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【23-77】中国における各地方のR&D投資状況について

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー) 2023年11月21日

 中国の地方の発展が著しい中、本稿では、「全国科学技術経費投入統計公報2022」(参考資料① )、「中国地方科学技術イノベーション評価報告2022」(参考資料④ )等に基づき、中国各地方におけるR&D投資状況やイノベーション能力について分析を行っていく。

1.R&D投資に最も積極的なのは広東省、江蘇省

「全国科学技術経費投入統計公報2022」によると、2022年の場合、31省(自治区・直轄市)のうち12の省がR&D経費1000億元(約2兆885億円)を突破した。この12の省は、それぞれ、広東省(4411.9億元)、江蘇省(3835.4億元)、北京市(2843.3億元)、浙江省(2416.8億元)、山東省(2180.4億元)、上海市(1981.6億元)、湖北省(1254.7億元)、四川省(1215.0億元)、湖南省(1175.3億元)、安徽省(1152.5億元)、河南省(1143.3億元)、福建省(1082.1億元)である。

 地方の強者と言えば、北京市や上海市を真っ先に思いつく人が多いだろうが、全国1位は4411.9億元の広東省だった。広東省は7年連続R&D投資1位をキープしているが、優秀な企業を多数確保しているのがその秘訣である。広東省には6.9万社のハイテク企業があり、R&D人員規模も130万人に至る。

 2位の江蘇省は2022年R&D経費として3835.4億元を使用した。江蘇省の場合、全国で最も多いと言える、国家ハイテク区18カ所、国家イノベーション型都市13カ所を有しており、ハイテク企業が活躍しやすい条件を取り揃えている。

 R&D投資への勢いや成長で注目すべきなのは安徽省である。安徽省の2022年R&D投資経費は2012年比べ309%増加している。安徽省は中国科技大学や合肥工業大学など、科学技術分野で頭角を現している大学を基盤に、産学連携を通じ、新エネルギー自動車や集成電路等の産業で著しい発展を遂げている。

2.企業の活躍が目立つ

 企業を中心とするイノベーション環境作りは、中国政府がここ数年強調してきた方針であるが、企業、研究機関、大学のうち、2022年の場合、企業のR&D投資が23878.6億元と、研究機関の3814.4億元と大学の2412.4億元をはるかに上回った。2021年と比較した場合、企業のR&D投資率は11%増加した。企業のR&D経費増加への貢献度は84%と前年比4.6%アップし、中国のR&D経済を牽引する存在となった。ただ、主要国に比べ、企業による基礎研究への投資が少ない点は依然として大きな課題として認識されている。

 企業が基礎研究に消極的な理由について、中国科学技術発展戦略院の薛姝と張明喜は、「大企業さえ、基礎研究への投資が少ないのが現状である。多くの経費は実験発展に使われ、次が応用研究で、僅かな金額が基礎研究に使われている。企業は基礎研究がハイリスク・ローリターンであると認識しているため、非常に消極的である。また、社会全体のイノベーションエコシステムでいうと、各主体の業務分担や協力体制が整っていないのも大きな原因である」と指摘した。

3.京津都市圏、長江デルタ、粤港澳大湾区の著しい発展

「中国地方科学技術イノベーション評価報告2022」は、科学技術イノベーション環境、科学技術へのインプット、アウトプット、ハイテク・新技術の産業化、経済・社会発展を促進できた科学技術との5つ指標で、全国各地域の科学技術イノベーションレベルを測定・評価するものであるが、全国の地域を、イノベーション先進地域、イノベーション中位地域、イノベーションキャッチアップ地域に分けている。

 イノベーション先進地域とは、評価で全国平均科学技術イノベーションレベルの75.43点より高い点数を獲得した地域であり、順位で並べると上海市、北京市、天津市、広東省、江蘇省、浙江省である。この6つの地域が全国で最も高いイノベーション能力を有しているとの証である。

 イノベーション中位地域は、全国平均よりは低いが50点以上を獲得している地域を指しており、2022年の場合、重慶、湖北、陝西、安徽、山東、四川、湖南、遼寧、福建、江西、河南、寧夏、吉林、河北、黒龍江、山西、甘粛、広西、貴州、海南、内モンゴルの21地域が選ばれている。2012年に比べると14もの地域が増えている。

 上海市、北京市が1位・2位となっているが、この両地域はR&D人員規模や科学技術論文数や特許の数でも全国TOPレベルである。

 また、エリアでいうと、北京市を中心とする京津冀(北京市・天津市・河北省)エリア、上海市を中心とする長江デルタ一帯(上海、江蘇省の10都市、浙江省の9都市、安徽省の2都市)、深圳市を中心とする粤港澳大湾区(香港・マカオ・広東省珠江デルタの9都市を統合したグレーターベイエリア)が、中国の経済や科学技術を牽引しているといっても過言ではないだろう。

 京津冀エリアでは、北京市に並んで天津市の貢献度も高いが、天津市の科学技術イノベーションレベルは上海市、北京市を継ぐ全国3位と評価された。河北省も科学技術意識や環境改善において、昨年より高い評価を受けている。

 長江デルタ一帯については、江蘇省や安徽省の躍進は前文でも触れているが、浙江省も浙江大学をはじめとする優秀な研究機関を多く確保しており、科学技術イノベーションレベル全国6位に輝いている。

 粤港澳大湾区では、全国R&D経費の14.3%を占める広東省の貢献が大きいほか、「グローバルイノベーションインデックス2022」で世界2位に輝いた「深圳-香港-広州」一帯の存在感も大きいといえる。

 総じて、中国の地方の躍進は目覚ましいといえるだろう。中国政府が毎年発刊する「科学技術統計年鑑」によると、2007年から地方政府による科学技術支出は中央政府を超えており、今は6割以上が地方政府による支出額となっている。地域格差はまだ大きいとはいえ、青海省、雲南省、新疆ウイグル自治区、チベット自治区を除く全ての地域が中位レベルの科学技術イノベーション能力を有しており、中国全体の科学技術力は増加傾向にあると思われる。