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【22-08】農村貧困脱却への橋を架けるテクノロジー特派員 甘粛省

頡満斌(科技日報記者) 2022年06月29日

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甘粛省敦煌市莫高鎮蘇家堡村にある温室で農作業をする農家
(画像提供:視覚中国)

 甘粛省のテクノロジー特派員はここ20年の間に、モデル農家1万世帯以上を育成し、モデル拠点を150ヶ所設置し、新技術や新製品2000件以上を推進し、企業や合作社、農家協会を含む4000機関以上にサービスを提供し、「三農」(農業、農村、農家)をめぐる政策のPR係、農業テクノロジーの発信者、テクノロジーイノベーション起業の先駆者、農村が貧困を脱却し、豊になるためのリーダーとなってきた。

 2002年に甘粛省が第一陣のテクノロジー特派員と契約を結んでから今に至るまで、特派員の数は常に約1万人を維持し、「チーム+プロジェクト」の形で、「パーク」や「県」と連携し、技術サービスを展開してきた。

 甘粛省のテクノロジー特派員はここ20年の間に、モデル農家1万世帯以上を育成し、モデル拠点を150ヶ所設置し、新技術や新製品2000件以上を推進し、企業や合作社、農家協会を含む4000機関以上にサービスを提供し、「三農」をめぐる政策のPR係、農業テクノロジーの発信者、テクノロジーイノベーション起業の先駆者、農村が貧困を脱却し、豊になるためのリーダーとなってきた。そして、農家はより多くの達成感や幸福感を感じるようになっている。

チーム型支援で甘粛省の農村発展を支援

 甘粛省敦煌市科技局の呂暁艷局長は、「テクノロジー特派員の『チーム型支援』は、特色ある産業発展の牽引や農村におけるテクノロジー起業の推進、新型職業農家の育成、貧困脱却の成果固め、農村の産業振興の支援などの面で、テクノロジーのサポートを提供している」と説明する。

 2021年、甘粛省敦煌市はテクノロジー特派員200人余りを派遣し、鎮級のテクノロジーサービスチーム8チーム、村級のテクノロジーサービス班33班を新たに立ち上げ、単一的なサービスを、総合的なチーム型サービスに変えた。そして、市には専門家グループがあり、鎮にはテクノロジーサービスチームがあり、村にはテクノロジーサービス班があるという、三級のテクノロジーサービスネットワークを構築した。

 敦煌市が組織するテクノロジー特派員や農業技術者が最近、各鎮へと足を運んで、主にモモやアンズの標準化管理技術の現場研修を展開し、農家の間で好評を博している。敦煌市七里鎮杜家墩村の村民・劉忠有さんは、8ムー(1ムーは約6.7アール)のモモ園を所有しており、標準化生産を非常に重視している。そして、鎮・村のテクノロジー研修に積極的に参加し、「テクノロジー特派員が僕たちに技術を教えてくれ、豊作のための基礎を築いてくれている」と話す。

 呂局長は、「技術者を最も必要な場所に派遣している。農家、地域、産業の必要に応じて、適切な技術者を派遣するスタイルを徹底するというのが甘粛省の具体的なやり方だ」と説明する。

 農作物を植える準備のために田畑を耕す重要な時期にあたる3月25日、武威市科技局は、テクノロジー特派員や専門家グループが各企業や農家に足を運ぶ、テクノロジーサービスキャンペーンを企画した。野菜や羊産業のテクノロジーサービス専門家グループが、農家のビニールハウスや民勤県発沢種業有限公司、養殖農家を訪問し、農業生産の実際のニーズや、農家のニーズに合わせて、生産技術指導サービス及び病気予防指導サービスを展開し、テクノロジーによる産業発展のサポートを推進し、農作物を植える準備の質を向上できるよう支援した。

 テクノロジーサービスを提供する過程で、武威市科技局の職員は、農家に農業技術ガイドを配布したほか、無料で高品質の農業用物資も提供した。テクノロジー特派員は、ミニプログラム「行動する武威のテクノロジー特派員」や対面サービスといった、オンラインとオフラインを組み合わせた形で、栽培や養殖の基本状況について説明を受け、どのように科学的に防災・減災を行い、合理的に水・肥料を管理し、病虫害による被害を防ぎ、動物の病気を予防し、飼料の組み合わせを最適化するかなどをめぐって、現場での技術指導を行い、企業や農家が、生産において直面する問題を解決し、ニーズを満たし、網羅的なテクノロジーサービスを提供した。

 今回のキャンペーンに参加したテクノロジー特派員の張仲保氏は、「テクノロジー特派員としての私たちは、テクノロジーイノベーションと、生産の実践を結び合わせ、先進的な農業テクノロジー成果や現代的な理念を農家に伝え、資金、技術、情報といったイノベーション要素を農村に注入し、テクノロジーイノベーションと農家が密接にマッチングするよう取り組んだ」と感慨深く語る。

甘粛省と天津市が「2地域テクノロジー特派員」の先駆け

 2020年、中国東部と西部の貧困者支援協力において、甘粛省科技庁は、天津市科技局と共同で、第一陣の「津甘テクノロジー特派員」145人を認定し、「2地域テクノロジー特派員」の先駆けとなった。天津にある政府の出先機関、大学、科学研究院(所)といった機関から来たこれら145人は、甘粛省の特色ある産業の発展や貧困脱却の難関攻略、農村の振興などを目標にサービスを展開した。

 これは、天津と甘粛省がメカニズム改革を通して、人材、インテリジェンスといった要素が密集しているという東部の優位性を生かし、テクノロジー特派員をめぐって省間で連携する新しいメカニズム、スタイルの積極的な模索となった。

「2地域テクノロジー特派員」は、貧困脱却の難関攻略、農村の振興において、非常に大きな役割を果たしている。

 甘粛省武威市にとって、天津市から導入したシイタケの新品種10種類やアワビタケの菌種の培養する鍵となる時期だった今年3月、検査データが、さまざまな原因が重なり、菌回しが遅れていることを示しており、関連企業は万策尽きて途方に暮れていた。

 シイタケの生産技術をめぐる難題を速やかに解決し、東・西部のテクノロジー協力特別プロジェクトを推進するべく、武威市科技局は、武威市の特任テクノロジー特派員、食用キノコ産業の首席専門家を努める天津農学院の班立桐教授と連絡を取った。

 班教授は飛行機を降りると、休むことなく、武威市天祝県臣祥菌業公司や天祝県南陽山農業公司古浪県食用キノコ産業園、古浪県食用キノコ研究院、古浪県億万家食用キノコ合作社などに直接向かい、現場を一つずつチェックするとともに、市・県キノコ産業テクノロジー特派員や企業の技術者と座談会を開き、技術的難題を解決する方法を検討した。そして、アワビタケの菌糸培養に存在している問題をめぐって、班教授は、具体的な指導意見、実施策を提供して、キノコ農家が難題を解決できるようサポートした。

 ここ20年、テクノロジー特派員制度は、甘粛省の農家の直接的な利益と密接に関係するようになり、技術を駆使して、ターゲットをしぼった貧困脱却を推進し、産業を通して、農家のために「貧困の根」を抜き、行動で人々が豊かな生活を送ることができるよう導いてきた。

 武威市科技局の寧生国局長によると、天津市のテクノロジーの力を活用するべく、同市は天津市東・西部テクノロジー協力特別プロジェクト5件、甘粛省テクノロジー特別プロジェクト9件を相次いで実施し、プロジェクト経費640万元(1元は約20.1円)を獲得し、天津・甘粛省テクノロジー特派員ワークステーション1ヶ所、東・西部協力テクノロジーモデル拠点4ヶ所を設置し、特別プロジェクトにより新品種・新技術24項目を相次いで導入し、同市のキノコ、牛、羊といった産業の質の高い発展を力強く後押ししている。

 甘粛省と東部の協力地域が共同で認定した「2地域テクノロジー特派員」は現時点で、336人となっている。また、甘粛省科技庁と天津市科技局は共同で「津科支援」オンライン相談プラットフォームを開発し、農家にマンツーマンのターゲットをしぼった相談サービスを提供している。そして、「2地域テクノロジー特派員」ワークステーションを設置して、東部の人材が農村産業振興の新業態をサポートし、支援地域の科学的な栽培・養殖の水準の効果的な向上を模索している。

 甘粛省科技庁農村科技処の王芳処長は、「『2地域テクノロジー特派員』は、当省の農村振興のために人材的サポートを提供してくれているほか、当省の潜在能力も掘り起こしてくれている」と話す。

エリート人材を農村の第一線へ派遣

 農村の発展のために最も不足しているのが人材で、農家が豊かな生活を送ることができるようになるために必要なのも人材だ。そのため、人材が農村へと向かうようにすることが特に重要だ。そして、「科学研究者が農業生産の第一線でサービスを提供する」というのが、甘粛省が一貫して徹底している理念となっている。

 そのために、甘粛省科技庁は2020年4月、蘭州大学の胡芳弟教授ら359人を甘粛省第一陣省級テクノロジー特派員に認定した。その際認定された省級テクノロジー特派員は主に、蘭州大学、中国科学院近代物理研究所、甘粛農業大学、省農科院といった大学、科学研究院(所)などから来ており、いずれも専門技術の上級職階を持ち、農村におけるテクノロジー成果適用とテクノロジーサービスの経験があった。

 省級特派員は主に、貧困脱却の難関攻略、農村振興をめぐってサービス提供を展開し、地域発展のニーズにターゲットをしぼってマッチングし、先進的な適用技術の応用、推進、集約モデルを促進し、イノベーション、起業、技術の牽引の下、貧困地域と貧困農家が増収を実現して、貧困から脱却できるよう、テクノロジーサービスを提供している。また、現代種業や農林作物の効果的で質の高い栽培、畜牧水産の健全な養殖、農産物加工、農機設備と機械化、グリーンで住みやすい村・鎮、デジタル農業といった面の技術を転化することで、農村産業のモデル転換と高度化に技術的サポートを提供している。

 王処長は、「今後も本当の意味でやる気に満ち、能力があるエリート人材を派遣し続け、サービスのスタイルをさらに革新し、当省のテクノロジー特派員として活動する人材の基礎を固めたい」と語る。

 このほか、人材の交流にスポットを当て、遠く離れた地域からも経験を学び、知識を吸収し、実践している。甘粛省は、室内における理論解説と現場指導を組み合わせたスタイルを採用し、東・西部協力の専門技術人材を招いて、同省でテーマ別の研修や技術指導をしてもらっている。また、厦門(アモイ)市科技局と協調して、毎年、福建省亜熱帯植物研究所から、20数人の博士号や修士号を持つ人材からなるテクノロジー支援活動グループを甘粛省臨夏回族自治州に派遣し、30日間にわたるテクノロジーサービス活動を展開してもらっているほか、現地の技術者と共同で、プロジェクトの研究開発に参加してもらい、テクノロジーを駆使して貧困者を支援する新たなスタイルを構築している。

「農地で論文を書き、テクノロジーを末端で応用する」など、テクノロジー特派員はここ20年、テクノロジー、そして農業のために身を尽くすという初志を貫いている。テクノロジー特派員制度は甘粛省の大地で根を下ろして、芽を出し、人材、テクノロジーが農村へと送り込まれ、「農業、農村、農家」にサービスが提供されている。

 年間を通して末端の第一線で活躍する1万人に上るテクノロジー特派員は、農家が増収を実現して豊かな生活を送るための懸け橋を架け、農業の産業チェーンを拡大させ、甘粛省が農村振興の面でたくさんの成果を上げることができるようサポートしている。テクノロジーを駆使して農業を発展させ、農家が豊かな生活を送ることができるようにするこのメカニズム改革は活力がみなぎっており、「小さな種」から、甘粛省の大地全体に咲き誇る「イノベーションの花」へと発展している。


※本稿は、科技日報「郷村脱貧路上甘粛科特派用科技搭建致富橋」(2022年5月25日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。