【23-25】2023年中国経済――消費回復に不退転の覚悟
陳惟杉/『中国新聞週刊』記者 脇屋克仁/翻訳 2023年04月25日
新型コロナ対策の「最適化」、すなわち「ウィズコロナ」への転換は、なによりも停滞する経済を回復、成長軌道に戻すためだった。2022年末から中国共産党中央は、死活をかけて経済活性化に取り組むというシグナルを発している。2023年、中国経済回復のカギは何か。
全力で市場のコンフィデンスを高める」「経済全体の好転を推進する」......、2022年12月6日の中央政治局会議から同月15、16日の中央経済工作会議に至る一連の表明をみると、現在の経済が困難な局面にあることを指導部はすでに十分自覚すると同時に、2023年は全力で経済を活性化させるというシグナルを発していることが容易に分かる。
市場のコンフィデンスはなによりもコロナ対策の最適化を継続することによってもたらされる。感染防止と社会経済の発展を高次元で統一する――2つの会議のいずれでも提起されていることだ。ある学者はいう。感染対策の最適化は経済成長の必要条件であり、それがなければいくら政策を出したところで恐らく何の役にも立たないだろうと。
近隣諸国・地域の経験をみると、感染防止対策を「緩和」すると最初のうちは感染への不安からかえって活動が停滞する状況が一時的に生じる。しかし、上述の学者が言うように、感染対策の最適化は経済成長の「一階条件」〔first-order condition〕であり、2023年下半期には経済は上昇に転じると期待されている。
コンフィデンスの源――成長率5%は最低ライン
2022年12月に続けて開催された中央政治局会議と中央経済工作会議で「成長の安定、雇用の安定、物価の安定」が提起されたが、いずれの会議でも真っ先にきているのは「成長の安定」である。しかし、これまで3年間絶えず強調されてきた「6つの安定」「6つの保障」ではいつも「雇用の安定」が筆頭に置かれていた。2つの会議は、来年=2023年に経済全体を好転させる意志を前面に押し出しているのだ。
復旦大学経済学院の張軍院長は、中央経済工作会議から伝わってくる最も重要な情報は現在の経済の困難な局面に対する中央の関心の高さであり、同時にこの会議は明確なシグナル――2023年は経済成長回復のために最大限の努力をする――を発しているという。
2022年の政府活動報告は元々2022年の国内総生産〔GDP〕成長目標を5.5%前後に設定していた。しかし、3月から上海、吉林などで感染が爆発的に拡大し、経済成長は大きなダメージを受け、上半期のGDP成長率は2.5%にとどまった。それでも年央時点では、経済安定化のための包括的政策措置が出されたこともあり、下半期の成長率は6%前後に達して年間では4.5%に落ち着くだろうという楽観的予測をする経済学者もまだ存在した。
ところが、第3四半期の実質成長率は3.9%、これを底に第4四半期は反転するだろうという楽観的見通しもその時点ではあったが、11月に広東、北京などで感染が再拡大し、第4四半期は確実に3%を下回ると予測する機関もある。大多数の経済学者は2022年の経済成長率を3.5%程度とみており、それすらもかなりの努力がなければ達成できないという見方もある。
仮に3.5%だとしたら、2020年から2022年までの3年間の平均成長率はわずか4.6%で、2035年の目標から逆算した最低ラインをすでに下回っていることになる。
まさにこうした背景のもと、「経済成長率を合理的な範囲に戻し且つキープする」がすでにコンセンサスになっているのだ。第13期全国政治協商会議常務委員会のメンバーで経済委員会の副主任を務める楊偉民氏は以前から次のように提言していた。2013年から2021年までの我が国のGDP成長率は平均で6.6%だが、新型コロナの影響を受けた2020年と2021年の2年間の平均は5.1%と、コロナ前の2019年と比べて1ポイント近く下落している。コロナ禍3年目の2022年、第1四半期から第3四半期までは3%と、目標の5.5%を下回っている。したがってむこう5年間は、経済成長率をコロナ以前の水準に戻し、2035年に1人当たりGDPを中進国水準にして「現代化」を基本的に達成するという目標を確保するべく全力で取り組まなければならないと。
では、2023年の経済成長目標はいかに設定すべきか。もはや5%は「レッドライン」に等しい。
全国政協経済委員会の劉世錦副主任は、政府は2023年の目標を5%以上で打ち出し、2022年とあわせた2年間平均で5%前後を勝ち取るべきだという。
一方、国務院発展研究センター企業研究所の張文魁副所長は、2023年の経済成長目標は「ダブル5」がよいと提起する。すなわち、2023年から「5年連続5%」の成長率を達成するということだ。第20回党大会の報告は「2035年に1人当たりGDPを中進国水準にする」を重要成長目標にしている。この先5年間、5%以上の成長を維持できないなら、この目標の達成は難しい。
また、2022年12月に姚洋、黄益平、張軍、梁建章、管清友、任沢平の6人が発表した「経済活動への制限緩和に関する提言」は、今年のGDP成長率の目標を5%以上としており、成長を最優先任務にして経済活動への制限をなくすべきという明確なメッセージを各界に伝えている。経済の先行きに対する不安をなくして各方面のコンフィデンスを高めるためだ。
実際、一部の専門家の目には、2023年の経済成長率5%達成は決して難しくないと映る。匯豊銀行大中華区の元首席エコノミスト・屈宏斌氏もその1人だ。同氏は次のように考える。2022年の経済成長率はコロナの影響で正常な水準をはるかに下回ったので、2023年の目標を5%前後にした場合、ベース効果を考慮した実際の成長率は3%前後にしかならない〔比較基準となる昨年の数値が異常に低いため〕。そうなると2年連続で超低成長となり、雇用にしわ寄せがいくだろう。つまり、ベース効果を考慮した上での「明らかな回復」といえるのは6%から7%の間であり、そうなれば2022年と2023年の2年間平均5%の成長――2020年~21年平均と同じ水準――が実際に見込まれる。ベース効果を差し引いた実際の経済成長率が安定すれば、市場主体のマインド安定にも雇用の保障にもプラスに働く。
6人の経済学者の提言でいわれているように、成長目標の設定は「マインドの安定」と「各方面のコンフィデンスの向上」にも波及する。張軍氏は、基準となる2022年の数値が低いことを考えれば、2023年の目標を5.5%前後に設定しても達成可能だという。
現下の経済情勢に対して、2022年の中央経済工作会議は「3重の圧力」という2020年の判断を維持した。つまり、需要の縮小、供給ショック〔供給網の目詰まりなど〕、経済の先行きに対する市場の期待の後退という3つの圧力が依然として大きいということだ。
中央経済工作会議は、2023年の経済対策は複雑に入り組んでいるが、常にトータルな戦略に立ち返って、まずは社会のマインド改善と成長への自信回復・強化から着手しなければならないと指摘している。直前の中央政治局会議でも「市場のコンフィデンスを全力で高める」と明確に提起されている。
また、これに呼応して中央経済工作会議は「『2つのいささかも動揺せず』〔いささかも動揺せずに公有制経済を強固にし発展させ、いささかも動揺せずに非公有制経済の発展を奨励・支持・誘導する〕の着実な実現」という1項目を設けており、国有企業と民営企業を公平に扱うべきという要求を法や制度面から実現し、政策と世論の両面から民営企業とその力強い成長を奨励し支持すると提起している。民営企業の財産権と企業家の権利・利益を法的に保護し、各級幹部は民営企業のために「実際的な取り組み」で難題を解決して「親清」〔親身で誠実でクリーン〕な「政商関係」をつくるということだ。
中央財経委員会弁公室〔中財弁〕のあるメンバーは、中央経済工作会議の意気込みと現下の経済の焦点について次のように話してくれた。民営経済と中小零細企業の経営環境は厳しく、成長マインドも強くないし自信も足りない。会議はこの問題をきわめて重要視し、民営企業の成長環境を最適化してその力強い成長を後押しすべきだと強調していると。
もう1つ注目されたのは、党中央がプラットフォーム経済にどう言及するかだった。会議では、プラットフォーム企業が成長の牽引、雇用の創出、国際競争において大いにその力を発揮することを支持すると提起された。
また、浙江省党委員会の易煉紅書記は2022年12月18日にアリババを視察したとき、成長促進、国際競争、社会的幸福の造成で、アリババには大活躍してほしいと話した。これはきわめてメッセージ性が強い言葉だと外部からは受け止められている。
平安証券の首席エコノミスト・鐘正生氏は、プラットフォーム経済が新たな発展段階を迎えているということかもしれないという。プラットフォーム経済はこれまで管理監督政策の重要関心事項であり、「資本の無秩序な拡大を防ぐ」ことに政策の重点があった。しかし今回の会議では「管理監督のレベルを常態化段階に引き上げ、プラットフォーム企業が成長の牽引、雇用の創出、国際競争において大いにその力を発揮することを支持する」と提起された。しかもその約半年前の政治局会議では、「プラットフォーム経済に対する常態化した管理監督を実施する」とし、そのために「まとまった量の投資案件に対して集中的にゴーサインを出す」としている。
カギを握る消費の回復
2022年11月の中国経済に関する一連の数値は楽観を許さないものだ。国家統計局が発表した製造業購買担当者景気指数〔PMI〕は48.0、2カ月連続の下落で、臨界値50割れが続いている。サービス業経営活動指数〔サービス業PMI〕と総合PMIはそれぞれ45.1と47.1で、いずれも1.9ポイントの下落である。
中国経済の景気動向を反映したこの3つの指数はいずれも同年4月以降の最低を記録している。2022年の中国は前半の感染拡大のあと、ちょうどこの11月に感染の再拡大に直面していた。しかし、経済のダメージの受け方は前半と異なる。
中金公司のマクロ研究報告は、具体的数値からみて今回〔11月〕は感染拡大による影響が4月より小さく、とくに物流は「保通保暢〔円滑な物流保障〕政策」もあってダメージが減少したという。11月の感染爆発はおそらく供給よりも需要へのダメージが大きく、生産指数の低下も、直接影響を受けた生産者がやむを得ずそうしたからではなく、むしろ需要減退や企業マインドといった部分が波及して自発的に減産したことがベースになっているということだ。
中国物流購買連合会の調査によると、11月は市場の需要不足が目立っており、需要が減っていると回答した企業は55%と、前回よりも2.2ポイント上昇している。中小企業に限れば58.5%である。
内需も外需もともに縮小している。11月の社会消費財小売総額は前年同月比で5.9%マイナス、2022年を通してみても、感染爆発に襲われた4月~5月の上海や吉林の数値を上回っているだけで、かなり低い額だった。留意すべきは11月の国内自動車販売量が前月比で7,1%、前年同月比で7.9%下落となっており、毎年年末にみられる残存効果がまだ出ていないことだ。ただ、2022年の自動車消費はもち直し傾向をみせた時期もあった。また、輸出も米ドルベースで前年比マイナス8.7%と、2カ月連続でマイナスである。しかも下げ幅が大きくなってきている。
国家統計局の付凌暉報道官は「国際環境がますます複雑さと厳しさを増してきており、外需の収縮がいっそうはっきりしてきている。一方国内はいたるところで感染が再拡大し、需要の縮小、供給ショック、経済の先行きに対する市場の期待の後退という3つの圧力が強まっており、経済活動への制約は歴然としている」と述べた。
中国経済はいま明らかに需要セクションに重圧がかかっている。12月の中央政治局会議は、国内需要の拡大に注力し、消費が土台的役割と投資のカギとなる役割を十分に発揮するようにしなければならないと明確に打ち出した。これはもしかしたら翌年〔2023年〕の反循環政策〔ここでは景気循環の下降局面で積極的な財政出動を実施すること〕のターゲットとして投資よりも消費を優先するということかもしれない――直後にはそういう見方もあった。実際に中央経済工作会議では消費の回復と拡大が最優先事項に挙げられた。具体的な対策としては、消費力の強化、消費条件の改善、消費シーンの創出などで、都市住民の収入をあらゆるチャネルから増やし、住宅リフォーム、新エネルギー車購入、老人福祉サービスといった消費を支援するということだ。
新エネルギー車の生産ライン〔福建省寧徳市、8月18日〕。写真/新華社
党中央と国務院が12月14日に発表した「内需拡大に向けた戦略計画の綱要(2022-2035年)」〔以下、「綱要」〕では、ここ数年むしろ積極的に需要を抑えてきた分野にも言及されている。たとえば「教育サービスの多様化に社会の力を注ぐことを奨励し、民営教育事業の成長を規範化すると同時に支援する。課外教育〔学習塾など〕を全面的に規範化し、民営教育分野のマネジメント改革を着実に進め、海外とも提携した高水準の学校運営を展開する」と、教育サービスにも着眼していることだ。
政府の投資よりも個人消費に重きをおく――これは多くの経済学者の要望とも一致する。張軍氏は、指導部にはこの問題で変化を生み出せるようにしてほしいという。「重要投資プロジェクトのなかには多少時期が遅れても問題ないものがいくつかある。しかし、家庭とくに自営業で中低収入の家庭の硬直性支出〔任意に削減できない出費〕は厳しく、政府はここを補填し、消費の回復を保障すべきだ」
効果的かつ安定的に消費を伸ばすにはどうすればよいか。中財弁のあるメンバーが特に強調するのは、都市住民の収入をあらゆるチャネルを通じて増やすこと、特に本来はどちらかというと消費量が多いのにコロナのダメ―ジが大きい中低所得層の消費力を上げることである。消費者向けの貸付けを適度に増やす、きめ細やかな雇用優先政策を実施する、雇用吸収力の高い産業と企業の発展を支援する、構造的物価上昇が困窮する人々にもたらすダメージを適時効果的に緩和する、といったことだ。
3年前の最初のコロナ感染爆発から中国経済が急速に立ち直ったのは、不動産と対外貿易によるところが大きかった。この二大牽引車が大幅に弱体化しているいま、消費に寄せられる期待は大きい。ゴールドマンサックスの中国担当チーフエコノミスト・閃輝氏は、中国経済の成長スピードが2023年上がるとすれば、それは主に消費の回復とリバウンドによるとみる。
また、鐘正生氏は次のように考える。国際循環の中国経済に対する牽引力が次第に弱まってきてから国内循環の重要性がさらに上がった。これも最近「綱要」が出された背景だ。しかし、2022年と2023年では内需拡大の重点に変化が生じるだろう。2022年の内需拡大は、インフラ投資の高成長率維持、製造業の構造転換と高度化をリードするマルチな施策の実施、11月の不動産融資の実質的な緩和など、固定資産投資に重点が置かれた。それに比べて、消費券を発行したり、自動車の消費喚起策を数多く実施した一部地域を除いて、消費喚起への注力は全体として弱かった。「消費の回復と拡大を最優先にする」という中央経済工作会議の提起から、消費喚起が2023年の内需拡大の重点だと予測している。
住宅リフォーム、新エネルギー車購入、老人福祉サービスといった会議で提起された支援にとどまらず、公共消費の適切な増加、ターゲットを絞った、より大規模な消費券の発行なども重点対策になると鐘氏はみている。
中金公司のアナリスト・陳健恒氏は、2022年の消費が脆弱だった背景は、個人所得の伸びが緩慢だったこと、収入の先行きへの不安が強まり消費意欲が減退したこと、それに比例して貯蓄傾向が明らかに上昇したことだという。同氏は、これをふまえれば消費喚起は必要な対策だが、具体的な内容と効果をさらに吟味してから実施するべきだと考える。2022年の自動車消費補填策が部分的にせよ都市住民の耐久品消費需要をすでにある程度満たしてしまっているからだ。2023年の消費の回復の度合いは、個人所得と個人消費コンフィデンスを回復させる、いままでとは違う具体的措置によって決まり、重点的に検討すべきは雇用をいかに促進するか、収入アップと資産の回復をいかに実現するか、消費券発行のやり方を最適化してスケールアップできるかどうかだという。
任沢平氏も、消費券発行はもっとスケールアップすべきで、何千億、何兆という規模で発行して全国民の消費を喚起すべきだと11月末に提言している。規模ということでは、あらゆる業界をカバーするものを個人を対象に発行し、恩恵の普遍性と公平性を体現すべきで、発行に際しては身分証を活用すべきだという。また、割引率は2割なら2割――100元で20元の割引――のように一定にすべきだともいう。
一時期は供給側が強調されたこともあったが、それに比べると2022年末の中央経済工作会議は需要側にも同様に重要な位置づけを与えていると、今回取材した経済学者は口をそろえる。
しかも、中財弁の関係者は、供給側と需要側の関係を、供給側の構造的改革の深化と内需拡大戦略の実行はどちらも経済の長期安定的かつ健全な発展のためであって矛盾しないと説明する。
特に例をあげるなら、いまたくさんある経済対策の分野はすべて供給側の構造的改革と内需拡大が結びついており、供給システムの質と効率をアップできれば、そのまま当期の需要拡大にもプラスになるということだ。「産業システムの最適化とグレードアップを急ピッチで進めることは待ったなしだ。そのためには製造業の研究開発と技術革新への投資力を強化することと、新たな分野や新たなサーキットへの投資拡大が求められる。こうした投資は現在の需要そのものであり、将来的に、質の高い供給が生まれれば有効な需要ももっとたくさん生まれてくる」
※本稿は『月刊中国ニュース』2023年4月号(Vol.132)より転載したものである。