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【22-04】新品種を育成し、アブラナ栽培で増収実現 重慶の冬の遊休農地

雍 黎(科技日報記者) 2022年06月09日

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重慶市級農村振興モデル拠点----万州恒合郷に広がる菜の花畑 画像提供:取材先

 重慶市雲陽県清水郷には、厚盤農業公司の約6.7ヘクタールのアブラナ畑があり、4月23日には豊作とり、収穫期を迎えていた。同社の王江社長は、「冬の農閑期のアブラナ栽培は、生産高が増加したうえに、田植えにも影響しない。これはアブラナ『最強軍団』のサポートのおかげだ。」と笑顔で話す。

 王社長が話す「アブラナ『最強軍団』とは、重慶三峡農業科学院により設置された国家アブラナ産業技術体制三峡総合試験ステーション(以下「三峡総合試験ステーション」)のことだ。ステーション長で、国家テクノロジー特別派遣チームのメンバーであり重慶市テクノロジー特派員でもある徐洪志氏のリードの下、重慶市唯一のアブラナ試験ステーション「アブラナ『最強軍団』」の科学研究者は、技術の難関攻略を通して、重慶のアブラナ栽培面積拡大や生産増加の新たな道を探し出した。

新品種を育成し、冬の農閑期のアブラナ栽培が容易に

 重慶人は菜種油を使うことを好むが、重慶産の菜種油だけでは重慶の人々の消費を賄うことができない。統計によると、重慶市の菜種油の生産量は18万トンほどで、自給率は28.1%にとどまっている。

 徐氏は、「重慶は、中国の長江流域のアブラナ栽培に適した場所にあるものの、山に囲まれ起伏が多いため『山城』と呼ばれているほか、『霧の都』とも呼ばれ、農地が少なく、曇りや雨の日が多く、日照時間が少ない。また、アブラナが開花し、結実する頃は、寒の戻りが発生するほか、成熟期になると一気に気温が高くなり、十分に発育しないまま成熟してしまうため、アブラナ生産の条件が整っていない」と説明する。

「整っていない」ということは、今は発展が遅れているものの、発展の伸びしろがあるということでもある。重慶では、冬の農閑期になると、アブラナを生産できる冬の遊休農地が約26万6700ヘクタールに拡大する。しかし、冬の遊休農地を利用するとなると、米の収穫期が遅い、収穫がスピーディーでない、収穫後は曇りや雨の日が多い、稲田の水はけが悪い、土壌の湿度が高い、労働者が足りないといった問題も存在し、適切な時期にアブラナの種をまくことができず、うまく生長、発育しないという状況が起きてしまう。

 徐氏は、「一番の問題は、アブラナは生育期が長く、米の田植えや収穫の時期と重なってしまうことだ。多くの農家や栽培企業は米の収穫に影響が出ることを心配して、アブラナの栽培には消極的だ。そのため、テクノロジー特派員としての役割を十分に果たして、問題を解決することが必要となる」と説明する。それに対し、三峡総合試験ステーションの研究チームは、米の生産習慣や品種、生産技術を変えないことを前提に、アブラナの品種改良を行って、アブラナと米の栽培時期が重なる問題を解決することにした。同チームは、重慶市のアブラナ品種改良を担当して、早熟、高収量、高品質で、抵抗性が高く、機械化生産に適したアブラナの新品種・万油410を開発した。この新品種は、従来の品種よりも成熟期が早く、高収量で、米とアブラナを輪作すると生産量が1ムー(約6.7アール)当たり150キロ以上に達する上、その茎の品質も高く、野菜として食べることも、油を作ることもできる。具体的にはアブラナを野菜として収穫し、その後、菜種から油を搾るという。

 王社長は、「今年はまず、約6.7ヘクタールで栽培した。来年からは規模をさらに拡大する予定だ。このアブラナの新品種は、元旦までに開花し、3月まで咲き続ける。そして、4月中旬になると収穫できるので、米の田植えに時期には影響しない」という。さらに、冬にアブラナを栽培すると、菜の花が咲いて、農村観光の新たなセールスポイントができ、企業の増収につながっているため、王社長はとても喜んでいる。

技術革新でアブラナの収穫量と品質が向上

 徐氏は、「従来のアブラナ生産では、土地と各種費用をコストの計算に入れると、利益が出ない。農業企業に大規模生産をしてもらうためには、必ず利益が出るようにしなければならない。その推進力の一部が技術だ」と指摘する。

 栽培技術という点を見ると、三峡総合試験ステーションの研究チームは、米とアブラナを輪作するために、適切な時期にアブラナの種をまく技術を開発した。米の収穫期や収穫方法、残す稲の根元の高さ、排水のための溝作り、アブラナの品種、アブラナの種まき機、種まき技術などを総合的に検討し、米を収穫する前にアブラナの種を撒く技術を確立し、米の収穫期とアブラナの種まき時期が重なる問題を解決したのだ。また、湿度の高い冬の遊休農地に、湿度を下げてアブラナの生長を促進させる技術を通して、冬の遊休農地が利用できるようにした。

 機械化生産技術を見ると、三峡総合試験ステーションは、米とアブラナの輪作におけるアブラナ栽培の完全機械化生産技術を研究し、品種、農機具、農芸の融合をめぐる技術的難題を解決した。重慶の万州、秀山、永川、潼南といった地域のモデル農地では、コストを削減して1ムー当たりの利益が200元(1元は約19.2円)以上増え、菜種の生産量は1ムー当たり170キロ以上に達している。

200ヘクタールの土地で農業を展開する重慶市開州区開竹粮油股份合作社の事業主・陳流江氏は、「当社は2年連続で、新品種を栽培している。油の品質は非常に高く、昨年は約33.3ヘクタールで栽培した。今年は2倍の約66.7ヘクタールで栽培する計画だ。以前はアブラナを栽培すると米の収穫に影響が出るのではと心配していた。しかし、テクノロジー特派員のサポートの下、2年のモデル栽培を経て、栽培面積を拡大させる計画をしているだけでなく、近代的な菜種油加工生産ラインに資金を投入し、高品質のアブラナ生産拠点と加工拠点を作る計画も立てるようになっている」と説明する。

 三峡総合試験ステーションは近年、国家テクノロジー特別派遣チームのメンバーとしての役割を十分に果たし、多くのモデル拠点を設置して、モデル事業を展開し、モデルの波及面積は約26万ヘクタールに達している。その波及地域は重慶市のアブラナの主な生産地である20以上の区・県に分布している。新品種や収穫量の多い栽培技術、防災減災技術、収穫減損技術の研究を通して、1ムー当たりのアブラナの生産量と油の生産量が2000年の130キロと60キロから、2020年には180キロと80キロにまで増えた。そして、生産高も約300元増加した。

 三峡総合試験ステーションは今後、国家テクノロジー特別派遣チームのメンバーとして、国家郷村振興重点支援県に指定されている彭水県、酉陽県、城口県、巫溪県で、テクノロジー支援を実施し、現地のアブラナ産業発展をサポートする計画だ。


※本稿は、科技日報「油菜"天団"出手,重慶冬閑田変"増収田"」(2022年4月27日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。