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【23-51】「行き場」を見つけた化学肥料工場の二酸化炭素

何 亮(科技日報記者) 謝文艷(科技日報通信員) 2023年08月08日

 中国黒竜江省の中国石油大慶石化公司(以下「大慶石化」)化学肥料運営部では、液体二酸化炭素の注入を待つ数多くのタンクローリーが並ぶ光景が広がっていた。タンクローリーの目的地は120キロ離れた大慶油田だ。そこは二酸化炭素の「新たな戦場」で、油置換剤として地下に注入されると、油田に残っている「グリーン」な原油が押し出されることになる。

 同部の呂印達部長は「5月15日に当社の高濃度二酸化炭素40万トン回収施設が完成した。このプロジェクトは、中国石油集団の製油化学工業・新材料分野における初の二酸化炭素回収プロジェクトとなった。施設の稼働が始まると、年間40万トンの二酸化炭素が回収でき、それにより2300万元(1元=約20円)以上の利益が生まれ、生態効果と経済効果を実現する」と説明した。

二酸化炭素を活用して油田・油井の回収率を向上させる

 回収される二酸化炭素の発生源はどこなのか? その答えは、大慶石化の「化学肥料運営部」だ。

 同部の旧名は「大慶石化化学肥料工場」で、1973年に中国共産党中央と国務院が承認した、海外技術が初めて採用された大型化学工業メーカー13社の一つだった。それが完成し、稼働したのは1976年9月13日のことだ。

 呂氏は「当時、化学肥料工場の設備、製法はいずれも海外から導入したもので、国の化学肥料事業と農業生産に大きな貢献を果たした。1970年代、大慶石化は、米国のKBR社からアンモニア合成設備を導入し、2005年の拡張工事後、アンモニア合成量は年間45万トンに達した。そして、副産物である二酸化炭素の排出量が年間64万トンに達するようになった。また、オランダのスタミカーボン社からガス抽出法を活用して二酸化炭素から尿素を生産する技術を導入し、尿素を年間76万トン生産する能力を備えるようになった」と述べた。

 しかし、中国の産業構造調整に伴い、2015年、当時の農業部(省)が化学肥料低減効率向上戦略を推進するようになり、20年には化学肥料使用量「ゼロ成長」という目標を掲げた。情勢の変化に対応し、大慶石化は製品構造を最適化し、液体アンモニア製品の販売を増やし、尿素の生産量を減らした。

 呂氏は「尿素が減産となり、原料の二酸化炭素が大気中に大量に排出されるようになった。統計によると、2017年から2021年までの5年間、アンモニア合成設備から排出された二酸化炭素は年間30~45万トンだった」と語った。

 廃棄する二酸化炭素を資源化し、利用することはできないのだろうか? 二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術がその答えを出してくれた。大慶石化は、旧尿素プラントの二酸化炭素圧縮機を活用し、2段目の出口に乾燥機を設置。乾燥、脱水を経た二酸化炭素を圧縮機により、3段目と4段目で14.7メガパスカル(MPa)まで圧縮し、アンモニア合成設備の副産物を体積百分率99%以上の高純度二酸化炭素に転換できるようにした。

 大慶石化テクノロジー・計画発展処のプロジェクト管理高級主管、魯鵬氏は「二酸化炭素を乾燥させた後、油田の油置換剤として使うと、二酸化炭素の排出を減らすことができる上、油田・油井の最終回収率を高めることもでき、毎年、2300万元以上の利益が出る」と説明した。

 大慶油田では現在、CCUS産業の需要と供給の両方が活発になっている。大慶油田の「第14次五カ年計画(2021~25年)」は、2025年に鰲南油田のCCUSを活用した産油能力60万トン、二酸化炭素貯留143万トンという目標を打ち出している。

技術研究を行い二酸化炭素輸送のリスクをコントロール

 大慶油田に近いという点も、大慶石化がCCUSプロジェクトを展開する上での優位性となっている。油田は二酸化炭素の「大口消費者」として、回収した二酸化炭素の応用市場を提供できる。また、回収した二酸化炭素を遠くへ輸送することなく利用できるため、開発コストを大幅に低減できる。

 魯氏は「二酸化炭素は臨界パラメータが低いという特性があるため、物質の状態が非常に簡単に変化する。現有のパイプライン輸送は、気体、液体、超臨界の3種類に分かれている。しかし、輸送パイプラインと設備は、二酸化炭素の状態や輸送方法の特徴といった要素に基づいて選択しなければならない」と語った。

 そのため、中国は現在、二酸化炭素パイプライン輸送技術における大規模な研究開発を行い、異なる状況下での二酸化炭素輸送やリスクコントロールを実現するよう取り組んでいる。

 魯氏は「パイプラインを通じた二酸化炭素輸送の境界条件を見つけるために、大慶石化と大慶油田公司は共同で論証研究を進め、パイプラインによる輸送のシミュレーション分析を通して、超臨界二酸化炭素の圧力が14.7MPaに達した時、パイプライン輸送の全過程でそれ以上増圧する必要はなく、パイプラインの終点の圧力を9MPa以上に保つことができることを解明した」と紹介した。

 大慶石化が設計したパイプライン技術案は、パイプライン全線で二酸化炭素を安定して効率よく輸送できる超臨界/高密度相の状態を保つものだ。余剰圧力が油田の二酸化炭素注入設備の入口圧力として、川上・川下を一体化かつ最適化でき、技術とコストの両面で合理性を実現している。

 大慶石化と大慶油田を結ぶ超臨界二酸化炭素パイプラインの建設が現在、急ピッチで進められている。パイプラインが完成するまでは、回収された二酸化炭素は、液体の状態でタンクローリーを使って輸送される。


※本稿は、科技日報「为化肥厂里的二氧化碳找个新去处」(2023年6月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。