【18-28】清華大学の学生たちが成果発表会―中央大学がさくらサイエンスで招聘、最新の感性工学を学ぶ
2018年12月13日 箕輪大(中国総合研究・さくらサイエンスセンターフェロー)
最近、中国の自動車が格好良くなってきていると言われる。北京や上海で開催されるモーターショーの写真を見ると、センスの良いクルマが増えてきたような気がする。海外から技術者やデザイナーを招聘し、気鋭の国内の若手の設計者たちとの共同開発で、安全性が高く、乗り心地が良く、かつ見た目も良いクルマ作りが進められているようである。
この「センスが良い」という感覚を工学的に分析して、例えば商品開発に活用するような研究を感性工学と呼んでいる。本研究の第一人者である中央大学の加藤俊一先生が、さくらサイエンスプランを活用して、中国のAI研究で最先端を走る清華大学から学生(大学院生)ら5名を招聘した。「製品やサービスのデザインに対する感性認知の国際比較」をテーマに、2週間にわたる交流を終え、最終日の成果発表会を迎えた。
清華大学の学生の一人は、中央大学理工学部の、新妻実保子准教授のヒューマンシステム研究室を訪問した様子を発表した。同研究室では、人の活動支援につながるようなロボットシステム研究の一環として、犬の愛着行動の解析から得られた知見をロボット工学に応用している。愛らしい動きをするロボットに触れたときの感動のみならず、犬と人のように言語を介さずともコミュニケーションできる点に注目した研究であること、人の活動領域を考慮して自律的に障害物を回避する技術についても感銘を受けたこと等を発表した。
もう一人の学生は、芝浦工業大学の大倉典子教授のセミナーを受講した感想として、日本発の感性価値である「かわいい」という視点を商品開発等へ応用する手法の新鮮さや、日本で活躍する女性研究者の視点が、より多くの人々に優しい製品やサービスに繋がっていること等を発表し、新鮮な刺激を得た、という報告をした。
筑波大学の山中敏正教授の協力を得て、筑波大学と楽天株式会社が共同設立した「未来店舗デザイン研究室」を訪問したことも印象深い経験だったようだ。同研究室では、最先端のインターネット技術を活用した店舗システムの設計を目指して、感性工学やデザイン思考アプローチなど学際的で多岐にわたる研究が行われている。中国ではインターネットを介した電子商取引が非常に盛んである。彼らの日本での体験や学びが、近い将来、清華大学も含めた新しい共同プロジェクトに結びつくかもしれない。
同じく中央大学の理工学部にある、檀一平太教授の応用認知脳科学研究室での体験も印象的だったようだ。脳機能イメージングといって、磁気や赤外線などにより血流の変化を調べるための装置を利用して、ヒトの脳の働きを調べたり、計量心理学によって思考パターンを解析したりといったことを試みている。志願した一人の清華大学の学生は、多くの端子が接続された近未来的なヘルメットのような装置を頭にのせて実際に体験し、ヒトの心理状態を数値化・モデル化できることの不思議さに目を輝かせていた。
また、今回の清華大学と中央大学の学生同士の交流が、今後の彼らの共同研究のきっかけ作りに貢献した点も見逃せない。例えば、テレビコマーシャルを見た男女の感覚の違いを感性工学の視点から分析したり、中国のメディア企業が提供する短編動画共有アプリケーションの「ティックトック」を活用したりといった、若い世代ならではの新鮮なアイデアが生まれた。
成果発表会の後、加藤先生の研究室で開催された懇親会では、公式なさくらサイエンス修了書のほかに、中央大学理工学部加藤研究室が自ら作成した修了書が、理工学部長の樫山和男先生らから手渡された。協力いただいた理工学部の他の先生方も駆けつけて、交流の修了と今後の発展を祝福した。清華大学の学生たちは、皆さまのおかげで大変充実した滞在であった、先生たちのおかげで多くのことを学び、学生たちと強い友情を育むことができた、ぜひまた中央大学を再訪したい、と力強く、誇らしげに語っていた。中央大学の学生たちからも、英語を流暢に使いこなし、積極的な姿勢で学ぼうとする清華大学の学生たちとの交流は、とても良い刺激になったという感想が聞かれた。
中央大学は海外に3つの海外拠点を持ち、積極的にグローバル展開をしている。そのうちの最も新しいのが、上海理工大学の日本文化交流センターに設置された「中央大学上海オフィス」である。2019年1月には、上海理工大学からさくらサイエンスで学生たちを新たに受け入れる予定である。同大学の出身者で現在、中央大学の助教として活躍している方もいるそうだ。2018年7月には、清華大学と中央大学との法人覚書が締結され、「日中イノベーション研究センター」の東京への設立、清華大学での活動拠点の提供などが取り交わされた。2019年は中央大学が新制大学として設立されてから70周年を迎える。新たな節目を迎え、JSTのさくらサイエンスプランが更なるグローバル化に貢献できれば大変に幸いである。
ところで、著者の近所の回転寿司の店では、寿司職人の制服を着た人型ロボット「ペッパー君」が、来店受付、順番整理、呼び出しを一人で元気に行っている。画面タッチで英語や中国語にも対応する。ロボットが服を着ただけで、どうしてこんなに身近に感じるのだろう。後で知ったことだが、その制服にも、静電気対策や熱を逃がすための優れた素材技術・縫製技術が活用されているそうだ。日本と中国の未来を担う若い研究者たちが作る、ワクワクする未来に期待したい。
(以上)
関連リンク 中央大学HP
「中央大学と清華大学との協定及び法人覚書締結式 清華大学学長 邱勇氏 中央大学名誉博士学位贈呈式を挙行」
http://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/news/2018/07/72737/