経済・社会
トップ  > コラム&リポート 経済・社会 >  File No.23-16

【23-16】中米首脳会談 発信された重要なシグナルとは

張騰軍(中国国際問題研究院アジア太平洋研究所副所長兼副研究員)/文 吉田祥子/翻訳
2023年02月27日

トランプ前政権下の対中強硬策で最悪な関係となっていた中国と米国。バイデン政権に交代してもその強硬姿勢は変わらないかに見える。昨年11月14日の中米首脳会談は、習近平国家主席が3期目入りを果たし、バイデン大統領が中間選挙を無事に乗り切った直後の絶好のタイミングで実施された。初の対面による両首脳の会談は中米関係の転換点となるのだろうか。

 現地時間11月14日午後、習近平国家主席はインドネシアのバリ島でバイデン米大統領と会談した。両首脳は、中米関係の戦略的な問題や世界および地域の重大な問題について、率直で踏み込んだ意見交換をおこなった。

 会談の前後に開示された情報によると、会談では互いに胸襟を開き、建設的な議論がおこなわれ、多くの重要な共通認識に達した。また、ハイレベルの戦略的対話を双方が維持することの重要性が際立ち、世界の平和・安定・発展を維持し促進するという大局において中米関係が果たす中心的役割が一層鮮明になった。

image

11月14日午後、インドネシアのバリ島でバイデン米大統領との会談に臨む習近平国家主席。
写真/新華社

「初めて」づくしの会談

 今回の首脳会談は多くの「初」を生み出した。新型コロナウイルスの感染拡大後初の中米首脳の会見であり、習主席にとって3期目入りを果たした中国共産党第20回全国代表大会〔以下、第20回党大会〕後初の外遊となる最初の重要な会談でもある。また、2021年のバイデン大統領就任後初の対面による中米首脳会談であり、両氏が前回顔を合わせたのは、2017年のダボス会議〔世界経済フォーラム〕で、習主席が当時米国副大統領だったバイデン氏と会見したときだった。

 国際社会は今回の中米首脳会談に高い関心と期待を寄せており、両国もこの会談のために多大な努力を払ってきた。過去1年余りの間に、両首脳はすでにビデオや電話で5回にわたり会談し、共通の関心事である一連の二国間問題や国際問題について幅広く意見交換し、今回のオフライン会談の基礎を築いてきた。現在、新型コロナの流行は依然収束せず、地政学的リスクとなる不安定要素が増加し続け、グローバル・ガバナンスの課題が日増しに高度化しているという背景の下で、両国の指導者がオフラインでの交流を実現できたことは、明らかに国際社会に安定した積極的なシグナルを送ることになる。

 両国の国内から見れば、今回の首脳会談のタイミングは一層特別だ。中国では、10月に第20回党大会が成功裏に開催され、社会主義現代化国家の全面的建設および中華民族の偉大な復興の全面的推進に向けて、人材の戦略的配置がおこなわれた。また同大会では、世界平和の維持と共同発展の促進という外交政策の趣旨を堅持し、中国の特色ある大国外交の新たな局面を絶えず切り開いていくことが改めて強調された。

 中国は、現在の中米関係が迎えている局面は両国および両国民の根本的利益に合致せず、国際社会の期待にも合致していないと繰り返し表明し、米国との相互尊重、平和共存、協力とウィンウィンを実現するとともに、新時代の両国の正しい付き合い方を見いだすよう努めている。米国側も、今回の首脳会談の少し前に極めて重要な中間選挙がおこなわれ、民主党が予想以上に善戦した。バイデン政権はこの中間審査をある程度「乗り切り」、自信を持って任期後半の内政と外交を計画している。

 中間選挙に先駆けて発表された米国の『国家安全保障戦略』で、バイデン政権は今後10年の大国間競争の展望を戦略文書の形で描き、中国を最も重要な地政学的課題と位置付けた。中国との関係をいかにうまく処理するかは、バイデン政権にとって今後2年間の最重要事項となるに違いない。それぞれの新しい発展の出発点に立ち、より有利な戦略的環境をつくりあげるために、両国は新たな対話と交流のモデルを打ち出す必要に迫られており、両国首脳の会談は「遅まき」ではあったが、次の段階の構想を練る中米関係にとっては時宜にかなっていたと言ってよいだろう。

少なくとも3つのシグナルを発信

 3時間以上に及ぶ会談で、両国首脳は少なくとも3つのシグナルを発信した。

 第1に、首脳外交は依然として、両国関係の方向性を定め、安定した長期的発展を実現するための重要な鍵である。中米両国の50年にわたる交流の歴史を観察すると、両国の関係が重大な危機や重要な局面に遭遇した際は、しばしば指導者の戦略的先見性と知恵によって解決されてきた。現在、中米関係は重要な岐路に立っている。すなわち、対立と対抗か、それとも対話と協力か。ウィンウィンか、それともゼロサムゲームか。これは、両国国民の根本的な利益ひいては国際社会の長期的な安定に関わる重大な問題である。習主席が述べているように、「政治家は自国の発展の方向性を考え、明確にすべきであり、なおかつ他国や世界との付き合い方も考え、明確にしなければならない」。中米両国は戦略的対話を継続することで誤解を解消し、相互の信頼を高め、障害を取り除く必要があるだけでなく、両国関係の長期的発展について青写真を描き、方向性を定めなければならず、これは2つの大国として中国と米国の当然の責任であり、さらには政治家がおこなうべき賢明な戦略的選択でもある。

 第2に、中米関係は運命を共にするパートナーの関係であり、どちらか一方が勝って一方が負けるという関係であってはならない。近年、米国の一部の人々が冷戦思考を持ち、中米関係を再定義して、勝つか負けるかのゼロサムゲームの軌道に固定しようと試みているが、これは完全に間違っている。中国と米国は社会制度、発展段階、歴史や文化が異なり、見解の相違や相容れない点があるのはごく当たり前で、一部の分野では比較的激しい競争も生じるが、それは双方が必ず対抗と衝突に向かい、平和的に共存できないということを意味するものではない。過去50年間の発展の経験は、これまで中米関係には対抗と衝突という選択肢しかなかったのではなく、両国は緊密な交流のなかで、「協力すれば共に利益を得、争えば共に傷つく」という利益と運命の共同体をすでに形成していたことを物語っている。

 景気後退、地政学的紛争、食糧とエネルギーの危機、気候変動、新型コロナの流行などの世界的な危機に直面するなかで、中国と米国が共に手を携え協力してこそ世界のための活路が見いだせる。だが、もしも中米が対立や対抗に陥り、さらには衝突が発生すれば、人類社会をますます光のない暗澹たる深淵に引きずり込むだけだ。バイデン大統領も、この点をよく心得ており、中国との建設的な協力を進めたいと繰り返し表明し、一段と積極的に首脳会談の開催を求めてきた。このこと自体が、協力とウィンウィンこそ中米関係のあるべき姿であることを示している。

 現在、ウクライナ危機はまだ続いており、世界経済とサプライチェーンの安定に与える波及効果は増大し続け、各国は地政学的紛争がもたらす世界的な影響をますます実感し、人類は運命共同体であるという意識が人々の心に一層深く浸透している。中国と米国は2つの大国として、ウクライナ危機の解決を促進するためにしかるべき努力をする責任がある。今回の会談で、両首脳はこれらの問題について意見を交わし、習主席は、「4つの義務」〔各国の主権と領土保全の尊重、国連憲章の趣旨と原則の順守、各国の合理的な安全保障上の懸念の重視、危機の平和的解決に資するあらゆる努力への支持〕と「4つの共同」〔世界の平和と安定を共に維持、地球規模の持続可能な発展を共に促進、協力とウィンウィンを共に実現、開放と融和を共に拡大〕に基づいて、①紛争や戦争に勝者はいない、②複雑な問題に簡単な解決方法はない、③大国間の対立は避けなければならないという3つの見解を提示した。これらは、ウクライナ危機に対する国際社会の取り扱い方について有益な観点を提供し、また、話し合いによる解決と停戦および事態の沈静化を促すための方向も指し示している。中国はかねてより表明しているとおり、ロシアとウクライナの和平交渉再開を支持し期待するとともに、米国、NATO、EUがロシアと包括的な対話を進めることを望んでおり、これは中国が責任ある大国として世界の平和と安定を維持するためにおこなう積極的な努力である。米国は火に油を注ぐのをやめ、ウクライナを大国のゲームの駒にするのをやめ、中国と一致協力してウクライナ危機の早期解決を推進すべきであり、これこそが中米関係において持つべき態度と高い見地である。

 第3に、中米関係が悪循環から抜け出すにはまだ時間を要するが、速やかに双方が互いに歩み寄ることが望まれる。現在、中米関係はますます多くの課題に直面しており、歴史の叙述が人為的に歪められ、発展の方向がさらに誤った道へ導かれる危険にさらされている。「三尺もの厚い氷は一日の寒さで張ったものではない」と言うように、現在の状況は長期にわたる積み重ねの結果である。これらすべての問題の根源は、米国側の対中認識に重大な誤った判断が存在し、中国観、利益観、競争観に深刻な偏りが生じていることにあり、それゆえ、策定される対中政策は当然正しい軌道から大幅にずれている。米国は二国間関係の重要性について語り、「4つのノー、1つの意図せず」〔新冷戦を求めず、中国の体制変更を求めず、同盟関係の強化を通じて中国に対抗することを求めず、台湾独立を支持せず、中国と衝突する意図がない〕という約束を何度も表明する一方で、いわゆる「3つのC」〔競争・協力・対決(competition, cooperation, confrontation)という対中姿勢〕、「3つのキーワード」〔米国内投資・多国間連携・効果的競争というキーワードに基づく対中戦略〕、「ガードレール論」〔米中間の衝突を防ぐガードレールを構築〕、「民主主義体制と権威主義体制の対立論」を提唱し、台湾・新疆ウイグル自治区・香港の問題や人権問題などで中国の内政に乱暴に干渉し、経済、貿易、技術、安全保障などの分野で中国に対し容赦なく抑圧をおこなっている。このようなアメとムチを使う振る舞いは中国を憤らせ、世界各国をひどく困惑させるもので、中米関係に重大な禍根を残す。中米関係がこのような事態に進展したことを、米国側は真摯に反省し、色眼鏡を外し、抑圧と封じ込めをやめ、中国の権利と利益を大きく損なう過ちを正さなければならない。

 今回の会談の前に米国側は何度も情報を流し、首脳会談で「中米関係の基礎を固める」「最低限守るべきボトムラインを明確にする」と述べ、台湾問題における双方の「レッドライン〔譲れない一線〕」について討議し、さらに会談の状況を台湾当局に報告すると表明した。これらはすべて、米国が台湾問題における中国の立場と態度を十分に認識していないか、見て見ぬふりをして故意に挑発しているかのどちらかである。

 今回の会談で習主席は、台湾問題は中国の核心的利益の核心、中米関係の政治的基礎の基礎であり、中米関係における越えてはならない最初のレッドラインであるとはっきり述べ、両国の関係に明確な一線を引いた。

 米国が中米関係の改善を誠心誠意推進するならば、まず言行を一致させ、「1つの中国」政策と3つの共同コミュニケ〔1972年、78年、82年に両国政府が共同で発表した声明〕を順守し、台湾問題に関するバイデン大統領の対中コミットメント〔「1つの中国」政策を堅持し、「台湾独立」を支持せず、「2つの中国」や「1つの中国、1つの台湾」も支持せず、台湾問題を中国封じ込めの道具としない〕を実行に移さなければならない。

 中国側は、米国が中国に歩み寄り、意見の相違を適切にコントロールし、互恵的な協力を推進し、誤解と誤った判断を避け、中米関係を健全で安定した発展の正しい軌道に戻すことを望んでいると何度も表明してきた。これは両国関係が悪循環から抜け出すための前提条件である。今回の会談で、両首脳は双方の作業チームに、達したばかりの重要な合意を速やかにフォローして実行に移すよう指示した。すなわち、双方の外交チームおよび財政・金融チームが戦略的対話を維持し、両国の公衆衛生、農業、食糧安全保障について対話と協力を進めること、中米合同作業部会を活用し、各分野における両国の人的交流の拡大を奨励することである。これらの合意事項は非常に重要であり、両国関係の次の方向を指し示すものとして期待される。さらに両首脳は、引き続き定期的な連絡を維持することでも合意した。

歴史は最も優れた教科書

 習主席は会談のなかで「中米両国は、接触〔国交正常化の起点となった1971年7月のキッシンジャー大統領補佐官の極秘訪中〕と国交樹立〔1979年〕から今日まで、50年余りにわたる数々の困難を経て、得たものもあれば失ったものもあり、経験もあれば教訓もある。歴史は最も優れた教科書だ。私たちは歴史を鑑とし、未来に向かうべきである」と指摘した。

 両国の交流の過程を自ら経験したアメリカの指導者として、バイデン氏は早くも1979年に上院議員として中国を訪れ、これまでに合計4回訪中し、中国に対し極めて友好的な印象を残している。かつて同氏は、米国の対中関与政策〔冷戦後の協調的な関係強化政策〕の揺るぎない支持者で、中国に最恵国待遇を与えることに賛成票を投じ、さらには「1つの中国」政策を積極的に支持し、議会が台湾の軍事力を強化する法案を可決することに反対していた。2011年に訪中した際には、「繁栄する中国は米国製品をさらに必要とするようになり、米国により多くの雇用機会ももたらすだろう。中国の発展と繁栄は米国の利益に合致する」と語っている。

 中米関係の発展は決して順風満帆ではなかったが、極めて重要なのは、過去の発展の経験と教訓を汲み取り、両国関係の安定した長期的な発展に適切な保証を提供することである。今回の首脳会談でバイデン大統領は、「安定し、発展する中国は米国および世界の利益に合致する」と改めて強調し、「米国は中国の体制を尊重し、中国の体制変更を求めず、『新冷戦』を求めず、同盟関係の強化を通じて中国に対抗することを求めず、『台湾独立』を支持せず、『2つの中国』や『1つの中国、1つの台湾』も支持せず、中国と衝突する意図はない。米国側は中国との『デカップリング〔両国の経済の分断〕』を求める意図も、中国の経済発展を妨害する意図も、諸国と連携して中国を包囲する意図もない」と繰り返した。

 ことわざにも「其の言を聴きて其の行を観る」〔その人の言葉を聞くだけでなく行動もよく見て判断する〕とある。米国が両国の交流の初心を忘れず、これらのコミットメントを本当に実行に移し、中国と共に新時代の中米関係発展の新たな1章を綴ることができるよう願う。


※本稿は『月刊中国ニュース』2023年3月号(Vol.131)より転載したものである。