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【23-80】西北の温暖化・湿潤化は諸刃の剣

霍思伊、杜 瑋/『中国新聞週刊』記者 肖 瀟/『中国新聞週刊』実習生 江 瑞/翻訳 2023年12月07日

ここ数年、中国西北地方の暖湿化〔温暖化+湿潤化〕に関する議論が活発化している。西北地方の暖湿化現象が顕著になり、極端気象現象が次々と発生していくにつれ、西北の暖湿化は、青海湖の水位が上昇し、オアシスの面積が拡大し、牧草地が緑化し、砂漠に湖が出現するというように、単なる現象の集合体とみなす傾向が強まっている。ネットなどでは、気候変動の影響で、西北地方は本当に砂漠から「江南」に変身を遂げ、漢代~唐代のいにしえの西域が再現されるかもしれないなどという噂がまことしやかに囁かれたりもしている。

 専門家らは、西北地方が温暖化・湿潤化しているのは紛れもない事実だが、西北地方の乾燥気候を変えることは難しいと繰り返し強調している。そればかりか、西北の暖湿化は、実は諸刃の剣なのだという。

 西北の暖湿化は何が原因なのか。地球温暖化の観点から、西北の暖湿化をどう捉えるべきなのか。暖湿化が西北地方にもたらした真の影響とはどんなものなのか。現在そして未来において、西北の暖湿化がもたらすチャンスとチャレンジに科学的に対応するにはどうすればよいのか。これらの問いに対する答えを聞くべく、中国工程院院士で国家気候変動専門家委員会顧問の丁一匯氏、そして甘粛省気象局チーフエンジニアで中国気象局干ばつ・気候変動ならびに減災重点開放実験室主任の張強氏にインタビューをおこなった。

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丁一匯氏(左)と張強氏。

西北地方の暖湿化は地球の気候変動の結果

記者:西北地方の暖湿化は何が原因なのでしょう。また、地球温暖化の観点から、西北の暖湿化をどう捉えるべきなのでしょうか。

丁一匯:西北地方の暖湿化は、地球の気候変動が引き起こした局地的変化の結果です。西北地方における「暖乾」から「暖湿」への転換点は、1980年代に出現しました。自然環境由来の原因としては、1980年代以降、大西洋の暖流が強まったことで、温暖気流も強まったことが挙げられます。これは10年単位で見た海の変化です。さらに2010年以降は、暖流および温暖気流の優勢に加え、北極の気温上昇が一段と顕著になったため、より多くの湿気と熱が北極から南下し、低緯度域にまで流れ込むようになりました。

 大西洋暖流の変化は、海霧との相互作用もあって、地球規模の偏西風に乗り、温暖気流をヨーロッパ、中央アジア、ひいては中国西北地方にまで運んでくるようになりました。湿った空気の多くは直接北アフリカにも流れ込んでおり、この20年で、北アフリカのかつての干ばつ地帯でも、降水量は明らかに増加しています。このように、暖湿化は中国西北地方だけの現象ではないのです。大西洋で温かい海水がどんどんつくられ、それによる暖湿化は、海洋大循環を通じて、北大西洋のみならず地球規模で天候に影響を及ぼしているのです。

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青海湖。(写真/視覚中国)

 西北地方暖湿化のもう1つの原因は、北極の気温の上昇です。地球の気候変動が周期的な変化であるのとは異なり、北極の気温上昇は地球温暖化の影響を受けています。海氷が融解し、北極の冷たい空気が絶えず南下することで、寒冷高気圧が発生して偏東風が生じ、大量の湿った空気が、シベリアを経て中国の西部から東部に流れ込みます。この風は、北極および太平洋からのさまざまな湿った気流を、東から中国西北地方に運んでくるのです。

 以前は、冷たく乾いた空気が西および北から中国東部に流れていましたが、現在は偏東風が温暖気流を西北地方に運んできます。研究によれば、西北地方の気候が変化する前は、東から西に湿った空気が流れてくることはほとんどなかったのですが、暖湿化傾向が明確になってから明らかに増えたそうです。しかも、偏東風が強まった結果、湿った空気の流れはさらに西に拡大するようになったのですが、これも昔はほとんどなかったのが、最近では日常茶飯事になっており、西北の暖湿化を加速させる要因の1つだと考えられています。

 たくさんの湿った空気が東から流れ込んでくるからといって、必ず雨が降るわけではありません。雨が降るためには十分な量の暖かく湿った空気が必要ですが、もう1つ、冷たい空気との相互作用も必要なのです。西北地方の冷たい空気は主に西または北から東へと拡散しますが、この空気は東のモンスーン気候区から吹いてくる湿った空気とちょうど新疆ウイグル自治区で出会い、まとまった雨になって地上に降ってきます。そのため、暖湿化の兆候が最初に見られたのは西北地方西部、つまり新疆北部で降水量が顕著な増加傾向を見せたことがきっかけだったのです。

 現実には、大気循環の影響で、中国西北地方の暖湿化は、西方向には中央アジア、東方向には華北西部にまで拡大しています。中国、中央アジアからインド北部、パキスタン、アジア中西部にかけて暖湿化傾向が最も顕著です。大西洋の暖流の優勢と北極の気温上昇が同時に発生するようなことがなければ、北アフリカから西アジア、中央アジア、東アジアに至る広範囲の暖湿化はおこり得ません。

記者:1980年代以降、西北地方の気温および降水量の変化にはどのような規則性が見いだせるのでしょう。また、地域差のようなものはあるのでしょうか。

張強:西北地方の降水量は全体として「西少東多」です。ここ数年は、東部の増加幅が拡大し、西部の増加幅は少なめになっています。砂漠地域でも降水量は増加していますが、環境への影響はほとんどありません。暖湿化が進むなか、西北地方内での水循環は活発化していて、しかも気温が上昇したことで、「固体のダム」である氷河の融解も加速し、水循環に加わって、降水量を増加させています。しかし現在のところ、西北地方の降水量は過去に降水量が多かった時期の量を上回ってはおらず、暖湿化による気象分布の変化はごく限られたものです。西北の乾燥地帯は依然として乾燥地帯、半乾燥地帯は半乾燥地帯のままです。実際の境界線はわずかな変動はあるでしょうが、ネット上でまことしやかに囁かれているように、西北地方が漢・唐時代の景観に蘇ることはないと思います。

 温暖化は大気の飽和水蒸気量を増加させます。大気は「たらい」のようなもので、満杯になると、入りきれなかった水蒸気が雨となって地上に降ってきます。以前は飽和水蒸気量が小さかったので、満杯になるまでの時間も短かったのですが、いまは「たらい」が大きくなり、満杯までの時間が長くなりました。そうなると、雨が降らない時間が長くなり、一旦降りはじめると豪雨になります。地球温暖化が進み、干ばつと豪雨が地球規模で同時に増加しているのはそのためなのです。西北地方ではこの現象が際立っていて、近年、砂漠に頻繁に湖が出現するのもこれが主な原因です。砂漠に豪雨が降ると、短時間では蒸発できず、窪地に水がたまって、一時的に湖のように見えるのです。

 温暖化はまた、植物からの蒸発散〔土壌面からの水の蒸発と植物からの水の発散〕を加速させます。その速度は、降水による恩恵を相殺してしまうほどです。植被面からの蒸発散が加速すれば、より多くの水分が必要になりますが、足りなければ生態系は脆弱化してしまいます。ただ、現時点では西北の多くの地域で植被率〔植物が地表を覆う割合〕が好転していて、西北全体の植被率も上がっていますので、土壌の保水力が改善されているということなのだと思います。全体としては、降水量の増加が蒸発散量を下回っていないということです。

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新彊ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州ロプノール県、タクラマカン砂漠周辺の、
水に浸かったコトカケヤナギの林。(写真/視覚中国)

暖湿化は干ばつを引き起こす可能性大

記者:近年、西北地方の生態系は、全体としては明らかに改善されているようですが、一部では植被の退化も見られます。これは蒸発散量と降水量との関係で説明できるのでしょうか。

張強:西北の暖湿化は、降水量の変化より、気温上昇のほうがより顕著です。ある地域で降水量が20%増加したとすると、山に近い場所なら、元々の降水量が大きいので、20%の増加も意味があり、植被の改善に貢献するでしょう。ただ、砂漠地域では、気温上昇の作用が降水量の増加を上回ってしまいます。気温が上がることで蒸散量が拡大し、降水の恩恵がゼロになってしまうので、植被が退化することもあると思います。

 なぜ同じように降水量が増加しているのに、ある地域では生態系に有益で、別の地域では変化なしという現象が起こるのかというと、元から一定の降水量がある場合にのみ、降水量の増加が生態系にプラスに働くからです。もし年間降水量が100ミリしかなければ、20%増えたと言っても120ミリです。植物の生長にとっては、100ミリも120ミリも大して変わらず、生長の助けにはなりません。そういう理由で、西北の暖湿化が生態系や植被にもたらす影響を一概に語ることはできないのです。

記者:暖湿化が進むなか、西北地方の降水量は10年で9.32㎜という速度で増加し、オアシスの面積も拡大し、一度は死んだ湖も「復活」しています。その一方で、干ばつリスクが増している地域もあります。ある研究によれば、1997年以来、極端な干ばつの頻度が増加傾向にあるそうですが、この矛盾についてどう思われますか。

丁一匯:温暖化は諸刃の剣です。気温が上昇すると、大気の飽和比湿〔大気中で水蒸気が飽和しているときの、空気の質量に対する水蒸気の質量の割合のこと〕が上昇し、湿った空気が飽和状態に達するのが難しくなり、なかなか降水に至らなくなってしまうのです。もし飽和比湿の上昇が、実際の大気中の水蒸気の増加速度より速ければ、降水量が増えないばかりか、干ばつをもたらす可能性すらあります。南新疆の一部地域の状況がまさにこれで、気温の上昇速度が速すぎて、湿った空気の増加速度が追いつけず、空気がなかなか飽和状態に達しないため、雨が降らず干ばつが加速するおそれがあります。

 新疆ウイグル自治区は乾燥地帯であることから、たとえ暖湿化の傾向が見られたとしても、干ばつのリスクが根本からなくなることはありません。なぜなら年間を通じて、空気が飽和比湿に達する確率が低く、全域で大量の降水があまり望めないからです。地球温暖化が進むなか、氷河の消失が加速すれば、氷河の融解水や雪解け水が夏季の河川流を補えなくなり、干ばつが発生してしまいます。新疆では主として、ダムに雨水を貯めることで干ばつに備えてきましたが、実際はこれでは全く足りません。私がいま最も懸念しているのは、降水量に長期的スパンで波が生じることです。例えば10年連続で降水量が減少するようなことがあれば、災害レベルの大干ばつが起こる可能性があるからです。

張強:暖湿化は確かに干ばつを引き起こす可能性が高いです。気候が温暖化すれば、全体的傾向として降水量は増加しますが、その代わり変動幅も大きくなり、年ごとの差が拡大します。ですから、西北の暖湿化が進んだからといって毎年一定量の雨が降るとは考えないほうがいいでしょう。年によっては例年と比べて降水量が大幅に減ることだってあり得るのです。

記者:西北地方の経済・社会の発展を妨げている最も大きな要因の1つは水資源の不足です。暖湿化が干ばつを誘発しかねないという事実は、将来、水資源の管理と利用に新たな試練を課すことになるかと思いますが、何かアドバイスはありますか。

丁一匯:今後30~50年にわたる水資源の合理的な利用戦略を予め制定しておくことと、気候の予測モデルおよびデータを絶えず更新し、降水量がどれくらい増えるか、将来的に利用できる水はどれくらいあるかをより正確に把握しておくことです。根拠もなく楽観視していてはだめで、水を中心に据えてなすべきことを決定しなければなりません。西北地方は乾燥地帯で、年間降水量が100ミリ強しかない地域も少なくありません。これは地球の大気循環と熱力学的場により決定されるもので、自然がつくり出した環境です。暖湿化はそれを根本から変えることはできないため、持続的に節水を訴えていく必要があります。

張強:西北地方は灌漑農業がメインです。農業における水資源利用に関して、最も実行しやすい取り組みは、農業用水が節水できる節水型農地を普及させることです。幸いいまの農地は高標準、つまり農業用水の使用効率が高く、水の消費量が少ない農地を設置するよう規定されています。また、耐乾性の種子を研究し、降水が少なかったり干ばつが予測される場合は直ちに栽培予定品種を変更し、耐乾性作物を多めに植えるようにすることも重要です。しかし、農家は長年の習慣に従って栽培品種を決める傾向があり、特に気候要素を考慮していないため、この点は早急に意識改革をおこなっていかなければなりません。

 いま必要なのは、皆が暖湿化の影響についての科学的知識を深め、主体的に気候変動に対応することです。暖湿化はゆっくりと、しかし着実に進んでいます。末端の政府の中には、気候変動に対応しようという意識がかけらもなく、まるで他人事のような態度のところもありますが、「茹でガエル」にならないうちに、早めに行動を起こすべきです。

氷河の消失が続き、西北の生態系と農業は試練に直面

記者:西北地方では21世紀に入ってからというもの、南新疆の豪雨、砂漠の洪水、深刻な干ばつなど、極端気象現象の頻度・強度ともに増加が著しいですが、私達はどう対応していけばよいのでしょうか。

丁一匯:西北地方は長期にわたり、乾燥・半乾燥地帯で降水量が少ない気象条件下にあるため、自然環境も生態系もこうした乾燥気候に適応するように進化しています。そこに猛烈な雨や持続的な豪雨が発生すれば、自然条件に合わず、洪水災害や泥水噴出などが起こってしまいます。私達の研究によれば、近年、西北地方で極端な豪雨が多く発生しているのは、イリ(伊犁)地方、北新疆中西部、甘粛省東部の3つです。イリ地方(イリ盆地)は地形がやや特殊で、南北天山山脈(北側はボロホロ山脈とも言う)に挟まれ、西に向かって開いたラッパのような形をした河谷地帯であるため、湿った西風が吹き込んでくるだけで、空気中の水蒸気が山肌にぶつかって雨となり、簡単に豪雨が発生してしまいます。近年、イリ地方では豪雨の増加が誰の目にも明らかです。

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2017年7月28日、豪雨が過ぎ去った後の新彊ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州バインブルク草原。(写真/視覚中国)

 21世紀初頭に施雅風院士が真っ先に西北の「暖湿化」のサインに気づいたとき、暖湿化は一長一短があり、最も懸念すべきは洪水だとおっしゃっていました。西北地方の居住区の多くは川沿いの低地にありますが、現地の防災能力は東部の沿海地方に遠く及ばず、インフラも洪水に耐える設計になっておらず、地元の人々も洪水に対し防災意識をほとんど持っていませんでした。

 ここ数年、西北地方は洪水防止対策を取らざるを得ない状況になってきています。山岳地帯の洪水で気をつけなければならないのは、融雪水です。多くの河川流域では、増水期に「豪雨+融雪」型の洪水が散見されるようになっているため、前年冬の降雪をモニタリングし予報することが大切です。これは降雨の長期予報に関わる、科学的に難易度の高い問題です。

張強:西北地方の豪雨、干ばつ、黄砂といった極端気象は、この数年で継続日数、発生時期ともに異常な反応を見せています。例えば2023年7~8月には黄砂が発生したのですが、これはかなり珍しいことです。ですので、気象部門に対しては、極端気象に対するモニタリング、予報、アラート能力を強化し、「精密なモニタリング、正確な予報、きめ細やかなサービス」を実現してほしいですし、極端気象災害の予防と防止に関しては、気象部門だけでなく、複数部門、そして社会全体が連携し力を合わせて対応することが必要になってくると思います。

記者:西北の暖湿化傾向はいつまで続く予測なのでしょうか。

丁一匯:私達の研究チームが複数の気候モデルを用いて繰り返し分析と予測をおこなった結果、国内外の気候モデルの大部分で、西北の暖湿化が2050~2060年頃まで続くという予測になりました。しかも降水量の増加傾向は南に移動し、青藏高原の降水エリアと一体化する予測なので、将来的には青藏高原の降水量も増加すると思われます。

張強:二酸化炭素排出の数値を様々に変えてシミュレーションをおこなった結果、西北地方は2021~2050年は湿潤化傾向にありますが、過去30年に比べるとその度合がやや鈍化していきます。降水量よりも変化の幅が大きいと予測されるのが気温の上昇で、21世紀末頃には、西北地方全体が中温帯から暖温帯〔中国独自の区分〕に移行する可能性もないとは言えません。西北地方にとって、気温の上昇は利益より弊害のほうが大きいです。気候帯が変わるようなことが現実に起これば、氷河・積雪・凍土の消失がさらに進むでしょう。

 西北地方の水資源のうち、氷河と積雪は非常に重要な安定化装置のような役割を果たしていて、河川の流れを調節したり、春に農業用水が必要なのに雨が降らない場合などは氷河の融水で灌漑をおこなったりすることができます。そのため、温暖化の影響で氷河がどんどん消失していく事態になれば、西北地方の生態系も農業も極めて脆弱になるでしょう。西北地方では今年、多くのダムで貯水量が減少しましたが、それもこうした脆弱性の現れです。なぜなら氷河はここ数年減少を続け、安定化装置の働きが弱ってきているからです。例えるなら、家庭の銀行預金がなくなった場合、一旦失業したら、一文無しになってしまうようなものなのです。

インフラ設計や建設基準も調整が必要

記者:西北の暖湿化の利益と弊害を弁証法的に解釈するとどうなりますか。気候変動がもたらすチャンスとチャレンジに科学的に対応するにはどうすればよいでしょうか。

丁一匯:西北の暖湿化がもたらす影響は、利益と弊害が併存しています。農業や牧畜業にとっては、有利な面もあるでしょう。降水量が増えれば、牧草がより長く、より密に茂るようになります。新疆のイリ地方ではその傾向が顕著です。イリ地方、北新疆西部、隴東地方〔甘粛省東部〕では農地拡大の条件が整い、水資源問題も改善されました。西北地方の中で、21世紀に入ってから降水量の増加が最も顕著なのは、隴東地方です。それまで、甘粛省東部は基本的に乾燥地帯でした。他には、青海省でも降水量が大幅に増加しています。青海湖の水位は2005年以降、18年連続で上昇しており、2022年には3196.57mを記録するなど、1960年代初期の水位を大幅に上回っていますし、青海地方の生態系は改善されつつあります。

 ですが注意しなければならないのは、西北地方は降水量の受容力に限りがあるということです。大量すぎる降水は逆効果になり、路盤から泥水が噴出したり、農業生産や生態系の生長などにもはっきりと影響が出るでしょう。特に牧畜業への影響は大きいと思われます。また、洪水により氾濫が生じるところもあるでしょう。特に青海湖付近は危険です。昨年8月、青海省西寧市大通県では局地的短時間豪雨に見舞われて土砂災害が発生し、20人以上が死亡しました。暖湿化の影響で、隴東地方では気象災害の発生頻度および強度が顕著に増加しているという研究結果もあります。また、氷河関連の災害および対応措置に関する研究を早急に進め、氷河の融水による洪水に備えて、重要ダムエリアや河川流域の居住区については、事前に対応策を制定しておくことが必要です。

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2023年3月4日、新彊ウイグル自治区を流れるアクス川の、アクス市ククワシ水防工事の施工現場。
(写真/視覚中国)

 最後に、特に強調しておきたいことが1点あります。西北の各地方政府はいま暖湿化を機に、工場を建設し、より多くの人口を受け入れるべく居住区を建設し、より多くの水資源確保に動くなど、なんとかして地域を発展させようとあれこれ画策しています。しかし本来であれば、温暖化の対応は、西北地方全体の気候変動を俯瞰して、統一的に対策を講じ、長期計画を制定するべきなのです。その際の時間軸は、10年や20年ではなく、50~60年とするのが望ましいです。


※本稿は『月刊中国ニュース』2023年12月号(Vol.140)より転載したものである。