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【23-22】中国・人口85万減、人口大国から人材強国への転換は可能なのか

松田侑奈(アジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2023年04月07日

 中国統計局のデータによれば、2022年の中国人口は前年比85万人が減少し14億1175万人となった。これは61年ぶりのマイナス成長である。中国人口学会副会長は「中国において人口のマイナス成長は、これから常態になると思う」とコメントした。

 中国人口のマイナス成長は中国自身や世界の予測よりも早い段階で訪れた。中国の「国家人口発展計画(国家人才发展规划)2016~2030」では、2020年の人口を14.2億人と予想したが、2022年でも達成できなかった。UNの「世界人口推計(World Population Prospects )2019」では、中国の人口は増え続け、2024年にピークを迎え、最悪のシナリオでも14.5億人は超えると予測したが、こちらも外れとなった。政府が注力してきた二人っ子・三人っ子政策は思ったより反響がなかった。

 今まで中国は「人口ボーナス(人口红利)」時代を生きる国と呼ばれてきた。

 人口ボーナス[1]とは、子どもと高齢者の数に比べ、働く世代の割合が増えていくことによって、経済成長が後押しされることを指す。すなわち、豊富な労働力が経済活動を活発にし、稼いだお金の多くを、子どもの教育や高齢者の福祉より、新しいビジネスに回すことができるとの意味である。ただし、人口減少につれ、中国国内では、人口ボーナス時代が終焉を迎えているのではないかの懸念が台頭している。

 この懸念に対し、国務院総理李強は3月の記者会見で「人口ボーナス時代が終わったというより、人口ボーナス時代から人材ボーナス時代にシフトしている最中だと言いたい。中国は、まだ9億の労働力があり、高等教育を受けた人口も2.4億を超えている。人口ボーナスでは、人口総量が確かに大事であるが、もっと大事なのは人口の質である。今の時代では人口より人材に目を向けるべき」と述べた。

 人口高齢化及び経済社会発展研究センターの王勝今名誉主任は、「人口の総量は下がっているが、その代わり質は上がっている。海外から帰国する人材も増えており、労働人口中の高等教育を受けた人の割合も増加している。人材の流出より受入が増えつつある」とし、人口大国から人材強国に転換するためには、以下の戦略を積極的に講じるべきとした。

①人材強国戦略の強化。中国は、より一層積極的な人材誘致政策で、海外にいる中国人人材だけでなく、外国人人材も多く受け入れるべきである。社会経済発展のボトルネックと言われる核心技術問題の解決や国家重点産業を支えられるハイレベル人材を積極的に誘致しつつ、人材の国内育成にも注力し、人材の質を高めていくのが大事である。

②人々の素質引き上げに資金を投資すべきである。労働力より資本力に頼る国に転換するには、国民全体の素質を引き上げる必要があり、そのためには教育・科学技術・文化の体制の改革や専門家の育成に惜しみのない投資を継続すべきである。

③若手への就職支援を強化。出生率の低下には、超学歴社会における若手の就職難、住宅購入や教育費用高騰による独身希望者の増加、仕事育児の両立できる体制の欠如等が主要原因だと言われている。政府が積極的な財政支援と政策の定めで雇用拡大を実現し、就職ルートを多様化すべきである。大都市への集中を緩和するため、地元での起業を支える事業を増やしたり、安定した支援を提供するプラットフォームを構築することも大事である。

④高齢者への支援強化。民政部の政策研究センター主任王傑秀は、人口問題を巡り、「出生率の低下ばかりが議論されているが、高齢者の増加にも注目すべき」とし、「定年年齢の引き上げが議論されているが、それを実現するためには、まず高齢者の老後の生活に対する保障、高齢者が活躍しやすい社会環境の構築、終身教育の定着が大事である」とした。出生率や若手への支援より注目度が比較的に低い高齢者への支援問題であるが、中国では、60歳以上の人口が既に3億人を突破しており、真剣な対応策を講じるべきである。

⑤ダイバーシティ推進強化。多様化した人材がそれぞれの才能や個性を生かしながら働ける風通しの良い労働環境、社会環境を構築し、人材の流失を防ぐべきである。

 中国共産党第20回全国代表大会では、教育・科学技術・人材が社会主義現代化国家の全面的な建設における基礎的・戦略的支えであるとした。経済発展につれ、中国では教育や科学技術への投資が増加しており、労働者の素質・能力も引き上げられている。従前より注力してきた海亀政策(人材呼び戻し政策)に加え、中国は、世界中の優秀な人材を破格の条件で国内に誘致する様々な事業にも積極的に取り組んでいる。人口の質の引き上げは短期間で果たせるものではないため、しばらくは目立った質の変化のないまま、人口減少だけが続く、厳しい状況になるかもしれないが、諸戦略を着実に進めていけば、人材強国への変身も実現できる日がくると信じたい。


[1] 「人口ボーナス」の定義はこちらのリンクを参照。
 ・人民中国「人口红利」