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【19-07】イノベーション創出のきっかけに―「訪中団・異分野研究交流会」開催

2019年3月20日 石川晶(中国総合研究・さくらサイエンスセンター フェロー)

 3月6日、専門分野を超えた研究交流などを目的として、文部科学省内で訪中団・異分野研究交流会が開催された。

 本会は、2018年6月に実施された中国科学技術部が主催し、JST中国総合研究・さくらサイエンスセンターが日本側窓口機関となって実施した「中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラム」(以下、「訪中団」)の北京・大連組に参加した、各大学・研究機関の若手研究者らの有志による勉強会として開催された。この日のために各地から東京に集まった参加者のうち8名がそれぞれの研究内容を紹介し、それをもとに活発な意見交換が行われた。

 参加者の研究分野は、機械力学、水処理技術、金属加工技術、融雪装置、高齢化社会におけるマーケティング戦略、天然物化学、重粒子線治療、分子認識など、非常に多岐にわたり、参加者同士が普段ほとんど交わることのない研究について知識を得ることができる絶好の機会となったという感想もあった。

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訪中団・異分野研究交流会の様子

 それぞれの研究発表で話題となったのは、普段の研究室での活動、企業との共同研究での成果やそれにまつわる裏話、研究費や研究装置の獲得のための工夫、留学や訪問研究者としての海外経験、特許取得までの困難さ、技術の社会実装や海外技術移転を試みる際の諸問題、学生の就職状況など。参加者からは、専門分野は違えど共感でき、そして参考となる話が多かったとの声も聞かれた。

 また研究上の中国とのつながりにも話は及び、研究室レベルの予算が日本では数百万円規模であることに対し、中国では数億円規模にもなるケースがあるという事例の紹介もあり、中国の急速な研究レベル上昇の背景として、潤沢な研究費や国家戦略の影響が大きいのではないかという議論にも発展した。

 一方、各研究者は自分の研究についてその専門家以外にプレゼンする機会があるが、どの程度伝わるのかがわからず苦労することもあるという。今回の交流会では、自身の研究とは違う分野の研究者がどのように一般向けに説明するかという点で非常に参考になったという感想も聞くことができた。

 このような交流会の開催は初めての試みであるが、訪中団への参加をきっかけに研究者同士の異分野交流が活発になるという、訪中団の主催・窓口機関も想像しなかった形で新しい有機的な繋がりに発展した。ある参加者からは「このような意外とも思われる異分野との遭遇が契機になってイノベーションは生まれるのではないか」、そして別の参加者からも「ある分野では当たり前の技術が、他分野では知られていなかったりする。これらの技術をつなげることがイノベーションへの近道だと感じた」という言葉があった。

 また、中国の千人計画やポスドクの待遇、日本の状況との比較などをテーマとしたディスカッションも面白いのではないかとの意見も。訪中団への参加によって、中国の研究環境をより詳しく知りたいという気持ちを参加者全員が共有しているようであった。

 今回の交流会では研究者が研究発表を行ったが、例えば中央省庁や地方自治体から参加した訪中団メンバーの事業紹介や、行政側が考えている解決すべき課題、将来の構想などについて発表する機会もあったほうが良いのではないかとの要望もあった。これにより研究の現場と行政側の距離感が縮まり、双方の考えやニーズを把握できるようになれば、研究の進展や技術の社会実装、また新たな研究プロジェクトの立ち上げなどがより実現しやすくなるかもしれない。

 交流会の休憩中、また終了後にも参加者たちは積極的に話し合っていたが、その中で次のような意見もあがっていた。

  • 技術者の育成、人材不足に伴うモニタリング手法の開発など、分野は違えど、共通の課題があった。
  • 異分野にチャレンジする意欲が湧いた。
  • 日常生活に関わる新たな専門知識を得ることができた。
  • 分野が違うといえども、そのベースになっている物理的、化学的な根拠については類似しているので、「この技術,あれに使えるんじゃないの?」というようなアイデアがポンポンと出そうな予感がした。
  • 自分の研究だけではなく、大学の取り組みを紹介するのも良いのではないか。
  • 参加者の研究室の学生も参加し交流することも面白いのではないか。

 参加者からこのようなポジティブな意見が非常に多く寄せられ、なかなか議論の尽きない会となったが、最終的にはこの1回限りではなく、これからも継続して交流会を開催していくべきであるという見解で一致した。

 今後も訪中団経験者による交流の機会がさらに増え、各研究者にとってこのような経験が研究上でもそれが成果として形となっていくことを期待したい。