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【22-14】基礎研究競争力の向上に「加減乗除」を巧みに使う広東省

龍躍梅(科技日報記者) 2022年08月05日

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研究を行う広東工業大学の科学研究者。画像提供:取材先

 2021年末の時点で、広東省科技庁や広東省基金委員会が筆頭となり、7つの広東省基金企業連合基金(以下「省企連合基金」)が相次いで設立され、省財政資金1400万元(1元は約20.2円)が承認され、企業が5000万元を寄付するよう誘導し、企業の寄付が科学基金をサポートする「広東モデル」が構築されている。

 2022年度広東省自然科学基金傑出青年プロジェクトの責任者を務める広州医科大学付属第一病院の孫静教授はこのほど、科技日報の取材に対して、「現在、省基金プロジェクト科学研究費用予算を、より独自に制定できるようになっており、予算の明細を提出する必要はなくなった。また、より柔軟に経費を使うことができ、科学研究者の時間がたくさん節約できている」と説明した。

 広東省は2019年3月、基礎・応用基礎研究基金委員会(以下「広東省基金委」)を設立し、広東省基礎・応用基礎研究基金(以下「省基金」)の専門化管理を推進するようになった。それから3年の間に、「広東省基金委」は、「4つの向け」(世界のテクノロジーの先端に向け、経済の主戦場に向け、国の重要な需要に向け、国民の命の健康に向け)へのサービス提供に立脚し、「足し算・引き算・掛け算・割り算」を活用し、各種基金プロジェクトの申請を11回、5万件以上受理し、支援したプロジェクトは1万件を超え、プロジェクト資金は20億元近くに達し、参加した機関は765機関、科学研究者は延べ18万4000人に達し、同省の基礎研究競争力やオリジナルイノベーション能力向上を力強く促進した。

複数の勢力が基礎研究チームに加わる

 国薬集団中国中医薬控股有限公司傘下の広東一方制薬有限公司は1992年に、広東省中医薬工程技術研究院を設立した。同社は主に中医薬配合顆粒の研究開発、生産・販売に従事する近代的な中医薬製薬企業で、中医薬配合顆粒を主力商品としている。

 同社の中医薬の伝承・イノベーション発展の面を見ると、毎年多額の科学研究経費を投じており、ここ3年近くの同経費は7億元に達している。

 広東一方制薬有限公司の孫冬梅副社長は、「中医薬配合顆粒の業界国家基準が実施されるようになるにつれ、当社は業界をリードする地位をキープしている。そして、当社は各種発展に対してさらに高い要求を定めている」と説明する。同社は「省企連合基金」に加入し、中医薬配合顆粒の臨床応用、薬学研究をサポートしている。

 2021年末の時点で、広東省科技庁や「広東省基金委」が筆頭となり、7つの広東省基金企業連合基金が相次いで設立され、省財政資金1400万元が承認され、企業が5000万元を寄付するよう誘導し、企業寄付が科学基金をサポートする「広東モデル」が構築されている。2022年には、新たに海上風力発電連合基金が企画・実施され、広東省科技庁や「広東省基金委」は、南方電網を含む企業4社と共同で3年以内に計1億500万元の資金を投じる計画となっている。

 中国工程院の呉清平院士は、「企業の基礎研究に対する公益的寄付により、『広東省基金委』の資金源が拡大し、基礎研究と応用研究、産業イノベーション発展ための資金を調達する『広東モデル』が構築され、積極的な反響を呼んでいる」と語る。

「広東省基金委」は現在、多方面から基礎研究に資金を提供するための新たな構造形成を促進している。3年近くにわたり、広東省は財政から8億2200万元を投じて省自然科学基金プロジェクトを支援してきた。2021年だけを見ると、前年比72.1%増の3億7400万元だった。

 このほか、地級市(省と県の中間にある行政単位)が財政から多額の資金を投じて基礎研究をサポートするよう誘導し、省財政から1億8500万元が投じられた。広州、深圳、仏山、東莞の4地級市については、1:3の割合で、財政から5億5500万元を投じて、4つの省市連合基金を設立するよう誘導した。

プロセス最適化で科学研究者の負担軽減

 広東工業大学科学研究院の陳輝副院長は2011年から、テクノロジー管理業務に従事しており、これまでの11年間、広東省基金プロジェクトの発展を目の当たりにしてきた。

 そんな陳院長は、「『広東省基金委』が設立されて以来、科学技術者にサービスを提供することをコンセプトに、基金管理プロセスが最適化され続け、テクノロジー管理業務の規範性と有効性が向上した。それにより、テクノロジー管理者の業務効率が大幅に上がり、その業務の負担が軽減した」と語る。

 広東省の基金プロジェクトは近年、「引き算」を活用してきた。例えば、申告の形式を見ると、契約署名の電子化が実現し、電子印鑑を採用して、紙の書類の移動が減少、契約署名の効率が向上した。経費管理を見ると、プロジェクト経費「請負制」(費目の割合や使途の制限を極力を設けず、柔軟性を高め研究者の自主性を高める制度)を実行し、科学研究者ができるだけ独自に経費を使える権利が確保されるとともに、経費予算が簡素化され、経費予算の作成、報告、調整が簡単になり、科学研究者の業務の負担が軽減され、テクノロジー管理者の業務効率が上がった。

「広東省基金委」は近年、省基金プロジェクトのスマート化管理を全面的に最適化、アップデートしており、管理のペーパーレス化、申請書類の簡素化、ガイドブック作成方法の改革といった面で改革・イノベーションを推し進めている。

 広東省基金プロジェクトは、「引き算」を活用して、科学研究者の積極性を向上させている。陳副院長は、「ここ2年、広東工業大学の教員が積極的に自然基金の申告を行っている。2022年度だけを見ると、広東省基礎・応用基礎研究基金自然科学基金の申告が442件あり、前年同期の243件と比べて82.23%増加した」と説明する。

プロジェクト管理制度が「乗数効果」を発揮

「広東省基金委」の曾路会長は、「当委員会設立後、省党委員会、省政府から与えられた職責や使命に集中し、省科技庁党組の強力な指導の下、『4つの向け』へのサービス提供に焦点を当て、党組織建設を牽引とする姿勢を貫き、制度、組織、業務体制の建設強化に力を入れ、基金プロジェクト支援体制を継続的に最適化し、基礎研究のオリジナルイノベーションと人材育成にサービスを提供している」とはっきりした認識を語る。

 そのため、「広東省基金委」は、これまでの正しい道を守りながら、イノベーションを創出する姿勢を貫き、省基金プロジェクト管理などの制度を制定・整備し続けている。ここ3年近くにわたり、省基金プロジェクト管理や資金管理、評価・審査専門家管理、委託機関管理、内部管理といった5カテゴリーの基金管理制度を制定・通達し、省基金の科学的で効率的な秩序に基づく運営を保障するために、全面的な規範化を進めてきた。

 また、検査及び中止の管理段階が追加され、プロジェクトのオールライフサイクル管理プロセスが全面的に実施されている。「省基金プロジェクト管理オールプロセス実行規則」が作成され、事前に審査を計画し、事中に監督・コントロールし、事後に総括して報告するといった要求を厳格に守り、省基金業務管理活動の推進を規範化、基準化し、省基金の公平性を保っている。

 さらに、「省基金委」は委託機関ネットワークを整備して、専門家ネットワークを構築している。現時点で、省基金プロジェクトの委託機関は940機関あり、省基金プロジェクトの評価・審査専門家バンクには専門家2万6000人が登録されている。

経費使用の「レッドライン」を設定して潜在リスクを排除

 当プロジェクトの研究・活動と関係のない支出を経費として計上することはできない。架空の経済業務を作り上げたり、架空の契約書を作成したり、空手形を使ったりして、資金を不正に取得してはならない......

 広東省は、省基金プロジェクトにおいて、経費使用の「ネガティブリスト+請負制」改革テスト事業を全面的に展開し、経費使用のネガティブリスト管理やプロジェクト責任者の科学研究信義誠実・約束制実施などの改革を実施している。

 今回の改革テスト事業は、「広東省基金委」が、国家発展改革委員会の省級科学基金プロジェクト経費使用関連の一歩踏み込んだ改革任務に応募したものだ。

「広東省基金委」の関係責任者は、「今回の改革は、アンケート調査や経費管理に存在している問題にしっかりと焦点を当て、捏造などを通して資金を不正に取得したり、資金を保留、流用したりするといった行為やプロジェクト支出として列挙することが厳禁されているいくつかの面に絞って、経費使用の『禁止事項10』をまとめ、経費として認められない支出用途や範囲を明確にし、経費使用の『レッドライン』を定めている」と説明する。

 省基金の注目ポイントが多い、関わる人が多い、科学研究の信頼をめぐる問題が多いといった状況に合わせて、省基金委は近年、「問題があった場合は必ず調査する」、「規則に基づいて処理する」、「事実に基づいて真実を求める」といった原則を堅持し、問題をめぐる相談や通報のルートを円滑化し、科学研究の信頼をめぐる問題はすぐに調査、処理し、清廉公正な学術研究環境づくりに取り組んでいる。

人材構造がさらに若年化

 孫教授は、「プロジェクトは順調に進展しており、マウスを使った初期段階の実験研究では、ワクチンの交互接種により、さらに強い液性免疫や細胞性免疫応答が起こり、免疫の生成を誘導でき、現在の変異株に対しても保護効果があることが分かっている」と説明する。

 取材では、省基金プロジェクトの実施は、基礎研究人材育成といった面に大きな影響を及ぼしており、基礎研究が発展の原動力や活力を得ていることが分かった。

 曾会長によると、省基金は基礎研究チームの若年化を図っており、支援を得ている省基金プロジェクトの責任者の年齢を見ると、40歳未満が66.1%を占めている。うち、青年基金プロジェクトの責任者の平均年齢は31歳となっている。青年基金プロジェクトは既に、35歳(女性は38歳以下)以下の青年科学研究者3656人が、独立して科学研究活動を展開できるよう支援してきた。このほか、学術の中核を担う優秀な青年を育成し、省傑出青年プロジェクトや青年基金プロジェクトを通して、青年人材3889人を支援してきた。うち120人余りは、国家級の人材プロジェクトあるいは人材の称号を授与された。

 成果を見ると、ここ3年、支援を受けたプロジェクトが発表し、サイエンス・サイテーション・インデック(SCI)や、Social Sciences Citation Index(SSCI)に収録された論文は1万4167本、Essential Science Indicators(ESI)に収録されたハイレベルの論文は145本に達した。また、「ネイチャー」といった世界トップレベルの学術誌に掲載された論文は10本、高注目度論文は25本となっている。

 広東省・香港特別行政区・澳門(マカオ)特別行政区のテクノロジー協力、融合深化推進の面を見ると、ここ3年、省基金は、香港特区、マカオ特区の大学8校の自然科学基金プロジェクト84件を支援し、同2特区の機関に資金860万元を提供してきた。また、広東省・香港区・マカオ特区の研究チーム協力プロジェクト22件の協力経費は5000万元に達している。


※本稿は、科技日報「提昇基礎研究競争力広東巧用"加减乗除"法」(2022年6月20日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。