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【23-60】経済復興のカギはマクロコントロールモデルのイノベーション/劉尚希氏

閔 傑/『中国新聞週刊』記者 江 瑞/翻訳 2023年09月13日

 中国財政科学研究院院長・劉尚希氏インタビュー

中国経済が全体として上向きに転じようとしている昨今だが、「外部環境が複雑さと厳しさを増し、世界の貿易投資が鈍化するなど、中国経済の回復に直接的影響を及ぼす要因が存在する」。
2023年6月16日に開かれた国務院常務会議では、経済の持続的好転を実現させるための一連の政策措置の検討・推進を進めていることが明らかにされた。

 2023年の第2四半期以降、経済復興の勢いは当初の期待には及んでいない。中国財政科学研究院院長の劉尚希氏は、国民および企業の自信は最近になってやや上向いてきたものの、まだ不安定だと分析し、特に警戒しなければならないのは、「国民に根強く残る財布の紐を締める傾向が、再度の経済収縮を引き起こすリスクをはらんでいること」だと指摘する。

「目下、財政・通貨政策の信号は非常に明確ですが、その伝達がうまくいっていないため、体制や政策の刷新が必要です」。なかでもカギとなるのがマクロコントロールモデルの刷新であり、経済の下振れリスクに直面するなか、政府はマクロ政策や改革措置などの面で早急に新たな一手を打ち出すことが強く望まれる、と劉尚希氏は訴えた。

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中国財政科学研究院院長・劉尚希氏。

「いくつもの要因が重なり、経済復興が困難さを増している」

記者:上半期の経済を振り返ると、復興は期待したほど進んでいないというのが一般的な認識かと思いますが、先生は上半期の経済情勢をどうご覧になりましたか。

劉尚希:復興は期待したほど進んでいない、これが皆さんの共通認識かと思います。元々、コロナ禍が終われば経済はすぐに盛り返すだろうという希望的観測が世間にありましたが、現実はそうはなっていません。一部の経済指標では、今年の第2四半期、つまり4月以降、経済の下振れ兆候が現れていました。それは即ち、リスクが拡散、拡大傾向にあるということを意味していると考えられ、それに反論する人はあまりいないと思われます。

 経済下振れの原因は、いくつもの要因が重なっています。まず1つ目は、コロナ禍の「傷跡」です。長く続いたコロナ禍は、企業のバランスシートを大きく損ない、個人事業主や零細企業の経営にもダメージが及び、実質的に国民全体のバランスシートを崩す事態へと発展しました。これはコロナ禍が経済面に残した「爪痕」で、無視できない要因です。

 2つ目は、不動産市場の下落による打撃です。不動産業は他産業との連関性が高く、「房住不炒」〔住宅は住むためのものであって、投機売買するためのものではない〕はまったくもって正しいことなのですが、それゆえ不動産業は、どうモデルチェンジしていくかということを模索している途中で、業界全体が調整中という状態です。その連関性の高さゆえ、不動産業自体はもちろんのこと、川上・川下の全ての産業、さらには金融や国民生活にも連鎖反応が及んでいます。例えば、不動産価格が下落し、不動産の資産価値が落ちていると感じた消費者が、地域によっては現在の資産価値を借入額が上回る状態になると、「ローン滞納」を選ぶ人々が出てきて、バランスシートが収縮する結果になっています。また、「3つのレッドライン」〔2020年8月に中国政府が打ち出した財務改善要求。①負債比率(Liability to Asset)を70%以下とする、②純負債資本倍率(Net DER)は1倍以下とする、③現預金短期有利子負債比率(Cash Coverage of ST Debt)を1倍以上とする、という3つの指標をクリアすることが求められた〕政策が打ち出されると、不動産業向けの金融政策に調整が入り、「住宅引渡し保証」が奨励されるようになりましたが、不動産デベロッパー自体ジリ貧のところが多く、バランスシートは大打撃を受けています。

 3つ目は外部環境です。いまは世界的に需要不足で、グローバル経済は下振れ、衰退に向かっています。このことが、輸出への打撃や受注の減少といった形で表出し、中国経済の足を引っ張っていることは間違いありません。こうした外部要因が重なり中国経済の復興を妨げ、さらに経済の下振れを招いているのです。

 4つ目は、監督管理の一貫性のなさを生む、政府と市場との関係です。これは大手デジタルプラットフォームだけでなく、各方面にも関係する問題です。数年前までの監督管理のやり方は、出し抜けに関連法が制定されるというもので、市場との意思疎通はまったく不十分でした。突然法令が制定されたことで生じた混乱の影響は、現在でもなお残っています。監督管理の強化は必要ですが、法治という軌道に沿って監督管理政策の一貫性を高めることが課題だと言えるでしょう。これは、市場の期待感を改善し安定させるために、非常に重要なことです。

 さらにもう1つ、国営企業と民間企業との関係もあります。例えば不動産業を見てみると、両者ともに打撃を受けているとはいえ、民間不動産企業のダメージは非常に大きく、国営企業のダメージは相対的に小さいものとなっていますが、この差こそ、民間企業の自信のなさを表していると言えます。デジタル経済においては、民間企業がトップランナーでしたが、いまは息切れしている状態です。中央政府は繰り返し「2つの揺るがず」を強調し、民間経済の発展を支援してきましたが、実際のところ、公平な競争原則は、国営企業と民間企業との間で真に実現されていたとは言い難いものでした。何と言っても民間企業のほうが市場が大きいため、民間投資がマイナス成長に転じた場合、政府や国営企業による投資では支えきれません。現在の趨勢から見れば、もし民間経済がさらに収縮した場合、国民経済の下振れは加速するでしょう。

 以上に挙げた要因は、単独で生じた場合、それほどの打撃にはなりませんが、同時かつ重なって生じた場合は、悪い相乗効果が発揮され、期待感の改善は難しくなります。中央経済工作会議は2年前の時点で中国経済が直面する「三重苦」を訴えていますが、現在に至ってもそれらは解決されていません。それゆえ、経済復興は、あたかも車輪がぬかるみにはまってなかなか抜け出せずにいるように、前途多難だと言えます。

記者:先生は以前、「国民に根強く残る財布の紐を締める傾向が、再度の経済収縮を引き起こすリスクをはらんでいる」と仰っていましたが、そのリスクはどの程度あるとお考えですか。

劉尚希:現在の中国経済は、岐路に立っている状態だと考えます。岐路と言ったのは、先ほど挙げたいくつかの要因は周期的なものではないからです。もし周期的な要因であれば、耐え忍んでいれば、経済は自ずと好転します。いま必要なのはリスク意識の強化。それから政府がマクロ政策や改革措置などの面で新たな一手を打ち出すことが強く望まれます。

 現在は、復興の遅れではなく、より深部に問題が存在している状態です。また、メカニズムや構造的な問題が以前からあり、コロナ禍の3年間はその対応どころではなかったため、問題がさらに積み上がった感があり、その負の影響が経済情勢にも出てきています。いま早急に必要なのは、構造的な問題やメカニズムの問題に改革を断行することです。そうすれば中国経済はぬかるみから抜け出すことができるでしょう。

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目下の経済状況に対し、政府がマクロ政策や改革措置などの面で新たな一手を打ち出し、経済の持続的好転を推し進めることが求められる。写真/視覚中国

「地方の緊縮的な財政運営は、中央の積極的な財政政策の効率向上要求と相容れない」

記者:先生は最近、「目下、財政・通貨政策のシグナルは非常に明確だが、その伝達がうまくいっていないため、体制や政策の刷新が必要」と仰っていましたが、これはどういう意味でしょうか。

劉尚希:主に政策上の話ですが、シグナルは非常に明確です。例えば、積極的な財政政策と穏健な通貨政策の実施というのははっきりしています。程度や効果についてはまた別の問題です。

 程度が十分かどうかというのは、まず効果で判断しなければなりません。効果を見ずに程度だけを見ていては、逆の結果になってしまう恐れがあります。まず評価すべきは、財政および通貨政策の効果です。近年の様子を見ていると、財政・通貨政策の効果は、限界効用逓減の法則で、どんどん薄れてきています。その根本的原因は、財政・通貨政策の伝達は良好な体制基盤があってこそだからです。体制基盤に欠陥があればうまく伝達されませんし、体制が不健全であれば、伝達効果は大幅に削られてしまうのです。

 現在の体制基盤は十分に健全だとは言えません。例えば金融分野では、通貨政策の体制基盤は金融体制によって決まるため、現代的な銀行制度を確立する必要があります。これが完全に確立されていないと、市場化を目標とする金融構造改革で成果を挙げたとしても、その中身が不明瞭になってしまいます。財政体制改革で進展があっても、中央と地方の財政関係改革は期待ほどは進みません。したがって、目下の地方の財政難は、中央と地方の財政関係の調整と切っても切れない関係にあるのです。

 現行体制の下で、地方の緊縮的な財政運営は、中央の積極的な財政政策の効率向上要求と相容れないところがあるのかもしれません。たとえ全国の財政赤字を拡大しても、地方の債券規模を拡大しても、政策シグナルの伝達は阻害されてしまうでしょう。この他、通貨の伝達でも同様の問題が存在します。マネーサプライを大幅に増やし、マネーストックが経済成長速度をはるかに上回る二桁の伸びを記録している一方、預金がローンを上回る速度で増加し、マクロ上ではローンの「空回り」現象が生じているように見えます。

記者:通貨の伝達不足を解決するため、人民銀行は資金直達メカニズム、即ち構造性通貨政策を制定しました。現在のところ、その効果はいかほどなのでしょう。

劉尚希:構造性通貨政策は、一定方向の流動性の開放に依拠して実施されるもので、本質的には財政部門の仕事となり、財政政策の支援があってこそ効果を発揮するものです。目下のマネーサプライ政策は、効果がどんどん薄れ、企業および国民に対し「放水しようにも水が流れ出ていかない」状態になっています。企業の赤字は膨らみ、借り入れを望まない企業が増えています。これは国民も同じです。利下げは一定の効果を発揮しましたが、民間企業にとって、資本コストは依然高いと感じられるようです。

 利下げのみに頼っていては根本的な問題を解決できません。カギとなるのは、いかにして未来に対する自信を高め、企業の借り入れ意欲を刺激するかということです。自信が不足している状態では、企業は借り入れをしようと思わなくなりますし、金利がゼロ近くまで下がっても、やはり借り入れは選択肢から外れます。これがいわゆる「流動性の罠」です。利下げは景気刺激策の一手段ですが、やるなら早いうちにやるべきだったのであり、いまからでは遅きに失した感があります。「空腹時に栄養を強化してこそ、その効果が鮮明に現れる」というわけなのです。

 いくつもの要因が重なり、経済の下振れを招いている状況では、通貨政策の伝達作用は間違いなく弱まり、「流動性の罠」に陥る可能性すらあります。経済が下振れしているときは、通貨政策の効果は限定的であるため、財政政策と平行して実施するのではなく、付帯条件として位置づけるべきなのです。例えば、中央政府が国債を発行した際、通貨政策はこれに協力する施策として、二級市場あるいは一級市場で国債を買い付けます。公開市場操作では、国債という選択肢を多めに用いて中国人民銀行のバランスシートにおける中国債の割合を高めるべきであり、これまでのように機械的に「中央銀行の独立性」を強調するだけではいけません。財政・通貨政策が一体化した新たな協同枠組みを構築し、国家ガバナンスという高みから2大政策がタッグを組んだパワーを発揮できるようにしなければなりません。

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「マクロコントロールの意思決定と執行を完全に中央に戻すべき」

記者:現行のマクロコントロールモデルの深部には、どういった問題が存在するのでしょう。また、どのように刷新を進めていくべきでしょうか。

劉尚希:中央と地方との関係は、国家ガバナンスに属する問題で、マクロコントロールに直接反映されます。2008年以前のマクロコントロールは、中央主体でおこなっていましたが、現在は地方主体になっており、「中央によるコントロールの地方化」が起きています。

 1998年にアジア金融危機が発生した当時も一連のマクロコントロールがおこなわれました。このときは、中央が長期建設国債を発行し、その資金を地方に貸し付ける方式が採られ、地方が各種の投・融資プラットフォームを通じて借り入れや財政拡張をすることは制限されていましたし、地方が債券を発行することや財政赤字を出すことは禁じられていました。しかし2008年のリーマンショック対策として打ち出された「4兆元の景気刺激策」では、中央が1.18兆元を調達した残りは、地方に委ねられました。これを機に地方は、投・融資プラットフォームを頼りに融資を募り、積極的な財政拡張に乗り出すようになり、大量の債務が発生していまに至っているわけです。いまはさらに不動産市場の景気悪化により、地方の土地譲渡収入は大幅に減少しています。

 以上のような経緯で2008年を転換点とする変化が生じたわけですが、このようなマクロコントロールモデルの効果はどんどん薄れ、持続が難しくなっています。地方への投資は現在のところ、中央がランク付けする特別債の指標が唯一の基準になっています。しかも地方の財政難が叫ばれる中、これ以上拡張する余力もなく、地方によっては、拡張どころか収縮しているところもあります。それゆえ、経済復興を実現するためには積極的な財政政策の実施が必要ではあるものの、再び地方財政に頼ろうとするなら、それは無理な注文というものです。「中央によるコントロールの地方化」メカニズムの下で積極的な財政政策を強化しても、実際の効果はあまり得られないでしょう。

 また、中央政府は現在、地方の債務拡張を厳しく制限しており、レバレッジをかけることはできません。そのような状況下で、債務リスクを考慮し、地方にレバレッジを引き下げるよう要求する反面、積極的な財政政策の面からは地方にレバレッジの強化を求めるというのでは、地方は対応に苦慮してしまいます。したがって、積極的な財政政策を実施するには、中央政府が主体となって景気のてこ入れをするべきであり、こうすることでマクロコントロールにおける板挟み問題も一刀両断に解決できます。

 ですが実は方法があります。それは、まだ余裕のある中央が主体となってレバレッジをかけることです。目下のところ、GDPに占める国債の割合は高くありません。中国の地方債の発行額はいまや国債を上回っており、こうした地方に頼ったマクロコントロールモデルは効果が薄れる反面、リスクは上昇しています。ここらで原点回帰し、マクロコントロールの意思決定と執行を完全に中央に戻すべきです。

記者:目下の地方財政には、地方債の残高が多すぎること、利息負担が重くのしかかっていること以外にも、経済復興に影響を与えるような突出した問題があるのでしょうか。

劉尚希:まずは地方債をこれ以上拡大しないことが必要です。これ以上増発してもあまり効果は望めません。しかも、地方では条件に適合するプロジェクトがそれほど多くないにも関わらず、省が債券を発行して資金を調達し、それを市や県に分配して相応のプロジェクトを探させるなど、プロジェクト投資自体がどんどん下級の自治体に移行しています。市や県は規模が小さいため、投資プロジェクトを見つけること自体が難しいです。いまは地域経済の二極化が顕著になっていて、県レベルでは多くのところで人口流出が続いています。そんな場所で条件に合うプロジェクトがいくつ見つかるというのでしょう。

 また、大きな流れで言えば、人口の都市化〔農村戸籍を都市戸籍に変更する政策のこと〕をさらに進め、「逆都市化」を防止し、空間的に都市群や中心都市を取り囲むような形で投資プロジェクトを配置することが大切です。単に資金を下へ下へと分配し、市や県、ひいては郷・鎮にプロジェクト申請をさせるようではいけません。いまは特別債の資金をプロジェクトに支給する際、地方が上級の自治体に申請するという形を取っていますが、これは問題です。簡単に市や県にプロジェクト申請をさせるべきではなく、申請してきたとしても参考に留めておき、経済の地域一体化や、現下の人口流動、産業集積に基づき、省レベルで一括して投資プロジェクトを手配しなければ、真の効果は得られません。省が一括手配することで、たとえ短期的な経済効果は得られなくても、社会的効果は得られます。いまは社会的効果すら見えない投資プロジェクトが多いです。原因は人口減少です。プロジェクト投資において、人口動態とプロジェクト分布の矛盾が生じると、投資効果はどんどん薄れていきます。

 さらに言えば、特別債の設定当初の構想に調整を加え、現状に合わせて最適化することも必要でしょう。マクロ的に見れば、地方特別債はこれ以上発行すべきでなく、残り枠を国債に回し、中央政府のほうでレバレッジを実行するべきです。社会インフラ建設プロジェクトは経済および社会の主体となる空間を対象とし、県や郷から市以上の自治体へ移行すべきで、人口流出が続き、潜在成長力の小さい地方は、プロジェクト配置を減らしていく方向にしなければなりません。

民間企業によく効く「精神安定剤」を与え、自信回復を図るべき

記者:いま、経済を立て直すためには、早急に不動産政策を改正して不動産市場を救うことから着手すべきという意見が多いですが、先生はどうお考えですか。

劉尚希:いまの不動産市場には多角的アプローチが必要です。不動産業界はモデルチェンジが必要ですが、だからと言って単に旧路線に回帰するだけでは、いま以上に深刻な問題が生じるでしょう。現在、一・二線都市の低所得者層は住宅を購入することができずにいますが、彼らの居住権を保障するため、公営住宅や長期賃貸住宅などの賃貸住宅市場を大々的に発展させるべきです。

 不動産業を発展させるためには住宅を売れという考え方はもう古く、これからは賃貸住宅の建設を奨励し、政府から補助金を受けたり政府に買い取ってもらう方式にすべきです。低所得者層のそれぞれの所得水準に合わせた賃借料体系と退去メカニズムを確立し、商業モデルとして持続可能な運営を目指します。いくつかの地方を視察に訪れてみましたが、賃借料が安すぎたり、公営住宅が払い下げられたりしていました。そうなると大量の財政補助が必要になり、賃貸住宅の供給はどんどん先細りになっていきます。

 そうならないためには、公営住宅や長期賃貸住宅などの賃貸住宅市場を大々的に発展させ、低所得者層の居住ニーズを保障する一方で、制限措置を撤廃し、高級分譲住宅は市場の調節メカニズムに完全に委ね、硬直的需要者層を分類・分析し、地価や土地供給などの面から計画的に手配することが必要で、一律の対応をしていてはだめです。政府の役割と市場の役割をそれぞれ発揮し、両者の力が結びついてこそ、「房住不炒」は実現できるのです。単に不動産市場を開放し、購買欲を煽って住宅を購入させるだけでは元の木阿弥に戻ってしまい、いずれまた立ち行かなくなります。

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2022年4月17日、四川省成都市初の保障性賃貸住宅〔政府による補助がある低中所得者用賃貸住宅〕プロジェクトで分配が始まった。写真/視覚中国

記者:市場は投資を促進し、需要を刺激する一連の政策に期待が高まっていますが、いま政策が注力するのはどういった点だと思われますか。

劉尚希:現状を考えると、一貫性のない監督管理政策をまずは改め、アウトな行為を明確に示し、民間企業によく効く「安定剤」を投与する必要があるでしょう。既存の「安定剤」ではもう不十分だと思われます。知的財産権の保護や公平な競争の審査などの面では、通り一遍の対応ではなく、本気の対応を示す必要があります。これは景況感を安定させ、自信を高めるために非常に重要なことです。

 次に、中央政府による景気のてこ入れも大変重要です。農民工の市民化に関して重点的に手を打ち、都市群や都市圈を囲むように投資プロジェクトを配置します。市場にできることは市場に任せ、政府は市場による投資を締め出さず、社会による投資を牽引し、市場が望まないまたはできないプロジェクトに注力すべきです。農業移動人口の市民化に関連する投資は膨大な成長の余地があり、当面の投資や内需を拡大できるだけでなく、農民の市民化を進め、農村振興を牽引することも可能です。

 3つ目に、デジタルプラットフォームなどの大手企業に対し、就業問題の解決や中小企業の発展において力を発揮させることが必要です。中小企業の発展はこれら大企業なしにはあり得ず、製造業などでは数多くの中小企業が大企業の下請けを担っています。大手企業が生き残ってこそ、下にいる者も生き残れるのです。大企業に自信がみなぎり、投資を拡大するようになれば、多くの中小零細企業の拡張も自ずと促されます。大・中小・零細企業を1つの有機体として捉えることが大切で、単に社会の就業安定のために中小企業の支援をするという態度ではいけません。産業ピラミッドの安定は、これら大手企業が頂点に君臨していてこそ保たれるわけであり、そのポジションに穴が開けば、産業ピラミッドの安定は保障されません。

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5月4日、山東省青島市のある民間輸出企業の生産工場。写真/IC

 以上は応急的対策ですが、それとは別に抜本的対策も講じる必要があります。抜本的対策というのは、即ち構造改革のことで、都市と農村という二元構造を取り払い、人を中心とした都市化を推進するのです。最近の研究によれば、都市の人口増加と消費・需要の拡大とは正比例の関係にあるそうです。都市の人口が拡大を続けてこそ、内需も成長を続けられるのです。また別の研究によれば、農民が農民工になることで、消費は30%拡大し、農民工が市民になることで、消費はさらに30%拡大するそうです。ここからも、都市の人口増加と消費・需要の拡大およびアップグレードは、密接に比例していることが分かります。

 都市と農村という二元構造は、経済の二元構造だけでなく、社会の二元構造をももたらしました。農民の市民化を進め、相応の公共サービスを提供する方法を早急に考えなければなりません。例えば、農民が都市に移住する際に住宅保障をするなどの政策により、不動産業のモデルチェンジを図ることができます。人口流動に基づく公共サービス投資および公共サービスインフラの建設を大々的に拡大し、この分野から経済活性化を図っていくべきでしょう。そのためには、空間形態から問題を考察し、都市圈や都市群に対策を講じるべきです。基本的な公共サービスを均等化するには、地域の固定した「右へならえ」という慣習を打破し、特に大都市が率先して、農民工の住宅、医療、子女の教育などの面で改革を断行し、都市の住民と同様の待遇を受けられるようにしなければなりません。都市は緑化・低炭素化だけでなく、包容力を備えることが、社会および経済の活性化において非常に有利に働くのです。


※本稿は『月刊中国ニュース』2023年10月号(Vol.138)より転載したものである。