築くための鍵を握る」というもので、交流事業の重要性をあらためて強く認識させるものであった。質 疑応答でも中国のEコマースの発展が中国社会に与える影響について、複数の事例を取り上げながらよどみなく回答し、審査委員からの高い評価を得た。

 出場者全員が頭を悩ませたのは、質疑応答であった。「中国はなぜモバイル決済など新しい金融技術の分野で先進国になれたのか」、「『一人っ子政策』撤廃により中国社会はどう変わるか」、「 米中の貿易戦争について」など、出場者およびその指導に当たった教師があまり想定していなかった政治、経済、社会に関する質問内容であった。また「改革開放40周年を迎えた中国の経済や社会の変化をどう見るか」と いう質問もあり、その変化の大半を体験していない現在20歳前後の出場者には酷な要求であったのかもしれない。

 しかし、審査総評で審査委員長の立石博高東京外国語大学長は「言葉というものは広い意味での文化であり、そこには政治、経済、社会も含まれており、そ の意味において日頃から新聞やインターネット上のニュースなどにも目を通していることが試される」と述べ、中国の日本語学習者に対し漫画やアニメだけでなく、他 の分野にも興味を持ってもらい広い視野を身につけて欲しいという「親心」を見せた。

 優勝した崔さん以外にも、特筆すべき出場者が少なくなかった。日本語の通訳になることが目標であるという広東外語外貿大学の喩敏政(ユ ビンセイ)さんは、A Iの発展によって通訳という職業自体が無くなってしまうのではないかと危惧を抱いていたが、喩さんを指導する先生の「言葉には感情が含まれていて、そこに潜んでいる意味が重要であり、A Iはまだその段階まで達していない」という言葉に救われたという話題、そ してAIの登場により物流業などで淘汰される職業が増えてきている一方でEコマース分野などにおいて新たな職業が生まれてきている現状について論じた。非常に論理立ったスピーチにより、喩 さんは準優勝という好成績を収めた。

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写真2 広東外語外貿大学の喩敏政さん

 また立石審査委員長からも高い評価を受け見事JFE特別賞を受賞した厦門大学の阮琳榕(げん りんよう)さんは、A Iの発展によりスピーチコンテストの開催自体が必要なくなってしまうのではないかと想像したが、AIにはドキドキする感情、臨場感が無いと、独自の視点をうまく表現していた。驚 くことに阮さんは日本語の学習を始めてまだ2年だという。そして将来の夢は大学教授となり日本語を教えることだと語った。

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写真3 厦門大学の阮琳榕さん

 コンテスト終了後、優勝できなかったために涙を見せた出場者もいたが、それだけ出場者全員が過酷な練習を繰り返し、スピーチの内容について思いを巡らし磨きをかけ、そ して強い気持ちで本コンテストに参加したことの現れであったとも言えよう。

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写真4 出場者と審査委員らによる記念撮影

 前述のとおり、今回の質疑応答では政治、経済、社会に関する質問があったが、複数の出場者の指導教員によると、キャンパス内ではこのような内容については敏感な問題と認識していることが一般的であり、そ のため議論しづらい雰囲気があり、想定練習を行うことすらも難しかったという事情を明かした。

 次回以降は主催者側がこのような事情を考慮した質疑応答の質問を設定し、出場者側もある程度は政治、経済、社会に関して事前に知識をつけることが可能となるだろう。そ れによって本コンテストの内容は一層のレベルアップを遂げ、日中の相互理解のためのより重要なイベントとなることが想像できよう。

 なお昨年に引き続き聴講者の投票による「会場特別賞」(スピーチの部・質疑応答の部)が設けられていたが、いずれも優勝した崔さんが受賞し「三冠」という快挙を達成した。コ ンテスト修了後にインタビューに応じた崔さんは将来、日中民間交流に携わる仕事をする一方、正しい日本語の発音を多くの人々に教える立場にもなりたいという夢を誠実に語った。

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写真5 優勝が決まり感謝を述べる崔さん

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