【18-26】植物の病原体に対するイネの防御仕組み 日中の研究チーム解明
2018年12月7日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
いもち病に対するイネの防御機能に重要な役割を果たしているタンパク質を中国科学院上海植物逆境生物学研究センターの研究チームが突き止めた。このタンパクがイネの防御能力である免疫力を高めることも確かめた。この仕組みをうまく制御することで、植物の耐病性を必要なときに向上させ、病気に強い植物を開発することが可能になる、と研究者たちは言っている。
中国科学院上海植物逆境生物学研究センターの河野洋治准教授(横浜市立大学木原生物学研究所客員准教授)らは、奈良先端科学技術大学院大学の研究者などと協力し、OsSKP1と呼ばれるタンパク質がこれまで解明できていなかった重要な役割を果たしていることを初めて明らかにした。抵抗性タンパクと呼ばれる病原体センサー(受容体)がカビや細菌、ウイルスといった病原体を認識すると、OsSKP1が植物の免疫機能を働かすスイッチの役目を果たすOsRac1というタンパクを活性化する役割を担う。
OsRac1がイネの免疫機能を働かすスイッチの役割を持つことは、既に河野准教授が解明済み。OsRac1を働かすのが抵抗性タンパクと呼ばれる病原体センサーであることも明らかにしていたが、ど のようにしてOsRac1を活性化するのかは未解明だった。今回、河野准教授らは、OsRac1を活性化するのがOsSKP1であることを突き止め、OsSKP1の働きを抑えるといもち病に対する抵抗力が著しく低下することをから、重要な役割を果たす因子であることも確認した。
図:いもち病菌の感染を免疫受容体である抵抗性タンパク質PitあるいはRGA4が感知すると、OsSPK1を介して免疫スイッチOsRac1を活性化し、耐病性を与える。
(中国科学院上海植物逆境生物学研究中心・横浜市立大学プレスリリースより)
病原体を認識する抵抗性タンパクとOsSKP1、OsRac1の3分子は一つの部品のような構造を形成していることも確かめた。抵抗性タンパクが他のタンパクに置き換わることで、3分子から成る構造体がいもち病に限らず幅広い植物免疫の機能を持つ可能性が高いと研究チームは見ている。さらに今回の成果が病気に強い農作物の開発によって食糧問題やエネルギー問題にも貢献することを期待している。
関連リンク
米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci USA)
http://www.pnas.org/content/115/49/E11551?etoc=